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第37話 不思議な冒険者



俺は『悪鬼の狂面』を顔から外し。入り口まで戻ると待っていたギルド長たちの前に、今回の狩りで得た成果を並べた。


 エリス嬢はまるで白昼夢でも見たように、呆けてしまっていた。それに対し、ギルト長は平然として見えるが。

 よく見ると口もとがピクピクとひくついていた。


 「私がソロで討伐した、ランク4から6までのモンスターの素材です。これで試験は合格という事でよろしいでしょうか?」


 俺は敢えて受付嬢の方を見て尋ねた。


 合否の判断するのはあくまでもギルド長。

しかし、敢えて受付嬢に視線を向けたのには。ちゃんと理由がある。


 勘になるが。ギルド長は最初から俺が不正をしていないと、分かっていたように思う。

 だがギルド内の冒険者の評価は、ギルド長だけで決めるわけではない。

 受付嬢などの職員を敵に回しては今後に差し支える。

なのでエリスには、この事を仲間内にきちんと説明してもらう必要があった。ソロでランク六モンスターを討伐した実力。


 (新米冒険者・シレンの実力を、職員内でキチンと共有してもらう必要が・・・・な)


 あん? じゃあ何でギルド内で喧嘩を売る様な事をしたんだ?──だと。

 過度な主張は禁物だが。根拠の無い言いがかりに対して、主張しない人物と判断される方が今後に差し障るからだよ!?


 それに俺の不正を疑った受付嬢に対しても。今後、高圧的な態度を取るつもりは今のところはない。

 俺に対してキチンと謝罪し、態度を改めれば。・・の話だが。


 「ええ、何も問題ありません。私のスキルであなたの行動を見守っていましたので。

 貴方が実力においてそれらの素材を手に入れた事を認めます。そして勿論、試験は合格とします」


 表情は努めて平静を装っていたが。俺は内心で手を高らかに上げ、ガッツポーズをとる。


 「それに伴い。貴方のEランクへの昇格。今後、ファーチェスギルドにおいて実力に応じた(・・・・・・)便宜を図らうことを約束しましょう」


 笑顔のまま懐から紙の書類ようなモノを取り出すと。

器用にも書類を宙に固定して印を押す。

 印を押された書類は輝きギルド長の手元に舞い降りた。


 その書類を丸めると、俺に手渡してくる。


 「この紙をギルドの受付に渡してください。貴方の昇格の旨とギルドで起こった疑惑の解消につき、一筆書いてあります。

 この度はこちらの不手際において、不快な思いをさせてしまったことをファーチェス冒険者ギルドの代表として深くお詫びいたします」


 ギルドの非を認め、神妙な表情で深々と頭を下げるギルド長。


 ギルド長の行為を見てギョッとしつつも、エリスもそれに倣い頭を下げた。


 「や、やめてください。そ、そのようなことをしていただく必要はありません」


 表面上は慌てたように振舞ったが、内面では冷めた目を向けていた。


 (大勢の前での謝罪。それもルーキーに対して・・・なんざギルドの権威に傷がつく。

 だからこそ、ここで謝罪して有耶無耶にする。

それに、さっき言ってた「実力に応じての便宜」。Eランク昇格は認めるが、待遇はEランクと変わらねぇってことだろ?

 それに俺の持ち込んだ素材は本来ならDランク昇格レベル何だろ? なのにEランクってケチくせぇ。

 まぁ周囲との軋轢もあるし。過度な優遇は出来ない気持ちもわからんわけじゃない。

 これからは素材を持ち込む際の面倒が無くなり。昇格為たことで、ダンジョンにも入れるようになった。

 これで満足しておくべきだな)


 俺が「もうイイ」と言ったにも関わらず。

ギルド長はそれでもしばらくは頭を下げていた。謝罪の気持ちはおそらく本心だろう。


 正直、この食えない小人種は嫌いじゃない。

認めてやる、優遇してやるから「ハイ、おしまい」という態度を取られるより、よほど好感が持てる。


 それに騙すほうが悪いに決まっているが。騙される方も非にも全く非が無いわけじゃない。

 騙された側が、その言葉の中にある真意を見抜けなかった責任がな。

 もし本当に優遇を受けたいのなら。あの時にギルドでその内容まで言及しておくべきだった。それを怠った俺が悪い!


 「人は言葉では嘘をつけても、行動では嘘をつけない」か。


 祖父の口癖のひとつだが、まさしくその通りだろう。


 過去の経験から、狡猾で疑り深くあるべきだ、と自分に言い聞かせてきたが。まだまだ足りないようだ。


 話を切り上げるべく、自分からこの後について聞いてみた。


 これで解散か、まだやることがあるのか! 喰えない相手には慎重くらいで丁度良い。


 「それで、この後はどのようにすればいいでしょうか? 私はここで解散という事で問題ないでしょうか?」


 「はい。私は首都で定期的に行われる「ギルド長会議」に出席しなければいけません。エリス君、付き添いは結構ですので、先にギルドに帰り。彼の試験結果を通達しておいてください」


 「え? しかし、それではこの後の会議が・・・・・・・・」


 先に戻っていろ。と言う言葉にエリスがアタフタしだす。

恐らくエリスは会議の補佐役───は言い過ぎか。付き添い役だろう。その役はいらんと言われてはそりゃ驚くわな!


 「いくら私の書状があっても、中にはこの結果に納得のできない方もいるでしょう? それらの説明には第三者である貴方が適任です。・・なに、ギルド長会議などは私一人で十分です」


 ギルド長は悠然とした口調で諭した。

確かにどんな世界にも分からず屋はいる。証拠を見ても、いや。証拠があるからこそ頑なになる者はいるだろう。


 「ではエリスさんは、私と一緒にファーチェスに戻る。という事で宜しいでしょうか?」


 解析で確認したが、このエリス嬢もそこそこの実力者だ。

一人で戻れないなんてことは無いはずなので、多分違うと思うが。念のために確認を取っておく。


 「いえ、こう見えても彼女は元冒険者です。Bランク目前で引退しましたが、現在も実力は落ちていません。

 ここからファーチェスくらいなら、一人で問題なく戻ることが出来ますよ」


 「なるほど。元冒険者の方だったとは私もまだまだ見る目がありませんね」


 とっくに予想していたが、白々しくそう答えておいた。


 ギルド長の意を受けて、エリスは地面に向けて魔力を放ち始める。すぐに魔法陣が描かれ、中から巨大な鳥型のモンスターが現れた。エリスは慣れた様子で鳥型モンスター【ロックバード】の背に飛び乗るとこちらに向けて一礼する。


 「それではギルド長、お先に失礼いたします。シレンさんも・・・またギルドで」


 あっという間にロックバードは豆粒の様に小さくなり、目を凝らしても見えなくなった。


 エリス嬢が見えなくなったタイミングを見計らう様に。笑顔を消したギルト長が口を開いた。


 「最後に少し聞きたいことがありますが、よろしいでしょうか?」


 「私に答えられることでしたら」

 穏やかな声だが、その奥に秘められた圧力を感じ取り。顔は平静を保つが、内心で警戒心を高める。


 「貴方はどこで戦闘技術を学んだのでしょうか? 貴方の技術はとても洗練されていて、我流とは思えない理のようなモノが見受けられます。

 ・・・独学で学んだとは思えないのですが、どこで学んだのでしょうか?」


 確かに俺は義父より家伝の武術を学んでいる。 

しかし。それは暗殺技術、忍者などのそれに近い。

 先ほど見せた技術の大半は、様々なゲームを渡り歩いて身に付けた適応力と。このシステムを検証して編み出した物だ。

 俺が異世界人です! なんて言っても信じて貰えないだろうし。適当にお茶を濁しておこう。

 

 「私がまだ幼い頃、村に来た冒険者の方に基礎を学びました。あとは独学です」


 「そうですか」


 俺は(作り話を)正直に答えただけなのだが。頷いた割には、疑わしげな眼を向けてくる。なので補足をしておこう。


 「疑われているようですね? しかし、事実です。その冒険者の方は私に剣の基礎を教えてくれた後。こう言い残しました」


 『全ての人。有能なモノ、無能なモノ。王侯貴族と平民。持っている者と持たざる者でも。共通して出来ることは何だと思う?』


 「この言葉を聞いたときに、私はその意味が分かりませんでした。既に家の厄介者として。将来、村を出て行く事が決まってましたから。

 人は平等じゃない事に、幼いながら気付いていました。

でも答えが分からず途方に暮れる私に、その人は優しく答えを教えてくれました」


 教えてくれたのは実母だが。その時のことを思い出し、思わず頬が弛んだ。

 それにつられるように、声も穏やかな物に変化する。


 『答えは───考えること。如何したら上手くできるのか? どうしたら効率がいいか? どうしたらお金を稼げるか? 考えるだけならいくらでもできる。

 たとえばさっき教えた剣でも、俺が教えたのはあくまでも基本だ。そこからどうしたら早く振れるか! どうしたら剣を当てることが出来るのか? 剣だけの事でも、いくらでも考えることが出来るだろ!

 この考える権利だけはみんな平等なんだ。君は恐らく将来この村から出ていくことになるだろう。

 ソレを悲観するだけじゃなく。その時までに出来ることや、やっておくべきことを考えておくんだ。

 それがきっと将来に繋がるから! 考えるだけなら誰でもできることだ。ただその思考の深さに差はあるけどね。

 もしも君が将来、成功したいなら誰よりも深く考えて行動することだ。それでも必ず成功するなんて保証は出来ないけど。成功する可能性が少しは上がるはずだよ!!』

 

 所々で脚色を加えたが。これは全てに通じる物事の本質だと思う。


 「この言葉を私なりに考え。これまで出来る範囲で鍛錬を行ってきました。

 村の近くに出てくる、ゴブリンやスライムなどを相手に立ち回りや戦術を考えたり。

 昔話で聴いた英雄譚に出てくる。魔物を頭の中で想像して立ち回ったり、と出来ること、考えつくことをやってきた。それだけのことです」


 村に来た冒険者云々はデタラメだが、この言葉は俺の母。倖月美夜(旧姓・志波)から教わった大切な言葉だ。


 まだガキだった俺に。なぜこんな難しい話をしたのかは予想するしかない。


 これは俺の勘だが、母は自分の命が永くないことを予想していた。

 そして、自分が死んだ後に俺が厳しい立場に立たされることを、予感していたんだと思う。(実際に母が死んでからは倖月家内での俺は碌なことがなかった)

 そのためにこの言葉を残してくれたんだと思う。自分の死後、俺が一人でも強く生きていけるように。


 「ふむ。その方は素晴らしい考え方をしていますね。その冒険者の名前などは分かりますか?」


 「いえ、名前までは存じていません。その人は村の依頼で来てくれた方です。

 収穫前でゴブリンの集落が無いか確認に来た、と言っていましたから。

 私も「冒険者のお兄ちゃん」と呼んでいましたので名前を聞く必要がなかったのです」


「村の依頼なのにわざわざ剣の基礎を教えてくれるなど。随分と気前がいい方ですね?」


「私が剣の稽古の真似事をしていたら、声をかけてくれたんです。

 自分も農家の出で口減らしのために冒険者になった、と言ってましたので。

 私と自分を重ねたのではないでしょうか?」


 流れるようにその当時の話(作り話)を語った。

収穫前にゴブリンなどを警戒して冒険者ギルドに依頼を出すのはこの世界では一般的らしい。

 それに、農家の3男、4男坊が食い扶持を稼ぐために冒険者になるのも一般的らしい。(ウルド談)


 人を騙す基本は、真実の中に嘘を混ぜることだ。嘘ばかりだと見破られやすいが、真実の中に混ぜられた嘘は見破りにくい。


 ギルド長は何か言いたそうな顔だったが。それ以上食い下がることは無かった。


 「ふむ。ありがとうございました。私は先ほど言った通り、これから首都に向かいますが。貴方はどうされますか?」


 「少し休憩してから、ファーチェスに戻ろうと思います」


 「わかりました。では、これで失礼します。貴方の今後の活躍を期待しています・・・よ」


 「ギルト長。今日は貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました」


 俺が深々と一礼するとギルト長は「気にするな」とばかりに軽く手を振り。 

 来た時とは比較にならない速さで、首都があるとみられる方角へ飛んでいった。 

 暫くは目で追っていったが、すぐに消えて見えなくなってしまった。


 誰もいなくなったのを確認。更には索敵スキルで周囲をくまなく探索する。───誰もいないようだ。


「さてと。邪魔もいなくなったし、もう一狩りしますかね」


 は? 帰らないのか?・・・・いや、レベリングするに決まってんじゃん!?

 

 これで種族特性を隠す必要もなくなったんで、容赦なく戦闘ができる。

 『高速再生』をギルド長の監視のある中で使う羽目になったのが計算外だが。精霊から背を向けていたし、魔力を調整して白魔法を使用したように見せかけておいたので。誤魔化しくらいは出来たはずだ。


 もうウザったい監視の目は無い。《光学迷彩》・《気配遮断》・《奇襲》のコンボが使える。

 先ほどよりもずっと楽に討伐できるはずだ。


 ランク6が出たら、単体なら討伐。複数なら撤退。これを基本方針にして狩りを再開した。


 余りにも夢中になっていたせいか、午前11時から開始した狩りが終えたのは午後18時だった。


 そのおかげで、暗黒騎士はカンスト目前。進化リソースは7割近くまで来た。

 スキルも増えたし、新たに2個購入しておいたアイテムボックスも容量一杯だ。成果は上々と言ったところだろう。


 こうしてホクホクした顔で、俺はファーチェスへと帰還するべく歩を進めた。


 その帰り道で自分がこの状況を楽しんでいることにふと気付いた。

 この世界に来た目的は、母を助ける品を手に入れること。それはまるで変っていないが。

 自分を抑えることなく、自己責任で望みのままに動けるこの異世界の生活が気に入っている気持ちを「ありえん」と否定する事は出来なかった。

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