第36話 湿地帯での戦闘
湿地帯に足を踏み入れるとぬかるんだ地面に足が取られる。
早速【水蜘蛛のブーツ】のスキル『水上歩行』を起動。
すると薄っすらと張った水の上に立つことが出来た。
これは助かる。機動力が殺されることは、俺のスタイルでは致命的だ。
『飛行』を使えば全く問題ないが。ギルド長の眼がある。あまり人外のスキル見せるべきではない。
出来れば特性も使用しない方向で戦おう。
まっすぐ走り続けると霧が出てきた。霧は視界を完全に遮るほどではないが、見通しは悪くなった。だが俺には気配感知があるので問題ない。気にせず更に進むと、索敵に反応があった。
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【ギガント・トード】
ランク4モンスター。凶暴で巨大なカエル。単体での戦闘力も高いが、『仲間を呼ぶ』を使われると非常に厄介。舌に猛毒があるが、内臓を乾燥させ解毒草と調合することで解毒薬が作れる。オスの睾丸は精力剤にもなる。
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【ネクロン】
ランク4モンスター。レイスの上位種。死体などが散乱する戦場などでよく見かける。『死霊魔法』を駆使することで戦力や仲間を増やす。
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【スパイク・アリゲーター】
ランク5モンスター。強靭な尾と頑強なスパイクを武器とする獰猛なワニ。
空腹時は見境なく目に入った生物を捕食する。たまに見境なく喧嘩を売って逆に返り討ちにされることもある。
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【グール】
ランク3モンスター。ネクロマンサーの死霊魔法によって蘇った死体が進化した物。ゾンビに比べて素早く力も強い。
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【スケルトン・ナイト】・【スケルトン・ウィザード】
ランク3モンスター。スケルトンソルジャーやスケルトン・メイジが進化したモンスター。
魔法と武器での戦闘を得意とする。単体ではそれほで強力ではないが。上位種に率いられている場合は非常に手ごわい。
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こいつらはそこまで厄介ではない。問題はコイツだ。見える範囲の一番奥で動いている巨大なモンスターへ解析を使用する。
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【バーサク・キマイラゾンビ】
ランク6モンスター。バリアン湿地帯の生存競争に敗れたモンスターの死骸が怨念によって融合した物。
素体となったモンスターのスキルを使用できるため。素体次第では非常に危険。常に殺戮衝動に動かされている為、目に入った生物を殺しつくす。もし止まる時があるとしたら、完全に肉体を失ったときだろう。
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(なんとも重たいテキストだ。コイツはタイマンじゃないと勝負さえできない。まずは周りから始末する。格上との勝負は避けるか、策を張り巡らせたうえでタイマンに持ち込むのが鉄則だ)
ギルド長の提示した条件はランク四モンスターの討伐だ。危険を冒してランク六の討伐をする必要は無い。
だが、俺はやる。理由はちょっとした————意趣返しと調査だ。
こんな面倒を課したギルド長の鼻を明かしてやりたいのと。強敵相手に何処まで戦えるのか知りたい。危なくなればギルド長の所まで逃げれば、後は処理してくれるだろうといった下心もある。
負ける気は無い。黒魔法がLV:6になったおかげで、戦術の幅は広がった。『フリージング・フィールド』・『アイアン・ブレット』・【サンダーランス』・『フレイムランス』を並列起動で待機させ一斉に目標に向けて開放した。
『フリージング・フィールド』が足元を凍り付かせ。『アイアン・ブレット』がギガント・トード、スパイク・アリゲーター、スケルトン・ナイト・スケルトン・ウィザードの肉体を打ち砕き。『サンダーランス』『フレイムランス』がグールとネクロマンサーの霊体に致命傷を与えた。
ネクロマンサーはまだ完全に滅んでいない。満身創痍だがまだ生きていることに舌打ちをすると、縮地で距離を詰めてスピリットソードで切り裂きとどめを刺した。
(霊体にもダメージを与えるスピリットソードに付与されたスキルはかなり使える。おっちゃんに感謝だな!・・・・・・ッチ、マズイ)
やばい気がしたので、とっさに飛び退く。一瞬遅れて俺のいた場所にビームのようなモノが着弾し地面を穿つ。
派手な炸裂音、主に水しぶきと衝撃波が俺の体を叩く。攻撃が飛んできた方向を見ればキマイラの頭部? のワニの顔から水滴が滴っていた。
(あれは圧縮した水・・・・か? ウォーターカッターみたいなもんか? ・・っおい、今度は蛇かよ)
先の攻撃を暢気に考察している余裕は無かった。キマイラは俺を敵と定め、殺す気満々だ。
休む間もなく今度は尻尾の蛇が口から紫色の煙を吐き出す。ゆっくり拡散しながら迫ってくる。
毒かと思ったが地面が腐食していることから溶解毒のようだ。毒なら耐性があるが、腐食耐性は保有していない。追い風を巻き起こす『フォローウインド』で毒霧を吹き散らす。毒霧はむさんしたが、今度は腹のカエルが「ゲェゲェ」鳴くと。どこからか『ギガント・トード』が集まってきた。
集まってきた蛙共は、俺を睨み付けてくる。既に敵認定為れているようだ。人気者は辛いぜ! だが、敵さんの狙いは明確だ。
(休ませない気かよ。スキルが判らんと対処さえ出来ん)
慌てて解析を使用、スキルを確認する。
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〇名前 :『ゲアステロン』
〇種族 :【バーサク・キマイラゾンビ」】
種族ランク:C・76/100%
〇LV:38
〇HP :25000
〇MP :13500
〇力 :4500
〇敏捷 :1250
〇体力 :∞
〇知力 :100
〇魔力 :1750
〇運 :1
〇アクティブスキル
【腐食の息LV:5】・【灼熱の息LV:3】・【地雷針LV:2】・【圧縮噴射LV:4】・【仲間を呼ぶLV:2】・【黒魔法LV:3】
〇パッシブスキル
【怪力LV:5】
〇種族特性
【意志独立】・【執念の一撃】・【朽ち果てた肉体】・【猛毒の爪牙】・【殺戮衝動】・【飛行LV:1】・【炎属性被ダメージ倍加】
〇固有スキル
【怨念変換】
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何とも癖のあるステータスだ。典型的な脳キン構成だが、一撃喰らった時点でこちらが圧倒的に不利になる。回避を主軸に対応していくしかない。
考えを纏めている内に、今度はワニ、蛇、トカゲの頭からブレス・水レーザー・火炎弾が一斉掃射が放たれた。
(3方向からの同時攻撃は卑怯だろうがよ? 紳士? の嗜みを知らねぇのか? デクがっ!?)
息もつかぬ波状攻撃に罵声を飛ばしたくなるが、防ぐための魔法を組み上げる。
ワンテンポ遅れアイアンウォールの発動が間に合ったが。溶解毒が鉄の壁を脆くし、圧縮した水レーザーが脆くなった壁を突き破り俺に迫る。
身を屈め、咄嗟に水レーザーを回避できたが。別方向から迫る灼熱の息をモロに喰らってしまう。
全身から煙を上げるが、纏っていた闘気が威力を軽減したので軽い火傷ですんだ。
態勢を立て直すべくバックステップを試みるが、突然腹部に痛みが走る。
痛む腹部に慌てて腹部に目を向けると尻尾の蛇頭が鎧の隙間から牙を突き刺していた。
キマイラを見ると、尻尾が地面に潜り込んでいる。どうやら地面を穿孔して俺の背後に尻尾を移動させたようだ。多芸だな、オイッ!
(これが地雷針か? ヤバい。血を流しすぎると体力が持っていかれる)
すぐさまポーションを多数服用する。腹部の傷と火傷を負った全身に振りかけ、傷と状態異常を治す。
HP管理はソロの基本だ。ピンチの時はケチっちゃいけない!
(今度はこっちの番だ!)
距離はあるが、スピリットソードを袈裟斬りに振り下ろし。飛ぶ斬撃『飛斬』を発動。
見えない斬擊は、尻尾に直撃。蛇頭ごと尻尾をアッサリ切断した。どうやら耐久は低いらしい。
尻尾は少しの間ピクピク震えていたが、直ぐに動かなくなった。
(よし、これで少しは楽になっ・・・た・・ぞ?・・ハイ、ワニさんが切り落とされた蛇さんを食べましたね~。お尻のあたりがもぞもぞ動いてますね?
この流れは予想できるといいますか・・・ええ、お尻から蛇さんが生えてきましたね!)
楽勝! ではないが、折角破壊した部位を。ああも容易く再生されると萎えるぜ。落ち込んでる暇はねーけど!
落ちるテンションを無理矢理維持して思考をまとめる。
恐らくこれが『捕食再生』のスキルだろう。死体や部位を取り込み肉体の一部に再生させる。極めて厄介だ。
キマイラはまだピンピンしている。腹部の山羊が一鳴きすると、頭上がイヤに熱く感じる気がする、ってか熱い。
頭上を見上げれば、俺を包囲するように数十個のフレイムランスとファイアボールが浮かんでいた。
(直撃すれば流石にヤバい。魔法耐性だけじゃ凌げない)
時間差で次々とフレイムランス、ファイアボールが襲い掛かってくる。全て防ぐのは不可能だ!
瞬時に判断して、俺は【暗黒騎士】のスキル『暗黒剣・断魔』を剣に纏わせフレイムランスに狙いを定めて切り裂いた。
『断魔』は文字通り魔法を切り裂く力を一定時間刃に纏わせることが出来る。
「っ────ハァァァァァァァァァッ!」
裂帛の気合いを発して迫り来るフレイムランスを次々と切り裂く。だがフレイムランスの対処を優先し、ファイアーボールは無視したため直撃を喰らってしまう。
(あっちーな、クソッタレがっ! ──ッチ。火傷と痛みで朦朧とする。長期戦はマズい!)
炎熱によって火傷が生じ激痛が走り意識が飛びそうになる。今のファイアーボールはその気になれば結界で防げた。だが勝負を決めるべく魔力を練り上げる。
長期戦はどの道もう出来ない。キマイラの基本戦術は動かず強力なスキルでこちらの動きを制限し。
搦手を用いてこちらを弱らせる。敵が弱ったら無限の体力に任せて連撃を叩き込み獲物を仕留めるトリッキータイプ。
アンデットゆえに肉体は脆い、腐ってるからな! だが無尽蔵の体力と筋力で弱点を補っている。
それにあの固有スキルのおかげでMPは底なしだろうからな。
◆◇
〇『怨念変換』
周囲の怨念や負のエネルギーを吸収してMPに変換する。余剰分は蓄えておくことが出来る。
◆◇
ここは戦場跡だ。未だに怨念が渦巻いてるし、弱肉強食の生態系故に生存競争に敗れた敗者の負のエネルギーなんざ掃いて捨てるほどあるはず。
どれだけ蓄えられるのか知らんが、実質無限のMPと考えるべきだ。
キマイラのスタイルは非常に強力。使用する攻撃に対抗する耐性スキルを持っていなければ、対応に追われて反撃さえままならない。
(このままだと完全なジリ貧になるのは間違いない。近づこうにも、様々な生物の顔が全方位を見渡しているので死角が存在しない。今までで最悪な部類のモンスターだ。
ランク6でこれなら、ユニークモンスターはどんだけ強いんだよ?)
少しの強くなっても、まだまだ先は長い。自分の歩く道のりの険しさが改めて実感できる。
(おっと! 今は目の前のことに集中すべき、今を行き残らずして先は無い。キマイラは後、先に雑魚共を処理するべきだ)
此方も準備は整った。まずは、再度集まってきたギガント・トードに黒魔法第四位階『アイスエッジ』で牽制。すかさず、『アイスブレット』を叩き込む。
氷の刃が蛙共の手前で着弾、狙いを外したと勘違いしたのか。蛙共はゲコゲコと笑うように鳴く。馬鹿がっ、狙いは別だっ!
泥濘んだ地面は凍り付き、蛙共の沈んだ足ごと凍結させる。
身動きの取れなくなり慌てふためいた蛙に、拳大の氷礫が雨のごとく降り注ぎ風穴を空けて絶命させた。
(雑魚の排除完了。並列起動──マルチキャスト──完了)
お次はキマイラに向けて『アイアンブレット』を100発以上連射する。
俺の『アイアンブレット』はただの鉄球を放つだけではなく。先端が蕾のようになっていて、触れた瞬間に種子が弾けた様に内部で炸裂するように改良してある。
【デマカセ】時代に対人で殺傷力を上げる方法を考えた末に出来た多数の殲滅魔法。
ソロの俺が生き残るために編み出した対人、対魔物魔法。
それらを編み出すために行った、数え切れないほどトライアンドエラー。
それらが血肉となり、元来の資質と相まってレンジの魔法演算能力を人外のレベルにしている。
ソレが真に生かされるのはまだ先だ。しかし、その一端は既に現れている。
厄介なのは蛇の尻尾と、トカゲの脇腹にくっついているワニだ。
切り落としても再生するなら、原形を留めなくなる位に破壊するまでだ。
俺が何か企んでいるのを悟ったのか。キマイラは避けようとするが。
逃げた方向にアイアンウォールを何枚も張り合わせて強化した壁を錬成して妨害をする。
逃げ場を失った巨大に鋼鉄の弾丸が次々と突き刺さる。
突き刺さった弾丸は内部ではじけ飛び、地面に血溜まりを作り上げた。
「Gyaioooooooo」
アイアンブレット100連発は効いたようで、溜まらずに絶叫を放った。
流石のタフネスで死んではいないようだが、ダメージを与えることには成功した。
拳大に結界を20以上創り出し、錐のように鋭角化。それを高速回転させると一斉に打ち出した。
そして、練り上げた魔力を開放する。俺の周囲に6個の黒い炎が3メートル程の球体となって浮かんでいる。
黒魔法【地獄炎】。地獄の瘴気によって生み出された炎で触れたものを容赦なく焼き尽くす。
熟練の後衛でも連発すればMPを空にするほどに燃費は悪い。しかしその威力だけはお墨付きだ。
本来なら魔力糸をキマイラの周囲に展開し、至近距離から放つところだが。『地獄炎』は制御が難しく、現状では魔力糸を複雑に制御しながらの発動は厳しかった。
だから逃げ場をなくすべく、全方位からの攻撃によっての殲滅を選ぶ。
「Kyuuuuuuuuuu!」
キマイラもこの魔法を喰らうのは危険と判断したのか、悲鳴を上げ。俺に尻を向けて逃げ出そうとする。
「はは、ここまで殺し合ったんだ。最後まで殺り合わないなんて連れねぇーじゃねーか?」
俺は拳を開いてキマイラに向けて突き出し───一拍おいて───握り込んだ。
それと同時に───キマイラの内部から鈍く黒光りする塊が飛び出し、血溜まりは湿地の水と混ざり合い血の池となる。
「Pigyuraooooo」
キマイラも自分の体内で何が起きているのか、理解できずに蹲ってしまう。
蹲ったキマイラには本来6本ある脚が3本しかなかった。
そして、体中から夥しい血が流れ落ちていた。血はまるで止まらない。
それどころか、どんどん流れる量が増えている。
これはアイアンブレットを全て炸裂させず。一定時間後に破裂させるように調整をした結果だ。
体内に埋まったままの弾丸は、時間の経過で種子が爆ぜるようにキマイラの中で荒れ狂い致命傷を与えていた。
そして、動けないキマイラに『地獄炎』は回避できない。
漆黒の炎がキマイラの巨体を包み込み。全身を焼き尽くした。キマイラの蹲っていた場所には深さ8メートルはある大穴と腐った肉が焼ける悪臭が漂っていた。
(今の俺ならランク六までは相性しだいで討伐できる!)
新たに得た力を噛み締め、達成感に浸りたいところだ。
しかし、まだ此処は危険地帯。
ギルド長の条件も果たした事だし───サッサとずらかりますかね!
俺は魔石とドロップアイテムを回収して周囲を見回した後。
魔法によって出来た大穴──クレーターから背を向けると湿地帯の入り口に向けて歩き出した。
ランク6のモンスターを討伐したんだ。これなら文句は無いだろう。
もし何か言う奴がいても──問題ない。
「ギルド長の判断を疑うのですか?」とでもかましゃ文句も出んだろ!
歩き出して少し経ったとき、俺は急に立ち止まると。
スピリットソードを背後に向けて、素早く振りぬいた。
刃から伝わる確かな手ごたえ感じて振り返ると。真っ二つになった蛇の頭が消滅するところだった。
スキル『執念の一撃』。特定の部位さえ残っていれば体力が尽きても。
一撃のみアクションできる道連れ系のスキル。
(お前がいなければ俺は増長してモンスターを軽く見ていたかもしれない。
おかげで自分はまだまだヒヨッコと実感できた。・・・・感謝する)
確かに死にかけたが、俺にコイツのおかげで更に成長出来たのは事実だ。討伐した強敵に感謝の念を送りつつ。
今後のプランの練り直しと。自身の強化方法を模索しながらギルド長たちのいる場所に足を進めた。




