第31話 頂に至りし存在
俺は騒ぎを聞きつけて介入してきた、エリス嬢に向けて問いかけた。
「申し訳ありません。挑発をした私の側にも非があることは認めます。しかし、申し開きをするようで恐縮ですが。そちらの受付嬢が不正を前提にして私を公衆の面前で糾弾してきたことが。そもそもの問題だと思いますが?」
憶すでもなく。さりとて開き直るでもなく事実を淡々と述べた。
俺の余りにも不遜な物言いに、エリス嬢の頬がピクピクと震え愛想笑いに罅が入る。
「それとも。どなたか私が不正をしたという明確な証拠などをお持ちなのでしょうか?
でなければただの言いがかりに過ぎません。
もしそれでも疑われるならば、明日にでも討伐に赴き、同じ素材をギルドに持って来ますよ?
もし疑うようでしたら討伐に赴く際に、ギルドから調査員を派遣されても私は一向にかまいません」
その言いざまに、こちらの様子を窺っていた冒険者たちも騒ぎ始めた。
「おい、おっさん。ルーキーが調子こくなよっ!」「そうだ、そうだ。ミレットちゃんに謝れよっ」
案の定というか。周りの冒険者、特に若手が声を上げ始めた。この受付嬢ミレット? は普通にかわいいので、助け船を出して気を引きたいかな?
「はぁ~!!」
ワザとらしくため息を吐き、周囲に対して憐れむような目を向けると。
お馬鹿な子を諭すように話しかける。
「私がルーキーということは事実ですので否定はしません。しかし、それは今関係あるのですか?私は証拠もなく不正を疑われるのは納得いかない、と言っているだけです。
更にこの疑惑を晴らすための方法を提示までしています。そして、それを判断するのはギルドの方々であって、貴方達ではないと思いますが?」
「関係ない奴らが横から首を突っ込むな」という余り傲慢な物言いに、冒険者たちも殺気立つ。
俺を囲んでいた数人が、威嚇するように剣を抜いたり、杖を構えてくる。
「ふむ。君たちはもっと自制の心を鍛えるべきだ。先ほどの子供達の攻撃で私が怪我を負っていれば、ギルドは何らかの罰は下していただろう。ましてや攻撃魔法をギルド内で使用していたら、厳罰は避けられたかったはずだよ? 私が魔法を使う前に気絶させたから、おそらくは注意くらいで済むはずだが。随分と殺気立っているようだが、まぁ君たち程度にやられるほど私は弱くない。組織に属しているなら、もう少し先のことまで考えるよう知性を鍛えた方が良いと思うよ?」
先ほどの状況、Dランクのガキが一方的に叩きのめされたのに。何一つ学習していないお馬鹿さん達にあからさまに嘲笑してやる。
第三者が見たら。「この騒ぎを起こした奴が何言ってんだ?」と思うだろうが。この騒ぎを起こした理由は(俺の中で――だが)きちんとある。
一つはこれから高ランクの素材を持ちこんだ時に、いちいち疑われてはたまらないということ。
そして、もう一つは。最大の問題として、あのまま引き下がっていれば「自分が不正を行ったことを暗に認めた」と周囲に受け取られかねないという点だ。
一度落ちた信用を取り戻すのはかなり難しい。ましてやこちらは何の実績もない駆け出し。最悪の場合、。冒険者資格剥奪か、運が良くてもギルド内で総スカンを喰らいかねない。
(疑惑を認めたレッテルを張られたら。どこに行っても冒険者ギルドのネットワークで俺のことは知れ渡るだろう。冒険者ギルドの強大さを考えれば確実に、ダンジョンに入ることも素材を売ることも出来なくなるはず。そうなったら俺は完全に詰む)
何があってもそれだけは避けねばならない。
フゥ~とエリス嬢は息を吐きだし。こちらを鋭く見据えてきた。
「貴方はもう少し冷静な方だと思っていたのですが? このような方法しか取れなかったのですか?」
「これが現状で最善と思いましたので。そもそも冷静に、と言うならそちらの受付嬢に言うべきではないですか? 仮に私が不正をしていたとしても確たる証拠もないまま糾弾するのではなく。先輩や上司に判断を仰ぐなど。いくらでも方法はあったはずですが?」
こちらを糾弾するような問いかけは、甚だ不本意だ。そもそもの非はギルド側にある筈だ。こちらも挑発するように返した。
「それなのに大勢の前で不正と断定して糾弾を行ったことで。私は甚だ不本意な状況に追い込まれました。
もしあのまま私が逃げ帰っていたら、暗に不正を認めたと周囲は考えるでしょう? そうなったら私の悪評はたちまち広がるでしょうね。
そうしたら冒険者を続けるどころか、どこに行っても働き口まで完全に探せなくなります。そこまで考えて私は声を上げたまでのことです」
誰も声を挙げずに静寂が支配する。こちらの理路整然とした話に周りは言葉を失っているようだ。
もしくはそこまで考えているとは露ほども思わず。ただ糾弾されて感情的になっているとでも考えていたのだろう。
皆が静まり返ったのを確認すると徐に口を開く。
「誤解が無いように言わせていただきますが。私はギルドに喧嘩を売っているわけでも。そちらの受付嬢を糾弾したいわけでもありません。
ただ今後、依頼の受注や素材の売買をスムーズに行いたいだけです。それ以上でも以下でもありません」
こちらの主張と要求をキチンと相手方に伝えた。あとは相手の判断次第だ。
俺がギルド側の決断を待っていると・・・・
「彼の主張は筋が通っている。非はどう見ても此方にあります。彼の持ち込んだ素材に対して直ちに査定を行いなさい」
力強くは無いが、聞いたものが思わず従ってしまうような、威厳のある声音が響き渡った。周りが一斉に声の方向へ顔を向けると、そこに立っていた人物を見て驚愕の表情を浮かべる。
「「「ぎ、ギルド長」」」
受付嬢の声で、この男がギルド長だと分かった。一目見て分かったが、この男も只モノじゃない。
すかさず解析を行う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〇フギン・フィルド
〇種族:小人(魔人)
〇ジョブ:風水王LV:372(合計LV:872)
〇HP :16410
〇MP :149100
〇力 :3360
〇敏捷 :9580
〇体力 :2684
〇知力 :21020
〇魔力 :30600
〇運 :100
〇アクティブスキル
【杖技】・【風水技】・【地形操作LV:10】・【白魔法LV:7】・【精霊魔法LV:8】・【霊脈操作LV:5】・【地脈操作LV:7】・【演奏技】
〇パッシブスキル
【索敵LV:10】・【気配感知LV:10】・【気配遮断LV:10】・【魔法耐性耐性LV:5】【猛毒耐性LV:7】・【気配遮断LV:5】・【LV:10】・【混乱耐性LV:7】
・【4大属性耐性LV:5】・【演奏術LV:9】・【精神耐性LV:5】・【麻痺耐性LV:5】
・【韋駄天LV:5】・【殺気感知LV:9】
〇固有スキル
【大地の祝福】
〇装備
武器:【合衝笛:バーディ・パーチ】・『????』『????』
頭 :【流星の帽子】・『万物流転』『風漂』
体 :【大風水師のローブ】・『風水系スキル強化』『水・土属性半減』
腕 :【大風水師の手袋】・『風水系スキル強化』『衰弱無効』
腰 :【大風水師のベルト】・『風水系スキル強化』『火・風属性半減』
脚 :【天跳蛙のブーツ】:『跳躍力強化』『悪路走行』
装飾:【幻惑の指輪】:『ステータス・スキル隠蔽』
装飾:【大風水師のペンダント】:『風水系スキル強化』『水操作』
装飾:【暴食蛙のマント】:『MP貯蔵』『HP貯蔵』
大風水師シリーズの相乗効果
2パーツ・鉱脈探知
3パーツ・地形を操作可能範囲を300メートル追加
4パーツ・風水系スキル与ダメージ倍加
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(まただ、コイツもレベルが500超えている。上限を越えられる特殊なジョブなのか?)
ジークに続いて二人目のカンスト越えに遭遇したことで、ジークだけが特別ではない事を確信した。同時に、何とかしてそのジョブの情報を入手する方法を考える。
「で、でもよ。コイツはギルド内で禁止されている暴力行為を働いたんだぜ? そこについてはお咎め無しなのかよ? ルール違反したのなら最低限の処罰はするべきだっ!」
ギルド長の言葉に納得いかないのか、一人が異議を申し立てると。周りの連中も「そうだ、そうだ」と同調し始める。俺は考えに耽っていたので反応が遅れてしまう。
「彼が周囲を挑発をしたことがこの状況を産み出す一因となった事は認めましょう」
異議を申し立てた冒険者と囃し立てていた連中は、ギルド長の言葉にほくそ笑む。だが続く言葉に氷ついたように固まった。
「それでしたら貴方たちも処罰しないといけませんね? 貴方たちはギルド内で禁止されている抜剣を行い。そちらに倒れている者達は殺人未遂。ギルドの法に照らし合わせれば。どちらもペナルティーの対象になりますが?」
「はっ? ちょ、ちょっと待ってくれよ!! そりゃないだろ? 悪いのはソイツなんだぜ」
淡々と話すギルド長に、周囲の冒険者が激昂する。流石に食って掛かるようなことはしないが、このまま素直に処罰を受け入れる気は無いようだ。自分たちの罪を棚に上げ、人の罪だけ糾弾する屑の典型といえるだろう。
「ギルド長は俺たちじゃなくてソイツの肩を持つのかよ?」
たまらず冒険者が声を張り上げるが。
「私はこのギルドの長として、中立公正に判断を下しただけです。彼の挑発は問題かもしれませんが、剣を抜いた貴方がたはそれ以上に問題があります。
それとそちらに倒れている方々は、彼が阻止していなければ傷害罪・殺人未遂・ギルド内での攻撃魔法の不正使用。
規則に照らし合わせれば、冒険者資格を剥奪されても文句が言えません。未遂なので厳重注意程度に留めておきますが・・・・ね。
但し、ギルド側は事を大きくする気はありませんが。今後、彼らへの対応は厳しくなることだけは覚悟した方が良いでしょう」
一切の感情を窺わせない鉄壁の愛想笑いを張り付け。非難の声にもどこ吹く風といった感じで淡々と話す。
「それに肩を持つと先ほど言いましたが、大元の原因はウチの受付嬢の早合点にあると思いますが? 先ほどの彼の発言は聞こえていました。
確かにルーキーでランク4の素材を持ちこむことは、滅多にありません。
しかし、過去に遡れば幾らでも例はあります。しっかりと確認もせず、確たる証拠もないまま。
大勢の前で糾弾するようなことを行った点はよろしくない。たとえば上司に判断を仰ぐ、この場は買取を行って今後は彼に対して注意する。などの選択肢はいくらでもありました。
これらの点を踏まえて客観的に判断したまでですが?」
ギルド長、フギンから間接的に糾弾された受付嬢、ミレットは顔を真っ青にして涙ぐんでいる。このままだと自分に処罰が下るのは間違いないからだ。
「それに彼が自分から暴れたなら兎も角。彼の行いは自衛の範囲だと思いますよ?
ギルド内で暴力行為は厳禁です。冒険者なら誰だも知っていることだと思いますがね?
まぁ、荒くれ者の集まりの冒険者の中ではあって無い様な法ですが」
動じるでもなく、理路整然とした言葉に周囲は何も言えないようだ。その静寂を破った空気の読めない奴は・・・・・・・
「それで私の扱いはどのようになるのでしょうか? 私としては不正の疑いが解けて、今後の冒険者活動がスムーズにいけばそれでいいのですが?」
この騒ぎの張本人。・・・・・レンジだった。
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100話ほどまでは予約投稿してあります。
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