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第30話 ボロボロの帰還


〇ファーチェス近郊【呪術師】シレン


 スライムとの死闘を終えた俺は。ボロボロの身体を引き摺るようにして森から這い出した。


 (スライムを倒したまでは良かったが。あのクソイノシシモドキ共め、こっちが満身創痍の時に現れやがって。

 次に会ったら牡丹鍋にしてやる!)


 そう、スライムに勝利した後。一悶着あったのだ!


 スライムを倒して完全な魔玉とドロップで高品質ミスリルインゴットを5本手に入れたが。  

 その直後に【ランペイジ・カップルボア】なるランク5のモンスターに襲われ、命からがら逃げだしてきた。


 全開の状態ならまだしも、あの状況で戦いを挑むほどの蛮勇を俺は持ち合わせていない。

 ・・・敏捷値は俺の方が上だったので、ギリギリ逃げ切れたことを追記しておく。


 「てか、新調したばかりの装備が、一日持たずボロボロとか。おっちゃんに言ったら、ぜって~文句いわれっぞ!?」


 スライムに貫かれ、猪カップルに追いかけ回された俺の見た目は半裸同然。日本なら、即お縄頂戴の変態染みた格好にされた。


 別に文句を言われたから、どうってことは無い! 装備は壊れるモンだしな! 

 だが新品がボロボロなのは気分的に良くない。しかし、こんな装備で戦闘するなど自殺行為だ(はじまりの迷宮は装備が手に入らなかったから仕方なく無装備だっただけ!俺に露出趣味は無い!)。


 ランク6の魔玉を売ればかなりの金策はなる。でも流石にそれは目立ちすぎだろう。

 仮に冒険者が「俺たちから盗んだ」などと主張すれば。実績面から見てもこちらの方が不利だ。

 入手したミスリルのインゴットも、しばらくはアイテムボックスの肥やしにする予定だ。


 (目立つのはともかく、面倒事に巻き込まれるのは御免だね)


 そう考えながら歩いていると、街の門に到着した。あの時の衛兵、バッシュではなかったが。ギルドカードを見せるとすんなり通してくれた。


 (しかし、ギルドカードを提示するだけで通すなんて。警備ザルすぎねぇか?)


◇◆


 これはレンジの勘違いだ。ギルドカードは複製や偽造できない特殊な技術が使われており。

 もし偽造がバレたら厳罰が下されることは、この世界なら子供でも知っている常識だ。

 如何にも冴えない風体の男に、そんな犯罪を働く度胸と偽造する技術など無いと衛兵は判断したんに違いない。

 余談だがレンジは後日。その常識を知ることになる!


◇◆


激戦の後だ腹は減っている。簡単な軽食なら持ってるが、今は温かいものが食べたい気分だ。

 ぶっちゃけ幼少期の訓練により、俺は水だけで数日は食わなくても活動できる。


 (だが、それは飽くまでも我慢できるだけで、好き好んでやりたいわけじゃない!)


 考えた末にギルドで換金してからにすることにした。

その後は道具屋で軽度の呪いを解呪する聖水を購入。呪いを解呪して『暗黒騎士』の条件は満たす。(買い物したくても懐が寂しいので、換金しないと買い物も買い食いも出来ねぇしな!! 軽食ぐらいは出来るがそれじゃ満たされないし!)


 金が無けりゃ何も出来ないのは異世界も同じだ。と金が無いのを誤魔化すように言い訳すると、ギルドに向けて歩き出す。


 ギルドまでの道をノンビリ歩いて行く。時刻はもう夕方だ。街の住民も帰路につき始めているようだ。家路に向かう大勢の人とすれ違う。



 ギルドに到着すると早速中に入り、受付カウンターまで歩いて行く。


 登録時はエリス嬢一人だけだったが。今はクエストの帰りなのか、大勢の冒険者が集まっている。五つある受付カウンター全てに受付嬢が立っていた。


 (時間帯によって受付の人数が違うのか、ちゃんと考えてるんだな!)


 どうでも良いことに感心しつつ、列の最後尾に並ぶ。並んで待ってると、順番になった。

 リュックから素材を出そうとすると、後ろから喧しいダミ声が聞こえてきた。


 「?!?!?!?!?!」


 「どけどけ、俺たちはこの『ファーチェス』最大のクラン【黒翼団】だぞ。とっとと順番を譲らねぇか。コラァッ!」


 連中を見た瞬間、俺は言葉を失い。息を呑んだ!


 その理由は連中の外見にある。やられ役の典型的な台詞を喚きながら現れた、如何にも雑魚っぽい見た目のチンピラ風な男達。その時代錯誤な格好は俺に衝撃を齎した(某世紀末漫画に出てくる瞬殺される雑魚キャラ)。


 (あの防具の体を成していない、世紀末雑魚風の装備。見ていてこっちが恥ずかしくなる。

 しかも髪型はスキンヘッドにモヒカン。ってかあの担いでいる釘バットみたいな武器は何だよ? ああ、あのデブ。ナイフをペロペロしてやがる! 

 なんて見た目に忠実なリアクションだっ! 異世界来てから最大級の衝撃を受けたぜ!!)


 考えてる内容はかなり失礼だったが、あの黒翼団?とやらの方がどう見ても遙かに無礼だ。気にする必要も無い!


 (正直、こんな馬鹿どもを放置してるようじゃ、最大クランという謳い文句も怪しいところだ。

 数しかいない雑魚ばかりのクランで、最大クラン・・・だとかな。あの3人のレベルも80前後だし。 

 控え目に評価しても、馬鹿じゃねぇのかこいつら?)


 周りの冒険者は、こいつらより遥かに実力がある者ばかりだ。命知らずの蛮勇を通り越して、こいつらが自殺志願者に見えてきた。


 (この手の馬鹿に関わると碌な事が無いな!) 


 瞬時に判断して、順番を譲ろうと横にずれる。


 「うるせぇな~。酔いが醒めちまったじゃねぇか~。何騒いでんだよ?」


 その声は室内にある、酒場から聞こえてきた。声の方向に顔を向ければ、机に突っ伏していた大男が起き上がるところだった。  


 その男は途轍もない長身だった。だが俺が驚いたのは身長じゃない。男の纏う威圧感に気圧されたから驚いたのだ!


 (な、なんだアイツ。確実に2メートル近くあるぞ? それにとんでもない威圧感だ!!)


 慌てて解析を使用する。そこには見たことも無い超高ステータスが表示されていた。


◆◇

〇ジークハルト・ヨルン

〇種族:人間(超人)

〇ジョブ:双剣王LV:385(合計LV:885) 


〇HP :115000

〇MP :80250

〇力  :21475

〇敏捷 :27250

〇体力 :43690

〇知力 :8765

〇魔力 :13700

〇運  :100


〇アクティブスキル

【双剣技】・【剣技】・【瞬間装備変更LV:5】・【体技】・【盾技】・【暗黒剣技】・【聖剣技】・【白魔法LV:3】・【暗黒魔法LV:3】・【浄化の光】・【呪詛移し】


〇パッシブスキル 

【双剣術LV:10】・【剣術LV:11】・【闘気術LV:10】・【即死耐性LV:5】・【猛毒耐性LV:5】・【気配遮断LV:5】・【体術LV:10】・【混乱耐性LV:5】

・【呪詛耐性】・【聖騎士の加護】・【恐慌耐性LV:5】・【麻痺耐性LV:5】・【剛力LV:5】・【聖魔の祝福】


〇固有スキル

【武芸の天賦】【超直感】


〇装備


武器:【対極双剣:パラ・ドクス】・『????』『????』

頭 :【鬼王の鉢金】・『物理耐性』『筋力強化LV:5』

体 :【骸龍の軽鎧】・『即死無効』『闇属性半減』

腕 :【闘魂の籠手】・『痛覚耐性LV:5』『出血耐性LV:5』『魅了無効』

腰 :【風龍の腰当】・『風属性被ダメージ半減』『天駆』

脚 :【霊羽具足】:シ・ムルグー】『????』『????』

装飾:【幻惑の指輪】:『ステータス・スキル隠蔽』

装飾:【会心の指輪】:『クリッティカル確率上昇』『クリッティカル時・与ダメージ倍加』

装飾:【炎鳥の腕輪】:『火属性被ダメージ半減』


◆◇


 (ッ!??!!!!!)


 その圧倒的な力量差に絶句するしかなかった。萎縮して立ち止まっていると黒翼団? が言い訳がましく声を上げるも。

 

 「じ、ジークハルト・・・・・・さん。い、俺らは、そ、その!」


 さっきまで威勢のよかった世紀末雑魚共は。明らかに強者の登場に萎縮して言葉さえも話せないようだ。


 しかし、俺はそれどころではなかった。世紀末君たちの情け無い姿など気にならないほどに。


 (どーゆうことだ? ジョブは500でカンストじゃなかったのか? なのに【ジョブレベルLV:385】で【合計LV:885】だと? それに装備もステータスもヤバすぎる。こんなんと殺り合ったら・・・・一瞬で殺されるぞっ!)


 男は明らかに機嫌が悪い。下手に動いて絡まれたら、面倒どころじゃすまない!


 「ッチ。あまりにもうるせーし、見ていて見苦しいから絞めてやろーかと思ったが。こんな雑魚を相手にするのも気分が悪い。 テメーらオレの気が変らない内に・・とっとと失せろやっ!!」


 大男・・・ジークハルトが一喝すると、世紀末雑魚共は蜘蛛の子を散らすように消え去った。


 どうでもいいが、逃げ足は速い。あっという間に見えなくなった。


 「あん! なんだ、文句でもあんのか? オイ!」


 俺がじっと見て不快に感じたのか。絡む対象がこちらに移ったようだ。


 「も、申し訳ありません。あまりの威圧感につい見入ってしまいました。どうかご容赦ください」


 申し訳なさそうな声音で腰を折り謝罪する。


 この男の態度を理不尽だと思ったが、不躾な視線を向けていたのは事実。面倒を回避するためにも、すかさず頭を下げて謝罪した。


 「ん~。わかりゃいいんだよ。イラついてたんでつい絡んじまった・・・その、悪かったな」


 俺が謝ると、直ぐにバツの悪そうな顔をして。そっぽを向きながらも、自分の非を認めた。


 「こちらこそ、不躾な視線を向けてしまい、大変失礼しました。何分、田舎から出て来たばかり者でして」


 それでも俺は下手にでる。何が気に障るか判らないからな! 


 「へぇ~。装備を見ると登録したてのルーキーか? その年で冒険者を始めるなんざ珍しい奴だな?」


 俺の態度に気を良くしたのか。気さくな態度で話しかけてきた。


 どうやら虫の居所が悪かった(世紀末雑魚共が原因と思われる)だけで根は悪い人ではなさそうだ。実力者と親しくしておいて損にはならない、という打算も働き。話を合わせることにした。


 「皆さんからよく言われます。食い扶持に困って都会にやってきたんですが。

 これと要った伝手も無く、さりとて働き口も簡単には見つから無くて。

 手持ちも心許ないので、採取など安全な依頼で、糊口を凌ごうと思って依頼を受けたんですが。

 ちょうど達成報告のためここに並んでいたら、先ほどの方たちが来た次第でして・・・」


  大半は出鱈目だが、依頼報告に来て絡まれたのは事実だ。嘘は言っていないし、騙してもいない。


 「まっ、人には事情があるからな。まぁその年で大成するのは難しいかもしれんが。頑張れよ」


 俺の言葉を信じたのか? はたまた俺などには興味が無いのかは判断できんが、激励? してくれたようだ。


 「自分なりに頑張ってみます。先ほどは、本当にすみませんでした」


 再度、頭を下げると「気にするな」とばかりに軽く手を振って去っていった。


 (ふぅ、下手に絡まれたらヤバかったぜ。短気そうだが、本質は気のいい男のようで助かった。

 しかし、あのジョブ。確か【双剣王】だったか? 買い取りの最中に受付で聞いてみるかね!)



 本当は次が順番だったが。世紀末君たちに絡まれ、ジークと話していたら。 

 知らぬ間に列が出来ていたので、また最後尾から並び直す羽目になった


 待つこと20分、ようやく自分の順番が回ってきた。不運にも昼間の受付嬢『エリス』の窓口には行けなかったようだ。


 「すみません。依頼の達成報告と素材の買取りをお願い致します」


「依頼達成お疲れ様です。素材の鑑定をしますので、依頼の品と買い取素材の提示をお願いします」


 リュックから採取した薬草類や、討伐で得た素材を取り出し。カウンターに並べていく。素材を取り出しながら、チラッと受付嬢を伺ってみる。


 まだ若く、頭部には猫耳が見えるので「猫獣人」という種族だろう。恐らくは二十歳にもなっていない。十五、六だろう。この世界は、自立が早いのかもしれない。地球も見習うべきだろう!




 余りノンビリしてると周りに迷惑だ。既に俺の後ろには列が出来ている。急いで残りを取り出し査定をお願いする。


 最初はにこやかだったが、徐々に顔が引きつり。最後は半眼で睨んできた・・・どーしたんだろう?


 「失礼ですが。こちらの素材はご自分で討伐されたものなのでしょうか? ランクを手っ取り早く上げるため。時折、不正な譲渡や売買などを行う方がいます。それは不正行為となり、厳重な処罰の対象となりますが?」


 (は? 何言ってんだ! 思い込みだけで人様を糾弾すんなや)


 俺は加減して、値の張りそうな魔玉やミスリルインゴットは提出して無い。それにも関わらずこの疑いよう。まぁ、ルーキーでソロなら仕方がないのか? この世界のルーキーの力量までは知らんしな! だとしても、不正してないのに疑われるのは心外だ)


 こんなときオドオドした対応は余計な疑念を相手に与えるだけ。毅然とした態度で接するべきだろう。そう判断し、心の中で戦闘態勢を取る。


 「逆にお尋ねしますが、私が不正を働いたという根拠は何でしょうか?」


 俺は笑顔を消し去ると、目を細めて毅然とした口調で質問をした。


 「っ!!!」


 豹変した俺の態度に、受付嬢は一瞬たじろぐが。気を取り直すと詰問のような口調で話し始めた。


 「通常ルーキーの方が討伐できたとしても、精々ランク2のモンスターまでです。

 しかし、こちらに提示された素材はランク4まで含まれています。ギルドカードを調べましたのでハッキリと言わせて頂きますが。

 本日冒険者登録されたばかりの貴方が討伐できるとは思えません。仮に盗んだものなら処罰待ったなしですが、譲り受けたり、購入の場合なら温情措置もありますよ!」


 捲し立てるように持論を展開する受付嬢に。憐れみの視線を向けたくなるが、ここは堪えておく。


 (てゆーか。すでに不正を働いたことを前提にしてる。思い込みが激しいにしても、この場で大声で話すことじゃないだろ?・・・)


 これについてはレンジが正しい。糾弾するにしても、証拠や根拠を提示するべきだ。少なくとも、こんな大勢の前で話すべきじゃない!


 「そうだそうだ。その素材はランク3のメタルスパイダーにポイズンスライムだけじゃなくてランク4のアシッドスライムやフレイムウルフまであるじゃねぇか。

 Dランクの俺らでさえ倒すのが難しいのにそんなおっさんに倒せるわけがねぇぜ!」


 後ろを振り向くと、男女4人組のパーティーが、調子づいた口調で嘲るように言い放った。

 こちらを見る瞳の奥には侮りと、弱者を嬲る優越感が見て取れた。


 (はぁー! ヤッパリ騒ぎ出す馬鹿が出たか)


 溜息を堪え、後ろで囃し立てているパーティーを見る。

見ればまだ10代半ばといったところだ。装備も俺よりは上等なものを身に着けている。

 ・・・・しかし、レベル・ステータス両面で見れば、俺よりはるかに弱い。それに騒ぎを聞きつけた連中も、遠巻きに此方を伺い始める。


 (チッ。後ろの馬鹿どもが騒ぎ出しやがったぞ。はぁ穏便に行きたかったが、こちとら疲れてんだ。

 ガキの言いがかりに付き合ってるほど暇でもないんだよ)


 俺は荒事もやむなし、と腹を決めて後ろのガキ共を鋭く見据えた。


 「ふむ。なるほど。君たちはこの程度のモンスターも倒せないほど、弱っちいということだね? 

 私は楽に倒せたんだが。自分に出来ないからと言って、他人に出来ないと決めつけるのは、愚か者のすることだよ? 

 それと確たる証拠もなく、先入観による思い込みだけで。公衆の面前で、人を糾弾するのもいかがなものかと思うがね?」


 「「「っっっっ!!」」」


 侮蔑と憐れみがたっぷり含んだ毒舌に、周囲はシンと静まりかえる。こういった場面では下手に感情を出すよりも、淡々と丁寧に諭すように話した方が、相手の神経を逆撫ですることが出来る。


 前者はガキども。後者は受付嬢に向けて放った言葉だ。受付嬢本人に悪気はなかったとしても、きちんと調査した上で不正を追及するならばともかく。思い込みや憶測で疑われてはたまらない。


 ガキどもはこちらの言葉に、口を金魚のようにパクパクさせていたが。すぐに顔を真っ赤にすると、激高したのか怒鳴りつけてくる。


 「いい年のオヤジが調子に乗ってんじゃねぇぞっ! 俺らはテメーより長く冒険者やってる先輩だぞ。少しは敬ったらどうだ。ゴラアアッ!」


「先輩というのなら、私は君たちよりも長く生きている人生の先輩だ。それに自分を敬って欲しいなら、敬われるに相応しい人格や能力を身に着けるように努力するべきだね。

 自分が敬うに足る人物だと認めれば。周囲は勝手に君たちを敬ってくれるはずだよ? 

 わざわざそのような、低俗極まる恫喝紛いなことをしなくても・・・・ね!!」


 諭すようにやさしい口調で話したが、その本質は挑発だ。


 要約すれば、敬って欲しいなら実力と人格を身に着けろ=今のおめーらはそのどっちも無いから敬う必要なんざねぇーんだよ、ボケッ! うん、悪口だな。 


 俺の言葉の意味合いは理解できなかったようだが、馬鹿にされていることは感じられたようだ。


「ちょ、調子に乗ってんじゃねぇぞ。雑魚がぁー」


 案の定、リーダー格の剣士装備のガキ【ガロ】が斬りかかってくる。


 向かって来るガキを冷めた目で観察する。


(すべての動きが遅すぎだ。踏み込み、重心、剣速。すべてがなっちゃいない。それにこの程度の挑発で我を失って人に斬りかかるなんざ。・・・・・・早死にする典型だな。まったく、こんな茶番はさっさと終わらせるかね!)


 疲れているのは本当だし、さっさと終わらせることにしよう。それにこの騒ぎを精々利用させてもらう。迷惑料と思えば安いもんだろ。元々の非はギルド側にあるんだしな。


 剣が振り下ろされる前に懐に入り込むと。無防備な腹に拳を叩き込み一撃で気絶させる。追撃で崩れ落ちた背中に肘を叩き込む。本来なら頭を踏み砕くとこだが流石にギルド内で殺しはマズイ。ガロが倒されたのを見て激高した盗賊風の女【リサ】がダガーを握り接近し、魔法使い風の女【エイミー】が魔法の詠唱を始めた。


「紅蓮の炎よ、わが手に集いて敵を撃たん」


 (対人で魔法をトロトロ詠唱するなんざ馬鹿じゃね? つーかギルド内だよ? 俺を倒せてもその後、厳罰じゃ済まんだろ、コレ?)


 ギルド内での抜剣に魔法使用は冒険者規約で禁止事項に記載されている。俺を倒せても、厳罰は避けられない。堪え性と考えの足りないガキは本当に嫌になるぜ。


拳を引き絞り、衝撃を飛ばす『空拳』を腹にぶち込み。魔法使い風の女【エイミー】と盗賊風の女【リサ】の意識を刈り取る。続いて衝撃を体の内部に浸透させる『浸透勁』をかなり加減して腹部に叩き込み悶絶させ。残りの神官風の男【ケイン】を首トンで気絶させた。


 俺の眼下には四人が気絶して転がっている。その醜態を冷え切った目で見つめていた。


 全員倒すまでに一分と掛かっていない。この馬鹿どもは負けを認めずにごねるだろうが、油断したとかの言い訳は通じない。実戦で「油断しました。本気を出せば俺の方が強いです!」なんてほざく奴は早死にするだけだ。


 (この程度でDランク? 弱すぎだろ? いや、こいつらはDランクでも最下層と見るべきだ。油断大敵、さっきのミスリルスライムの件があったばかりなのに、もう油断するとこだったぜ!)


 ついさっき、油断したばかりに、ミスリルスライムに手首を切り落とされたことを思い出して気を引き締めていると。背後に近寄ってくる気配を感じた。


「まったく、とんでもないことをやってくれますね? シレンさん」


 涼やかな声に振り替えると。受付嬢エリスが能面のような無表情を貼り付け、静かに佇んでいた。


 さっさと帰りたいのに帰れない。トラブルはまだ続きそうだ。


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