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第29話 準備期間



〇ラバンの森入り口 【呪術師】シレン


 俺は装備を購入して、ログアウトを試す。すると問題なく実行でき地球に戻れた。


 フレーバーテキストは、正しかったようだ。ではレベリングを開始する。


 事前にラバンの森の生態情報はギルドで購入してある。そして、クエスト開始値点。ゴブリン共の生息地帯は森の東側のようだ。下手にエリアに入って強制エンカは御免なので南・西・北のエリアでレベリングをすることにする。


 狙うのはランク3以上のモンスター。素材の類はアイテムボックスに収納して魔玉の欠片は基本的に食べる(石を食うなんざホントは勘弁なんだが)。当面は、上級職の条件を達成しつつ。

 討伐、換金。このループを繰り返そう。レベリングはどのゲームも根気が要るからな!


 (カンストは500。だが、恐らくは個人差がある。街で冒険者を解析してみたが、年配でも100そこそこなのに、20代くらいの奴が300は流石におかしい。このパターンはかなり見かけたので、偶然では無いだろう。たぶん種族と同じで本人の才能や資質で成長が止まる可能性が高い)


 この考えが頭を過ったとき、俺は思わず苦い顔をした。余りにも不公平だからだ。だが直ぐに切り替える、意味が無いから! それよりも、今後の動きの方が重要。


 (リソースは無駄になっても伸びしろの高い上級職を狙うべきだろう。俺は特別で500なんざ余裕だぜぇ・・・とか調子ぶっこいて、途中でレベルが止まったら黒歴史もんだ)


 今は余計なことを、自分ではどうしようもないことに囚われている場合じゃない。


 このラバンの森は【ルーキー殺しの森】と言われている。浅い場所に雑魚しかいないが。奥に進むといきなりランク5のモンスターに出くわし、気が付けばモンスターの腹の中。なんてのは普通にあるらしい。そうならぬよう油断せずに行こう。


 森の入口付近の雑魚は無視して一気に南に進む。視界の悪い森を20分ほど走る。すると、お目当てのランク3【メタルスパイダー】と【ヴェノムスライム】の群れが視界に入った。


 気配遮断を駆使して接近。影潜行で木の影に潜り込み。呪術『枯渇の吐息』で体力を奪い取ると、黒魔法『真空破』で切り刻み『業火』で焼き尽くす。


 併せて三十匹ほどの群れは瞬く間に討伐された。


 一撃で片付くとは思わなかったが、どうやらこのスキルの効果はかなり使えるようだ。当然これだけ速く倒せたのは理由がある。


・・・・・・・・・・・・・・・・

〇『奇襲』


未発見時の与ダメージを倍加する。


・・・・・・・・・・・・・・・・


 別に呪術を使う必要はなかった。それでも使用したのは上級職【暗黒騎士】の条件に含まれるからだ。しかし、バットステータス付与の成功回数500回。剣士系のジョブをカンスト。呪いの解呪50回以上。と条件は普通に面倒くさい。


 〈はじまりの迷宮〉で条件も判らず、試行錯誤しても上級職が現れなかったのは、当然かも知れない。


 (さっきの戦いで20回は付与に成功したはずだ。剣士のジョブは『飛翔剣士』をカンストしてる。呪いの解呪は自分に呪いをかけて解呪すればいい。このぺーすなら、カンストまでには条件が達成できる!)


 討伐地点にドロップした魔石を拾い、すぐに飲み込む。素材を収納すると、次の獲物を求めて駆け出した。


 レベリングも大事だが、ギルドで受けた依頼も忘れていない。


 納品する薬草は、解析を使用すると簡単に見つかった。規定数まで採取し、まだ余裕があったので、クエストボードに張り出してあった魔力草・満月草・解毒草も採取しておく。


 あまり目立つのは嫌だったが。どの道、一定の実力が無ければ、鼻も引っかけて貰えないことは。ギルドの冒険者を見ていて分かった(ギルドの登録時にラノベでお馴染みのテンプレをちょっと期待していたが、そんなことは無かった)。


 採取も終わったので、レベリングを再会する。襲ってきた『シャドーウルフ』・『ホワイトウルフ』・『ポイズンウルフ』の群れに呪術『狂乱の霧』を浴びせ、すかさず影に潜る。地面から杭を突き出す『大地杭(アースパイル)』で即死させる。


 このサイクルを暫し繰り返す。


 再開して、6時間ほどが経過した。荷物もそろそろ満タンになりそうだった。呪術師カンストまであと少し。休憩がてら一度ギルドに戻ることも視野に入れるべきだろう。


 そう考えて歩いていたら、ソレは現れた。


 それは一瞬の気の緩み。索敵の警戒音が鳴るより速く。手首に一瞬の風を感じたと思った直後。左手を手首から落とされた。


 (しまった。気を緩めちまった。こいつは?)  

  

 手を斬り落とされた激痛が走るが、今は下手人を調べる方が大切だ。頭上にある大木に張り付いている銀色の塊に解析を使用する。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


〇名前 :『ウェル・ア・ゲー』

〇種族 :【ミスリル・ウェポンスライム】種族ランク:C・32/100%

〇LV:57 


〇HP :150

〇MP :3186

〇力  :1289

〇敏捷 :1897

〇体力 :459

〇知力 :239

〇魔力 :1342

〇運  :452


〇アクティブスキル

【超速硬化LV:5】・【超速軟化LV:5】・【形態変化LV:6】


〇パッシブスキル 

【魔法耐性LV:5】・【物理耐性LV:9】・【魔力操作LV:4】・【分裂体強化LV:3】


〇種族特性

【液状金属生命体】・【擬態LV:6】・【体積=HP】・【奇襲】・【形状変化】・【分裂】


〇固有スキル


ランク6モンスター。体が魔法銀で構成されているため、物理と魔法に対して高い抵抗力を持つ。液状金属生命体のため、物理攻撃と状態異常をほとんど受け付けない。非常に珍しいモンスターで金属系モンスターは大量のリソースを保有しているので見つけたら即座に狩られるためとにかく臆病で、逃走に長けている。上位個体は特に珍しい。従魔モンスターとしても人気があるが、テイムは非常に困難。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 突然現れた強敵に思考が停止するが、すぐさま立て直す。


 (オイオイ!この森に出てくるモンスターは最大でランク5じゃなかったのかよ? つーかイキナリランク5を飛ばして6とかありえ・・・・・ねぇ・・・)


 俺は自分の舐めきった思考に唾を吐きたくなった!


(違う。これは俺のミスだ。チュートリアルとか。システムとか。ゲームのようだと思って油断していた俺の慢心が招いた結果だ!)


 アレだけ戒めていたのに、ご都合解釈していた間抜けな自分を殴りたくねる。


 (はじまりの、ファーチェス周辺フィールドに強いモンスターが出ない、なんて誰も言ってない。勝手に都合よく考えていただけ。ステージに沿って順を追って進めていけば、攻略できるっていう、ご都合解釈で考えた結果にすぎない!)


 これはゲームのようなシステムだが、ゲームじゃない。こと戦いに至っては真剣勝負、殺し合いだ!


 今は自分の馬鹿さ加減を嘆く暇は無い! 敵は俺を殺すき満々だ。


 (敏捷差を考えれば、俺が逃げ切れる可能性は低い。それにメタル系は基本的に憶病って書いてあった。攻撃してきた以上は完全にこっちと殺し合う気だろうさ)


「理不尽だが其れが何だ? 俺はそんなのとっくに知っていた事だろ? 無理無茶承知でこの世界に足を踏み入れたんだろ? 想定外な状況程度で日和ってんじゃねぇよ!ボケがっ!?」


 俺は知っている、この世界は不平等で理不尽だと。声に出したのは自分の愚かさを、ちょっと上手く要っただけで調子づいた自分を戒めるため。後は、弱気が忍び寄ってきた自分の心に罵声を飛ばすことで自身を激励するため。


 「ステは完敗していても勝機はあるんだよ。スカが!」


(こいつはHPが絶望的に低い。某長寿RPGのメ〇ルス〇イム見てーなもんだ。物理は無理でも魔法でなら勝機はある。そう思わなきゃやってられんぜ。クソッタレがよ!)


 敢えて荒い口調で言い聞かせ。自らを鼓舞する。


(それにコイツを倒しゃ、進化まで持っていける可能性は高い。レアドロップと経験値もゲットして一石三鳥)


 虫のいい話しで、ご褒美効果を狙い。テンションを上げる。


(てゆーかゴブリンキングを倒すためのレベリングで、それ以上のモンスターと戦うとか。どーゆ―ことだよ?・・・・・・くっつくまであとちょっとかね?)


 順序が逆になったことに苦笑する。


 切り落とされた左手は既に拾い、傷口に押し当ててある。『再生』の効果で接着までそう時間はかからんはず。


・・・・・・・・・・・・・・・・・

〇『再生』


欠損した箇所を脳や重要臓器を除いて復元するスキル。手や足などを切り落とされても欠損部位を傷口に合わせておけば数分で癒着する。但し、完全に欠損した場合は完全再生までにかなりの時間を必要とする。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 人間辞めてます系のスキルだが。この状況ではありがたい事この上なし。ありがとよ天魔種。


 この数時間で黒魔法もLV:5。呪術もLV:3までは上昇した。やはり日常的に魔法を使っているとスキルの熟練度が上がりやすいようだ。


 「手首もくっついたようだし、さっきの礼だ。受け取ってくれや!」


 一拍おいてスライムの周囲に鉄の壁が出現し、スライムを囲んむと上空から炎と雷が降り注いだ。


「PⅰKyú?」


 何か驚きの声を上げたようだ。それでもスライムは、自身の体を刃のように変化させ。鉄の壁を容易く切り裂く。そして今度は、ドリルのような形状になると高速で回転し。地中を穿孔して潜ってしまう。


 「奇襲ならともかく、気配も絶たずに隠れんぼなんざ意味ねぇぞ?」


 頭隠して尻隠さず、テメエの気配は丸わかりだ。黒魔方陣『大爆発(エクスプロージョン)』が地面に着弾、爆発を起こす。


 レンジの索敵はスキルに頼ったものだけではなく、魔力糸を地中にまで広げてソナーのように振動を感知することも出来るようになっていた。なぜ魔力を扱う様になって数日のレンジがそのような高等技術を使えるのか?・・・才能? 発想力? 否。努力の賜物である。


 激闘を繰り広げたオーガを真似して。日常でも常に魔力を纏う様に努力し。出来ること、出来ないことをトライ&エラーで確かめた志波蓮二の努力。幼い頃から居場所を見つけるため「出来ることは後悔する前にしておく」という習慣が骨の髄まで染みついたその結果の産物。


 以前、ジョブと種族を選択しなかったがゆえに。死にかけた経験がその習慣をより顕著にさせた。


 魔力操作に関してだけなら。既にレンジは一流と呼ばれる程の領域に至っている。本人はその事実を知っても満足することはないだろうが。


 「こちとらガキの頃から逆境には慣れっこなもんでな。あの頃の苦しさに比べりゃ、自分で状況を選べる今なんざっ!・・・・天国みてーなもんさ!」


 レンジの幼い頃の境遇。それはお世辞にも良い物ではなかった。唯一の味方である母が亡くなってからは、地獄と呼べるほどの悪環境だった。


 自分ではどうしようもない事で振り回され。大人の都合で生家を追い出されたレンジにとって、何かを選べる、選択できる自由があるだけ有り難いのだ。



 (物理での効果は薄い。火炎系と雷系統で攻めたところで・・・練習中のあの系統を・・・グェッ!!)


 痛みの箇所に目を向けると小さな小刀ほどの刃が腹部に刺さっていた。


(ッチ。分裂か? 小さすぎて警戒に引っかからなかったのか? だがよ~それは悪手だぜ!)


 分裂は厄介だが、HPも減少する。それなら処理もし易い。右手で分裂体を握りしめて、黒魔法『業火』で焼き尽くす。腹部の傷もついでに焼いて止血する。


 (くっ! いってー!!)


 傷口を止血のため焼く。という行為のあまりの痛みに意識が遠のくが、舌を思いっ切り噛んで気ツケする。ホントは再生でも時間を置けば治ったが、出血による体力の低下を嫌った。


 (昔の洋モノ映画に傷口を焼けたナイフで止血するシーンがあったが。声を出さないため、布を噛んでたのが分かる痛さだぜ。痛みの余り不様に転がるイケメン主人公を見て「ダッセ~」とか笑ってた俺、マジぶっ飛ばすぞ!)


 痛みを堪え、傷を焼いている間も。魔力を練り上げて次の魔法を複数待機させる。


 「まだまだ元気一杯のようだな? さて、全然くたばらないモンスターはどうやったら死ぬでしょ~!‥答えは~・・死ぬまで殴り続けりゃいいんだよ!」


 そう吼えると待機させていた魔法を発動させる。


 『アイアンウォール』を下から突き上げる形でスライムを上空に飛ばすと、第5位階『迅雷』を発動。更には同じく第5位階『業炎柱』で上下から挟み込む。


 スライムは、魔法を喰らいつつも。全身を針ネズミのような球形にして突っ込んで来た。


 「ウッ! ゴホォッ! ゴホッ!」


 不意を突かれて直撃を喰らい、耐えきれず吹っ飛ばされる。咳に血が混じっているので、どうやら内臓が傷ついたようだ。息を吸うたび呼吸が乱れる。


 (ハンッ!こちとら退路なんざ端からねーんだ。くたばるまでやってやるぜ)


 基より敏捷は此方が劣っている。戦闘を選んだ時点で、退く道は存在しない。レンジの綱渡りの死闘はまだまだ続く。




◆◇



・・・・・あれから2時間が経過した。奴さんの動きが悪くなったとみて、すかさず解析を使用する。


・・・・・・・・・・・・・

〇ミスリル・ウェポンスライム

〇HP :8/150

〇MP :2537/3186


・・・・・・・・・・・・


 (あと少しだ。これでHP特化型だったら死んでただろうな。

もしこれが平均的なランク六の魔物だったら、手も足も出なかった。運がよかっ・・・・ハッ! 運がよけりゃこんな強敵に会って死にかけるかよ! だが、これで決める!!) 


 確かに、ランク六でも偏った性能のミスリル・ウェポンスライムだからこそまともに戦えただけ。だが、運も実力の内。凶運には違いないが、最悪の類ではなかった。


 『フレイムランス(炎槍)『サンダーランス』(雷槍)を5発ずつ叩き込み。『フリージング(氷化)』でスライムを凍らせる。


 (これで終わらせる!)


 肝心のMPはもう僅かしか残っていない。MPポーションもとっくに尽きた。正真正銘、これがレンジの最後の魔法だ。


 (火・風・土の属性をひとつに)


 レンジは知らなかったが。それは、黒魔法の中でも特に使用が難しい魔法。もし使用するとなれば。複数の属性に適性を持ち、精密な魔力操作が求められるその魔法の名は・・


 『熔鉱炉(ブラストファネス)


 莫大な熱量をを秘めたこの魔法は。超硬度を持っていたスライムの体をジワジワと熔解していく。


 炎と光ご収まったとき、スライムの身体は何処にも存在しなかった。


 思わぬ遭遇から発生した戦闘は・・・ここに終了した。

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