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穏やか?な日々⑥


 ルデオプルーチから得たユニーク武具を見せる前にアイリス(後ついでにクレア)からも事情の説明を求められた。確かに俺も寝たきりだったので細かい経緯を説明していなかった。


 ちょどいいと地下書斎からt広間に椅子を持って来て車座になって腰を下ろす。ミケはクレアの腕から離れてぎこちなく動く機械人形たちとペシペシと戯れている。‥‥…勢い余って壊すなよ?


「‥‥…と、ここまでが俺とルデオプルーチとの戦闘の経緯になる」


 俺はクエストの開始、ルデオプルーチとドレッドノートの戦闘への介入からドレッドノートの討伐。クエスト達成によりエリクサーを入手したが、後回しにしたルデオプルーチが神話級へとランクアップして死闘を繰り広げ辛くも勝利した道筋を順を追って説明した。


 カッコよく説明しようにも終始俺の防戦一方だった。それに脚色して神話級を軽んじるのは論外だ。ゴキちゃんのようにカサカサと這いずり回っていた点も含めて正直に話しておいた。


 俺がズタボロで戻ってきた姿を見て苦戦したのは想像できたようだが、話が進むに連れてアイリスは神妙な顔。クレアはハラハラと心配したような顔で聞いていたのが印象的だ。


「マスターはよくそんな怪物に勝利出来ましたね」


 話しを聞き終え、しみじみと呟くアイリスに俺は苦笑で返す。


「ぶっちゃけ勝てたのはカオスの進化が、いや……ルデオプルーチが真っ向勝負を挑んできてくれたからだな」


「どういうことでしょうか?」


「このシステムの法則的に強力なスキルはあっても無敵のスキルは無い。長い年月を生き研鑽をしてきたルデオプルーチがその程度を知らないはずが無いからな。俺の無敵時間に何らかの制限があるのは気付いていたはずだ」


 強力なスキルほど支払う対価は大きくなる。まして無敵なんてぶっ壊れスキルの継続時間に支払うコストがそう続くはずないと見切っていたはずだ。


「俺がルデオプルーチだったら無敵が終わるまで逃げ回るか、分厚い壁なり障害物を作り出して防御に徹する。ただ生き残りたいだけなら逃走を選ぶべきだ」


 だがルデオプルーチはソレをしなかった。真正面からの攻撃によって俺の動きを封じ、完全な勝利を目指していたように思う。


「ルデオプルーチの真の敗因は選択ミス、俺との真っ向勝負を選んだからだ。時間稼ぎや搦手を少しでも使われていたら俺は死んでたよ」


 まぁそうしたかった、真っ向勝負を選びたかった気持ちは何となくだが理解できる。


「どうしてそうしなかったんでしょうか?」


 不思議そうなクレアに俺なりの解釈での答えを返す。


「奴が言ってたことだが、神話級からはランクアップと同時に領域から出ない様に制約を課されるらしい。奴はソレを拒否したようだ」


「そんな制約が課されるなんて‥…。神話級はそれだけ危険……そう判断されてるんでしょうか?」


「だろうな‥‥…もし神話級が自由に暴れ回ったら都市国家なんぞ崩壊してもおかしくない。だから行動範囲に制限を掛けたいって考えは否定できない」


 しかもあれで神話級下位だろ? 上位はどんだけヤバいって話しになってくるぜ。


「正直言って舐めてた。今の俺たちなら神話級でもイケるって考えだったが、甘すぎなくらいに甘かった。神話級は人数やら対策やらでどうこうなるようなそんなレベルじゃねぇ」


 お手上げといったポーズを取る俺をみて、クレアは何やら考え込んでいたが意を決したような表情で口を開く。


「戦術の見直しが必要ですね」


「タイプにもよるが、下手に数を揃えての消耗戦は無駄だろうな。ルデオプルーチは制圧寄りの万能型だったが、個人戦闘型でも一定の実力が無けりゃ紙切れの様に千切られて終わりだ。ランク8クラスの魔物でも時間稼ぎが精一杯だろうな」


「……後学のためにも戦闘を記録しておきたかったですね」


「……そこまでですか」


 俺の言葉に一人と一機は絶句する。なまじ実力があるからこそ実感できない側面もあるんだろう。これまで苦戦らしい苦戦はしてこなかったから無理もない。


 でもハッキリと方針だけは伝えておかないといけない。俺たちには(むやみやたらと)死線を潜る理由はもはや無くなった。

 これからも鍛えはするが、あくまでも安全マージンをしっかり確保してからだ。実力を過信して冗談半分に神話級に挑むなんざ論外だ。


「‥‥…何より一番の情報は神話級の領域内に入り込まない事、絶対に戦わない事だ。俺たちにはヤバい奴とやり合う理由が無いしな。

 準備不足ってのもあるが、アレは準備とか戦術ってレベルじゃねぇ‥‥…言葉に出し辛いが、勝ちたきゃそいつよりも強くなるしかねぇって感触だな。

 ゲーム風の説明になるが、熟練者のみで編成された舞台で挑む超大規模レイドクエストってレベルだ。何で神話級があそこまで怖れられるか分かったよ。

 言うまでもないが、絶対に神話級に挑もうなんて思うなよ? マジで死ぬからな?」


 俺は目力を込めてしっかりと念押しすると、二人も気圧された様に頷いてくれた。それを見て俺も信じるからな?とばかりに頷く。


 これまで対峙した魔物は事前に情報を集め対策さえ整えればやり合えない事も無かった。だがルデオプルーチは次元が違った。永い戦歴によって研鑽された戦闘技術に無尽蔵のMP。それに裏打ちされた広範囲殲滅・制圧攻撃と単体用の強力な必殺。更には逃走防止のスキルまで完備してやがった。

 雑兵を集めても鎧袖一触で吹き飛ばされる。熟練者を集めても分断されて各個撃破される。僅かな綻びでも生じれば一気に戦線が崩壊し大惨事となる。


 オーレリア大陸の人間がユニークモンスターに関わりたくない気持ちが分かった。領域にさえ入らなければ安全なら、触らぬ神に何とやらッて心境なんだろうな。


 さて、随分と脅すようなことも言っちまった。検証前に重くなった雰囲気を軽くするかね?


 俺は発していたプレッシャーを収めると軽い雰囲気に切り替える。


「明日には母さんが退院してくるからな。今日中にウルドのおっちゃんに挨拶に行って殴られてくる」


「殴られるとは穏やかじゃありませんね。ひょっとして【鍛冶王】の作ってくれた武具……壊しちゃったんですか?」


「そんだけ死闘だったんだよ。剣だけは無事だが、後は全部耐久がゼロになってぶっ壊れた」


 俺だって壊したくて壊した訳じゃねぇぞ? 兜・籠手・軽鎧・腰当て・ブーツ。おっちゃんのキレた顔が目に浮かんでくるぜ。

 安もんなら気にしないが、大品評会で賞を取った武具を壊して知らんぷりも出来ん。素直に殴られてくるさ。百パー俺が悪い訳だしな。


 普段ならフォローを入れてくれるクレアが沈黙しているのも、俺の心情を汲み取ってくれたからだろうよ。明かに自分に非がある時は、下手な言い訳をせずに素直に謝るのが一番引き摺らないんだ。


 クレアも余計な事には触れず、これからの予定の確認をしてくる。


「近々お母様の退院祝いも兼ねてパーティーをやるんですよね? 場所はこのお家ですか?」


 そう、前から約束していた退院祝いを兼ねた食事会を行う予定だ。詩織にもキチンと礼を言いたいしな。看護師の仕事といえばそれまでだが、感謝を忘れちゃいかん。


「いや、家でやると母さんも気忙しく動き回るだろうからな。前にクレアと食事に行ったレストランを貸し切りで押さえてある。俺が世話になっている社長一家も誘っている。急に会社を休職した事もそうだが、親父の頃から世話になりっぱなしだったからな。

 クレアにも迷惑を掛け通しだったし、派手に飲み食いして思いっ切り騒ごうぜ」


「あの、私も参加していいんですか?」


 おずおずと聞いてくるクレアちゃんに俺は呆れるしかない。


「????? 当然だろ?」


 この子はアホか? 俺にそんな気は無いし、そもそもクレアを除け者にしたら母さんにぶっ殺されるわ!! 


 クレアを宴に呼ばなかった場合の母さんの反応を予想してみよう。


『何でクレアちゃんを呼ばないのよ? 彼女を呼ばないなんてなんて冷たい子に育ったんでしょう!! クレアちゃんを呼んでアンタは家で留守番でもしてなさいっ!!』って蹴り込み喰らうわっ!!


「でもお店を貸し切りなんてお金が掛かりますよね? レンジ様はプータローですし?」


 その言葉に動揺して絶句する俺‥‥…。


 誰から聞いたんだよ? プータローって前世紀の死語だぞ? 俺は確かに休職中だが、せめてフリーターと呼んでくれ。


 ツッコムと藪蛇になりそうなんで、心配させまいと胸をどんと叩く。


「金の心配は要らん。現代社会において、あくせく働くだけが金を手に入れる方法じゃないんでな」


 確かにそれなりの出費だが、金ってのは使う時にはパ~と使うもんだ。これまで俺の出費は食費を除けばゲームとラノベくらい。会社の給料だけでもそれなりの貯蓄は在るんだ。


 それに俺がプレイしたゲームの攻略情報やマニアックな情報を掲載した情報誌の配信でかなりの金額を稼いできたので副収入(給料よりかなり多い)によって金はそれなりにある。世話になった人たちに振る舞うくらいの無駄遣いは良いだろう。


 というよりも、女に金の心配をさせるほど落ちぶれちゃいねぇ。無駄遣いは嫌いだが、女に金の心配をさせるのも惨めったらしい。チョイと嫌味だが、クレアにハッキリと教えておかねばなるまい。


「俺は無駄遣いはせんが、それなりの金は在る。それに俺の保有DPは知ってるだろ? 俺はこの地球じゃある意味で大富豪だぞ?」


 俺の知ってる情報を売れば金など幾らでも入ってくる(足が付くと嫌なのでやらんけどな!)。それに今の地球じゃDPは金に等しい。


 金持ちアピールはみっともないと思うが、クレアに金銭の心配をさせるのも忍びないので敢えて自慢げに伝えておくとクレアもハッとした。


「それにオーレリア大陸でも俺はそれなりの金持ちだ。<龍機界>で入手した素材を買い取って貰えば一財産だからな」


「レンジ様はやっぱり凄いです」


「マスター、ダンジョンの素材を融通してください」


 豊満な双丘の前で手を組み瞳を輝かせるクレアを見て俺も一安心。クレアに応える様に得意げに鼻を鳴らす。

 後者のアイリスの空気を読まない発言に無限アイテムボックスから素材を取り出していく。飛びつかんばかりの勢いで素材に突進すると、これまた眼を輝かせて手に取ってブツブツと呟きだした。


『うひょ~! これはアレの繋ぎに使えそう!』『ヒャハ~! これは機械人の武装に転用、シンプルながら完成された機能美。私を誘ってるんですねぇっ!!』……とこの手の手合いに関わると面倒になるので無視しておこう。


 まぁ<龍機界>の素材は独特なものが多い、流通させればどこで手に入れたか疑問が生まれ出所を聞かれるだろう。そのためにはダンジョンの情報をギルドに開示する必要があるが問題無い。


 これまで<龍機界>の存在を秘匿したのはクエストのキーモンスターであるルデオプルーチたちが万が一にも討伐されないようにするため。

 クエストをクリアした今、もう隠す必要が無いのだ。


 さて、いい加減にユニーク武具の確認をしようか。


 俺はアイテムボックスから【偽骸神殻 ルデオプルーチ】を取り出す。


 クレアは弾かれた様に飛び退き、機械人と戯れていたミケは全身の毛を逆立てクレアの前に護衛よろしく立ち【偽骸神殻】を威嚇している。別世界にトリップしていたアイリスでさえ手に銃器を出現させ臨戦態勢の移っている。


「どうしたんだよ?」


 俺としてはそのような行動を取られる心当たりがない。だが決して悪ふざけじゃないのはクレアたちの怯えたような表情を見れば明らかだ。


「レンジ様……その兵器が神話級ユニーク武具ですか?」


 恐る恐るといった感じで当たり前としか思えない事をクレアが訪ねてくる。


「そうだが……妙に怖がってるがどうかしたのか?」


「レンジ様は何も感じなかったんですか?」


 少なくとも俺は何も感じなかったので首を縦に振る。クレアたちは『信じられない』って顔をして顔を見合わせている。


「レンジ様がその黒と紅の兵装を取り出した時に、押し潰されそうな重圧と殺気を感じたのですが?」


 そ、そうか? 俺は何も感じなかったんだが? クレアだけなら気のせいと済ませられるが、ミケやアイリスも飛び退いたんだ。勘違いって線は無いだろう。

 思わず黒い骨に紅の装甲を張り付けた【偽神骸骨殻】に目線をやるが、やはり何の変化も無い。


 まぁさっさと終わらせよう。


 〇【偽骸神殻 ルデオプルーチ】

 神話級ユニーク武具

 見放されしセカイの新たなる始まりに誕生し惰性によって生き一度は滅びたが、絶対者の傀儡となり再誕した憐れなる龍王の残滓。宿業の敵を降し、その力を身に纏い偽りの神へと至る。

 神に背いてでも己の心、望む最後を求めた骸龍の力を宿す外殻。セカイに漂う負のエネルギーを吸収・圧縮する事により短時間ながら神に匹敵する力を発揮出来る。


 スキル:【神討滅却】・【乱装天骸】・【所有者固定】・【窃盗・譲渡不可】・【自動完全修復】


 〇【神討滅却】

 装備と同時に【偽骸神殻】が肉体を覆い[HP:百万・STR・AGI・VITは使用者の五百%の数値]とした特殊状態『偽骸』となる。この状態のダメージは全て【偽骸神殻】が負う。『偽骸』のHPが尽きるか使用から三分経過で強制的に解除される。

 再使用には二百四十時間が必要となる。


 〇【乱装天骸】

 魔物のドロップや武装を【偽骸神殻】に吸収させる事でより最適化された武装を形成する。


 俺はフレーバーテキストをそのままクレアたちに説明すると、何ともいえない引いたような目を向けられたんだが‥‥…。


 てーか、戦闘時間が三分間とか昔流行って今も続編が作られるくらい大人気の某特撮ヒーローかよ?


 戦闘時間はこの際たいして問題じゃない。この武装の最大のキモは俺のステを強化した数値でダメージは別のガワを作り出すって点にある。 


 俺のSTRを五百%したら十万を軽く超える。相手の攻撃を無視して三分間一方的に殴りゃ大抵の相手はノックアウトできる。


 正にルデオプルーチ戦での苦戦の要因。強者に大した際の圧倒的なステータス不足を補うための武具といえる。


 個人的には日常使いできる防具とか装飾が理想だが、贅沢は言うまいよ……。出ちまったもんはしょうがないしな‥‥…。


 さて、久方ぶりにオーレリア大陸に行っておっちゃんに殴られてきましょうか。こっちじゃ一週間でもあっちじゃ一か月以上経っている。おっちゃんも心配してるだろうしな。


 俺は立ち上がるとクレアの方に向き直った。


「クレアは申し訳ないがこっちで留守番を頼む。俺は向こうでやるだけやったらすぐに戻ってくる。どれだけ遅くても今日中には帰ってくる」


「分かりました……気を付けていってきてください」


「オウさっ!」


「検証のためにダンジョンの探索はしないで下さいね?」


「ぐっ、わ、分かってる」


 そんな事をする気は無かったが、釘を刺されてどもったのは疚しい事がある証拠かね? 動揺をなるべく現さないようにしながら俺はオーレリア大陸へ転移した。 

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