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穏やか?な日々⑤


 〇【天帝】志波蓮二


 無機質ながら秩序だった機械の軍団が敵を容赦なく蹂躙していく。その地獄の光景を愉快そうに見やりながら、如何にも悪そうな装備に身を包んだ凡庸な男が厭らしい笑みを張り付け高笑いをしなが誇らしげに叫んでいる。


『フハハハハハッ!! これが我が軍の力だっ!!!』


 無機質な機械人形は一切の慈悲を見せずに都市を破壊し、必死に逃げ惑い命乞いする住民さえも容赦なく虐殺していく。その地獄絵図にも匹敵する光景は正に悪の行進‥‥…。


『フハハ、フハハハハハッ!! 進め我が忠実な人形たちよっ!! 我に刃向かう愚者どもを殲滅するのだぁっ!!』


 誰一人、抵抗さえ出来ず無辜の民が虐殺されそれを見て男は更に笑みを深くする。この男と機械の人形軍団を止めるのは誰にも出来ない。


 セカイがこの男の手に堕ちるのは時間の問題だろう。


 妙なナレーションが途切れ、そこで俺の意識は現実に引き戻される。


「‥‥…はっ!! 思わず現実逃避しちまった!?」



 この場所は我が家の自宅だ。寝落ちした訳でも無いし、幻覚を見た訳でもねぇ。


 ——ノープロブレムっ!!!



 地下大広間、現在はアイリスの作業スペースと化した魔境を一目見た瞬間に俺はどこかの三流独裁者の雑魚っぽいセリフとナレーションが聞こえてきた……幻聴に違いない。頭を激しく振る事で幻覚の残滓を振り払っておく。


 肺一杯に空気を溜めて鬱屈した感情を吐き出してみましょうか? はい、せ~の~!!


「なんじゃこりゃ~っ!!!」


 俺は手に持った飲みかけのエナドリ(っぽい味のアイリス特性の謎の栄養ドリンク)を床に叩き付けそうになったが、最後の理性で堪える。中身が入ってるんで溢すと掃除が面倒だしな。


 地下に広がっている光景を見て、クレアは呆れ果てた様に額に手をやり。クレアに抱えられたミケはソレに威嚇する様に毛を逆立てている。


 うず高く積み上がったガラクタの山の奥からアイリスの鼻歌が聞こえてきやがった。この世紀末的な光景の下手人の分際でありながら『楽しくて仕方ありません』って雰囲気が声音からでもプンプンと漂ってきやがるのがムカつく。


「アイリス、ちょっと来いっ!!」


 俺は高圧的にアイリスを呼ぶと鼻歌が止み、バタバタした気配がしたと思ったら、こちらに向かってくる気配がするので仏頂面で腕組みして待つことにする。


(確かに俺はアイリスに『機械人』を作製する許可を出した。それは認めてやろう)


 マンパワーが不足しがちな俺たちにとって使える駒は多いに越した事は無いんでな。


(だがこんな前時代的なSFロボットを量産する許可を出した記憶はねぇっ!!)


 地下の空間を埋め尽くしているのは五百体ほどある直立した機械人形。それはいい、いや、よくねーけど後に回す。


 問題はこの人形の性能だ。あからさまといっていいほど不格好で弱い。


 つーか、このずんぐりむっくりの球体に頭部と短い手足をくっつけた人形は何だ? ステータスを見ても平均が五百そこそこ。Dランク冒険者よりも弱いってある意味で凄い。ただコストだけは安そうなんで特攻に使う分には惜しくなさそうだが、……自爆要員はクレアの魔物で十分間に合ってるんだよ。


 俺が思案していると、バタバタとアイリスがガラクタの海と山をかき分けて俺の前に現れた。


「マスターお待たせしました。無事快復されたようで何よりです」


「おう」


「私の兵装を完全に破壊するほどの相手。相当手ごわかったようですね?」


 ニコニコ顔でチクリと嫌味を言うなっての、俺だって好きで壊したんじゃねぇ。アイリスが手塩に掛けた兵装を壊したのは悪いと思ってるけどな。


「総力戦だったが、最終的に勝てたのは幸運が味方したのが大きいな。武装を壊したのは悪かったが、あのバケモン相手に手を抜いてたら今頃は死んでたよ」


「クレアから経緯は聞いていましたが‥‥…神話級、それほど強かったんですか?」


 俺は相手を評価する時に色眼鏡を使わない。それを知っているアイリスは驚いたような顔だ。俺の実力を知ってるからってのもあるんだろうがな……。


「別格。アイツを言い現わすのにそれほど相応しい言葉は無いな。アバターが進化して獲得したスキルが無かったら手も足も出なかった」


 条件付きダメージ無効化と時間制コスト・デメリットカットが無ければ善戦さえ難しかった。いま生きてるのは運が良かっただけだ。


「なるほど……装備は所詮消耗品。作り手側としては大事にして貰いたい想いもありますが、死んでしまっては元も子もありません。あの武装は使い手の命を守る……武器としての役割を果たしたようですね」


 アイリスはしみじみと呟く。武器が全損したことに思う所は在るが、感情に折り合いをつけてくれたようだ。


 これ以上話が脱線するのは勘弁だ。いいタイミングなんで本題に戻そう。


「それでこの機械人形は何だ? 俺に見せてくれた資料とまったく違うじゃねぇか?」


「流石はマスター、目の付け所が違いますね。その通りです」


 そのフンと胸を反らしながら浮かべている満面の笑みを見れば自分が悪い事をしたって意識は皆無だろう。別に俺も本気で怒ってる訳じゃねぇしな。

 だが俺が許可だしたのと違うもんを作ってるから問い詰めたいだけの事だ。


努めて優しい口調と穏やかな笑顔を張り付け規則正しく並んでいる機械人形を指さす。


「で? アイリスちゃんこれはな~に?」


「マスター、私は悟ってしまったんです」


「あん?」


 額に手をやり溜息混じりの口調で訳の分からんポーズを取るポンコツ人形。元が骨董品だったから無理もないが、ついに思考回路がぶっ壊れたか?

 俺の思考を呼んだのか、半眼を向けてくるがスルー。実際にお前が数千年物の骨董品なのは事実だろ? 


「……マスターに提出した機械人は戦力として見た場合に優秀ですが、一体当たりの製造費用は馬鹿になりません」


 分が悪いと判断したのか露骨にスルーしてすまし顔で話題を変え……本題に戻っただけか。時間が惜しいし脱線するだけなのでツッコミは止めとこう。


「戦況を覆す強力な個の存在を否定しません。しかし、量産機に求められるのは強さ以前に生産性と整備性です。逆を言えばどれだけ強くとも、その二つが欠落すれば量産機に相応しくありません」


「そうだな」


 その意見は間違ってないので相槌を打っておく。


「この子たちには当機の全ての知識を総動員し、生産性と発展性を限界までつぎ込み製作しました。そのためコストも非常に安く、整備も単純です」


「それはこの手抜きのようなデザインを見れば分かる。俺が言いたいのは実戦で使えるのかって事だよ? 性能を見ても自爆装置持たせて特攻ぐらいにしか使えねーんじゃねぇのか?」


 力説するのは結構だが、使えにゃ意味が無い。ある意味で量産型自立自爆兵器は浪漫だが、このステータスじゃ近づく前にスクラップにされるぞ? それに自爆要員ならクレアの魔物で事足りるしな。


「マスターの意見は尤もです。そのためにこの子たちに搭載したのが戦術データ・リンクシステムです」


 確か軍隊かなんかで聞き慣れた単語だ……。茶々入れるのは聞き終えてからにするか。「続きを話しな」と手振りで示す。


「戦術データ・リンクシステムとは。各個体が収集した情報を、瞬時に伝達・共有するシステムの総称です。この地球でも軍隊ではお馴染みの様ですね。

 但し当機が完成させたのは、その伝達速度と分析速度が桁違いであると自負しています」


 胸を張りドヤ顔するアイリス……ちょっと調子に乗ってるんでチョップをしたくなった。


 時間が惜しい(以下略)。得意げに話し終えるのを待ってやろう。


「まずこの子たちは最低でも小隊単位での運用を念頭に置いています。当機の推奨する運用方法は、最初に大隊単位でダンジョンに放り込みます」


「コイツラの戦闘力じゃDランクダンジョンの上層でもキツイだろ? 一番難度が低いってもこいつらの戦闘力ならランク4がギリギリだと思うぞ?」


 それも複数で一帯を相手取って……だ。装備次第ではある程度は通用するが、武装で誤魔化すにも限度があるだろ? 


「はい、苦戦するようなギリギリの戦闘が目的ですから」


「あん?」


「この子たちは破壊されても問題無いよう、破壊されるのを前提として設計されています」


 ここまでの発言からこの人形の用途が分かってきた‥…つまりこの人形は。俺の表情から考えを読んだんだろう。


「この子たちは……より優れた機体を作製するための、データ蓄積のための捨て石です」


 アイリスは淡々とした口調で俺の予想通りの仕様を口に出した。


「続きを言ってやろうか? この人形たちと同時に隠密なりステルス性能の高い生存能力に特化した中継器を送り込んで戦闘データを回収。回収した戦闘データを基により高度なAI、この場合は電子頭脳か?を作製してより強力な機体に搭載する‥‥…そんなとこだろ?」


「‥‥…その通りです」


 俺は前アイリスに『機巧人』を作れないのか?と聞いた事がある。その時アイリスは『材料が無いから無理』と答えていたが、根本は違うと考えている。


「国家らは俺の勘だ。お前は前に『機巧人』は材料が無いから作れないって言ってたが、例え材料があっても作れないんじゃないか?」


「‥‥…」


 アイリスは俺の言葉に何の反応も示さず沈黙する。


「その理由は機能やスペックは再現できても肝心の思考回路。電子頭脳が作り出せないからじゃないか? そうなるとおかしいよな? これまでの付き合いからお前の電子頭脳は一級品だと俺たちは知っている。だったらその頭脳をコピーするか同様の物を作ればいいだけだ」


 始原文明の膨大な知識と戦術機を操作する技術と判断力。どれをとっても文句のつけようがないほどアイリスは有能だ。


 なのにそれをしない。その理由は‥‥…。


「お前は高性能な電子頭脳の作製が出来ない。そして自分の電子頭脳の解析やコピーが出来ない様にロックが掛かってるんじゃないか?」


 文明の再興がしたいならアイリスの頭脳を量産するのが手っ取り早い。もしそれが出来るならアイリスなら俺たちに材料を集める様に頼んでくるはずだ。それをしないのは材料があっても作れないから。


 それに高性能な電子頭脳が作れるならアルストロメリアのような戦術機に搭載した方が戦闘やダンジョン探索には有用だ。わざわざデータ収集用に破壊されてもいい機械人形を作る必要が無い。


 勘だが確信に近い俺の問いかけをアイリスは‥……。


「マスターのご想像の通りです。当機はスタンドアローンが可能なほどの高性能な電子頭脳、より正確には超高レベル戦闘に対応できるレベルの自律思考AIの作製は出来ません。理由は不明ですが、当機に搭載されているAIについても解析やコピーは出来ない様にロックされています」


 肯定した。


「それって妙だよな?」


「はい。文明を再興するなら当機のようなスタンドアローン可能で高性能なアンドロイドを量産した方が手軽で何よりも早く済みます。創造主様が何故そのような制限を掛けたのか不明です」


 まぁ効率を考えればアイリスの不満顔も納得だ。


「ひょっとしたら人間の手で一から文明を、機械任せじゃなくて自分たちの力で再興して欲しかったのかもしれんな。何もかも機械任せじゃ自分たちで達成したって実感がわかないしな。

 ……効率主義のアイリスからしてみれば無駄かもしれないけどさ」


「そうかもしれませんね。当機はあくまでサポート。創造主様は人の可能性を信じていたのかもしれませんね」


 何もかも機械がやってくれるなら人は成長しないし、何よりも増長する。アイリスを残しAIの作製にブロックを掛けたのも『甘えるな! 自分たちの力で文明を創り出して見せろっ!!』って言いたかったのかもしれんな。


「まぁ俺にしてみりゃ迷惑な話だ。でもこの人形たちにデータを蓄積させればアイリス級の電子頭脳が作れるって考えでいいのか?」


「……膨大なコストと数年単位の時間が必要ですが可能と算出しました」


 どんなものでもトライ&エラー。一から作るのは大変って事だろうさ。だったら……。


「じゃあ構わん。コストなんざ気にせずにどんどんやれっ!!」


「よろしいんでしょうか?」


「コストをケチっちゃいい仕事は出来ん。何れ元が取れればそれでいいさ」


 もう俺は目的を達成した。コストだ素材だとどうこう言う気も無いしな。アイリス級の人工頭脳は将来的に役に立つしな。


「ただ俺たちに危害を加えない様にだけはしてくれよ?」


「もちろんです」


「じゃあ俺が手に入れたユニーク武具の検証に入るか? クレアとミケが見張ってたせいでフレーバーテキストの確認さえ出来なかったんでな」


 クレアたちに恨みがましい目を向けるが、鉄壁の愛想笑いに阻まれてしまった。


 さて、今日中におっちゃんに殴られにも行かにゃならんし。さっさと済ませようかね? 

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― 新着の感想 ―
[一言] いやー回復して良かった... しかし、母親が回復したことから国に情報行きそうだけど大丈夫かね? やっぱり機械は徐々に性能が上がるのはロマンがあるね
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