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第257話 求めるは救済、賭けるは我が命㉑


 短いなれど戦況が二転三転した激闘。濃密な激動にして激闘の先手を打ったのはレンジだった。


「≪ミラージュファントム≫」


 駆けだすと同時に術者と同一の能力と思考を持つ分身を生み出すスキルを発動。するとレンジの姿が三人に分かれる。


 分身が負ったダメージが術者に返ってくるデメリットがあるため普段は滅多に使わない。普通なら雑魚狩りや格下にしか使いづらいスキルも今ならダメージを負うデメリットを無効できる。


 同一性能の分身が二人。つまりは火力も三倍という計算になる。

 手数を増やして相手の防御が覚束なくなるまで一気呵成に攻め込む。それがレンジのプランの一つ。


 ≪混命之揺籠≫が切れれば最初の繰り返し。相手の攻勢を防ぐのが精一杯となり後手に回ってしまう。格上相手に後手に回るのは悪手でしかないとレンジは経験から学んでいる。


 漆黒の地獄の雷球が三人のレンジの掌で小さな渦を成し、渦は逆巻き少しずつ巨大になっていく。レンジたちは顔を見合わせると軽く頷き。本体は正面を、分身は左右に分かれ騎馬のように隊列を成し突撃してくる龍軍を迎え撃った。


「「「≪ライトニングボルテックス≫」」」


 三方向より軍勢を包み込むように放たれた黒雷の渦は龍の軍勢を呑み込まんとするが、骨と鋼鉄の残骸を複雑に組み合わせたような数メートルはある巨大な車輪が合計で四つ。超速回転しながら庇う様に黒雷≪ライトニングボルテックス≫を受け止める。


「ちぃっ!!」


 絶妙な連携にレンジの口からも舌打ちが漏れる。


 回転によって黒雷が弾かれるように周辺に飛散し大地を焦がす。逸れた余波といえ黒雷の威力は絶大。突撃する龍軍団の一部を薙ぎ払っていくが、数百の内の数十にさえ満たない。直撃を逃れた残りの龍は三分の一ずつに分かれ三方向、三人のレンジに向けて突撃を再開した。


(チンタラやってたらスキルの時間が過ぎる。残りは一分半かっ、クソッ!)


 視界の右下のゲージバーを確認して焦りが込み上げてくる。今のレンジには拙速といえる程の迅速な行動が求められている。


 とにかく時間がない。スキル≪混命之揺籠≫が切れれば袋叩きにされる未来しかないのだから。現在拮抗しているのは相手の攻撃を無効しているからに過ぎない。それが無くなれば勝敗は簡単に決する、焦りが生じるのも無理はない。そもそもの地力に埋めがたい差があるのだから。


 オリジンスキル≪≪我は原初にして混沌也≫≫は反則的な効果だが、地力を上げる類のスキルではない。あくまでも他のスキルとの組み合わせによって効果を発揮するのだから単独では意味がないのだ。


 レンジにとって厄介な事に、ルデオプルーチが≪ライトニングボルテックス≫への対応を取るのが予想よりかなり早かった。

 三方向から放たれた黒雷を三つの車輪が阻み。残り一つは超速で回転しながら上空を回る様に飛び不測の事態に備えているようだ。龍が余波に触れるそうになると、射線に割って入り、カバーする。討伐の数が一向に増えないのはこの鉄壁の陣形によるものだ。


 余波に巻き込まれていたのは最初だけ。龍たちは一つの生き物のように、統制の取れた動きによって漏れ出た黒雷を回避していく。

 だが≪ライトニングボルテックス≫はそこまで安い技ではない。車輪は回転して直撃こそ避けているが、車輪も決して無事ではない。回転数も徐々に弱まり、勢いを失っている。崩壊するのも時間の問題だろう。


 龍の先頭部隊との距離は狭まってきている。接触するのも時間の問題。突撃を受けてもダメージこそ無いだろうが、吹き飛ばされ圧迫されれば動きが阻害される。そうなってはコアに攻撃をするどころではない。


 今も≪ライトニングボルテックス≫は敵を滅さんと渦を巻いているが、車輪に阻まれ効果を上げられていない。それもあと数秒で終わる。


 車輪に守られた龍の軍勢は、激しい土埃と共に大地が揺れ動くような錯覚をするほどプレッシャーを放っている。距離は在るが、次第に圧力がレンジの肌を刺すように襲ってくる。

 

(討ち漏らした数が予定より遥かに多い。賭けになるがアレしかないか)


 理不尽は世の常。予定通りにいかない。儘ならぬ現実に歯軋りがしたくなるが、歯軋り一つしたところで却って苛立つと考えて堪える。


 レンジとしては、せめて総数の内の半分は削りたかった。だが車輪が阻んだため、討伐した数は全体の五分の一にも届いていない。


(危険承知で身を晒すしかないが……修羅場や決死の行動が、この戦闘だけでも多すぎねぇか?)


 この戦闘だけで死の覚悟とギリギリの賭けを何度もしている。そう思えてしまうのも無理は無いかもしれない。


 ≪ライトニングボルテックス≫の効果時間が終了。地面に逸れた雷が大地を焼いたため、土埃が舞い黒煙が発生している。

 ガシャンとガラスに金属をぶつけたような音が鳴り響くと共に、三つの車輪が力尽きた様に地面に落下する。

 レンジにとって残念だが、この怨念が侵蝕している大地はルデオプルーチの支配領域。骸や残骸さえあれば、無限に修復が可能だ。


 お前の攻撃など意味を成さん。そう言いたげに地面から怨念が吹き上がり、粉々に砕けた車輪を包み込む。すると粉々に砕け散った車輪はあっという間に修復され元の姿を取り戻している。


 嫌な方向に予想が当たった形だが、レンジはその程度は予想済みだ。短い時間だが、神話級の理不尽さを嫌というほど味わった、……現在進行形で味わっているのだから。


 それを超えるためには……。


(まとめて引き付け一網打尽にする)


 そう、ルデオプルーチが操作する全ての龍軍と四つの大車輪を同時に破壊するしかない。どれだけ危険な博打をする羽目になったとしても。

 

(((≪アシッドミスト≫≪ヴェノムミスト≫)))


 指を鳴らすと濃硫酸と猛毒の濃霧が分身も含めて三人のレンジを中心に発生。驚くべきは霧の濃度。僅か一メートル先さえ見えなくなるほどに濃密だ。濃霧は術者であるレンジの姿さえ完全に包み隠した。

 濃霧はさらに広がり五百メートルほどの円状に広がっていく。


 その濃霧に龍の軍勢が突撃。僅かに遅れて修復した四つの車輪も踊り込むように濃霧に突撃する。


「鬱陶しいなぁ、オイっ!!」


 突撃を躱しながらレンジは悪態を付く。


 満足な視界さえ得られない濃霧の中の在っても、龍たちはレンジの居場所が判るかのように突撃を繰り返している。


(予想通りだがルデオプルーチは本物の俺の位置が分かるらしいな。明かに俺に向かってくる数が多い)


 本体であるレンジには二百以上の龍と二つの車輪が差し向けられているのに対し。分身にはそれぞれ竜が五十と車輪が一つ。この対応を見ればルデオプルーチは本体が分かっているとしか思えない。

 

 そして視界さえ確保できない中、レンジの位置を把握しているかのように突撃してくるのはスキルによるものだ。

 アンデッドであり死霊術の達人であるルデオプルーチは、相手の魂魄、魂を視認、感じる事が出来る。レンジの本体を見分けられるのはこのスキルのおかげ。

 そして魂さえ感じられればレンジの居場所を完全に把握するなど容易い。視界を潰す濃霧などルデオプルーチには何の障害にさえならない。


「金属でも簡単に溶かし、生命を蝕む毒も全く効果なしかよっ! 期待してねぇけど頑丈過ぎんだろうがっ!!」


 この霧は濃硫酸と猛毒を複合した物だが、無敵状態のレンジはともかく龍たちにさえ何の痛痒も与えていない。

 猛毒はアンデッドに効果が薄いかもしれないが、鋼鉄さえ熔解する濃硫酸は龍たちが纏う薄闇色のオーラに阻まれている。


 視界さえ碌に確保できないハンデは実際のところレンジの方が遥かに大きい。霧の揺らぎや地面から伝わってくる振動を感知し、全ての突進を避けている。

 今のところは直撃は無いが、こんなギリギリの均衡が長く続くはずが無い。先に限界が訪れるのは明白だ。


 無敵といえど接触によって弾き飛ばされた先で囲まれ圧殺されては身動きが取れなくなる。

 そうなっては無敵状態が切れれば成す術もない。

 どれだけ面倒であっても準備が整うまではギリギリの防戦を続けるしかない。


(視界さえねぇのにこんな防戦はきつすぎだぜっ!! ≪揺籠≫の効果は‥…残り三十秒ってとこか。結局ギリギリで身を削る策しか残されてねぇのは何の因果かねぇっ!)


 自嘲するように呟くが、いつ均衡が崩れてもおかしくないギリギリのラインで保たれている。


 龍の突撃は速さこそ決して迅速ではないが、厄介なのは完全に統制の取れた動きだ。避けた先に死角から別の龍が突進してくる。上空に逃れようが、計ったようなタイミングで回転した車輪が轢き潰さんばかりに押し寄せるのだ。


 魔法によって迎撃する事も出来るが、その選択は選べない。『自分は一方的に追い詰めていて敵は翻弄されている』そう思わせるために。


(格下が格上の勝には油断を誘い僅かな隙を逃さず突くしかねぇっ! 俺の死は母さんの死だっ! 気バレっ!! ここが我慢のしどころだぞ俺ぇっ!!)


 劣勢の防戦は心身を削り疲弊を加速させる。それでも力なく横たわる母を思い出し、自分に喝を入れる。

 それだけで疲弊した四肢に力が戻ってくるような感じがする。


 無限にも思える息つく間もない防戦。限界はとっくに来て視界が霞み足が縺れる。だが倒れる事だけはしない。地面を転がり這い蹲ってでも突進を躱す。


 ついに龍の突進がレンジ本体を捉えた。足が縺れ地面に転がったレンジを狙いすました様にレンジを上空へとカチ上げる。


 分身は傷を負いながらも未だに健在だった。割いた龍の数が少なかったためだろう。


 獲物を逃さん、そう言わんばかりに四つの車輪が圧殺せんとばかりに上空で無防備のレンジに殺到する。遅れて宙に滑空している龍もレンジへと押し寄せる。


 ≪混命之揺籠≫の効果は十秒を切っている。挟まれてしまえばミンチの様に轢き潰されるだけ。


 絶体絶命といえる状況。だがレンジの眼は……死んでいない。


 分身二体は離れた場所からアイコンタクトを取り軽く頷きあう。


 レンジ本体のとった身を喰らわすお膳立てによって準備はすべて整っている。上空のレンジに向かって敵が殺到し、分身二体が全ての敵、軍勢を挟み込む位置取り。


 ——それこそが最後の作戦のキモであり、最後の一手に続く反撃の一手。


 分身がスキルを唱える。ユニゾン、同時に唱える事で初めて効果を発揮する合体スキル。身を削るのではなく消失させる代償に発動する自爆スキルを‥‥…。その技の名は。


「「≪シンクロフュージョン・ソウルバースト≫」」


 分身の身体が消失し、肉体の在った場所にエクトプラズマのような物体が二つ浮かび上がった。


 死霊術の達人であるルデオプルーチはそのエクトプラズマを見て驚愕の声を上げだ。


『アレは……イカンっ!??』


「気付いたかよっ!! だが遅ぇっ!! ≪メガリス・グラビドン≫」


 ルデオプルーチは危険を察知したのか、軍勢を分散させようとするが‥…遅い。この機を逃せば待っているのは死。正に勝負所といっていい。


 そしてレンジの勝負所に関しての嗅覚は人一倍鋭い。絶好の好機を逃れんとする敵の一手をむざむざ指を銜え黙ってみているはずが無い。


 ——ルデオプルーチの手を読み、即座に手を打った。


 跳ね上げられた空中で自分さえ巻き込み超重力を発生させる≪メガリス・グラビドン≫を発動。軍勢を囲むように漆黒のトバリが張られ。トバリの内側には途轍もない重圧がのしかかる。

 その余りの重圧に龍は身動きが取れず、車輪さえ浮遊がままならなくなり大地に落下する。


 超重圧も今のレンジなら無効化できる。動けず蹲るようになった龍や車輪を無視してルデオプルーチへと駆け出す。 


『ぐぬぅぅぅぅっ!! シレン、貴様ッそのスキルをどうして使えるっ!!』


 ルデオプルーチは手を出せぬ自分に歯軋りする。このスキルは一度発動すると阻止する事が出来ない。より正確には阻止するとさらに甚大な被害を齎すのだ。


(くっぅぅぅ。まさかアノ狂気のスキルを修得しているとは‥…もし手を出して阻止すれば我は終わる。だが龍軍さえ切り捨てれば、この距離なら問題無いはずだ。‥…が、今の我では再び怨念を集めるのは厳しくなるっ! くっ、そこまで狙っていたかっ!!)


 ルデオプルーチはレンジの狙いと周到さを悟り、手が出せぬ自分に歯軋りする。だが切り替える。今の最善は相手の策に乗り、その上で相手の思惑の上を行く。


『シレンよっ! 貴様の策に乗ってやろう。だが最後に勝利するのは我よっ!!』


 この状態になってしまえば、あとやる事はたった一つだけ。レンジを倒す、そのための準備をするしかない。


 浮遊していた二つのエクトプラズマは同時に加速。重圧を無視するように加速し、軍勢の中心で激しくぶつかり合う。少しの間、押し合い鬩ぎ合い対立しているようだったが。

 やがて溶け込み一つの真っ白な球体のような形状となる。


 球体は同調する様に大きくなり、更に膨張、膨張、膨張、ドンドンと不規則に膨らむように大きくなっていく。そして最終的に二十メートルほどまでに膨張した。

 その状態は限界まで膨らんだ風船を思わせる。僅かな衝撃で破裂する。そんな圧迫感を見る者すべてに与えている。


 その限界まで膨張した球体を見た時、ルデオプルーチは自分の目算が甘すぎたのを理解した。


『くぅっ!! 間に合えぇぇぇぇぇっ!!』


 最後の一手を打つ準備を終えたルデオプルーチは、コアを守る様、必死に骨を強固に固めた堅牢な防壁を幾重にも築いていく。 


 それは何が切っ掛けだったのか? 膨張した球体が一気に収縮すると……爆発した。


 超新星爆発のようなありえない破壊の嵐が帯状のエネルギーとなり階層全体に吹き荒れる。それは大地を抉り、龍の軍団を砕き、破壊し、蹂躙し、内部にある全てを破壊して吞み込んでいく。


『グウウウウウウウウウっ!!』


 そのセカイの終焉のような光景にルデオプルーチは唸りを上げるが、直ぐにそれどころではなくなる。破壊の牙はルデオプルーチにも迫ってきたからだ。


『ヌウウっ!!』


 ルデオプルーチが築き上げた堅牢な防壁を容易く砕き、コアを食い千切らんと破壊の牙を届かせんとするが、ルデオプルーチはコアの亀裂が広がるのを無視して壊れた先から防壁を張り続ける。


 コアに蓄えた怨念が漏れ立ち昇って行くが、それさえもリソースに回し防御に全てを注ぎ込んでいる。


(この場所だけは何があろうと死守する)


 コアを中心とした半径三メートル。この場所だけは破壊される訳にはいかない。勝利の美酒のためなら我が身さえも厭わない。そんな覚悟で耐え忍んでいる。


(よしっ!! 最初の賭けには勝った)


 ≪ミラージュファントム≫の創り出した分身は、術者と同一の性能を誇る。だが分身が消滅した時、分身が負ったダメージが本体に返って来る欠点がある。

 試すにはリスクが高すぎるので試していないが、それは自爆でも同様のはずだ。しかし≪混命之揺籠≫のダメージ無効化は自爆スキルに対しても有効だったようだ。本体で試す気にはならないが‥‥…。


 今も破壊の嵐は吹き荒れている。いつ収まるか見当もつかないが、レンジは駆け出した。


(残り時間は十五、十四、十三、十二、十一)


 破壊の嵐の中。暴風に晒された様に襲い来る質量を持った機械の残骸や、柱ほどある骨片を避けながらコアに向かってレンジは必至で走る。

 ≪混命之揺籠≫の残り時間は十秒を切っている。効果が切れれば破壊の嵐に巻き込まれ自分は確実に死ぬと分かっている。それでも止まらない、絶対に駆ける足だけは止めない。


(ルデオプルーチを倒し帰るまでだ。それまで意識さえあればいい。ここで気張らにゃどこで気張るんだよっ!!)


 レンジにとってルデオプルーチを倒して終わりではない。討伐してダンジョンから脱出。ファーチェスに戻り地球に帰還。愛子にエリクサーを届けて初めて成功なのだ。

 死線を超え、窮地に陥り、死の淵を彷徨い。それでも耐え切れたのは全て愛子を救うため。エリクサーの入手が出来た以上、ゴールは目前といえる。


「この戦いが終わったら何だろうが受け入れてやらぁっ!!」


 苦境だろうが絶望だろうが、絶対に死だけは選ばない。

 深層意識、半身との別れの際に伝えられた言葉。『お前(レンジ)が死ねば母さんは独りぼっちになるぞ』。その言葉だけは決して忘れていないからだ。


 破壊の嵐の威力が徐々に弱まり勢いが尻つぼみとなる中。ついに≪混命之揺籠≫のゲージバーがゼ消失した。


「ここまで来て足を止められるわきゃねーだろうがぁっ!!」


 ≪暴威暴食≫で身体ス(STR・AGI)テータス(・VIT)を加算。余計な回り道をせず、コアまで一直線の最短ルートを駆け抜ける。


 弱まりつつある破壊の嵐が全身を打ち据え激痛に苛まれるが、強化されたVITによって打ち据えられても辛うじて肉体は原形を保っている。


「我慢比べだぁっ!!」


 敢えて大声を出し痛みを緩和させ。急所、頭部・重要臓器を腕で覆い駆け抜ける。脚に痛打が入りバランスを崩して転倒しかけるが、超速再生で復元させるまでは手を使い。四つん這いで獣のように駆け抜ける。


 コアまでの距離が残り数メートルまで肉薄する。


 不安定な大地を踏みしめ空中に飛び上がる。同時に激竜剣を装備。コアに向かって大きく振りかぶり一気に振り下ろ‥‥…。


『そう来ると思っていたぞ』

 

 ‥…せなかった。


 コアが浮遊している周囲の大地から巨大な、三メートルはある砲身が飛び出してきたのだ。砲口はぴったりレンジに向けら先端は途轍もないエネルギーが凝縮され何時でも発射できそうだ。


『貴様なら勝利のため必ず身を削る選択を選ぶ。そう確信していた。だが、これで終わりだ。≪ポジトロンブラスター・フルバースト≫』


 ルデオプルーチの宿敵・ドレッドノートの最大武器。威力は強化され、さらに上回っている一撃が閃光となって発射される。

 いざという時のために闇に沈み込ませ隠していた虎の子。神代文明の兵器が完全に意表を突く形で必殺となり機能している。 


 空中、しかも剣を振りかぶった状態のレンジに躱す術はない。


 迫り来る光条を前にレンジは狂喜のあまり口が三日月の様に吊り上がった。


「そう来ると思ってたぜぇっ!」


 ≪瞬間装備≫でメインウェポンを交換。新たに顕れたソレは獣の骨と毛皮を張り付けた迫撃砲のような形状をしていた。その武器の銘は【吸呑砲 ベルベムラン】


「おらぁっ!!」


 間近まで、数秒後にレンジを貫く光条に向かって【吸呑砲 ベルベムラン】の獣のような砲口を突き出した。


「≪天呑≫」


 人間など抵抗さえ出来ずに、抗う事さえ出来ない必殺の閃光が【吸呑砲】の砲口に呑み込まれるように吸収されていく。


 だが‥…完全に呑み込めていない。頭部と武器を支える両手を庇う様に構えているせいで、呑み込めない余剰エネルギーはレンジの下半身を焼き、甚大なダメージを与えていく。砲の威力に押され吹き飛ばされない様に背中を中心に結界を展開。強制的に今の姿勢を維持する。


「≪限定昇華≫」


 自身が最も受けたダメージや属性に対して一時だけの完全な耐性を獲得する切り札を切る。幾分か継続ダメージは和らぐが、それでも完全には無くならない。

 ≪ポジトロンブラスター・フルバースト≫は雷と純粋エネルギーの複合技。レンジが完全耐性を得たのは雷属性に対してだけ。エネルギーに含まれる熱量がレンジを蝕み、身を焼いているのだ。


 あたかもルデオプルーチの執念の様に……。


 余りの痛みに意識さえ飛ばされそうになるが、下唇を噛み千切るようにして意識を保つ。それ以外にもコレが終わった後のため、手を打っていく。


「≪医食同源≫あと『高位聖水』『万能薬』ぅぅぅぅぅっ!!」


 脚が消し飛ばされると≪超速再生≫で再生。蝕む呪いと状態異常は『高位聖水』『万能薬』で治療していく。

 どれだけ放射が続いたか‥‥…時間にすれば一分足らず。だがレンジにとって永遠に等しく感じられた時間。徐々に光は細くなっていき、唐突にぷっつりと途切れた。


 レンジは【吸呑砲】の砲口をルデオプルーチに向ける。


 【吸呑砲】の後部が風船のように膨らみ、砲口からは、溜め込んだ中身を吐き出させろと言わんばかりに咆哮が鳴り響いている。


『グヌゥッ!! く、怨念が集まりが‥…間に合ってくれ』


 無防備になったルデオプルーチは、もう一度防壁を張ろうとするが。怨念がコアの亀裂から漏れてしまっている。

 発射直前に何とか発動できた骨の防壁は、紙ほどに薄っぺらい物でしかなかった。


「≪カタストロフィー≫≪吐獣呑天咆哮≫」


 風船のように膨らんだ砲後部が一気に収縮。凝縮したエネルギーが砲身に集まったのを確認してレンジはトリガーを押し込む。


 砲口から獣の絶叫のような方向が鳴り響き、凝縮したエネルギーが吐き出された。吐き出された光条、その威力は吸収したエネルギーを遥かに上回っている。


 一撃必殺。そう形容して相応しい威力を秘めた一撃は、骨の壁を容易く粉砕してコアを呑み込まんと吼え猛る。


 それはアクティブスキルの威力さえ十倍加する≪カタストロフィー≫の効果だけではない。


 それもそのはず。【吸呑砲】は相手の攻撃を吸収する防具ではない。その本質はあくまでも重火器、即ち武装である。

 生前のベルベムランはあらゆる属性を呑み込み、倍にして返す能力を持つ魔獣だった。回数制限こそあるが、その特性を純粋に受け継いだカウンター武装として生まれ変わった。


 今の【吸呑砲】から放たれている威力はルデオプルーチが必殺として放った威力の二十倍。


 【殲滅王】と【ユニークモンスター】。二つの力が融合し、神話級を追い詰めている。


 これまで常にルデオプルーチが圧倒的優位に傾いていた戦況の天秤は、レンジへと大きく傾いている。

 そんな事はとっくに理解しているルデオプルーチだが、譲れぬ意地が存在する。不利になったからといって簡単に諦められぬ矜持がある。


 その覚悟が折れそうになる心を繋ぎ止め、下火になった心を奮い立たせる。


 『舐めるでないわぁっー!!!』


 怨念を純粋なエネルギーに変換し、≪吐獣呑天咆哮≫を防ごうとする。だが既に限界を超えた出力の放出によってコアの亀裂がさらに広がり、亀裂が全体に走っている。

 

 ピキピキと更に亀裂が広がっていく不快な音が聞こえてくる。自分の生が尽きるのを実感する。


 ——それでも力の放出を止めない。


『どれだけ苦境でも諦めず意地を見せた男を前に、我が無様な姿を晒せんわっっっ!!』


 決死の覚悟により怨念の防壁が更に力強く、強固に張られる。レンジの必殺の一撃を防いでいる。


 ——だが勝敗は既に決している。亀裂は深く、深く、深刻なほど深く、コアの中心部まで達してしまった。


 自分はもう助からない。それでも抗うのは……。


 圧倒的な力の前に諦めるような無様な最期を好敵手に見せたくなかったからだ。


 砲から放たれるエネルギーが止み。コアは全壊寸前だったが、辛うじて原型を保っていた。


 視界さえ朧気になる中。ルデオプルーチの霞み始めた視界に、大剣を凪ぐように腰だめに構えたレンジの姿が映った。


 砲の一撃でルデオプルーチを倒せる。そんな甘い考えは微塵もない。鋭い眼光でコアを見据えているレンジの雄姿が鮮明に映しだされる。


(ククク、残心さえ忘れんか。それでいい)


 その姿を見て笑みさえ零れる。


「剣神の首を刎ねた俺の必殺をくれてやる」


 その一撃こそレンジの必殺。タイマンにおいて唯一剣神の首に刃を届かせた一撃。


「この一刀に断てぬ物無し」


 その技の名は‥‥…。


「≪王華・堕椿(おうか・おちつばき)≫」 


 全身の関節と筋肉を連動して放つ音速を超えた神速の抜刀技。その一閃が通る先。あらゆる物が断ち切られるのみ。


 余りに鋭利すぎる切り口。故に斬られた事さえ気付かせぬ。


『く、クハハハっ、見事だっ!! シレンっっっ!! 貴様が我が最後の敵でよかった。さらばだっ!!』


 その言葉と同時に、コアはスッパリと断ち切られ。


 二体のユニークモンスターの闘争から始まった永きに渡る死闘は、此処に終結した……。 

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[良い点] とうとう勝ちましたね あとは帰り・・・ [気になる点] 母第一というのに何度脇道にそれるのかとなる展開をやりすぎでは・・・
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