第252話 過去回想
○【天帝】シレン
意識が朦朧としているが、様々な映像が俺の頭上を取り巻くように映し出されている。断片的な物だが映像には覚えがあった。よく見なくても当然だな……なんせ当事者なんだし。
これは……昔の記憶だ。ひょっとして走馬灯って奴かね? その中の一つが俺の前まで来ると、拡大され俺の前に映し出された。
これは……美夜母さんが死んですぐ、俺が志波家に引き取られた時の記憶だな。愛子母さんが俺の手を引いて俺の自宅、当時は爺さん婆さんの家に向かっているところだろう。
ご丁寧にも映像には音声まで付いてやがる。無駄に芸が細かい。 場面も切り替わりこれから暮らす家に着いたようだ。
「今日からここがレンジの家になるわよ。よろしくねレンジ」
手を引いているガキ(俺)にそう伝えている母さんは、当たり前かもしれんが若い。
本人の前で言ったら「私は今でも若いわっ!!」ってビンタが飛んでくるんで口が裂けても言わんが‥…
やっぱりというべきか、二十年以上前だから家もまだけっこう新しいな。愛想のない生意気そうなガキ、俺が無表情で母さんに頷いてる。
「はい、よろしくお願いします。‥‥…愛子さん」
そういやこの頃は「愛子さん」って呼んでたんだよな。
俺の言葉に母さんは苦笑している。
「貴方は私達の子供になるんだから母さんって呼んでくれると嬉しいな。まぁ急には無理か。慣れたら私を母さんって呼んでね」
再度頷く子供の俺。それにしても愛想のないクソガキだぜ。血の繋がりのないガキを引き取って貰ったばかりかこれから世話になるんだ。もうちょい愛想よく出来んのかね? リップサービスでも母さんって呼んでやれよな、まったく。
不器用すぎるガキの自分に嘆息する。今の俺は偽りの笑顔で上っ面の演技や腹芸はお手のもんだってのに‥…若かったんだなぁ。
そこで記憶が途切れ視界が真っ暗になった。
ちょうど六歳くらいの時の俺だな。まだ倖月家の仕打ちで心を閉ざし、引き取ってくれた養父母や祖父母にさえ警戒していた。
今だからこそ客観的に見れる。よくこんな俺を引き取ってくれたもんだぜ。美夜母さんの兄貴だった親父はともかく。親父と結婚したとはいえ愛子母さんとは血の繋がりもなかったんだ。
俺だったら厄介ごとを背負い込む気にはならんのだが……口に出せないけどホント、ありがたいよな。
また場面が切り替わった。
親父や爺さんたちの顔を見るに引き取られて一年経った頃か?
親父たちと爺さんたちが夜中に話し合っている光景だ。‥‥…確かトイレに起きて偶然聞いちまったんだよな。
普段は穏やかな爺さんたちが厳しい顔をしている。
「巌、レンジのためにも早急に荷物をまとめてここを離れた方がいい。倖月は志波家と金輪際関わらないという約定を一方的に破棄する気じゃ。今はまだ軽い嫌がらせ程度で大人しいが、この先はもっとエスカレートしていくはず。本格的な嫌がらせを受ける前にここを離れるのじゃ。ここは郊外で、民家も少なく人目に付きにくい嫌がらせをするには最適じゃしな」
「誓約書まで交わしてるんです。訴えればどうにかなりませんか?」
親父はそう言ってるが、そんな事は不可能だと顔に書いてある。爺さんも直ぐに否定の言葉を口に出した。
「嫌がらせをしても倖月と後妻の実家である岩崎が手を組めば誤魔化せる」
そう、主導したのは岩崎だろうが、あのクソ女は倖月次期当主の正妻となっている。嫁だろうが倖月家の人間となった今、誓約書まで交わした約定を破棄するなど醜聞でしかない。知れば倖月家と組んで揉み消す決まってるんだ。
爺さんの言葉を聞いて親父が沈痛な表情を浮かべている。
「ですが‥…そうなると父さんたちに嫌がらせが集中しませんか?」
「構わん。元々儂らは半隠居状態だった。幸いにも老後に備えて蓄えはあるのでな。それに昔の友人にもパイプがある。いざとなればそちらに頼ってみるつもりじゃ」
親父は危惧していたが、爺さんたちは頑として譲らなかったんだよな。
後になって知ったが、当時営んでいた武術道場はデタラメな悪評を垂れ流され生徒がいなくなった。俺も素行に問題があるとかで武術大会に参加さえ出来なくされた。
他にも家の前にゴミを巻かれたりは日常茶飯事だった。俺に心配かけまいと朝早くに起きて掃除していたが、同じ家に住んでんだ。隠しきれるもんじゃねぇ。
きっとそれ以外にも嫌な事があったんだろう。
「契約にあったレンジの養育費さえ口座に振り込まれておらん。そうじゃな?」
爺さんの問いかけに親父は難しい顔をしながら肯定する。俺が成人するまで毎月俺の口座に金を振り込む約束も連中は破りやがったんだ。
「はい。念のために知り合いの弁護士に確認したのですが、相手が倖月・岩崎と聞き追い返されました。連中は様々な分野に食い込んでいるこの日本でも有数の名家です。約定を破るなら、こちらの動きを予測してないはずが無い。最悪、行政や司法でさえ手が回っている……騒ぎ立てても一般庶民では難癖をつけられて終わりでしょう」
「三権分立が聞いて呆れるな」
皮肉気な顔で吐き捨てるように爺さんが言ったが、親父も同様の顔だ。
「彼らも職を離れれば一市民です。忖度せずに判断をしろと云う方が難しい」
業腹だが親父の言ってるのは正論だ。法も人が介入する以上、感情を一切挟まない方が難しい。感情や忖度が絡めば法なんてのは所詮は建前でしかねぇ。
親父の言葉を聞いて爺さんも諦めた様に頷いた。
チラッと聞いただけだが、爺さんは若い頃から軍部の研究者だったらしい。それも下っ端じゃなく、そこそこの権限を持った。外部との折衝なんかでそういった裏のルールは熟知してるんだろう。
ちっぽけな庶民の肩を持つより、カネと権力持った方に与するのは俺でさえ当然と思う。もし俺が逆の立場、司法や行政の側だったら倖月に付くだろうしな。
自らの判断によって火の粉が降りかかってくるかもしれないなら。長い物には巻かれよって判断を否定できん……当事者だったからそういった日和った判断は死ぬほどムカつくけど。
東京クエストの際にあの屑から聞き出して詳細を知っている今だから言えるが、この一幕を見るだけであの屑に名家の当主夫人の資質は無い。
アレを奪われた恨みがあるのは分かるが、美夜母さんを殺し後釜に収まったなら恨みに蓋をするべきだ。
確かに金と権力で法を捻じ曲げるのは可能だ。WWⅢ以降、この国の政治家たちは、大きな力を持つ大企業や名門に配慮してきた。だからそういった風潮が未だに強いのは仕方ない側面もある。
だからといって、何をやってもいい訳じゃねぇ。契約書まで交わした約束を破るなど公にバレた際のリスクを考えれば正気じゃねぇ。
倖月当主の正妻と名乗りたければ、自分の感情より家の利益を優先させるべき。感情を押さえられず追放した前妻のガキに嫌がらせするなど見苦しいにもほどがある。
俺からすりゃそれに関わり止めもしない者、黙認した者も同罪だぜ。
当時はガキだった俺に全てを理解していた訳じゃない。だが俺が役人や政治家を嫌い、正義って言葉を信じなくなったのはこの日からかもしれない。正義なんてのは人によって変わるんだと漠然と考えたからだろう。
少しの沈黙が葉を包んだが、爺さんが口火を切った。
爺さんは厳しい顔になると、親父に向き直った。
「巌、レンジに武術を叩き込め。それと我が家の家伝の技術と知識もだ」
「父さん、まさかあの時代遅れの鍛錬をレンジに課すつもりですか? 我が家の武術は俺で終わりと言ったじゃないですか?」
「そうじゃ」
親父が驚愕するのも無理はない。
俺はこれまでも親父から武術を習っていたが、それはあくまで護身術レベル。対して志波家家伝の武術は時代錯誤な暗殺技術。電子機器が発達した現代で役に立つの?って技術も多い。修得するための修練の厳しさは大人でも逃げだすほど。それを子供に課すなど児童虐待レベルと言っても過言じゃない。
「お前の考えも理解できる。儂とてレンジにあのような修行を課す気は無かった。レンジには普通の子供として、穏やかに成長させたかった。しかし倖月家は追放してまでレンジに敵意を向けてる。状況は変わったのだ」
「だからといって」
なおも言い募ろうとする親父を遮って爺さんは更に言葉を発した。
「儂もお前も、どんな状況でも生きていけると思えるのは自信があるからじゃ。儂らがいる内ならレンジを守ってやれる。だが儂とていつまでも生きれる訳では無い。お前とてそうじゃ。人の生などいつ終わるか分からんが、親は子より早く死ぬのが常。儂らがいなくなったら誰がレンジを守るんじゃ?」
「それは……」
「何が有っても生きていける力と自信。それには肉体的な強さでは無く心の強さがいる。あの修練は時代遅れだが強靭な精神力を養うにはうってつけと言える」
親父は苦渋の表情だ。納得は出来ない、だが反論も出来ないといった感じだ。無理もないあの修業の過酷さを知る者なら子供に課したいと思えない。
「レンジのためを思うなら巌よ、心を鬼にしろっ!! 指導する者が中途半端な覚悟であの修業は成し遂げれぬ。お前が覚悟を決められぬなら儂が鬼となろう。それでレンジが儂を憎もうと、レンジが生きる力を得るためなら安いモンじゃっ!! 喜んで憎まれよう」
決断できぬ息子に業を煮やしたのか、爺さんが老人と思えぬ鬼のような形相で殺気を纏い一喝する。
親父は暫し瞑目していたが、決意したように口を開いた。
「‥‥…分かりました。あの子を引き取る時、覚悟を決めたつもりでしたが……甘かったようですね。その役目は俺が引き受けます……あの子の父として」
「嫌な役を押し付けてしまうな」
申し訳なさそうな爺さんと、泣き出しそうな婆さんに親父は笑って首を振る。
「父さんたちはレンジの心の支えになって下さい。拠り所無しでは幼い心など簡単に折れますからね。俺も父さんの扱きに耐えかね、泣きながら何度も爺さんたちの所に逃げましたからね」
「ふん、それはお前が軟弱なんじゃ。儂は一度も逃げ出さなかったんじゃぞ?」
揶揄い混じりにジトっとした目を向ける親父を爺さんは鼻で嗤い飛ばす。だがこれまで一言も口を出さなかった婆さんが爺さんに追撃を掛けるべく参戦した。
「あら? お祖父さん、痴呆ですか? お義理父さんやお義理母さんから、修行が嫌で何度も逃げ出したと聞いたような覚えがありますが?」
婆さんからジト目を向けられ、爺さんはどことなく気まずそうだ。
「コホン、そのような事もあった様な気がするが……年のせいか記憶が曖昧じゃな」
爺さんは明後日の方向に顔を向けてならない口笛を吹き誤魔化そうとしている。親父からの視線も素知らぬふりを決め込んでやがる。
俺がたまにやるソッポを向いて口笛を吹きながら誤魔化す仕草は爺さん譲りだな。
緊迫していた場が凄しだけ和むが、まだ話は終わっていない。爺さんはパンパンと柏手を打ち、場の空気を真剣なものに戻すと愛子母さんに顔を向けた。
「愛子さんや……今ならばまだ逃げられる。巌とも話したが、離縁さえすれば倖月も愛子さんには手出しすまい。愛子さんはまだ若い。幾らでもやり直しができる。志波家と倖月家の諍いに無理して付きあう必要は無い」
親父も悲しげだが真剣な顔で頷く。爺さんたちは正しい。
連中、というよりあの屑の狙いは俺を嬲り苦しめる事だ。離縁すれば追いかけてまで嫌がらせはしない。
「お義父さん、何を言われてるんです? 私はこんな日が来るのは分かっていました。最後まで志波家に人間としてお付き合いします」
母さんは笑ってゆっくりと首を横に振った。爺さんは悲しげな顔だったが覚悟を問う様に言葉を重ねた。
「儂らにはレンジを守る責任がある。儂が不甲斐ないばかりに、美夜を倖月家の生贄に捧げてしまったようなもんじゃからな」
懺悔のような言葉だった。親父も悔しそうに歯を食いしばり、婆さんに至っては涙を溢している。
「今だから言うが、儂は倖月などに娘を嫁がせたくなかった。普通の家庭で育ったあの子に魑魅魍魎蔓延る名家の、当主の正妻など心を傷つけるだけと考えたからじゃ……」
そう言ってうな垂れる爺さん。言葉と態度の端々に後悔がにじみ出てるな。
俯いてしまい言葉を紡げない爺さんに代わり親父が口を開く。
「だが倖月家次期当主の宗一郎が美夜を強く求めていた……異常なほどにな。わが家への圧力は日を追うごとに増していった。愛子も知っているだろうが、当時の美夜には真剣な交際をしていた人がいた。だが交際相手の親御さんが会社を追われた事を切っ掛けに疎遠になった」
「ええ、美夜は詳しく話さなかったけど……私も自分なりに調べてみた。きっと倖月家、というよりあの陰険が手を回したんでしょうね」
アレを思い出したのか、母さんの顔には凄まじい嫌悪感が浮かんでいる。爺さんはソレには触れず、自分が溜め込んでいた感情を吐き出し始めた。
「そして今回の再婚からレンジ追放までの一連の流れ。岩崎家の動きを見るに早すぎる。まるで美夜が死ぬのが分かっていたようじゃ」
後妻として七海が収まるまでの流れはアレの幼馴染ってのを引いてもスムーズ過ぎる。倖月内部、それも幹部クラスと取引があったと見るべきだろう。恐らく美夜母さんを見下してたアレの兄弟連中だろうがね。
「追放したといえど、レンジが倖月本家の血を引いているのは紛れもない事実。後妻の息子を当主にしたい連中にとってはどれだけ牙を抜こうと目障りな存在であるのは変らん」
「ええ、一般人の私には理解したくはありませんが、何となく想像だけは出来ます」
母さんも悲しそうな顔で相槌を打っている。
この時の、こっそり聞いていたガキの俺には理解できなかった。だが今なら多少の理解が出来る。
倖月の血など俺にとっては恥でしかない。だが俺はそう思っても他がそう思う訳じゃない。それに世の中何が起きるかは分からないのだ。
後妻との間に生まれた子供に何かあれば、最低限度の能力が無ければ、現在の倖月に不満を持つものが俺を担ぎ出す可能性も極小だがあるにはある。
現主流の人間にとって俺が当主、もしくは近しい地位になれば俺の追放に携わった奴らは栄華から転げ落ちる。ゼロに近い可能性でも完全なゼロになる事は無い。
それが怖いんだろうな……自分たちの仕打ちを知っているが故に俺が倖月を恨んでいるのは理解してるだろうからな。
そういった疑心暗鬼に囚われたクズにとって誓約だの約束だのは意味をなさない。俺という倖月本家当主筋の血を引いた子供など目障りでしかない。
本音としては俺を始末したいんだろう。だがそれは出来ない。力があっても殺人となれば揉み消すにも限度がある。
嫌がらせに留めているのも俺を殺したら、自分たちが真っ先に疑われるだろうから。
俺を殺したい、でもバレて自分たちが被害を受けるのは耐えられない。でも存在自体が目障りで腹が立つ。じゃあ公にならない程度に苦しめよう。そんなところだろう。
ムカつく話だが、嫌がらせ程度なら自分たちの権勢で幾らでも揉み消せると考えているからだろうよ。
———直接迷惑をこうむる俺にも志波家にも迷惑極まりないがね。選ばれた者を気取った屑共の考えなど理解したくもないし、するつもりさえない。
内ゲバならテメーらで勝手にやってろっ、てのが俺の偽らざる本音。それ以前に仕返しを恐れるぐらいなら最初っから恨まれる真似をすんなってとこだ。
屑に権力を握らせると碌な事にならんって一つの見本だろう。
「志波家への嫌がらせ染みた行為がどれだけ続くか見当もつかん。下手をすれば一生続くかもしれん。辛く厳しい生活じゃ……愛子さんにその覚悟があるかね?」
厳しい顔の爺さん。まるで恫喝するようだが、母さんのためを思っての言葉なのは明らかだ。
『血の繋がらぬ養子のために愛子さんが犠牲になりそんな生活をする義理は無い』。義理の娘、息子の嫁の今後を思っての言葉だ。
母さんも分かっているのか。そんな言葉にも怯まず、母さんは決意を決めた表情で揺ぎ無く言った。
「美夜は私の親友です。巌さんと結ばれ志波家の一員になれたのも美夜のおかげです。そんな美夜に私はレンジを託され、私は応じました。何が有ろうと美夜との約束を破るつもりはありません。どのような苦労であろうと喜んで受け入れます」
その表情は穏やかだが、何が有ろうと決して譲らぬ意思、覚悟があった。
「私の家族は志波家、お義父さんたちだけです。ここを出ても私は独りです。この家の温かい生活を捨て、今更そんな生活に戻りたくありません」
これもチラッと聞いただけだが、母さんの両親は随分前に亡くなったらしい。
母さんは「それに‥‥」と続ける。
「まだぎこちないですが、レンジが私を『か、母さん』と呼んでくれるようになりました。私の心はレンジを息子と信じています。たとえ血の繋がりが無くともレンジは私の息子。我が身可愛さに息子を捨てるような自分になりたくありません。あの子が成人するまで何があっても守ってみせます」
親父と爺さんは母さんの覚悟を感じ取ったのかただ黙って頭を下げ。婆さんは何も言わなかったが平然としている訳じゃない。俯いた顔から雫が滴り落ちている。
そうだ‥…俺はこの時、母さんたちの言葉と息子を守る母の表情を見たとき決めたんだ。
『何が有ろうとこの人たちを守る、恩返しをしてみせる』‥‥…と。
映像は途切れ様々な映像、俺の思い出が次々と映しだされていく。
俺が中学校に入学した映像。そして高校、大学と進んでいく。
爺さん、婆さんの葬式の映像。‥‥…そして親父の葬式。どれも俺たちと社長一家——白崎家しか参列者がいない淋しい葬儀だった。
俺のせいだ。俺を引き取るに当たり爺さんたちは親戚と縁を切った。倖月の怒りに触れるのを恐れ俺を引き取るのに猛烈な反対をしたから‥‥…。同様の理由で親父たちの友人も社長たち以外離れて行ったようだ。
これも全て俺という疫病神を引き取ったから・・・・・・・。
無数にあった映像は全て消失し、真っ暗闇の世界には俺独りになる。闇の中に寝転び、思考の渦に飛び込む。
あの人たちは俺によって人生を狂わされた。それを理解していたから何が何でも守りたかったが、叶わなかった。
これも俺に力が無かったせいだ。ちっぽけな俺の力じゃ金にも権力にも抗えないのを思い知らされた。
自分を誤魔化し、偽り、虚構の世界で好き勝手振る舞い憂さ晴らし。そうしている間に母さんは体調を崩してしまう。
気付けばゲームのようなシステムに世界が変貌してしまい。母さんは訳の分からない病に侵され生死の境を彷徨っている。
爺さんの、婆さんの、親父の、母さんの顔が浮かんでは消えていく。
引き取られてからの俺の人生にはこの人たちの厳しくも暖かい愛情があった。
絶対に恩返しをすると誓った人たちは‥…もう一人しかいない。そして今も死の淵に立たされている。助けられるのは‥‥…。
俺しかいないっ!! 俺は自分にした誓いさえ守れていない。それだけは絶対に守らないといけないんだっ!!
神になど祈らない。俺が頼むとしたら‥‥…神でも奇跡でもない、俺だけだっ!!
俺の全てをくれてやる。力を‥‥…寄こせっ!!!!!!!




