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第246話 求めるは救済、賭けるは我が命⑫


 〇~ある竜について~


 『骸竜』という竜種に分類される個体が存在する。屈強な肉体を持つ竜種の中にあって、他者の死体を貪り。死骸を繋ぎ合わせハリボテの肉体を形成。そうして作り出したハリボテの肉体を内部から操る事を得手とする。小さなトカゲのような竜種である。


 


 ルデオプルーチがそんなチッポケな『骸竜』として生まれ落ちたのは二千年近く前。人類史に語られない、語る事を許されない大戦が終結し、僅かに生き残った人間種が地に潜っていた時代だった。


 当時は第一計画に続き第二計画も望む結果を得られぬまま、第三計画に移行する最中であった。彼の者たちは見切りを付けたセカイを利用する為、システムの抜本的な見直しを行っていた。その影響下にあった大陸は従来の環境を一変、激変させていた。


 地球で例えるなら生物の大量死滅、絶滅が起こった氷河期のような時代と表現できる。改変に伴う超異常気象。現在とは比較にならぬ超濃度の魔力が大気に含まれ、既存の生態系にも多大な影響を齎した。


 その環境に適応できぬ生物は次々と衰退、滅んでいく中にあって異常な環境に適応した、してしまった屈強な個体。既存の生態系を根底から覆す個体も多数誕生した。


 彼の者たちはそういった存在を『バランスブレイカー』と呼称した。


 そんな中にあって当時は名も無き『骸竜』。後に【骸竜王 ルデオプルーチ】と呼ばれる個体は、強者との争いに敗れ残された敗者の死骸を貪り、時に内部から操り生を繋いでいった。


 適応できぬ生物には地獄でも、『骸竜』にとって到底討伐出来ぬ強者の骸がそこらかしこに転がっているのは幸運だったといえる。


 自分より遥かに強者が野に死骸を晒す中、『骸竜』は昇華し【骸竜王】と呼ばれる強者へと昇華した。そうなれたのは強かったからではない。弱かったからに他ならない。



 既存の生態系の強者たちが変化に気付かず『バランスブレイカー』に挑み、滅ばされていく中にあって【骸竜王】はそんな強者たち。『バランスブレイカー』に挑もうという気概は一切湧かず、小さく目立たぬようひっそりと生活していた。


 運悪く遭遇し望まずして戦わねばならぬ場合もあったが、ハリボテの肉体を囮にして本体は形振り構わず逃走を選ぶ事で生き永らえた。


 【骸竜王】からすれば『バランスブレイカー』に挑もうなど自殺行為だった。それは正しく、嘗てのセカイで圧倒的な力を誇る強者たちが何柱も『バランスブレイカー』に挑んだ。結果は言うに及ばず、成す術もなく一方的に蹂躙され滅ぼさるだけで終わる。


 敗れた彼等は強者であったが故に。自分の力に絶対の自信を持っていたが故に、セカイの変化――環境の変化に適応できなかったのだ。


 そんな絶対者の様に思われた『バランスブレイカー』でさえ【デリーター】や【バランサー】に従うか滅ばされていく選択を迫られほとんど滅びていく中。脆弱であったが故に目を付けられる事さえ無かった竜は、このセカイの真理と自らのスタンスを決めた。







 ◆



(よく持つものだ。我との力量差は理解しているはずだろうに……未だに心が折れておらん)


 ルデオプルーチ自身が繰り出す猛攻を必死で耐えている人間に対し、感嘆に近い感情を抱いていた。


 そう感じる理由は眼前にいる人間の……。絶望的な状況にありながら必死で喰らい付き、勝機を見出さんと奮戦している姿にこそあった。


(大したものだ……)


 そう評する気持ちに一切の忖度は無い。


 討伐された後。ユニーク素材として排出され死皇帝に使役されていた期間も含めれば、ルデオプルーチは二千年近い戦歴を誇る。故に劣勢の中で戦意を保つのがどれだけ難しいか知っている。


 普通はこれだけ防戦に追い込まれ、窮地に立たされれば心が折れる。先の見えない戦いは神経をすり減らし、摩耗させ容易に心をへし折ると知っている。


 だがシレンと名乗った男の心は全く折れておらず、依然として厳しい戦況に晒されながらもその目が宿す戦意に一切の陰りが見えない。


 それどころか隙あらば自身の喉元に食らい付かんと好機を窺っている。目の奥に宿す光が『絶対にお前を倒す』……と雄弁に告げている事をルデオプルーチは正確に読み取っていた。


(どれだけ力の差があろうが、絶望的であろうとも、貴様は諦めぬのだなぁ)


 力量差は明白。レンジが勝利を掴むには、小数点の彼方よりか細い可能性を手繰り寄せるしかない。それは僅かな失敗さえ許されぬ綱渡りの連続。一つしか正解のない罠だらけの迷路を初見でクリアするようなもの。


 闇雲に突っ込んでくるならただの蛮勇でしかない。だがレンジはそれがどれだけ厳しく無謀な道か承知している。それでなお諦めていないのが分かるが故にルデオプルーチは感嘆の念を抱いた。


 レンジの行動は見る者によっては愚かで無謀かもしれない。実力差を弁えず、どうせ死ぬならサッサと諦めた方が楽なのに。そう思う者もいるだろう。


 しかし、ルデオプルーチにとっては違う。彼にはレンジの行動が眩しく映っている……その輝きを妬ましく、嫉妬してしまうほどに見惚れていた。


(あの男の目は未だに勝利を諦めていない。あの目の光は何かを守る者が宿す光。あの小僧には何が何でも守りたい大切な存在が居るようだ……羨ましいな)


 懸命に抗うレンジの姿に苦笑する。それはレンジを嗤った物では無い。『既に何も持たぬ自分と違う』と否が応でも理解させられてしまった自分を嘲笑う行為だ。


 守るべき存在があるのは場合によって弱点となる。しかし、守るべき存在が居るからこその強さという物をルデオプルーチはよく知っていた。


 ルデオプルーチの生前。死皇帝に討伐されるまで、人間・魔物を含めればルデオプルーチを討伐に来た者たちは数え切れぬほど無数にいた。


 大半はルデオプルーチの力の前に膝を折ったが、手古摺らせ喉元まで刃を突きつけた者たちも少数ながらいたのだ。そういった輩は決まってレンジと同じような覚悟と意思を瞳に宿していた。


 彼らは事切れるまでルデオプルーチを倒すのを諦めなかった‥‥…そんな輩が鬱陶しくもあったが、ルデオプルーチはそれ以上に羨ましく、妬ましい感情を敗れていった者たちに抱いていた。


 何故自分に負けた弱者にそんな感情を抱くのか? それが如何してかもルデオプルーチは理解していた。


 彼等のどんな状況でも諦めぬ姿は、どんな事態になろうとも自らの意思で行動しない。流されるままであった虚ろなる自分が、なんと卑小であるかを強制的に理解させられるから。


 守るべき物、望みさえ持たず、時代に流されるまま弱者から強者となり。自分を遙かに超えた圧倒的な力を持つ【冥龍王】に臣従を誓い。自らの主と定めた。


 それも弱肉強食の掟、『弱者は強者の都合の中でしか生きられない』という自らの価値観に従っただけ。それなりの忠誠心も持っていたが、極論からすれば生きるためでしかない。


 それが自分だけなら、圧倒的な力の前に屈したのが自分だけなら慰めになったかもしれない。だが……そうではなかった。


 【冥龍王】には他にも【竜王】クラスの配下が何匹もいた。彼等は【冥龍王】の力に魅せられ、心からの忠誠を誓っているように見えた。


 【冥龍王】のためなら命さえ惜しまぬ屈強な肉体を持つ猛者たち……見せかけのハリボテに脆弱な身を隠す自分とは明らかに違っていると感じ取っていた。


 そんな圧倒的な力を有していた【冥龍王】もより強い【ジャッジ】の誓約を受け入れ……配下であった側近クラスの【竜王】たちに言伝を残しセカイから姿を消した。


 主を失った同胞たちは散り散りになり、その後はどうしているかさえ分からない。


 再び独りになった時、ふと気付く。『我は生において、自らが強く望み、決意した事が何一つとして無い』・・・・・と。


 湧き上がってくる自己嫌悪。そんな自らに嫌気がさし誰とも関わらぬ様に人が立ち寄らぬ辺境へと移り住んだ。


 その後は『主の命を果たす』という尤もらしい言葉で自分の感情を誤魔化し、死皇帝に討伐されるまで惰性のように生きてきた。


 討伐されてからは死皇帝の走狗となり、自我さえ持たず暴れるだけの存在になり果てる。そして何の因果か再びユニークモンスターとなり、これまた惰性の様に走狗であった頃の宿敵、ドレッドノートと数百年を戦い。自分の力以外の人間の介入により、あれよあれよと数百年の死闘は幕を引いた。


 その結果どのような力が働いたのか、【死山骨龍】と呼ばれていた時にあった思考に霞でも覆っているような感覚は消え去り。【骸竜王】と呼ばれていた頃の意識、再び自我が戻っていた。


 【伝説級】中位クラスの力を持っていた【骸竜王】と呼ばれた頃より遥かに強い能力を得ながら。それでいながら何も持たず、何一つ叶えたい望みさえない虚ろなままであった頃の自らの自我が‥‥…。


 そもそも【骸竜王】と呼ばれていた頃の彼なら、誰かと戦いたいなど願わない。身体の構成中にレンジに攻撃などせず、レンジの事も見逃していたはずだ。


 どうしてそのような真似をしたか、当事者であるルデオプルーチでさえその時点では言葉で説明できなかっただろう。


 だがシレンと名乗った人間と戦う内に、何故自分があの人間に興味を抱いたのかも悟ってしまった。それは無意識のうちに、自分と似た匂いを感じ取ったからだろう。


 ルデオプルーチとレンジ。経緯は全く異なれど、共に大きな流れ。時代の変革期に決して抗えぬ流れに呑み込まれたという共通点がある。


 だが闘争の途中だが、自分と似ているが決定的に違う部分があると察してしまった。


 自分がレンジの立場であればとうに諦めている。短時間の攻防だが実力の差は明白。勝機はゼロに等しい。だがそんな中であってもレンジは諦めていない。宿す眼の光を見ればそれが分かる。分かってしまう。


 それは両者の決して埋められぬ差。惰性でただ流されるがままだった者と、自らの意思で困難を承知で巨大な流れに飛び込んだ者の差。


 レンジの決して諦めぬ不屈の意思を前に、そんな無様な自分との差を見せつけられているようで……‥何もしない自分がただひたすら滑稽に思えてきたのだ。


 レンジの宿す意志の強さ。それ即ち守るべき物の尊さ。大切な物のために命さえ掛けられるレンジに嫉妬し、同時に羨んでしまったのだ。

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