第244話 求めるは救済、賭けるは我が命⑩
『では始めようかぁっ!! ≪スカルソルジャー・ブリゲイド・クリエイション≫。≪暗黒儀式≫≪グレーターアンデット・クリエイション≫』
その言葉と同時に地面が盛り上がり、数百規模の骸骨兵士が顕れる。骸骨兵はそれぞれ粗末な武器を持ち、秩序だって隊列を組む。
だが数が多くとも、所詮はランク2のスケルトン。レンジの敵では無い。
「ザケンなっ! 雑魚をどんだけ生もうが俺の敵じゃねぇ≪グランドバースト≫」
言葉と同時に地表が不規則に弾け飛ぶ。不規則に弾け飛ぶ地表は瞬く間に骸骨兵の隊列へと迫り、数百の骸骨兵をまとめて吹き飛ばす。その衝撃により脆い骨でしかない骸骨兵が砕け散っていく。
だが……砕け散る骸骨兵に隠れるように迫りくる存在をレンジは感知して居た。
その存在、重装甲の鎧を着こんだ骸骨。『デスナイト・ジェネラル』は不安定な足場を踊るように駆け抜け、砕ける骸骨兵を左手に持つ大盾で払いのけつつレンジへと肉薄する。
『≪ダークネスブリンガー≫』
スキル発動により、デスナイトが手にする大剣が闇を纏う。闇のオーラを纏った刃は数メートルにも及ぶ。
レンジは敵の行動に驚かず、冷静に対処すべく激竜剣により斬り結ぶ。
激竜剣は纏う属性を切り替える事が出来る。アンデッドと判断したレンジは炎属性を纏わせている為、赤い炎と黒の闇が火花を散らす。
斬り結んでいてもレンジは相手、目の前にいる骸骨騎士を観察する。
(そこそこ強いが、それでもSTRは一万弱。ほんの様子見ってとこか? 殺す気なら骨槍で牽制を入れるだろうしな)
レンジがチラリと見ても、ルデオプルーチは微動だにしない。その眼窩に宿る灯はジッとレンジを見据えている。
この骸骨騎士はレンジの力量を測るための駒でしかないのだろう。要するに完全に舐められているのだ。
ルデオプルーチの態度はレンジにとっても腹立たしい。だがそれが相手との間にある力量の差、実力の差と理解している。
だが……決して愉快ではない。
「さて、終わらせるかね」
闇のオーラで強化されているのか、大剣は激竜剣と斬り結んでも押し負けない。だが名剣と数打ちの差は大きいのか、徐々に闇のオーラが削れるように小さくなっていくのが見て取れる。
鍔迫り合いの体勢から、脚で相手の柄を蹴り上げ体勢を崩す。デスナイトは咄嗟に大盾を掲げるが、『千腕之鬼神』の散弾を防ぐには硬度が足りず盾は穴だらけになる。
『ガァッ!!』
衝撃が走り、デスナイトは苦悶の声を上げる。貫通した弾丸が、そのまま頭部と胸部に無数の風穴を空けたのだ。
剣を無くし、明らかに動きが鈍った好機を見逃すレンジではない。激竜剣を地面に突き刺し、拳を胸部へと叩き込む。
吸い込まれるように拳は左胸、心臓付近にある赤いコアに向かっていく。鎧を食い破り、骨を砕き、コアを一撃で粉砕した。
コアを破壊されデスナイトは存在を維持できなくなったのか、砂の様に崩れ落ちてしまう。
それに構わず、レンジはルデオプルーチへと向き直り低い声で問いかける。
「流石に舐めすぎだろ?」
地面に刺した激竜剣を抜き、ルデオプルーチに切っ先を向ける。その瞳に宿る物騒な光は「俺を舐めてんのか?」と言葉より雄弁に語っていた。それに対してルデオプルーチ軽く首を垂れ謝意を示す。
『侮られたように感じたなら謝罪しよう。だがこの戦術は生前の我、まだ【骸龍王】と呼ばれていた頃の基本戦術よ‥‥矮小な身であったが故に先のような搦手に頼るしかなかったのだ』
「アンタが矮小? 冗談だろ?」
思わぬ言葉にレンジは素で驚いている。無意識のうちに聞き返すほどに……。
『本当だとも、当時の我は一メートルにも満たぬ小さな蜥蜴に過ぎなかった。死骸を繋ぎ合わせたハリボテの巨躯の中に卑小な身を隠していたのだ』
現在のルデオプルーチは五メートルほど。【伝説級】であった時よりも体躯こそ小さくなっている。それは縮んだのではなく、圧縮しているとレンジは理解していた。
巨躯は利点もあるが欠点もある。ステータスの数値が大きなウエイトを占めるシステムにおいて、巨大と強さは決してイコールでは無い。
(図体がデカいと攻撃範囲こそ有利だが、小回りが利かず的が大きいという弱点もある。ジョブや種族次第で小兵の方が強い場合もあるしな……でも矮小ってのは謙遜だろ?)
首を捻っているレンジの疑問を察したのか、ルデオプルーチは懐かし気に語り出す。遠くを見上げるように首を天に向けたのは、当時を思い返しているからだろう。
『我が生まれたのは二千年近く前‥‥…あの大戦が終結した後だった。あの頃の人間種共は地に潜り、地上は第三計画のため根本から改変されていたのだ。故にセカイの環境は破壊され、従来の秩序は根こそぎ覆された。セカイは狂いに狂い、超強力な異常個体。バランスブレイカーが多数生まれていたのだ‥‥…雲を突き抜け天に届く巨神。大地を喰らう無限の蛇。異次元を繋ぐ門。大都市さえも背負う怪蟲。といった怪物中の怪物に比べれば我など卑小な小物でしかなかった』
「アンタが怪物って言うくらいだから、相当ヤバいのだけは分かった。でもそんな化け物の話しは聞いた事さえ無いんだが?」
レンジの疑問は当然だ。それだけの怪物なら話や伝承に残っているはずだが、少なくともレンジは聞いた記憶が無い。
レンジの疑問にルデオプルーチは苦笑するように低く唸る。
『連中からすればバランスブレイカー共はイレギュラーに過ぎん。管理不能な危険分子は選別に掛けられたのだ。【ジャッジ】より明かに危険すぎるモノ。制御困難と判断されたモノ。危険値こそ低いが誓約を受け入れなかったモノは【バランサー】や【デリーター】に滅ぼされたらしい。我は弱かったが故、連中に目を付けられなかった……。この話しの大半は【冥龍王】陛下より伝え聞いたので、我が直接得た情報では無い。これより突っ込んだ内容を聞かれても困るぞ』
気になる単語の連続だったので、レンジはこのセカイの謎が解けると期待したが、機先を制されてしまう。
「じゃあ最後に、七大竜王ってのはどこにいるんだ? やっぱり禁足地か?」
『どこにお隠れになられたかは、我にも分からぬ。もうこの大陸に居ないのは確かだろう』
「そう思う理由を聞いても?」
『その前に七大竜王様がお隠れになった経緯を説明せねばならんな。先の【ジャッジ】に七大竜王様方は目を付けられたのだ。配下である我らは徹底抗戦を訴えたが、七大竜王様による竜種の最高意思決定会議〖賢龍会議〗で誓約を受け入れる方針が可決された。唯一反対された【邪龍王】様と血の気の多い竜たちが【デリーター】に立ち向かったが……』
そこで一旦言葉を濁すが、レンジが引き継いだ。
「手も足も出ずに完敗って訳だな?」
遠慮のないレンジの言葉に不快感を表しもせず、重々しく肯定した。
『そうだ。七大竜王最強格と謳われた【邪龍王】様が成す術もなく消滅し、付き従った【竜王】、最上位竜も同じ定めを辿った。余りにも一方的で凄惨な光景に不満を抱いていた竜たちも心が折れてしまったのだ……恥ずかしながら我もな‥‥…』
その時の光景がよほど恐ろしかったのか、ルデオプルーチが【デリーター】を語る口調には恐怖が篭っている。耳を澄ませば骨体もカタカタと震えているようだ。恐怖を振り払うように頭骨を軽く振り続きを話しだす。
『話を戻すぞ? 七大竜王様は【バランサー】の調停を受け入れ、お隠れになられた。「来る時が来れば条件付きで解放する」と彼奴は言い残していったが‥‥…我は永きに渡り世俗を切り離され意識さえ無かった故に世情を知らぬ。大陸で七大竜王様の御名を聞いた事があるか?』
「ない……知り合いの鍛冶師に真龍がどうのこうの言っていたような気がするが。それは御伽噺らしい。少なくとも俺が知る限り、数百年単位で目撃情報は無いはずだ」
ウルドの店でのトラブルの際、ウルドが引き合いに出していた御伽噺をレンジは薄っすらとだが憶えていたが、所詮はうろ覚え。明確な情報など知る由もない。
レンジの言葉を聞いてもルデオプルーチは平然としている。
『ならば未だにお隠れになられているのだろう。あの方々が顕現されればセカイに影響が出るはずだからな』
そんな怪物が出現すれば確実にギルドに情報が寄せられる。情報が無いのはこのセカイに存在しないからと言い換えられる。
『さて……我が付き合える時間はもう少しだけ……最後に我が秘奥を見せてやろう』
「へ? アンタはピンピンしてるじゃんか? あと少しもクソもなく、アンタが圧倒的に有利だろ?」
これまでの攻防は圧倒的にレンジが押し負けている。素っ頓狂でトチ狂った事を言い出したルデオプルーチに即ツッコムが、骨の龍は厳粛な雰囲気を崩さない。
『ククク。どうやら今の時代、ランクアップの際に【神話級】からは制約を掛けられるようだ。具体的には『今居る領域から外に出るな』・『領域に入った者以外を殺傷するな』といった所か。受け入れねば自我を消すという脅しと共にな。……我が消えるのも時間の問題だ』
「まさか……制約を受け入れなかったのか? そこまで無茶苦茶なもんじゃないだろ? つーか、何でそんな制約を課せるんだ?」
『先に後の質問に答えてやろう。我の想像でしかないが、強大な力を得た魔物がセカイを滅ぼさぬための措置だろう。本来ならその様な事をする必要は無かったはず……あの大戦によって人間種の力は大きく削がれ、数多の技術が失伝してしまった。弱者になり果てた人間種が滅びぬよう急遽取られた方策だろうなぁ……このセカイも、幾つもあった今は無きセカイも所詮は盤上の駒。第三計画のための道具に過ぎんのか? 彼奴等に利用され尽くすだけなのがどこまで行っても憐れだ』
その声はどこか悲しげであった。このセカイの命を儚み、憐れんでいるような口振りだ。
「訳の分んねぇこと言ってないで質問に答えろよ? 何で制約を受け入れなかったんだ?」
制約の内容を聞くにレンジ的にはウザったくもあるが、滅茶苦茶というほどでもない。自我を失うなど死んだも同じ。業腹だが受け入れた方が得という思いが強い。
『ククク、随分と詰まらん事を聞く。先も言ったはず、我にとってこの時間は奇跡だと。我は死皇帝によりとうの昔に滅んでいる。今こうして自我が戻ったのさえ奇跡といっていい。我にとってこの時間は既に余禄なのだよ』
「この時間さえおまけに過ぎないから死んでもいいってのか?」
『小僧、憶えておくといい。生命は生まれる場所は選べぬが死ぬ場所は選べる。我は【冥龍王】様以外に仕える気は無い。あの死皇帝の道具となり果てたのさえ屈辱なのだ。もう我は支配されるのは真っ平、誰の言いなりにさえならぬ。強者に怯え力を付けても他者の骸を縫い付け、偽りの巨躯に身を隠した卑小の存在にも誇りはある。決して譲れぬ生き様、死に様があるのだ』
それは悠久の時を生きてきた長命種だからこその考えかも知れない。だがレンジにルデオプルーチの考えを否定する気は起きなかった。
『【冥龍王】様がお隠れになってから、我は惰性で生きてきた。自害しなかったのは【冥龍王】の言いつけを守るため。そして今日それは果たされようとしている……』
「言い付け? それは何なんだ? 果たされようとしているってのは俺関連か? 俺はそんな御大層な存在じゃねぇぞ?」
『我ら七大竜王様の配下は、お隠れになる直前にある言葉を託されている。その存在に出会うことがあれば必ず伝えるように託された言葉があるのだ』
「そんなの俺がその存在かどうかなんてわかんねぇだろ?」
『「人なれど魔を宿し、セカイを現身るモノ」。姿見こそ人だが貴様は異形種。そして我が目には、貴様の心より顕れしセカイが映しだされている……その表情を見るに思い当たる節があるようだな』
図星だった。ルデオプルーチの言葉はレンジにとって思い当たるモノばかりだった。
(「人なれど魔を宿し」……人間だが異形種を選択し。「セカイを現身るモノ」……自らの心を世界の概念、【アバター】として具現化させた存在。連想に過ぎんが、確かに当て嵌まっている)
『小僧、いやシレン。もし我との闘争に生き残る事が出来たなら、今から伝える言葉を覚えておけ。「セカイはいずれ一つになる」。「シレンを越えた時、真の遊戯が始まる」。以上だ』
「それだったらここから逃がしてくれねぇか? 俺にはどうしても果たしたい願いがあるんでな」
『もう一つ覚えておけ。どんなセカイであろうと望みを叶えるには力が必要だ。我はこれから全力で貴様を殺しにかかる。これから貴様の歩む道は苦難と絶望が付き纏うと断言しよう。我の全力ていど乗り越えられぬなら、ココで死んだ方が楽だ』
「いくら何でも勝手すぎねぇ?」
『これが最後のレクチャーだ。龍とは元来より力の塊。自らの力に絶対の自信と自負を持ち、自らの力を持って自らの道理を他者に押し付ける。実にシンプルな存在が多い。それが嫌ならば叩きのめし屈服させるがいいだけだ……強者には大人しく従うのが竜種の流儀よ』
「ハハハハハハハ。ここまで自分勝手が過ぎると、逆に清々しくなってくるな」
『クハハハ、それが龍よっ!! 参るぞっ、シレン!!』




