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第242話 求めるは救済、賭けるは我が命⑧


 〇<龍機界48層>【天帝】シレン


 コアだけになったルデオプルーチに止めを刺すべく。コアの方角に身体を向けた俺が感じたのは・・・・・途轍もない。これまで修羅場を潜ってきた中でも別格といっていい程の悪寒とプレッシャーだった。


 プレッシャーはルデオプルーチのコアから放たれていた。何か強大な、得体の知れない物を感知し、眼で確認して観ると愕然とした。膨大な、感じた事さえ無いほどのリソースがコアに吸い込まれているからだ・・・・・・。


(ヤバいっ!)


 そう感じて咄嗟に待機させていた防御魔法を発動したのは只の勘に過ぎなかったが・・・・・それが功を奏した。


『≪呪怨骨槍≫』


 展開した鋼鉄の壁に、無数というのさえ生温い数の尖った骨が突き刺さっていく。ってか貫通してるぅっ!?


「威力がダンチじゃねぇかっ!?」


 驚くのも仕方がねぇだろ? この技自体はルデオプルーチが使っていたのを見たんで、それ自体はイイ。だが、ここまで桁外れの威力じゃなかったはずだ。十枚展開した〖アイアンウォール〗がまるで紙の様に貫かれ虫食いが出来た様に穴だらけだ。というか削られ過ぎて細い棒か枯れ木にしか見えねぇ!? 


 俺の心情などお構いなしで骨の槍は襲い掛かってくるが、〖アイアンウォール〗は既に壁として機能していない。結界で眼前に迫りくる骨槍を反らしつつ、どうしても防げない分は体術を駆使して躱す。


 俺の装備は空中を駆け浮遊さえできる。槍はかなりの速度だが、空中に逃げれば余裕で回避でき・・・・・ねぇ!? 急に鋭角に追尾してきやがった! 


「舐めんなボケッ!」


 この程度は織り込み済み。全方位から襲い来る骨槍を拳と蹴りで迎撃していく。正面から触れるのは危険と判断し、側面を叩き、蹴り付け撃墜していく。


 だがこちとら速度型じゃない。数発躱しきれずに皮膚を切り裂くように掠っちまった。この程度なら問題無しと思うにはチト早かった。変調は直ぐ顕れたからだ。


「な、何だ? 身体に何か」


 視界がボヤけ、急に体が重くなったような感覚。慌てて傷に目を向けると、薄っ気味悪い黒と紫色の靄が纏わりついている。


 簡易ウインドウを見ると、『呪い』・『脱力』・『眩暈』のバッドステータスが表示されている。原因は骨槍に付与されていた呪いだろう。俺には素で状態異常耐性がある。更にバッドステータス予防の装飾も身に付けている。その防御を抜いてくるなんて並の呪いじゃない。上級・・・・・頂級クラスかもしれん。


「バッドステータスに掛ったのは久方ぶりだ」


 ボヤきつつも『高位霊水』と『万能薬』で治療すると変調は収まったが、プレッシャーは更に増した。回避のためにコアと距離が出来たが、離れてなお猛獣の檻に閉じ込められたような悪寒。目の前に自分より遥かに巨大な存在がいるような圧に、俺の五感とが、危機察知能力が警鐘を鳴らしてくる。


 コアに目を向けてみると、コアを中心に目視できるほど濃密な怨念とエネルギーが二重、三重と螺旋状に渦を成している。黒・白・紫・赤と様々な色が渦を成している光景は幻想的だが、俺の取って良い状況のはずが無い。ヤバい、何かが生まれようとしている。そんな焦燥にも似た焦りが込み上がってくる。


 プレッシャーは更に高まり続け天井知らず。限界は無いのか?と思った時、自分の間抜けさ加減に、今の状況に吞まれている自分に気付く。


「先手必勝を忘れるたぁっ!! ゲーマー失格ですってねぇ~!!! ≪セブンス・キャリバー≫」


 ヤバくなる敵を黙ってみている義理は無ぇ。雰囲気に呑まれてド忘れしていたが、変身中だろうが俺は攻撃するタイプなんでな・・・・・・。


 コアの上空に原色の、黒・白・赤・青・緑・紫・黄の色とりどりの七色の光が躍り、環を作る。光は徐々に妖しく、鋭く、剣を型作りコアの周囲を旋回する。


 発動したのは【天帝】の奥義 ≪セブンス・キャリバー≫。七つの属性を凝縮、圧縮して剣と為す。剣は環の内側にいるあらゆる物を切り裂き、擂り潰し、燃やし、凍らせ、滅殺する殲滅魔法。範囲こそやや狭いが、その代わり威力はお墨付きだ。


 七色の剣は環の中を踊るように舞っている。それを見ながら俺は先ほどの現象を分析していた。


(ドレッドノートを討伐したせいで、リソースの大部分がルデオプルーチに流れたんだろうな。まぁ俺がやったのは美味しいとこ取り。あそこまで追い込んだのはルデオプルーチだしな・・・・・)


 魔物がユニークモンスターを討伐した場合どうなるかなど知らん。だが先ほどの・・・・・眼で確認したコアに吸い込まれていくエネルギーがリソースの移動。経験値獲得と似た動きと当たりを付けていた。


(俺の種族が進化まで漕ぎ着けたのも、ユニーク武具の代わりにそれなりのリソースが流れ込んだからだろうな)


 これまで万単位の魔物を屠ってきたからこそ分かる。進化まであと少しだったが、それはトンデモないリソースが必要だったと。それが満たされた理由はドレッドノート討伐以外に考えられん。魔物との共闘(実際はハゲタカ戦法)で経験値が分散。ユニーク武具の代わりに経験値が流れこんだってのがしっくりくる。


「あのトンデモねぇプレッシャーの正体もな・・・・・・」


 アレはユニークモンスターのランクアップしか考えられん。ランクアップの原理こそ知らんが、前に【神話級】は別格と聞いた覚えがある。オーレリア大陸史を紐解いても歴史上で討伐された例は数件。それも人界に甚大な被害を出して・・・・・だ。 

 

 死にぞこないがアレほどの圧力を放つなど他に想像できない。さっきコアから放たれ、俺が晒されていた圧力。これまで感じたどの魔物よりもヤバい・・・・・ヤバすぎる。


「【神話級】を見てみたい気もするが、奥義一発で倒せるほど甘かぁ無いだろうしな。もう目的は十分果たしてんだ・・・・・安全策を取らせて貰おうかね」


 個人的には【神話級】に興味がある。間近で見てみたい欲求もある。だがゲームならレイドモンスター。百人規模でパーティー組んで挑むもんだろ? ソロで挑むなど無謀でしかねぇ。過疎ゲーでならレイドモンスターをソロ討伐した経験はある。


 だが事前にバカみたいな準備期間と、膨大なトライアンドエラーをしてでも二轍かかったからなぁ。


「遠足は家に帰るまでが遠足ってな」


 エリクサーを持ち帰り、母さんに飲ませて初めてミッションコンプリートだ。もう少し早くコアを壊しときゃ良かったと思わんでもないが、今更過ぎだ。ユニーク武具は欲しいが、命に代えられるモンでは無い。危機に目さば即退散と行こうじゃないか。


 見れば七色の剣は踊り猛っている。≪セブンス・キャリバー≫が足止めをしている内に、ダンジョンから脱出するべく≪転移≫を使用する。














 だが・・・・・・俺の判断は遅すぎた。いや、心のどこかで【神話級】を甘く見過ぎていた。強いて言っても、所詮は【伝説級】の強化版に過ぎない・・・・・・とタカを括っていたのだ。 


 俺の甘く、舐め切った考えのツケを支払ったのは・・・・・・転移を考えた直後だった。


 流暢な言葉、人間が使うのと大差ない言語が聞こえてきたような気がした。


『≪逃戦墓≫』


 スキル発声の直後。不快かつ不気味な音と共に、この48階層の広大な階層の四方。階層全体を囲むような形で、巨塔と見紛うような漆黒の墓標が大地よりせり上がる。


 俺はその光景に驚愕しつつも、光が収束して転移直前状態に入っていたため、余裕を持って見詰めていたが・・・・・・。


「がぁぁぁぁぁぁぁっ!?????」


 身体を包んでいた光が急に闇色になったと思ったら、全身に雷が走った様な激痛が駆け巡る。突如の痛みに絶叫を上げちまった。


 簡易ステータスが浮かび上がる。そこにあったのは膨大な状態異常を示す表示。『呪縛』・『脱力』・『虚脱』・『死の宣告』・『精神汚染』・『酩酊』・『虚弱』・『猛毒』・『裂傷』。戦闘に支障をきたすヤバ系のモノばかり。


「ヤ、ベェ・・・・・チッ!」


 脱力と虚脱のせいで碌に力が入らない。それでも手元に『高位万能薬』と『高位聖水』を出現させ、震える手と定まらない視界の中。何とか瓶の蓋を開け、中に入った赤と黄金色の液体を身体に振りかける。この魔法薬には解除した状態異常を防ぐ効果もある。これであんし・・・・・・。


「ご、ぶふっ!」


 突然の吐血と激痛。痛みの箇所に視線を向ければ。俺の身体の中心。どてっぱら辺りに・・・・・極太の骨槍が突き刺さっていた。状態異常の解除に気を取られたせいで、コアから完全に注意を逸らし、周辺の警戒がお留守になっていた。


 いや、転移で脱出できるという油断が慢心を生んだのだ。気を抜くのはダンジョンを出てからにするべきだったんだ。自分の迂闊さと馬鹿さ加減に苛立つ。


 骨が穿った身体からは血が流れていく。骨には突起が返しのように付いているので激痛が止まない。


 痛みから蹲りたいが、それをしたらヤバいくらいは分かる。歯を食いしばって骨を抜く、突起のせいで傷が広がるが無視。


 傷を超速再生で復元すると、脚を動かして距離を取る。この場所にいたらマズイ。・・・・・・が、街路灯ほどある極太の骨槍が、目視できるだけで数十本。俺を取り囲むように浮かび上がっている。


「ハハハハハハハ・・・・・・生かして帰す気はありませんってか?」


 ここまで来ると乾いた笑いが漏れてくる。当然だが奴さんは俺の心情など理解してくれないだろう。骨槍は空中でカタカタと不気味な音を鳴らしている。まるで獲物を嬲るのを待ちきれないように・・・・・・趣味の悪いこって・・・・・・。


 俺が内心で罵倒するのと、骨槍が動いたのは・・・・・皮肉にもほぼ同時だった。


 緩急をつけ、それでも明確な殺意を持って迫りくる骨槍。連続使用は厳しいが、眼を使うしかない。


 ≪幽世の真理眼≫には事象を可視化する以外に、使用中限定で体感時間を引き延ばす副次作用がある。長時間使用は頭痛がしてくるが、致し方なし…‥だ。


(これは……時間稼ぎか?)


 骨槍が俺を殺そうとしているのは間違いない。だが、本命が別にあるのを読み取っていた。コアがあった周囲、その一帯に散らばっている夥しい量の骨と骸……それにドロップアイテム。


 上下左右、嵐のような猛攻を繰り出す骨槍を躱し、いなし、剣で切り捨てている中。コアから汚泥のような闇が拡がり、魔物たちの残骸が汚泥の中に沈み込んでいるのを捉えていた。


 何より恐ろしいのが、まだコアだけである点と≪セブンス・キャリバー≫の猛攻をバリアのような壁を張って防いでいる二点。


「大量の骸とドロップアイテムから新たな肉体を創ろうって腹かよっ!」


 ルデオプルーチが完全な肉体を手に入れられたら不味すぎる。何とか邪魔しないと……。いや、勝率はゼロに等しい。眼が可視化したコアが内包するエネルギーは、それほどまでに桁外れだ。戦闘は避け逃走に専念するべきだろう。


 そして逃げるべき手段も辺りを付けている。


「≪転移≫を妨害しているのはあの墓石。あれが≪転移≫や逃走を封じてる。破壊さえすりゃ逃げられるはずだ……」


 漆黒の墓標は≪転移≫と逃走を封じ閉じ込めるための結界装置。俺の眼は墓標から空間を歪ませるノイズ。肉眼では見えないが墓石同士を結ぶよう膜のような物を張り、内部からの脱出と外部からの侵入を阻んでいる仕組み。


「この手の装置は一つでも壊しゃ綻びが生じる……」


 俺の手には圧縮された炎が、太陽のように輝きを放っている。この炎は古代魔法〖ノヴァ〗。上空に打ち出し、放射熱によって広範囲を焼き尽くす手段が本来の使い方だ。


 膨大な熱量を秘めた炎。それを圧縮し対象にぶつかった瞬間に全エネルギーを解き放つように術式を弄った。俺のオリジナル魔法〖ノヴァスター〗。


 範囲こそ狭く、単体限定だが破壊力は手持ちの魔法でも最強クラス。摂食と同時に解き放たれた熱量は、触れた存在を跡形もなく焼き尽くし灰燼と為す。


(猛り狂う様に渦巻く炎の制御をミスると俺が灰塵に帰すがね)


 今も早く撃ちだせと言わんばかりに主張する輝く炎球を見つつげんなりする。


「ピッチャー大きく振りかぶって~第一球っ‥‥…投げた~」


 口調こそふざけているが、フォームは本物。究極のバグゲー『クラッシャースタジアム』で鍛え上げてるんでな。正確なフォームによって投擲された炎が墓標の一つに超音速で放たれる。


 コアは肉体を創るのに夢中なのか、動く気配が無い。墓標の破壊と同時に眼で確認して大丈夫だったら≪転移≫でトンズラする……。


 炎は着弾寸前……イケるっ!


『≪隠煉墓≫』


 声が聞こえてきたと思ったら、墓標に衝突寸前だった炎球は……消えた? ……って俺の眼の前に迫ってきてるぅっ!? 直撃したら死ぬっ!!


 耐性も無いのに〖ノヴァ〗を圧縮した熱量を喰らったら跡形もなく消し飛ぶっ!


「あああああああぁぁぁぁ」


 危機を感じたのと激竜の盾を掲げていたのは同時だった。盾を滑らせるように炎球に接触させ〖ノヴァスター〗を逸らす。その接触の熱量だけで表面は熔解している。逸れた炎球は地面に触れると、莫大な熱量を解き放つ。


 超高熱に犯された地面が熔解し、ドロドロに溶けマグマを生むだけに留まらず。生み出された熱風は俺を吹き飛ばし、熱量は俺の身を焼く。


 吹き飛ばされる中で俺は見た・・・・・コアが闇に包まれ、顕れた骨を象った闇によって≪セブンス・キャリバー≫の七剣が掴まれ、砕け散る光景を……。


 不様に吹っ飛ばされ地面に打ち付けられた俺に、突如として声が掛けられた。その声は俺にとって最悪と絶望を孕んでいた。


『ククク。その程度では無いのだろう? せっかくの余禄だ・・・・・楽しませてくれ』


 遥かに高みから地を這いずる蟲を嗤うような。自分の方が絶対的強者と信じて疑わぬ傲慢さ。そしてその傲慢に見合うだけの圧倒的な実力を兼ね備えていた。


 目を向けた俺の眼に飛び込んできたのは存在の頭上にある名は・・・・・・【偽骸神龍 ルデオプルーチ】。

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