第240話 求めるは救済、賭けるは我が命⑦
球形状の・・・・・そこだけ黒い幕が掛かったような光景が収まった時。あれだけあった隕石の残骸やクレーター悉く消失し、景色を何もない更地へと一変させていた。
広域殲滅武装『重力爆撃』。ミサイルランチャーの如き外見に、たった一発だけ装填された弾頭。一撃ごとに次弾を装填しなきゃならん上に数発撃てば耐久がゼロになり破損する面倒・・・・・使いどころが非常に難しい武装だ。
しかし、それを補って余りある恩恵がたった一つある。・・・・・それは使用した際の圧倒的なまでの破壊力。
スキル≪Gインパクトキャノン≫は耐久の全てを消耗する事で、弾頭に接触した半径五十メートルに隔絶した重圧を加え範囲内の全てを圧縮・消滅させる。
——それが通常の≪Gインパクトキャノン≫の効力。だがいま撃った弾頭が齎した威力はその比では・・・・・無い。
通常でもそれだけの威力に加えて≪ターミネイトタイム≫・≪カタストロフィー≫の効果が相乗した結果、範囲は更に広がり俺の目の前にある光景が作り出された。
圧倒的な破壊が暴虐の嵐となりあらゆる物を喰らい尽くした・・・・・・通常ならその中心地にあって無事な存在などいない・・・・・・・そう、並の存在なら。
「俺が相手にする存在は並じゃないって事だよなぁっ!!」
普段は押さえつけている破壊衝動を開放し、気勢を上げて突撃する。
俺は決して気を抜いてなどいない。臨戦態勢を解いておらず、武装も狙いを定め構えたまま。何故ならこの破壊の中にあってユニークモンスターが生存していると知っているから。
そう俺の眼≪幽世の真理眼≫はこのセカイの現象・事象をありのままに捉え、視覚情報として写し出す。俺の眼はこの破壊の爪痕が残る更地、その地中に埋もれるように隠れているコアを捉えている。
「なけなしの力を使って地中を穿孔して隠れるたぁ、いい根性してるじゃん」
弾頭が齎す脅威と破壊力を察したのか、ドレッドノートのコアは弾頭が発射されて即座に金属をドリルのように形状変化させ地中を穿孔していた。だが日々の入ったコアに相当な負荷を掛け、無理やり形状変化させたのか、コアに入った無数の罅の幾つかは既に亀裂となりほぼ中心にまで到達している。卵の様にパックリと真っ二つに割れるのも時間の問題と見られる。
だがその状態を生で見ている俺は焦りにつつまれ思わず悪態を付く。
「手間かけさせやがって・・・・・ぶっ壊すぞ、クソッタレがっ!!」
このまま放っておいても自壊するのは確実。だが・・・・・それでは困るのだ。
「俺が討伐したかのどうかの判定が分からねぇんだから、オメェは俺に壊されなくちゃならねぇんだよっ!」
クエスト達成の条件はユニークモンスターどちらかの討伐。そう自壊やアシストでは無く、討伐が達成条件となっている。
ならその達成の基準はどうなっているか?
ドレッドノートをここまで追い詰めたのは紛れもなくルデオプルーチ。それは俺も認めるところ。俺がやったのは両者の死闘に紛れ込んだだけ、それも間違いない。
その場合の判定はどうなるか? 答えは分からない・・・・・だ。
漁夫の利だけを掻っ攫うような振る舞いは、システムがどの様な判定を下すのか分からねぇ以上。コアを破壊して止めだけは確実に刺さないといけない。
俺はユニークモンスターを討伐するのが目的じゃない。それはクエスト達成の手段であって目的じゃない。目的はクエスト達成報酬によるエリクサーの入手。
——それしかないのだ・・・・・。
俺は眼により情報次元へアクセス、周囲一帯を俯瞰する。
(この状況で最悪なのは第三者の介入。ルデオプルーチにコアのみといえど健在のはず。余計な手出しをされないためにも、状態を確認しておくべきだ・・・・・・)
ルデオプルーチのコアは直ぐに見つかった。
ルデオプルーチのコアは『重力爆撃』の衝撃で吹っ飛び、俺とかなり距離が離れちまっている。だが肉眼でも眼でも、コアは内包するエネルギーこそ減っているが、未だに健在。だが肉体・・・・・骨体が無いなら恐れるに足らん。再生しそうなら強力な一撃でも入れるが、怨念を圧縮してバリアの様に纏っている。
眼はバリアの強度も凡そだが測定できる。壊せないことも無い・・・・・だが、それなりの労力が必要と判明する。
俺が下した結論は無視の一択。
(どれだけの防御力か知らんが、相手にするだけ無駄で面倒。脅威に成り得ないなら放っておく)
押せば砕けそうなコアと固そうなバリアに守られたコア。どちらが与しやすいか論ずるまでもない。
「命拾いしたな・・・・・・ドレッドノートのコアをぶっ潰して駄目ならすぐに戻ってくるから首を洗って待ってるんだな」
悪党の捨て台詞のような言葉を吐き捨てる。
≪Gインパクトキャノン≫の威力によって爆心地を中心に数百メートルがすり鉢状のクレーターがあり、一見するとコアは見当たらない。
だが俺の眼は埋まっているコアの座標を正確に捉えている。コアの内包するエネルギーは膨大で、俺の眼はコアが光点のように輝いて見える。
「隠れんぼをしたけりゃコアを完全に停止しとくべきだったなぁっ!」
地面に手を叩きつけドレッドノートのコアが埋もれている座標に向け魔法を発動する。
≪チャージカット≫により即座に魔法が発動。コアが埋もれている地下二十メートル付近の土砂が攪拌され山のように一気に盛り上がる。
瞬く間に土砂は鋭角に競り上がり、十メートルほどの小山が俺の前に現れた。ちょうど真ん中、五メートルほどの場所に光り輝く球体が埋め込まれている。言うまでもなくユニークモンスターの急所、コアだ。
俺が使った魔法は〖大地杭〗。本来なら巨大な鋭角な大地の杭を無数に作り出し、敵を貫く魔法。それをコアを貫くのではなく、コアを杭の表面に埋め込むような形で発動した。
杭でコアを貫いた方が手っ取り早いのは確かだ。無駄で意味のない拘りと嘲笑われてもいい。
——だがこの一連の出来事、異世界に身を投じる決意をした日から潜り抜けてきた死線と非日常。それらとの一つの締めくくり。それだけはどうしても俺の手で付けたかった。
コアもマズイとでも感じているのか、土に含まれている金属を操って膜のような物で防御を試みるが、所詮は急ごしらえ。明かに膜が薄い。
だが・・・・・・舐める気は無い、俺の全力を叩き込む。
四本ある俺の腕の内。右手の『千腕之鬼神』と『灰塵鳳滅』。左手の『超連撃弾倉杭砲』と200mm電磁速射砲『帝釈天』。
合計で四門の砲口をコアに向け・・・・・・。
「くたばれやーっ!!!!!」
四門の砲口から発射された。火炎・実弾・回転杭・電磁砲は、コアが張った薄い膜を無い物の様に貫く。
罅は更に深く亀裂となったが、内包するエネルギーが防御に変換しているのか必殺で放った一撃(四撃)をギリギリで食い止めている。
それでも・・・・・・・。
「≪カタストロフィー≫。これで終わりだぁっ≪弾倉式破城槌≫!! 」
≪弾倉式破城槌≫は『超連撃弾倉杭砲』のアクティブスキル。弾倉に装填された八本の杭を超速で回転させ連続して撃ち込む必殺技。
【殲滅王】の奥義により強化された杭は、一撃でバリアに罅を入れ、二撃目でバリアに亀裂を作り。三撃目で砕き。四撃目で頑強なコアを貫く。それでも破壊を拒むコアに五撃、六撃、七撃と杭が撃ち込まれていく。
「いい加減壊れろやっ!!! しつけぇんだよぉっ!!」
装填された最後の杭。八撃目の杭が突き刺さった時・・・・・・・コアに刻まれた亀裂は球体全てに行き渡り・・・・・・砕け散った。
「どうだぁっ!!」
普段は煩わしいので戦闘中はオフにしてあるが、クエスト達成かどうかを知るために通知の項目をオンにしてある。もしダメなら・・・・・・・・失敗の通達が送られてくるはずだ。
ほんの数秒が数時間のように感じる。俺はジッと待つ。待つ事しか出来ないのが歯痒い。
『クエスト【意味無き闘争に終止符を】が達成されました。報酬の『エリクサー』を志波蓮二のインベントリに移譲します』
「おっしゃぁぁぁぁぁっ!!」
その通知を見て・・・・・・俺は歓喜の声を上げる。だが・・・・・・これで終わりじゃなかった。
『地球で初めて高難易度クエストの達成を確認。追加報酬として『賢王の王錫』を志波蓮二のインベントリに移譲します』
「はっ、どうでもいいんだよっ。んなもんはよっ!」
エリクサーさえ手に入れば後は余禄に過ぎん。だが・・・・・まだ通知があるようだ。
『『エヴォル・ネオグラトニアス』がレベル上限値に達しました。ステータスウインドウ・ステータスカードから進化が可能です。特性として≪能力捕食≫・≪超乾眠≫を獲得しました』
『【運営】よりメールが届いています』
「なおのこと、どうでもいいんだよっ! さっさとルデオプルーチに止めを刺して帰りてぇんだからよぉ」
文句を言いつつも声に喜色が含まれるのを隠せない。ようやく・・・・・ようやくこれまでの苦労が報われた気がしたから。
(時間に換算すれば短かったかも知れないが、余りにも濃密すぎる体験・・・・・無理もないさね。だが・・・・・これさえあれば母さんを助けられる。もう・・・・・俺は苦しんでいる美夜母さんのベッドの横で祈るしか出来なかった無力なガキじゃないんだ)
これまでの・・・・・異世界に足を踏み入れた日から潜ってきた修羅場が瞼の裏に映し出される。湿っぽいと思ったら眼から涙が溢れていた。
「へへっ! 後はエリクサーを母さんに飲ませりゃいい・・・・・五倍速時間をここまで感謝したことは無いぜ」
五倍速時間が無ければ間に合わなかったかもしれない。現にこちらでは五時間以上経過している。だが地球なら一時間しか経過していない。
安堵の息が漏れ眼を擦り涙を拭う。後はセーフティゾーンまで戻り、転移石でダンジョンから脱出。ファーチェス自宅に転移してログアウトするだけ。
クエストの達成が出来た以上、このダンジョンを秘匿する意味はない。ギルドに公表して報酬を貰うつもりだ。そうしないとここで入手した素材を売却しにくいしな。さっさと公表した方が利益が大きい。
先の事は母さんを助けてからでいい。そう気持ちを切り替えると、俺はルデオプルーチに止めを刺すべく奴さんのコアに視線を向ける。
この時の俺は選択を間違えていた。その事に気付いたのは、皮肉にもすぐだった。
◆
『【骸葬機巧 ドレットノート】の討伐を確認。最優秀戦功獲得者の選定を開始。・・・・・・特殊ケースC。・・・・・・規定に従いリソースの分割を行う。志波蓮二の獲得基準が最低基準である【幻想級】に達していなかったため、ユニーク武具としての譲渡は不可と判断。代替案としてリソースを第二計画の器に譲渡』
それは非常に稀なケース。だが・・・・・希少なケースは、常に良い方に転ぶわけではない。この場合、志波蓮二に最悪といって形で顕れようとしていた。
『【屍山骨龍 ルデオプルーチ】に【伝説級】相当のリソースと【骸葬機巧 ドレットノート】の概念を移譲開始・・・・・・位階上昇・・・・・能力強化。概念の適合を確認・・・・能力増加。固有スキル≪機装纏骸≫を獲得』
それは新たなる神・・・・・【神話】の誕生。
『【神話級】に位階上昇した事により、新たな固有スキル≪隠煉墓≫・≪逃塞墓≫を獲得』
このセカイの猛者たち。神話級と相対して生き延びた者たちは・・・・・口を揃えてこう語る。
『位階上昇に伴い【屍山骨龍 ルデオプルーチ】を【偽骸神龍 ルデオプルーチ】と命名』
——【神話級】はそれ以下のユニークモンスターとは「次元が違う」・・・・・と。




