第222話 幻想級
~【幻想級】ユニークモンスターについて~
ユニークモンスターは〖英雄選考〗プロジェクトの可決により、神代文明と呼ばれた時代から新たに実装された追加コンテンツである。
その位階は下から【幻想級】・【英傑級】・【伝説級】・【神話級】・【超越級】・【世界級】と存在する。・・・・・訂正しよう。【世界級】という位階など存在しない。存在こそしているが、その位階に到達した存在は未だ嘗ていない。神代文明に存在した【楽園追放 エデン】という強大なユニークモンスターを【世界級】と定義しているが、それは誤りだ。
その圧倒的な力により人々がそう判断しただけであって、実際は【超越級】最上位だったのだ。そもそも普通のユニークモンスターは【神話級】までしか進化出来ない。【超越級】に至れるのは・・・・・・。
その事は今は語るべきでないのでまたの機会にしよう・・・・・・そんな機会があるかどうかは分からないが・・・・・。
話しをユニークモンスターの位階に戻そう。
その実力は読んで字の如く【英傑級】なら英雄譚に登場する英雄が戦うに相応しい存在。【伝説級】ならそのセカイの伝承に残るほどの強さを誇る存在。といった具合だ。地球でも超常なる怪物の伝説や伝承はメジャーな物からマイナーな物まで含めれば無数にある。強者とは例え敵であっても多くの畏怖と恐怖を齎し後世まで語り継がれる、という事だろう。
ならば【幻想級】とはどのような存在なのだろうか?
【幻想級】はユニークモンスターを語る上で最も難しい存在とされている。何故ならばその強さの尺度が曖昧で、熟練者であっても容易に判別できないからだ。
まず大前提として【幻想級】はユニークモンスターの中で最も低い位階だ。それ故ユニークモンスターであっても一番弱いと勘違いする者も稀に見られるが、それは大間違いだ。
ユニークモンスターに至れるのは特異性、もしくは到達点に達して概念を獲得する権限を得た魔物のみ。そこにはレベルや種族ランクはそこまで関わっていない。いや・・・・・正確には特異性や概念を早期に獲得したとしても、最低限の種族ランク・・・・・具体的にB以上に到達していない場合。まず滅多な事ではユニークモンスターへの認定の許可を出さない。
それは何故か? ユニークモンスターへの昇華はモンスター統括AIによる承認だけで至れる訳では無い。外部からの外付け・・・・・〔削除済み〕により半ば強制的に存在を昇華する事でユニークモンスターへ至る事が出来る。だが【■■】は膨大なエネルギーを内包するため、弱き存在にとっては劇薬でしかない。
【■■】が内包する膨大なエネルギーを受け入れるだけの器が無い場合。その肉体は昇華に耐え切れず、よほど運が良くて精神に異常をきたし発狂。普通なら肉体———膨大なエネルギーの受け皿となり得ず器が崩壊してしまうのだ。
ごく少数の例外・・・・・基準には達っしていなくとも桁違いの潜在能力を秘めた個体を除けばユニークモンスターに承認されるのは最低でも種族ランクB以上という結論になる。
さて・・・・・ここからが本題だ。何故【幻想級】がユニークモンスターを語るのに相応しくないのか? ユニークモンスターに認定されるのは高ランクの魔物が特異性を獲得するか到達点に達し概念を獲得した場合というのは先ほど述べたとおりだ。
ならば・・・・・それらを獲得した個体のランクに差があったら? 種族ランクがBの魔物とSの魔物では同じ【幻想級】であっても、性能は天と地ほど違うという事にならないだろうか?
今の例は極端すぎるので、あまり参考にはならない。だがユニークモンスターに至れても生涯を【幻想級】で終える個体もいれば、膨大なリソースを獲得して一足飛びに進化していく個体もある。仮に【超越級】へと到達できる潜在能力を秘めていてもリソースが不足している個体もいる。
そういった個体は表記上は同格であっても固有スキルが強力だったり、ステータス補正値も高くなる傾向があるので決して油断できない。故に【幻想級】は最もユニークモンスターの尺度が読みにくいと言われる所以だ。
ならば潜在能力の高い【幻想級】の討伐は不確定要素ばかりで利点が無いのか?・・・・・というと、決してそのような事はない。まずユニークモンスターの討伐によりユニーク武具の獲得。
優れた英傑に相応しい武具を渡すという〖英雄選考〗の本質であるユニーク武具が入手できる。そして潜在能力の高いユニークモンスターが討伐された場合、その能力はユニーク武具にも反映される。稀に【幻想級】でも【伝説級】に匹敵するような武具が顕れるケースも確認されている。
【幻想級】は確かにユニークモンスターの位階としては最も低い。されど決して侮っていい訳ではないのだ。戦闘で最も重要視されるのは相手との相性。例えユニークモンスター同士の争いであっても、所有する固有スキルによっては格上殺し———俗にジャイアントキリングと呼称される現象など幾らでも起こりうる。
これまで幾度となくユニークモンスターを討伐し、慢心することがあればそれは自らの死という重い代償を支払うことになるだろう。
◆
〇龍機界?層<デスコロッセオ>
巨大な金属扉が開くと車輪が付いた頑丈そうな檻が闘技場へと運ばれてくる。中に蹲っている巨獣の頭上には【兇呑吐獣 ベルベムラン】なる名が記されていた。頑丈そうな檻はベルベムランが中から身動きすると、頑丈なはずの檻が軋むような音を立てる。
「グラァァァァッ!」
壊れない檻にイラつくように唸ると、全身にある口が一斉に開いたと同時にとんでもない咆哮が放たれた。その衝撃に少しの間、軋むような悲鳴を上げながら耐えていた檻も耐え切れず吹き飛んでしまった。残骸がレンジの方向へ迫ってくるが、レンジは最小限の動きで見切る。
金属が擦れる不快な音が響くが、そちらに気を取られている余裕は無い。「目を離すとヤバい」と歴戦を潜ってきたレンジの本能が告げていた。
「平和なレベリングが一転してデスマッチになるってどういう事よ? な~獣君もそう思わないかい?」
「グルルッ!!! ガルルルルル」
レンジは気安い口調で眼前の巨獣【兇呑吐獣 ベルベムラン】に話し掛けるが、返ってきたのは低い唸り声だったその声に秘められているのは威嚇。レンジを完全に獲物にしか見ていないようだが襲い掛かってこない。
不審に思ってよく見れば六本ある脚を地面から生えた鎖で拘束されているため動けないだけのようだ。もし鎖が無ければすぐさまレンジに飛び掛かっているだろう。
それを見て口から出るのは気安い口調でも、その目は一切の油断は無い。臨戦態勢でいつでも動き出せるように身構えている。だが完全ではないが、ユニークモンスターの動きを拘束する鎖と、鎖の放つ禍々しいオーラが気になったので鑑定をしてみる。
〇『タルタロスの大縛鎖』
アイテムランク:(2級)
冥界の軍隊を統率する魔元帥タルタロスの所持する鎖。この鎖に拘束された咎人は全てのステータスが十分の一になり全てのスキルが使用不可となる。咎人で無くとも、鎖自体も非常に頑丈のため生半可な力では破壊できない。また破壊されても時間経過により修復する。所有者の遺志により自在に動かすことができ、射程圏内に入った敵意を持つ対象に対して自動で襲い掛かる。
「やっぱりヤバい鎖じゃねぇかよ!? ユニーク武具並みの性能だぞ。つーかチートアイテムだろうがよっ!」
咆哮によって頑丈そうな檻が原形を留めないほど破壊され吹き飛ばされたのに対し、大縛鎖は傷一つ付いていない事からも如何に頑強かが分かる。あれに拘束されればステータスが低下し、嬲り殺される未来しか思い浮かばない。
玉座に座り高みの見物を決め込んでいたデスロードが立ち上がると、両手を天に掲げ口上を述べるべく口を開くのが見えた。
『不遜なる侵入者よ。身の程を弁えず死者の眠りを妨げし咎人にして憐れな生贄よ。その穢れた身は死によって浄化され魂は救いを得るだろう。足掻け、藻掻け、這いずり回り死者の無聊を慰めよ』
「好き好んでこんな場所に来たわけじゃねぇんだよボケッ! それ以前に死者の眠りって、テメェらはアンデッドの不死者だろうが?」
好き勝手に向上を垂れるデスロードに腹が立ったのか、レンジはふざけるなとばかりに吐き捨てた。レンジとしては好き好んで来た訳ではない。知らぬ間に飛ばされてきたので勝手な言い分に腹を立てても仕方がないかもしれない・・・・・・・・・。
この場所に飛ばされたのはレンジの所業———47層の魔物を蹂躙したせいだが、本人にその気は無いし・・・・・知る機会も無い。
デスロードが玉座に座り直すと同時に、バキンと何かが壊れる音がするので意識をベルベムランに戻す。すると脚に巻き付いていた鎖が解かれ、床に落ちていた。ベルベムランは自由になった脚を馬の様に蹴り上げて調子を確かめているような素振りをしている。その行為によって地面が抉れ土埃が煙幕の様に凄まじい事になっている。
「ブルっ! グルルっ!! グラァァァァッ!!」
脚に違和感が無いことが確認できたのか準備完了、とばかりに吼えると八つある眼球が睨み付ける様にレンジを見据えた。
その直後、レンジに向かって恐ろしい圧力と殺意が襲ってくる。だが眼前にいる人間は今更その程度で怯むほど軟ではないのだ。
「ハッ! 何となくだが言いたい事が分かるぞ。俺は自由ですってか? ムカついて苛立ちを適当にぶつけたかったところだ。恨むんなら嗾けた骸骨野郎を恨んでくれやっ!」
常人なら気を失いかねない・・・・・殺気だけで絶命しかねない圧力を平然と受け止めるどころか却って気勢を上げる。
抜き放つは激竜剣・獄。レンジが認めるドワーフが鍛え上げた一振り。レンジの意志に応えるように激竜剣は漆黒の炎を纏う。
「レベリングの終了に丁度いい相手だ。テメェのユニーク武具をお土産代わりに持って帰らせて貰うぜっ」
『フンッ!!!』
剣先を突きつけての宣言に鼻息で返された。「やれるもんならやってみろっ!」と、その行為が何よりも雄弁に語っていた。
「上等っ!!」
周囲に漆黒の炎『獄炎』を複数展開し、緩急をつけて全方向から放つ。
直撃した証拠に爆炎が立ち上がり、爆音を闘技場全体に響かせた。それがレンジとベルベムランの開戦の狼煙となった。




