第205話 アイリスの願い
〇<大広間>【殲滅王】志波蓮二
「しっかし随分と長い間、向こうにいた感じがするよな。あちらの自宅より、こちらのほうが落ち着く感じがする」
「・・・・・・・・・・・レンジ様」
「空気はあっちの方が旨い筈なのに地球の方が落ち着くって変な感じがするよな?」
「・・・・・・レンジ様」
「クレアもそう思わないか?」
露骨に話題を逸らす俺にゆっくりと近いたクレアは俺の両手を握ると、真直ぐに俺を見つめてくる。美女に見つめられると照れちゃうよ?
「・・・・レンジ様、現実を見ましょうね?」
「・・・・・・・はい」
クレアさんや、いいたい事は分かる。分るんだが、俺だって現実逃避をしたい時くらいは存在するんだよ?
何故俺がこんな態度を取っているか? それはちょっと見ない間に変貌した地下大広間にある。
「何時から俺の自宅地下は悪の秘密組織になったんだよっ!?」
口から出た言葉が全てを語っている。少し見ない内に俺の自宅は工場のような大型の機械が所狭しと立ち並び、猛烈な自己アピールをしている。
原因———元凶はたった一機しかいない・・・・・。妙な奇声を上げながらウキウキした表情で機械イジリしているポンコツに声を掛ける。
「アイリス、コレは一体なんだ?」
「マスターお帰りなさいませ。つい夢中になって気付かなかった事をお詫びします」
「ああ、ただいま・・・・・・。じゃねぇ、この有様はどういう事だよ?」
この機械類の出所は分かっている。神代遺跡にあった稼働しそうなモンは片っ端からアイテムボックスにぶち込んだからな。それをこの場所に置いたのも俺たちだ。それはいいが、今も稼働状態になってるってどういうことなの? キュンキュンガシャーンと今も稼働状態である事をアピールする機械音がやたら主張してくるんでうるせぇ。
「ああ、申し訳ありません。スリープモードにしますね」
何やら手元の端末を操作すると稼働音が止んだ。
「で、この稼働してる機械類はどうしたんだ?」
「より高度な工作をするためです。当機だけでは今後の作業に支障があると考えた結果、遺跡で入手した状態のいい機械をレストアして稼働状態まで持っていきました。今後は更に作業ペースが上がるのでご期待ください」
「あのマネキンというか、アンドロイドみたいな奴を助手がわりに使うのか?」
俺が指さした方向には人形の頭部のような物が無数に並んでいる。ってかあの頭部だけが飾られた光景を夜中に何も知らずに見たら気の弱いもんなら卒倒するぞ?この部屋はどういう原理か知らんが、常に明るいんでちょい気味が悪いと思う程度だがよ。
「始原文明時代後期に開発が頓挫した『量産型機巧人』をベースに、神代遺跡の中で入手した自律魔導人形のデータを組み込んで完成する予定の魔導式機械人形です。完成の暁には『機械人』と命名する予定です」
「何そのヤバそうなネーミングは?」
・・・・・我が家も遂に悪の秘密基地みたいになっちゃいましたよ。正直言って始原も神代もぶっ飛んでやがる。何かSF要素が強すぎね? 俺はどっかの魔王のように「世界の全てを支配するぞ~、ワハハハハ!!!!」なんてやる気はねーぞ? ま、戦力があるに越したことは無いんでツッコむのも野暮ってもんだ。気になった点だけ訊ねる事にしよう。
「実際問題として、稼働に耐えうるのか?」
「一体の性能は下級戦闘職レベル50よりも弱いです。ただ簡単な作業程度は熟せますので、問題は無いかと」
「エネルギー問題はどうすんだ?」
確かこのサイズに搭載する小型動力炉でもメッチャコストが高いんだろ? ある程度の戦力になるならまだしも、下級職の50程度の人形にコストを掛けるのは嫌だぞ?
「戦闘行動さえ行わないという前提ですが、このサイズなら定期的にMPポーションを自己判断で服用するように設定すれば理論上は問題ありません。頻度は五日毎といった所かと・・・・・」
その程度でマンパワーが得られるなら経費の内か。アイリスの仕事は多岐に渡っている。情報面から装備の修繕にクレアの護衛の……。うん、誰が見てもアイリスの負担がデカ過ぎだな。
アイリスは俺たちの生命線。負担が軽くなるなら少しでも軽くしてやらないとな。
「了解した。現状はアイリスの負担がデカいのは確かだ……ただコスト面の問題もある。何体くらい作る予定なんだ?」
それだけは聞いとかないと暴走しかねん。
「機械人を外に出す訳にはいきませんので、維持費用を考えると十~二十体ほどが限界でしょう。単純作業さえ熟せれば問題ありませんが、この部屋から出す訳にもいきません。余り多いとこの部屋が手狭になりますし」
「その程度なら問題無いだろう」
ただでさえデカい工作機械が場所を占有してるんだ。五十も造れば手狭なんてもんじゃない。外で使おうにもなんかあった場合面倒だしな。
「そういやアイリスの同型機……他の『機巧人』ってのがいたんだよな?」
フレーバーテキストにそんな一文があった。アイリスは番外機で急造された機体らしい。その前に造られた兄弟?姉妹?機があったとか何とか?
「はい、当機にとっては姉?に当たります。人と同じように思考し、半永久的に稼働する『機巧人』は始原文明の技術の到達点。一つの完成系とされていました」
「やっぱりコンセプトがあったのか?」
「その通りです。六機はそれぞれコンセプトがありました。戦闘型・医療型・救助型・創作型・情報戦型・斥候型……と、それぞれ用途が分かれていました」
同じモノを作っても仕方ないしな。
「やっぱり戦闘型ってのは強かったのか?」
「そうですね、ランク8~9クラス。種族ランクAの魔物であってもよほど相性が悪くない限りは単機で勝利できる戦闘力を持っていました。『紫陽花の分解者』というコードネームで三番目に造られた機巧人です。彼女に搭載された武装は、より洗練と発展され最強の機巧獣『黒百合の殲滅』へと搭載されました」
何とも物騒な事ですわ。俺もAランクの魔物には未だにお目に掛った事が無い。それをソロで勝利できるってのが凄いわ。そんな連中がいながらも敗北したシレンってのはもっとヤバいわ。そこを突っ込んでも碌なことにならん気がするので実用性のある話題に切り替えた方が無難だろう。
「そうか……その機械人ってのが完成するまでにどれぐらい時間が掛かるんだ?」
「既に大まかな部品は完成していますので、後は組み立てだけです。この機械の性能なら……十機なら二十四時間以内に組み上げられます。機械人の簡易頭脳は単純命令しか熟せませんがマスター、クレア、当機の命令のみに従う様にプログラムしてあります。機密保持の観点と鹵獲された際に痕跡を残さないため。戦闘での損傷と鹵獲・捕縛された際に作動するよう小型自爆装置を内蔵してあります」
アイリスの「基本的にこの部屋から出す予定はありませんので洒落だと思ってください! それに内部を消し飛ばすだけで外部に影響は極力出さない威力しかありません」って笑顔が妙に怖いんだがよ……。
アイリスのやってる作業って……やっぱり悪の秘密組織寄りじゃね? いや、ツッコむと面倒だし、万が一バレた場合を考えれば過剰であっても異常ではないだろう。
気になるのは‥‥…。
「後から命令をする権限を有する者を増やす事は出来るか?」
「命令権限を持つ者が直接命じれば可能です」
「ならいい。人を増やす気は一切ないが、世の中何が起こるか分からんからな」
何かあった場合に命令が出来る人間が増やせるのはいい。増えることは無いと思うけどな。
「アイリスの方は他に何かあるか? 俺たちはこれからクエストで得たアイテムと、ユニーク武具の検証を行うから参加するだろ?」
逆にアイリスが参加しない方が不気味だ。アイリスはある種の検証マニアだしな。
「勿論です。当機からあと一つお願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」
何だ? アイリスのお願いなんぞ不安しかないんだが……。まぁ取り敢えずは聞いてから判断しようか。聞くだけならタダだしな。
「何だ?」
「遺跡のデータの中にスタンドアローンが可能な自立戦闘兵器のデータがあったのです。現在マスターたちが所有している手持ちアイテムや素材を大量消費することになりますが、今後のためにも作成の許可を頂けないでしょうか?」
うん……やっぱ嫌な予感が当たったわ。
「……その自立戦闘兵器ってのは使えそうなのか?」
「理論と記載されたカタログスペックでの話になりますが、最終的には戦闘系トップジョブクラスの能力は見込める筈です。そのためには幾つか問題点を解決しなくてはなりませんが、始原と神代の叡智を合わせれば解決できると確信しています。何卒ご許可を……」
……どうしたもんかね?




