表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/284

第196話 パーティー結成


 〇<葉子寝ダンジョン前>


 冒険者制度が可決され、ついに冒険者ライセンス獲得試験が実地される運びとなる。その監督役として国防軍が任に付く。政府の中には軍に主導権を奪われる事に難色を示し『政府の役人が監督に付くべき』と主張する政治家もいた。


 だが『何かあった時、碌に鍛えて無い奴に荒くれ者を取り押さえられるの?』という軍部の反論に押し黙るしかないのが現状だった。

 それに『上』は速やかな冒険者制度の可決と、冒険者の増員を望んでいた。政府に彼らに逆らう気概を密物は存在しない点も追い風となり、冒険者ライセンスの試験の監督は軍の管轄となった。


 そして本日は第一回冒険者ライセンス獲得試験。嘗てレンジが攻略した葉子寝ダンジョン前に冒険者を志す者たちが日本中から冒険者たちが集まっていた。


 ◆


「私は国防軍大尉の二木。今回のライセンス試験の監督を任されている。まどろっこしい自己紹介は時間の無駄なので省略させて貰う」


 国防軍大尉・二木と名乗った男は傲岸にそう言ってのけるが、周囲から不満は出ない。


「これより諸君らにダンジョンに入って貰う。冒険者ライセンスを獲得するためには魔物を最低でも五体以上討伐して素材を提出する事。言うまでもないがダンジョンは危険地帯。単身で潜るのは自殺行為である。リスク分散の観点からこれよりこの場の人間で五人一組のパーティーを組んでもらう。事前に組んでいる者はそれで良し、まだの者はこの場で申請するも良し。その場合はこちらで割り振らせて貰うのでそのつもりでいてくれ」


 そこまで説明を終えると、ニヤリと意地悪く二木は嗤う。碌な事を言わないのがその表情から丸わかりである。


「どうしても単身でダンジョンに挑みたいのなら私は一切止めない。だが問題を起こしても一切助力はしないし、周囲を危険に晒す危険分子として報告させて貰う」


 その言葉に何人かの若者がギクッとしたような顔になる。二木はそんな無謀ともいえる若者たちを嘲笑った。


「その場合、二度と冒険者ライセンス獲得は不可能と思ってくれたまえ」


 その言葉に周囲は鼻白んだ。確かに問題ある者を合格させないというのは正しいが、試験前の人間に対して言うべき発言ではない。


 この場にいる多数が顔を真っ赤にするが、二木はそれを見ても鼻で嗤うだけだ。その姿は『俺に文句あんのか? お前らの合否なんぞ俺に胸一つだぞ?』と明確に語っている。


「何か分からない点があれば監督として随行する軍人に聞いて欲しい。……以上だっ」


 傲岸不遜にそれだけ言ってのけ、これ以上こんな場所に居たくない。といわんばかりに背を向けて立ち去ってしまった。


 周囲から刺々しい視線が二木の背にを向けられるが、意にも介さないのはある意味で大物かもしれない。


(ふん、気に入らねぇな‥……)


 試験の説明を行っていた軍人・二木の後ろ姿に巨漢・遠坂金字は内心で唾を吐き捨てた。


(金字、揉め事は御免だよ?)


 悪友の不快感を感じ取り、長身瘦躯の男・一文字弦は咄嗟にアイコンタクトで牽制する。


(わ~ってるよ)


 金字もここで問題を起こすリスクを弁えているのか不貞腐れたように手をプラプラさせ了承を示した。そんな金字を見てホッとするも弦はフォローも忘れない。


(まぁ確かにあの態度はどうかと思うけどねぇ~。少なくとも試験監督としては失格、無能だね)


(まったくだぜ)


 二人の遣り取りはハンドサインと口パクで行われているため常人には理解不能。

 だが悪名高き『冬瓜』、『グレイシャルエイジ・オンライン』以前からの付き合いの二人には日常会話と同じ。テレパシー顔負けである。

 

(縄張りを荒らされる。荒らされようとしている彼等にとって、冒険者志望の僕たちが気に食わないのは分かるけどね~)


(神出鬼没の魔物に手が回らず民間の力を借りてる雑魚共が取るべき態度じゃねぇだろ?)


(そりゃそうだけとさ。理屈と感情は別だって)


(だが軍が後手後手に回ってんのは事実だろうがっ。市民を守れてねぇ現状を無視すんのはおかしいだろ?)


 言うまでもないが、金字の不機嫌の理由は監督役である二木の態度。


 そもそも冒険者制度が可決されたのは、軍が魔物に対応できてないから。

 市民が抱く魔物の脅威を軍が取り除けなかったからなのが大きなウエイトを占めるのは間違いない。


 己が領分を侵害され不快感を懐くのは理解できる。だがそれを顕わにし、試験を受けに来た者たちに皮肉を垂れ流すのは違う。


(軍がちゃんとしてりゃ冒険者制度なんて可決されなかったはずだぜ? 俺達が此処に居ることもな)


(そりゃあね。少なくとも自分たちの力不足を受け入れず、職務に感情を持ち込むのはどうかと思うけどね・・・・・それもかなりあからさまだし。感情的になるのはしょうがないけど、最低限は隠す努力をするべきさ)


(あんなのを監督に命じる奴も、感情制御も出来ず受けた奴も馬鹿って訳だ)

 

 辛辣だが二人の会話は間違いではない。


 軍に信頼が有れば冒険者制度など可決しなかったはず。それを失墜させたのは軍自身の問題で自分たちには関係ない。


 それなのに冒険者試験を受けに来た者たちに八つ当たりなどちゃんちゃらおかしい。

 それが先ほどの二木に対し、この場の大半が懐いている感情だろう。


 早い話し『テメーラの無能を棚に上げて俺達に八つ当たりしてんじゃねぇよ』といったところなのだ。

  


 ◆


「で?・・・・・いる?」


「いや、いねぇな」


 弦の意味不明な言葉も金字には伝わっている。


「来てると思ったんだけどなぁ~」


「俺は絶対に来ないと思ってたけどな」


「どうしてそう思う?」


 異なる考えを即答され、弦は理由の説明を求めた。


「あのイカレポンチがこんな大勢の目立つ場に来る方がおかしい。そう思っただけさ」


「でも武器登録とか武器所有許可とかある種の特権が得られるのは大きいんじゃない」


 二人が、弦が冒険者の試験を受けに来た理由はソレが理由だ。条件付きではあるが、冒険者は緊急時に即応するため武器の所有が認められている。それに討伐した魔石(本当は魔玉だが、魔石呼びが定着した)や素材の買い取りも≪ショップ≫を参考に適正価格で政府が行ってくれる。利点の方が勝ると弦は考えているのだが………。


「あくまでも普通の考えを持つ奴ならそうだろう。だが奴は普通じゃねぇ」


「確かにアイツはおかしいけど、あくまでもゲームの話しでしょ?」


「違うな」


 即答する金字に弦は目をぱちくりさせる。だが驚きはしたが疑ってはいないようだ。


「‥‥…奴は現実でも同じだ。必要となれば誰が相手でも絶対に容赦しねぇ……虐殺さえ平然とやってのける類だ。……俺の勘に過ぎないがな」


 その言葉に弦は肩を竦めるしかない。


 金字は脳筋といえる行動を取るので誤解されがちだが、決して武力に物を言わせた単純な男ではない。野生の勘とある種の狡猾さを持ち併せている。


 そんな金字の勘を弦は信用していた。


「それに俺のように素手で戦える格闘系のジョブなら武器は必要ない」


 シャドーボクシングのように拳を突き出す。その風を切る音は拳が秘めている威力が、並大抵で無いと物語っていた。


 金字の【重拳士】のように肉弾戦を得手とするジョブには武器さえ不要。突き出した拳が何よりも雄弁な証左だ。


「魔石や素材の買取も≪ショップ≫で行える……実際にその方が得だしな」


 最後だけは声を潜めてそう告げた。


 ヤバい話しになると見て、弦もハンドサインに切り替える。


(政府は『ショップは利用するな』『国が適正価格で買い取る』ってうるさく言ってるけど、内心で誰もがそう考えてるだろうね。実際にショップは普通に嗜好を満たすための物はほぼ全てが揃っちゃうし‥‥…コッソリ利用すれば税金もかからない点は大きい)


 悪質な笑みと共に放たれた最後のジョークには金字も苦笑するしかない。


 魔物の魔石や素材をショップでDPに換金すれば実質的に税金の生じない金銭を得るに等しい。明るみになっていないだけでショップを利用している者は相当数に上ると二人は予想していた。


(とにかく今は僕たちに合った上級職の条件を達成した上でレベルの上限を目指す。その為には高ランクの魔物を討伐する必要がある。全てにおいて……さ)


(分かってる。だから冒険者になりに来たんだしな)


 彼らが冒険者を志す理由は『レベルが上がらなくなったから』。正しくは自分の地域周辺の魔物を討伐してもレベルの上昇が渋く停滞しがちになったから。


(多分間違いないと思うけど、レベルの上昇かジョブをカンストすると、自分より圧倒的に弱い魔物を倒しても経験値が減少する仕組みなんだろうね……ゲームでは定番って感じのシステムだけど、現実だと萎えてくるよ)


(そうなんだろうな……最初のジョブは上限まで速かったのに、次のジョブはメチャクチャ時間がかかった……今ではほとんど上がらねぇし、雑魚で無双して強者を作らせない仕様なんだろうよ)


 揃って溜息を吐くがそうなるのも無理は無い。ゲームならシナリオを進め強敵に挑むのは華であり浪漫。死ねば終わりの現実では……俗に『クソ仕様』なのは否定できない。


 そして二人の考えは正しい。ジョブは器を満たす毎に、同格以下の魔物を討伐してもリソースの流入が減少する仕組みが備わっている。

 その理由は健全な強者を作るため。楽な相手に無双して作られた見掛け倒しのハリボテ強者など彼らは望んでいないし、お呼びではない。


(それに僕の方は装備も充実させないといけないし‥‥…装飾も・・・・・・って『身代わり』系統の装飾ってぼったくりじゃない!?)


 思い出したように憤慨する弦に金字は呆れるしかない。


(致命攻撃を回避してくれる。つまり一回限定でも死を逃れるならぼったくり価格になるんじゃねぇか? それにあの価格、ありゃ絶対に上級者用の装備だと思うぞ? ぺーぺーの域を出てない俺たちにゃ高嶺の花。まずはしっかりとスキル付きの装備を揃えるべきだろう……って前にも決めただろうがっ!! それにお前が欲しがってた装備の装備レベルは四百以上。どうせ装備できねぇだろうがよ)


(でも、でも欲しいんだよっ!! あの魔法弓に魔導銃。あの流麗かつ無駄の無いシンプルな構造……欲しいのに、買いたいのに……高すぎだよっ!! オマケしてよっ!!)


 子供の駄々のように喚く相棒(バカ)。こうなった馬鹿には関わっても無駄とばかりに金字は無視を決め込む選択。


 ほっときゃそのうち戻ってくんだろ。とばかりに集まった冒険者たちの品定めを再開した。


 実際にこの男はある種の収集家(コレクター)。冬瓜でも使いもしない低レベルの弓や銃を嬉々として収集していた狂人。そんな彼をしてショップにある高性能な装備や装飾は喉から手が出るほど欲する物。


 装備出来る、出来ないなど弦にとって些事でしかない。今の心理状態は腹ペコの猛獣の前に山盛りの肉がある。だが決して開けられない透明で破壊不可な箱に入った状態に等しい。


(そりゃ、そりゃあねっ!! 序盤で手が出ないような高ランク装備をこれみよがしに店に並べて先を目指すモチベーションを高めさせたり、購買意欲をそそらせるって手法は理解してるけどさっ!! それでも欲しいモンは欲しい訳で……おのれ【運営】~!!)


(コイツと同類扱いは勘弁だ‥‥…距離を取らせて貰うぜっ)


 荒れ狂う感情を口にこそ出さないが、くねくねと不気味な動きをしている弦。そんな弦の近くにいた金字はスススッと距離を取る。豪胆な金字も周囲からの視線を気にする程度の羞恥心はあるのだ。


 ◆


 一度にダンジョンに人を入れればトラブルの元になると今回の試験は抽選で選ばれた百名しかいない。だが今回集められたのは陰陽院、より正しくは宝生家によって事前に調査された人員。

 それ即ち周辺の魔物を討伐するなどして、一定の成果を弾き出した将来有望な者たちを集めている。


 だからこの場に居るのは民間、という括りの中ではこの国でも最強クラスのはずなのだが‥‥…。


(やっぱりシレンの奴は居ねぇな‥‥…奴がこの状況で動かねぇのはずがねぇ。奴がシステムを把握していない筈も無し。

 何より俺たちでさえ気付く事に奴が気付かねぇはずがねぇんだ)


 そう金字たちが話していたのは冬瓜での戦友にして宿敵でもあるシレン。二人は何とかしてシレンを味方に付けたいと考えていた。


 このシステムのドロップアイテム率の仕様は経験値と同じ。

 ソロほど希少で入手できる量が多く。逆に六人以上でパーティーを組むと急激に渋くなる。故に効率を考えれば組める上限は五人。金字と弦は決定なのであと三人。その内の一人はすんなりとシレンに決まる。


 お互いに腹を割って話し合ったが、候補として最初に上がったのはシレンだったから。


 ゲームと現実は違う。ゲームでは筋骨隆々としたアバターでも、現実ではもやしっ子という例はある。だがこのシステム。戦闘系のジョブレベルを十も上げれば鍛えてない一般人を遥かに凌駕する力を得られる。後はPS(プレイヤースキル)の問題でしかない。


 二人がシレンを選んだのは圧倒的なまでのPS。冬瓜以降は余りゲームをやらない二人だったが、何とかコンタクトを取ろうと調べた結果。

 シレンというプレイヤーはその界隈では超が付くほどの有名人だったのに驚愕した。


 何よりも接続数千万超の神ゲー≪ワールド・フロンティア≫。そこで出した数々のレコードは未だに破られていない。


 好き勝手な振る舞いや妬みから自分勝手と散々叩く者もいる。だが圧倒的な実力と誰にも媚びない態度から相当数のフォロワーや隠れファンがいる。

 勝手といっても誰かに迷惑を掛けた訳でもない。少なくとも悪質なPKや傲岸不遜な態度を取る大手クランよりは好意的な意見も多い。


 その他の界隈でも大体似たような評価で落ち着いていた。


 つまりは冬瓜と同じ。『敵に回せば最悪だが、味方に付ければ力強い』そう一致したのだ。


(俺は前衛アタッカー。あのバカは後衛。ならば魔法職を最低でも一人。欲を言えば公平で信用のおける視野が広いアタッカーとヒーラーが兼任できる奴を誘いたい)


 自分が無茶を言っている自覚はある。もしそんなプレイヤーがいれば引っ張りだこだろう。だがある程度の目標が一致していなければパーティーなど直ぐに破綻する。それを彼は重々承知して弁えているだけ。


 最低でも『ジョブの上限の情報を知り、それを目標にしている者』。それが二人の定めた誘う最低ラインなのだ。


 今のところ彼の目に適った者はいない。この場には現時点で、と付くが日本でも最高峰の者が集められている。それでも彼のセンサーに反応は無い。


「シレンの野郎がいてくれりゃあな~」


「済まない。少しいいだろうか」


 思わず口から出た言葉。それに反応する者がいた。


「あ‥…んっ!?」


 言葉の方向に顔を向けると、自分に声を掛けてきたのは女性と見紛うような長髪を一本に縛り上げポニーテールにした麗人。動きやすい格好に腰には大太刀を凪いでいる美女と間違えるほどの男。


 とても強そうには見えない。だが目に入った途端、全身に電流が走った様な衝撃を受ける。


(コイツは‥‥…ヤバいっ!!)


 金字が驚愕したのは女性としか思えない人物が男だったからではない。驚いたのはその身に纏っているオーラ。迂闊に触れればスッパリ斬られそうな研ぎ澄まされたオーラに驚いたのだ。


「突然済まない。私は草薙剣心という」


「あ、ああ。俺は遠坂金字だ」


「先ほどシレン……と口に出しているのが聞こえたが。アナタは彼を知っているのか?」


「いや、直接会った事はねぇ。だが凄腕だってのは知ってるんで仲間に誘いたいと思ってたんだ」


 誤魔化す事も出来たが金字は正直に答える。剣心と名乗った男の澄んだ瞳は嘘を簡単に暴く。そして何よりも嘘を付いてこの男の不興を買うのは避けるべき。そんな直感が働いたからだ。


「そうか……私も同じだ。直接会った事は無いが、彼の実力は嫌になるほど知っているのでな。何とか誘えないと思ったんだが‥……急に申し訳なかった」


 剣心もシレンの実力を知る人物。仲間も無く、頼れる人物を探していた所に一番知りたい人物の名が聞こえたため思わず声を掛けたが……望んだ答えは返ってこなかった。


 頭を下げ立ち去るべく踵を返そうとする。だが金字にとっては実力者をすんなり返す訳にはいかない。どうせ駄目で元々という潔さもあり呼び止めた。


「あのさ‥‥…見た所、アンタはソロだろ? 良かったら俺たちのパーティーに入る気はねぇか?」


「なに?」


 突然の勧誘に剣心は訝し気に聞き返すが、金字は嘘偽りなく理由を説明した。


「俺も組んでるんだが二人しかいねぇ。俺たちもダンジョンに入るのは初だしな。少しでも頼れる仲間が欲しいんだ」


「私が実力者だと?」


「謙遜は止せよ? アンタが実力者なのは立ち振る舞いを見りゃ分かる。それにその分厚い手。一朝一夕じゃそうはならねぇ。武術、それも実戦武術をガキの頃からやり込んでんだろ? それに草薙って古式剣術にして実戦剣術の名門だろ?」


(この男……デキるな。それに観察力もある。まるで野生の獣が目の前にいるような感覚がする)


 剣心も目の前の男が只モノで無いと気付く。確かにソロは不測の事態への対処が厳しい。有象無象なら兎も角、実力者に誘ってもらえるなら有難いのは事実なのだ。 


 打算もあり金字の申し出を受ける方向に気持ちが傾き始めた時。不意に背後から声を掛けられた。


「ちょ~と、良いですかぁ?」


「アンタは?」


「‥‥…」


 気配もなく忍び寄ってきた魔術師が着るようなローブを纏い短杖を持つ蜂蜜色の髪をセミロングにした女性。世間の基準なら美女といえる二十そこそこに見える女性が笑顔を張り付け間延びした口調で話し掛けてくる。


 その女性を見た瞬間に二人は身構えた。纏っているオーラが自分たちとは別の意味でヤバいと本能が警鐘を鳴らしたのだ。


 自分を見て身構えた二人に女性はカラカラと笑いかける。


「ああ、警戒しないで下さい。わっちは七宝秋穂ってケチな野郎でしてね。よろしけりゃあわっちもあなた方のパーティーに加えて貰えやせんかねぇ?」


 女で野郎っておかしいだろ?と思ったが、口には出さない。相手のペースに乗るのは危険と判断して事務的に話す。


「他にもあぶれそうなやつらは居るだろ? どうして俺たちの所に来たんだ?」


「へぇ、まずこの場ではあなた方がいっちゃんつえ~からでさ。次にシレン君にはわっちもちょいと因縁がありやしてね。ああ、別に怨恨とか復讐とかじゃありやせん。ただシレン君の実力を知りパーティーに誘おうって方々なら信用できると思ったんでさ~」


 明らかに作った口調だが、ロールプレイを嗜む者。現実でもキャラで口調を作る者はそれなりに居るためおかしいとは思わない。変わった奴とは思ったが気になるのはそこでは無い‥‥…。


「俺たちが強いと判断した理由は?」


「わっちのクエストで手に入れたモノクルの効果でさぁ~。スキルに≪看破≫ってのが付与してありやしてね? ステータスだけですが視られるんでさぁ~。魔物のステも視られるし、それなりに役に立つと思いやすぜ?」


 そういってローブの中に手を入れると、モノクルを取り出し金字の前に差し出す。


「まだ警戒されてやすね? わっちのジョブは上級の【賢者】でさぁ。攻撃に回復に付与と万能の魔法職ですし、きっとお役に立てるはずでさ~」


「!?……マジかよ?」


 ジョブの名に驚いた事もあるが、真に驚いたのは七宝と名乗った女性が上級職を手に入れていること。上級職は一部の下級職と違い条件を達成しない出現しない。偶然条件を満たしたの出なければショップから購入するしかない。つまり目の前の女性は相当の時間をつぎ込んでいる。それに驚いたのだ。


「マジでさ~。大サービスでステもお見せしやすぜぇ」


 七宝はウインドウを操作して二人に見えるようにする。確かにジョブが【賢者】となっていた。だがそれよりも二人を驚かせたのは‥‥…。


「「ご、合計レベル百四十五っ!!」」


 金字と剣心の声が見事にハモった。二人は自分たちの声の大きさに気付き慌てて口を手で塞ぐ。


 七宝のレベルは二人の合計レベルよりもかなり高い。『自分の実力は最高峰』そう自負の在った二人から冷静さを奪うには十分なインパクトがあった。


 だがそんな二人の醜態を見て揶揄うでもなく七宝は淡々と事情説明を口にした。


「へぇ、家の近くにレアな魔物が湧く場所があったんでさぁ~。もうありやせんがね? 実力というにゃちょっと自信がありやせんがねぇ~」


「う、運もじ、実力の、う、内だろ?」


「そ、そうだな」


 ドモリつつも二人は七宝の謙遜。『たまたまでさぁ~』を否定する。羨ましいが、そういった魔物やスポットがあると知れただけでも収穫といえる。


「それでわっちを加えちゃ貰えやせんかねぇ~」


「‥‥…こちらとしてもぜひお願いしてぇ。頼む、俺たちのパーティーに入ってください」 


 自分の条件の大半を満たす逸材。金字は深々と頭を下げお願いする。


「こちらこそよろしくでさ~」


「草薙はどうする?」


「断る理由は無い。こちらも是非ともお願いしたい」


「俺たちの方こそよろしく頼む……ってあのバカ。まだトリップしてやがんなっ!! ちょっと連れてくるわっ!」


 そういって金字は弦を連れ戻しに走っていく。お互いに自己紹介を済ませ共通の話題。シレンのハチャメチャな行動を肴にパーティー結成を喜び合った。





 ◆


 これが後に志波蓮二が創り上げる結社『新世界』において中核を成すメンバーの始まり。


 ちっぽけな島国の冒険者だった彼らがセカイに名を轟かせることになる。その契機となる事件が起こるのはまだ少し先の話しである。

お読みいただきありがとうございます。


本編再開は十八時に投稿します。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あれ? これで4人パーティだとして、主人公とクレア入れたら6人。 オーバーしてるね。 彼らは、主人公にクレアという手放さない仲間がいることを知らないからしょうがないか。 アイリスはパーティ枠…
[一言] やっぱり地球世界の話の方がおもろい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ