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第191話 謎の討伐者


 〇<戦場跡>【殲滅王】シレン


『『ユニークモンスター【雷鳥王 エンセリアボルト】が討伐されました。最大戦功獲得者の選定を開始します・・・・・志波蓮二が選定されました・・・・・討伐者のログを確認します・・・・・完了。志波蓮二に【伝説級】ユニーク武具【超電外套 エンセリアボルト】を進呈します』


 【雷鳥王】の討伐完了のアナウンスが響き渡り(俺しか聞こえていないだろうが)、俺しか戦闘してないので当然だろうが、【雷鳥王】のユニーク武具が俺の真上に現れる。


「だぁ~、マジでしんどかった~!!!」


 そう言って寝そべる。服が汚れるのも構わずに戦闘の痕跡がそこらかしこに残る、穴だらけになった戦場跡に寝そべる。

 普段はもうちょっと取り繕うが、痛い、疲れた、しんどい。全てはこの言葉に集約される。本来なら真っ先に行うユニーク武具の鑑定さえ億劫なほどに疲れ切っていた。


「HPやスタミナと肉体的な疲労は、全く別もんなんだよな~」


 思わず口から出た言葉が全てだ。検証こそしてないが、ステータスのHP・SPと肉体的な疲労は全くといえるほど関係ないと思う。HP・SPが満タンであろうが、連戦を行えば肉体的にも精神的にも疲労が蓄積していく。それに今感じている不調は、≪医食同源≫で短いスパンで連続してHPを回復している事も影響があると思う。


「魔法にしろスキルにしろ、回復魔法は生命力を強制的に治癒するもんだからな・・・・・・そりゃ何らかの影響がない方がおかしいわな」


 全く副作用のない薬なんざ存在しない。人体への影響がデカいか小さいかに過ぎん。これまで深く考えてこなかったが、魔法の治癒も副作用がないとは限らん訳だ。


「・・・・・といっても便利なモンには違いない。ある程度になりゃ骨折くらいは簡単に治せるしな。俺は≪超速再生≫があるから無縁だが、治癒系統のトップジョブは完全に消失した欠損部位を再生か復元も出来るらしい。条件付きだが死者蘇生も出来ると睨んでる・・・・・世に広まりゃ魔法は地球でも定着するだろうな」


 上級職でも欠損部分の復元は出来るらしいが、欠損してからせいぜい数時間前が限度らしい。トップジョブならどれだけ昔でも可能らしいが‥‥…地球の医療からすりゃ夢のような話しだろうな。


 まだ地球では手探りの状態だが、数年のうちに効果が実証され広まっていくと睨んでいる。足でも骨折すりゃ最低でも一か月は不便な松葉杖生活を余儀なくされる。それが一瞬で治りゃ必ず目を付ける者は現れるに決まってらー。


 副作用があろうが、一度広まった便利な道具を消し去るのは不可能だ。半世紀以上前に存在した携帯電話がいい例だ。

 アレも電波が脳に悪影響を与えるとか言われてたが、結局は現在主流になっている携帯端末(携帯電話とパソコンの機能が合わさった掌サイズのハイテクAR端末)が世に現れるまでは世界で大きなシェアを占めていた。


「一度定着した便利なモンは簡単には手放せないって事かね?」


 まぁ真理だ。俺とて『危険性があるからVRゲームや携帯端末を捨てろ』と言われても、断固として拒否する。『俺の身体なんだから、どうなろうと俺の勝手だろ?』って拒否るだろう。『電化製品の無いエコな生活をしましょう』って言われてもお断りだ。だってそんな生活は不便だし嫌に決まってる。


———『もし使い続けると死にます』って言われれば流石に捨てるかもしれんがね。


 おっと、脱線しちまった。一度考え出すと思考がいろんな所に飛ぶのが俺の悪い癖だぜ。どの道、副作用があろうが治癒魔法もスキル・ポーション無しで魔物と戦闘なんざ自殺と一緒だ。地球に魔物やダンジョンが存在する限りは切っても切れない関係になるのは間違いない。それを気にしちゃ『エリクサー』自体がどんな副作用があるかって話しだ。ごちゃごちゃ考えるのは止めよう。


 この考えを続ければ自分の行いを否定し、泥沼に嵌ると気付いたので頭を振って強制的に追い出す。


 ———今は母を助ける事が最優先だろ?・・・・・・そう自分に言い聞かせ気持ちを切り替える。副作用にしても疲労が溜まっているだけの可能性もあるんだ。何れは検証するかもしれんが、今は深く考えない様に棚上げしておく。



 ◆



「ちょっと気も紛れたし、ユニーク武具のフレーバーテキストでも見ますかね?」


 テンションが下がりそうだったので、敢えて明るい声を出して寝そべった状態で掛け布団のようにしていた黒い外套【超電外套 エンセリアボルト】を手に掴むと上半身を起こす。


「【デスウイルス】はちょっとアレだったからな・・・・・・今回は使えるモンが来て欲しいんだが・・・・・・」


 訂正しておくが、【疫竜王】のユニーク武具【死験管 デスウイルス】は決して使えない訳じゃない。使いどころが物凄く限定される殲滅武装ってだけだ。


 ・・・・・実力者の証にして垂涎の装備であるユニーク武具を前に贅沢かつ我儘を言ってる自覚はある。・・・・・・だが、俺はもっと汎用性の高いもんが欲しいんだよ。


 自分の所有権のあるアイテムは≪鑑定≫が無くてもフレーバーテキストを見れるってのがありがたい。俺はウインドウを呼び出すと、通知の項目が点滅している事に気付く。


 見れば『通知が届いています。確認しますか?』などと記載してある。


「あん? 何だ~、また仕様の変更とかは勘弁してくれよ?」


 これまでも散々【運営】や仕様の変更に振り回されてきた俺としては、通知の類は歓迎したくない。

 だから戦闘中は余計な気を取られない様に通知が来ても知らせないように設定している。今は戦闘をしてないから未読の通知を知らせてきたんだろうが・・・・・・・・。


(見たくない、だが見ない訳にはいかんのが世の中の辛いところよ)


 ゲームで通知を無視すると碌なことにならんのは身に染みてる。アップデートなんかの重要通知の可能性だってあるからな・・・・・・どれだけ嫌でも見ない訳にはいかん。不思議と悪い予感がしないのがせめてもの救いかね?


「え~と、何々・・・・・・・・」


 通知の項目をタップして送信されてきた通知に目を通すと・・・・・・・。


『トップジョブ【天帝】の条件を達成しました。対応のクリスタルから転職出来ます』


 ・・・・・・ん? 思わぬ吉報に目を疑ってしまった。眉間をぐりぐり押してからもう一度確認するか。リトライっ!


『トップジョブ【天帝】の条件を達成しました。対応のクリスタルから転職出来ます』


 うん・・・・・・見間違いじゃねぇな。・・・・・おっしゃぁっ!! 思わずガッツポーズするくらい嬉しいな。これでもう一か所を回らなくていいぜ。


 ぶっちゃけなくても身体がマジでしんどい。学生時代3徹やった時よりもきつく感じてる。正直作業染みた周回は勘弁して欲しかったんだよ。ラッキーだったぜっ!!!


 これで大まかな過程はクリアした。最終的な目標の道筋が見えてきたぜ。


(【天帝】をある程度までレベリングしたらクエストに挑もう・・・・・・【殲滅王】のレベルは268か。確か前にギルド長が300を超すと上がりにくいって言ってたな。

 可能ならキリの良い所まで上げたいが・・・・・・いや、戦術の幅を広げる為にもさっさと転職するべきだな)


 簡易ステータスウインドウを確認しつつ今後の動きを決定していく。


「このコンディションで雑魚なら兎も角、ユニークモンスターの相手はマジできついってか無理ゲーだ。最後は・・・・・確か【鎧獣王】だっけか?」


 俺が二体。クレアが一体討伐しているから残りは一体だ。その名称を思い出す。


 名前だけ聞いても硬そうで強そうだ。既に切り札の1つ≪限定昇華≫は切った。決して無敵のスキルじゃないが、特化型にはメタを張れるほど有能なスキルだ。そんなスキルも無しに好き好んで強いのとドンパチやりたくない。それに既に戦果は充分、充分すぎるほどだ。


「【伝説級】のユニーク武具2つ・・・・・クレアも含めて3つ。これ以上は欲張りすぎだ」


 4か所あったスタンピードの発生源の内の3つを叩き潰した。それ以前に神代遺跡(盗掘)の成果だけでもお釣りが来る。


 ゲーマーの鉄則の1つ。季節イベや限定イベは引き際を見極め、必要以上に欲張らない事・・・・・さ。


 クレアの戦果は隠さなきゃならんが、ソロで魔物の軍勢を4か所中2か所潰したんだ。実績に勝る証言無し。有象無象の文句など、この実績で幾らでも黙らせることが出来るはずだ。


「もし何か言ってきたら『それでしたら私が提供した魔物の素材は全て返却していただきたい』とでもいえば容易に黙らせられるな。戦闘を終えた事で今も周囲に転がっているドロップが万単位。これの価値はガキでも分かる」


 ギルド・冒険者共にタダで報酬や大量の素材が手に入る。実質的には何の損もしていない。大規模戦闘後に必須の武具修理などによる経費も無い訳だ・・・・・丸儲けだろ?よっぽどの馬鹿でも無ければ騒ぎはすまい。


「ユニーク武具の検証はクレアと一緒にやるか・・・・・後で説明するのも面倒だし。それより残った通知を見てみるか」


 クレアの進化先についても聞いておきたい。どうせなら一緒の方が手間が省ける。そう考えて次の通知をタップした。


『【殲滅王】のレベルが上昇しました。奥義≪カタストロフィー≫を修得しました』


 オー遂に奥義を修得できたか。上級職は最大レベルで奥義を覚えるが、トップジョブは条件を達成形式なんだよな~。ま、効果は・・・・・・・・・・。


 〇≪カタストロフィー≫

 武具の破壊を条件に、武器の威力を10倍加する。使用と同時に武器は耐久がゼロとなり完全破壊される。


 【殲滅者】の奥義≪ターミネイトタイム≫が、時間制で耐久消費の倍加と威力の倍加と考えると、ある意味この形に落ち着くのは当然かもしれんな。正に一撃必殺・・・・・如何にも【殲滅王】といった所だろうさ。・・・・・・おっちゃんの作った武器で使うのだけは止めとこう。げんこつ案件だからな。


 さて・・・・・次々。


『志波蓮二のアバター【カオス】が進化しました。ステータスを参照しますか?』


 マジで?・・・・・・・見るに決まってんだろ?イエスだイエス。


 〇【カオス】

 〇レベル・Ⅲ(中級)


 〇固有スキル・≪メタモルフォーゼ≫・≪混沌属性生命体≫・≪残証之記録≫・≪部分変化≫・≪幽世の真理眼≫


「ふんふん・・・・・この≪幽世の真理眼≫ってのが今回増えた項目だな。さて・・・・どんなもんかね」


 ≪残証之記録≫のスロットも拡張されたらしい。スロットの数が5個から10個になってるな。【雷鳥王】の≪ライトニングボルテックス≫を記録して空きがなくて困ってたところだ。コイツは助かるね。≪メタモルフォーゼ≫は特に変化なしか・・・・・・。


 ま、いいさね肝心の≪幽世の真理眼≫はどんな能力だ・・・・・・・。


 〇≪幽世の真理眼≫

 情報次元へとアクセスする事で、様々な事象や因果律を視認する事が出来る。1度の使用による連続接続は最長で60秒。1日の最大接続時間は300秒。使用中は体感速度が超減速状態となり、世界を俯瞰的に捉える事が出来る。


 ・・・・・要は見えない物が見えるようになるって事け? で、使用中は周囲の動きが超ゆっくりになって360度の視界を得る。

 スポーツ選手が稀に語る上空からフィールド全体が見える俗にいう『神の視点』になるって事かね?


 時間が小出しで制限されてるの怪しい感じがする。


「・・・・・それって・・・・・・人間超えてない? いや、俺の種族はとっくに人間辞めてんだけど・・・・・・何か脳にも悪そうな感じがプンプンするね」


 ・・・・・・・疲れてるんで試してみるのは後にしようか。・・・・・うん、そうしよう。


 現実逃避の後回しなのは理解しているが、今の俺は疲れてんだよ。さて、どうやら最後の項目のようだな。


 次の情報は俺の眼を驚愕で見開かせた。


『緊急クエスト『魔物大氾濫』がクリアされました』‥…だと?


 はえ? ちょっと待てよ。クエストクリアって・・・・・・俺たち以外の誰かが【鎧獣王】を始末したって事か? ひょっとして魔物も? まさか・・・・クレア。

 いや、アイリスが病み上がりのクレアに無茶させるはずがないな。それに北部にいるクレアたちとは距離がある。じゃあ誰が討伐したんだ? 


 凶報・・・・・俺のザマを見りゃ寧ろ朗報だな。面倒な手間が省けた訳だし。でも誰が動いたんだ?


「まぁいいか。どうせギルドで吊るし上げを喰らうことになる。その時に確認すりゃいいか」


 ごちゃごちゃ考えんのは止めだ。確認する気力も余力もない。気にならないか問われりゃ気になるに決まってるが、今の俺じゃ下手に動くのは悪手だろうさ。ユニークモンスターを2体討伐したんだ。この後でギルドに呼ばれんのは確実だ。その時に聞いてみりゃいい事さね。


 だがまだアナウンスは続いている。クエスト達成の報酬を告げるアナウンスが。


『クエスト終了に伴い、これより報酬を贈与します』


『最多討伐者を選定開始――――――志波蓮二が選ばれました。志波蓮二のインベントリに『エルト二ウム天結晶』を贈与します』


 アナウンス終了と同時に・・・・・インベントリに『エルト二ウム天結晶』なる名称が現れた。


 取り出してみると、明らかにヤバげな輝きを放つ黄色い水晶が掌に現れる。怖いわ!! てかこのリアクション前にやったような気がするんだが?・・・・・細かい事は気にしないでおこう。


『クエスト達成討伐対象【疫竜王】・【雷鳥王】・【淫蕩天魔】・【鎧獣王】の討伐者を選定開始―――志波蓮二・クレア・リーゼロッテが選ばれました。志波蓮二のインベントリに『ノーデン・セル』・『バリアント・シナプス』を贈与します』

 

 アナウンス終了と同時にまた新たな項目が・・・・・・・。


 取り出すと、禍々しいオーラを放つ黒い肉塊と紫電を迸らせるワイヤーが現れる。やっとこさ真面なモンが来て―――ねぇよっ! もうちっと日常使い出来るモンを寄こせやっ!! 効果を見なくてもヤバい使い道しかなさそうだよっ!!


 思わず叩きつけたくなったがグッと堪える。ぞんざいに扱うと呪われそうな感じがするしな。


 これも後で戦果報告で見せりゃいいか。それよりも重要なのは【鎧獣王】を討伐したリーゼロッテって奴だ。


「ユニークモンスターを討伐する位だ。出来る奴なのは間違いないが、聞いたことも無いんだけど・・・・・高ランク冒険者で聞いた事が無いんだよな・・・・・」


 このアナウンスはこの世界の住人には聞こえていない・・・・・と思う。あんま突っ込んで藪蛇になるのは厄介だが、それとなくギルドで聞いてみようかね。おっと・・・・・最優秀者の発表がまだだったな・・・・・・。


『本クエスト達成における最優秀者の選定開始―――志波蓮二が選ばれました。志波蓮二のインベントリに『最高位誓約書』を進呈します』


 そのアナウンスが終了すると同時に、俺の頭上には羊皮紙が現れる。


 外見はみすぼらしく古めかしく汚い畜生の皮だが、俺の勘が警鐘を鳴らしている・・・・・これが一番ヤバい・・・・・と。


 案の定といっていいのか、≪鑑定≫でフレーバーテキストを確認した俺は驚愕の咆哮と共に腰を抜かす羽目になった。


 【運営】に一言いわせて頂きたい。


「テメーらは世界を滅ぼすのかーーーーーーーーーーーーー」・・・・・・と。


 ものすごく今更な発言かもしれんのが何ともアレだった。

お読みいただきありがとうございます。


第六章はこれで終了となります。活動報告に今後の予定が記載してあります。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱ面白いこの作品は
[一言] 確かにレンジの母のためにエリクサーゲットが最終目標だしな。レンジの性格から考えたらまた新たな目標でも見つかんない限りひっそりと身を隠しそう。そういう話もまた面白そうだけどね
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