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第190話 意地と意地のぶつかり合い


 強大な雷の球体が大地を蹂躙し、迸る紫電が収まり煙が晴れる。


 そこには巨大なクレーターが形成されていた。生意気な目を向けてきた人間が跡形もなく消し飛んだのか、どこにも確認できないのを見て【雷鳥王】は高らかに笑う。


『Piiiiiiiiiiiiiiiっ』


 自分の放った攻撃によって周囲は荒れ地となり草1つ生えていない。その圧倒的といえる威力とそれを引き起こした自らの力に酔いしれる・・・・・・だがそれも僅かな間のこと。


 ヤレヤレとでもいうように首を振り、慢心を振り払うと


 【雷鳥王】は慢心や油断こそが最大の脅威だと理解しているからだ。


 その考え方をするようになったのは【雷鳥王】がユニークモンスターへと到達する前、・・・・それよりもさらに前の生い立ちまで遡る。


 今でこそ屈強な体躯と強大な力を誇っている【雷鳥王】だが、は生まれた時より弱く雷属性を持つ怪鳥種、『サンダーバード』の小さな未熟児に過ぎなかった。

 ある程度の年齢に達しても同世代と比べて体が小さく狩りさえ碌に出来なかった。それ故に親から捨てられ群れから放逐されたのだ。非情ではない、野生の世界は弱肉強食。『サンダーバード』はそれなりに強い種族ではあるが、生息地の生態系で頂点に達している訳ではない。種族を脅かす敵はそれなりに存在したのだ。

 野生の中で親の助けを借りなければ生きていけない子供など、何の価値も無い。食い扶持を無駄に消費する厄介者でしかないのだ。


 まだ子供といっていい雷鳥が野生の世界で生きていくのは困難という言葉では表せないほど過酷な物だった。周囲には自分よりも強い物しかいない。助けてくれる存在もいない。

 そんな中で泥水をすすり、死肉を漁り幾度となく死の淵を彷徨った。それでも寄生のような行動をして少しづつ力を蓄えていき紆余曲折を経てユニークモンスターへと至る事が出来た。


 今日まで自分が生き残ってこれたのは如何なる時でも憶病なまでに慎重だったから。自らの実力を誇りはするが驕りはしない。自分の真価はスキルでもステータスでも無く、この自負こそが自分の根幹であると確信しているので過信も慢心も無い。あったとしても直ぐに気付き戒める。


 既に死に体であったレンジに最大の威力を誇る≪ライトニングボルテックス≫を使用したのも確実にレンジを始末するため。

 巨大な雷を対象にぶつける事で発生したプラズマ雲に、自身が纏う黒雷———攻防一体のスキル≪堅弩重雷≫を叩き込むことで、圧力をかけ大爆発を起こす一撃必殺のスキル。そんなスキルを死に体といえる相手に使用したのやりすぎだったかもしれない。それでも確実に始末しておくべきと直感———これまで生き延びてきた弱者の勘が警鐘を鳴らしたから。


 自分がこれまで生き延びてこれたのは、この勘に従ってきたからだと確信している。故に対価を支払う切り札を切るのにも躊躇いはない。それによって自身を護る黒雷が一定時間消失し弱体化したとしても・・・・・・。


 そう【雷鳥王】の身を守る黒雷。雷を様々な形に変える攻防一体のスキル≪堅弩重雷≫は非常に、非常識に強力なスキル。

 防御に回せば電磁バリアとしてあらゆる攻撃を防ぐ盾となり。攻撃に回せばその威力を以てあらゆる防御を貫く矛と化す。その電磁力を利用して瞬間移動と見紛う速度での移動も可能だ。だがその代償として蓄積できる電力には限りがある。


 一度蓄積された全ての電力を使い切ると、最大値蓄電しなければ発動する事が出来ない欠点がある。蓄電が完了するまでの時間は凡そ1時間。その間は攻防の要である黒雷を纏う事が出来ない。

 それ以外のスキルを使用する事は可能だが、【雷鳥王】の強さとは≪堅弩重雷≫によるものが大きい。自身のスキル使用に伴う膨大な消耗は≪堅弩重雷≫の能力によって賄っている。それを失ってしまえば、雷を使用する巨体で鈍重なヒヨコにまで成り下がってしまう。


 それを分かっていながら≪ライトニングボルテックス≫を使った。既に眼前から消え去った存在(レンジ)に自身の能力に対応する時間を与える方が危険と判断したからが故に・・・・・・。


 しかし、その判断は結果的に間違っていたと言わざるを得ない。何故ならば・・・・・・。


『Pipyui?・・・・っ!????』


 【雷鳥王】の胴体を漆黒の大剣『激竜剣・獄』が貫いたからだ。出血を伴う激痛と共に、背後から声が聞こえてくる。


「よぉ~、やってくれたなデブヒヨコがッ!! 借りはノシを付けて倍返しさせて貰うぜっ!」


 そこには先ほど葬ったはずの人間(レンジ)が血走った目で狂気の笑顔を浮かべていた。傷こそ塞がっているが、出血した血が乾ききり肌を覆っている。その姿は狂戦士か魔物といっても遜色がないほどに恐ろしい。 


「PiPi」


 このままでは不味いと前に逃れて自身を貫く剣を抜こうとする。・・・・・が『激竜剣・獄』は形状を直剣から返しの付いた拷問器具のような形状に変化させ、【雷鳥王】を逃さない。剣の持つスキル≪形状変化≫は使い手の意志によってその形状を自在に変化させる。無論刀身の体積を超える変化は出来ない上に、細くすればその分耐久も落ちる。だが元々の硬度・耐久共に3級の中では最高峰。柔らかい内側の肉程度で折れる事はない。


 自分の身体にしがみつく虫を振り落とさんと空中でアクロバットな軌道で飛びつつ激しく藻掻く。


 しかしレンジは剣の柄を握る力を緩めない。


『Pikyuっ!? Kyu』


「うるせぇっ!」 


 自身のHPが一気に失われる感覚に驚愕しつつもそこは流石に歴戦の猛者。身体から剣を抜く事は諦めて先にレンジを殺すべく背後に雷を放出する。≪堅弩重雷≫の黒雷よりは劣るが、それでもユニークモンスターの雷。その上レンジは【雷鳥王】に密着しているといっていい状態だ。躱す事は至難の業。【雷鳥王】の身体を覆うように放たれた雷はレンジに直撃、その肉体と装備を穿つ。


 だがレンジは雷の直撃を受けても平然として大剣を掴む右手を離さないどころか、吼えながら空いた左拳を貫手にして何度も突き刺していく。雷の威力が弱い訳ではない。現に装備は・・・・・属性攻撃に高い耐性を持つ竜の武具は煙を上げている。


『PiPi・・・・・・Kyuuuuuuuuuuuuuuu』


【雷鳥王】の身体が穿たれるごとに鮮血が飛び散り苦痛の鳴き声を上げる。だが痛みに耐えてレンジを振り落とそうと空中で激しく動くが、レンジは決して大剣を掴む手を離さない。

 ここで剣を離せば【雷鳥王】は逃げ出すと確信のようなものがあったから・・・・・・。


(コイツは俺と同じ臆病者で・・・・・・強い奴から逃げ出すのを恥と考えない。何よりも自分の命を最優先にする手合いだ。死に体だった俺に大技を使って止めを刺そうとした事からその可能性が高い・・・・・・逃がすと後々面倒になる)


 本来なら死に体のレンジを殺すのに大技など必要ない。最初に獄炎を切り裂いた雷刃でも充分だった。


(それなのに大技を使った・・・・・いま黒雷を纏っていないのはその代償と見てイイはず。わざわざ自分を弱体化させる大技を使ったのは、俺を確実に排除したかったからだろう・・・・・自分の力を過信した自信家なら死に体の雑魚相手に弱体化する大技などは使わん)


 交友関係こそ狭いが、様々な仮想世界で多くの人間と関わってきたレンジは様々なタイプや性格のゲーマーと出会ってきた。『ゲームだから何をやっても許される』と勘違いし人の迷惑を顧みない者や、名を売りたくて派手な振る舞いをする者。逆に『ゲームだからこそ守らなければならないルールもある』と考える者、手の内を決して晒さない慎重すぎるほど用心深い者もいた。


 その経験則から【雷鳥王】は憶病という結論に至った。大技を使った事から、派手な振る舞いが好きなタイプかとも思ったが、現在進行形で決死の表情で必死に抵抗している姿からはどうも結びつかない。


 あくまでもレンジの勘から導き出した推理とさえ言えない結論でしかない。だから今が討伐の・・・・・【雷鳥王】を討伐する絶好の好機であるのは間違いない。


(あの黒雷を纏っていない今が討伐のチャンスだ・・・・・今のこいつには速さがあっても迅さがない。

 俺を吹き飛ばした視認出来なかったあの攻撃は雷を纏ったタックルだろう。アレを使われたら俺の勝利は一気に遠のく)


 だから今が討伐の・・・・・レンジは名を知らぬが黒雷≪堅弩重雷≫を纏えない状況こそが【雷鳥王】を討伐する絶好の好機であるのは間違いない。

 黒雷を再度纏ってしまえば自分には手に余る厳しい相手だと短い攻防で把握していた。


(≪制限昇華≫の効果が切れる前に・・・・・・雷属性に耐性がある内にケリをつける)


 そう・・・・・レンジが≪ライトニングボルテックス≫で無事だったのは≪制限昇華≫によって雷属性無効を獲得したから。そして時天魔法『短距離転移』で【雷鳥王】の背後に転移。爆風と爆音に紛れて≪光学迷彩≫≪気配遮断≫で姿を隠しつつ油断を誘い奇襲したのだ。


 計算尽くではなく運も味方した。レンジの【アバター】の≪混沌属性生命体≫は物理攻撃を無効化するが、属性被ダメージを倍加するデメリットがある。

 レンジを吹き飛ばした雷のタックル≪ライトニングチャージ≫によるダメージは大半が雷属性によるものだった。故に自分が最もダメージを受けた属性に完全耐性を付与する≪制限昇華≫は、最もダメージを受けた雷属性の完全耐性を与えてくれた。獲得した耐性が打撃無効になっていればレンジは敗北していただろう。


 その運が味方して好機となっただけに過ぎない。


 もし初見で雷属性無効が無い状態で≪ライトニングボルテックス≫の直撃を受けていたら、レンジは即死・・・・・いや、『身代わりの腕輪』で一度は耐えられるが、続く大爆発で焼死していたはずだ。これも幸運が味方した結果といえる。


(そう何度も幸運が続くはずがない。いま生きてるのさえ運が良いだけ。それにここで逃がせばコイツは俺を敵と見定め執拗に狙ってくる)


 その予感がある。【雷鳥王】の生への執着は、自分を脅かす者、害をなす者を許さないだろうという予感が。レンジとしてはそれは困るのだ。


(このデブが俺を狙ってくるだけってのもウザったいが、最悪の場合はギルドから後始末を押し付けられる。ユニーク武具は諦めればいいだけだが、厄介ごとを押し付けられるのは御免だぜ)


 レンジは自分がグレーゾーンの行いをしている自覚はある。無害なユニークモンスターを逃がしただけなら責任を追及されようもない。だが今回の【疫竜王】にしろ【雷鳥王】にしろ、魔物を追い立てスタンピードを発生させている。要は人界の脅威となる敵対行為を明確に行っている。


 ——ギルドとしてはその事実を無視できない・・・・・もし逃げでもしたら同じ事をしないとは限らないからだ。


(ギルドの作戦に従って逃したなら全員の責任だが、好き勝手にやって逃がしたとなると俺に責任転換する馬鹿が出て来るかもしれん・・・・・実際に俺の責任だろうからな。下手すりゃソロで【雷鳥王】を討伐してこいと命令される恐れもある)

 

 そもそもギルドを無視して個人が勝手に魔物の大軍に喧嘩を吹っ掛ける方が非常識でグレーゾーンだ。それ故レンジはギルドと冒険者に討伐した大量の魔物の素材を譲り、ユニークモンスターを討伐した実績を以て周囲を黙らせようと目論んだのだから・・・・・。


 非常識かつ横紙破りであろうとも、ギルドは大量の魔物の素材を入手。冒険者は無傷で報酬を入手。レンジはユニーク武具を入手。


 ・・・・・と(レンジからしてみれば)誰も損がない素晴らしい計算式が成り立つのだ。正常な脳をしている者なら正気を疑うだろうが・・・・・・・世の中は結果こそが全て。

 外野がどれだけ騒ごうが、最上の結果は周囲の雑音を黙らせる力がある。レンジはソレを狙ったのだが、【雷鳥王】を逃せばその展望は崩れ落ちる。


 横紙破りは結果を出すから黙認されるだけで、結果を出さなければ責任を問われるのが世の常。例え道理でも、この忙しい時に余計な時間を取られるのは勘弁願いたいのだ。




 レンジが思案している間も戦闘は続いている。


 雷ではレンジを殺せないと理解したのか【雷鳥王】は先ほどから自分の身体ごとレンジを大地に叩きつけるという荒業を行っている。レンジを振り落とせれば良し、始末できればなお良しといったところだろう。激しい動きの代償に内部に突き刺さった剣が動いて傷口が広がり血が更に飛び散っても【雷鳥王】は苦悶の表情を浮かべても、無茶苦茶な機動を止める素振りはない。雷撃が効かぬ以上、【雷鳥王】はレンジに有効な攻撃オプションを肉弾戦以外持っていない。


 その姿は痛々しく不格好だ。しかし【雷鳥王】にとっては自分が他者にどう映るかなど些事でしかない。


 その瞳は『何としてでも生き残る』決意に満ちている。


 幼少より弱肉強食の断りの中で息抜き、生死の境を彷徨った経験から、諦めた時が真の終わりであるとは知っているから。


 今もレンジを振り落とさんと、空中を激しく不規則に飛行しつつ。ときおり緩急をつけて大地に身体ごとぶつける行為を繰り返している。


 だが【雷鳥王】が自らの命を最優先にしているように、レンジとて何が何でも成し遂げたい想いがある。救いたい人がいる。


「生き汚い奴は嫌いじゃねぇ。少なくとも直ぐに諦めちまう奴よりかは好感が持てるわな・・・・・だが俺にも叶えたい望みがあるんでな・・・・・ここでお前を逃すわけにゃいかんのだわ」


 歯を食いしばりつつも、今も命を燃やし尽くさんばかりの【雷鳥王】にそう吼える。


 雷撃は耐性によって耐えられる。だが地面に叩きつけられる衝撃と激痛は根性で我慢するしかない。実体化を解けば物理攻撃は無効化できるが、剣を握る事が出来なくなる。どれだけ不格好であろうとも剣を離すという選択肢は存在しなかった。


 魔法は使えない。【雷鳥王】に有効打を与える威力の魔法は属性被ダメージ倍加によって自分(レンジ)さえ殺しかねない。泥臭かろうがこの状態を維持するのが最善なのだ。


「ここまでくりゃ我慢比べだ・・・・・こちとら継戦能力には自信があってな。どっちが我慢強いか勝負と行こうじゃねぇかっ!!」


『Pyuipyui』


 気勢を上げて笑うレンジに【雷鳥王】も鋭く鳴き返す。


 両者の目は告げている『勝つのは俺だっ!!』‥…と。


『KyuKuuuuuuuuっ』


 方針を変えたのか、これまでの自分諸共地面に叩きつける機動から低空飛行でレンジを地面に擦り付けるような機動に変更する。 


「ぐごごごごご、てめっ、調子こくなやっ!」


 大地とキスするような形で引き摺られその衝撃に意識が飛びかけ奇声を発するが、剣の柄から手は離さない。逆に空いた拳を連続して叩きつける。本当ならば刺さっている剣で両断したいが、筋肉を圧縮しているのか、多少動かせはするがどうしても振り抜くことが出来ない。


「Piiiiっ」


 殴られた痛みで苦悶の鳴き声を上げるが、レンジを引きずるのは止めない。正に意地と意地のぶつかり合い。だが勝負の天秤は徐々にレンジの側に傾き始めている。


 どれだけ継続的にダメージを与えようと、レンジは直ぐに回復してしまうからだ。その一方で【雷鳥王】はダメージがもはや無視できないレベルに達している。


 ——なぜ両者にここまでの差が付くのか?


 その理由はレンジの保有する≪医食同源≫にある。摂食した物のレアリティを参照にHPを回復させる一見すると地味なスキルだ。しかし≪食納庫≫に収納してある素材を摂食する事で、ノータイムでHPを回復する事が出来る。この戦闘で≪食納庫≫に収納してあった素材は、既にそれなりに使い切っている。


 何よりも戦闘中であろうと、手を使わずとも回復できる点が大きい。


 ≪暴威暴食≫でステータスの底上げをしないのは、手が塞がった状態でポーションなどの回復アイテムが使用しづらいため。そして万が一に備えた回復手段を確保するための保険でもあった。 


 高性能な回復手段を持つ(レンジ)と、回復手段を一切持たない(【雷鳥王】)。多少HPが高かろうが、どちらに天秤が傾くかなど自明の理でしかない。


「おらぁっ!」


 勝負を決めるべく左手を限界まで刺し込み古代魔法『氷釼星霜』を発動。本来なら広範囲を極寒の結界で包み込み、結界内に巨大な氷剣を降り注ぐ大技。それを【賢者】のスキル≪魔力圧縮≫で範囲を限界まで圧縮し・・・・・【雷鳥王】の体内で発動した。


 ———その結果は・・・・・・・・。


『GyuPyugyuuuuuuuuuuuuuuuuっ!!!!!』


 極大の氷剣が幾つも【雷鳥王】の体内を突き破り飛び出す。激痛などという生易しい表現では済まない痛みから絶叫を響かせる。氷剣に全身を貫かれ、青い血が飛び散り黄色の体毛を真っ青に染め上げてなお、それでもまだ生きる事を諦めない。


 敵手———レンジを厳しく睨み再度、地面へと叩きつけようと身じろいでいる。


「見る者が見れば見苦しい悪足搔きにしか見えんよな? でもそれは何も賭けていない外野の台詞さ。俺は足掻く奴は好きだぜ・・・・・どれだけ小さい確率でも足掻かなければ手に入らないからよ・・・・・・」


 しみじみと呟くが、その声音に馬鹿にした雰囲気はない。おべっかではなく本心からそう思っているからだ。

 確かに【雷鳥王】は死に体・・・・・残された命はあと僅かだろう。激戦の代償で全身は血塗れで傷付いていない個所を探す方が難しいほど。今の姿は威厳も何もない。とても怪鳥種の王には見えない。


 ———だが、だからこそレンジの目には輝いて見えたのだ。もし自分がこの状態になったとして「ここまで諦めずに動き続ける事が出来るか?」・・・・・・と。


 さりとてレンジも無傷ではない。先ほどの『氷釼星霜』を間近で、自分に及ぶ被害を最小にするため【雷鳥王】に体内で放ったため。

 冷気が左手を侵食して付け根近くまで凍り付き『凍傷』の状態異常を誘発している。


 このまま無視して離脱しても、【雷鳥王】はかなりの確率で死に至る。安全策を採るならばソレが正解で最善のはず。


 だがレンジはその手段を択ばない。


(その選択は絶対に選んじゃいけねぇっ。確実に殺しておかないとヤバい。俺の勘がそう言ってるんだよっ!)


 ここまで生に執着する存在が、放っておいて自然死するとは到底思えない。レンジとしては死を確認しない事にはとてもじゃないが安心できないのだ。それ以前に、ここまで戦った相手の自滅を待つなどレンジ的に気に入らない上にダサいにもほどがある。


「勝つのは当然として、勢いの付く勝ち方が必要なんだよっ!」


 ただ勝てばいい訳ではない。非科学的な上に根拠さえ無いが、流れ・・・・・・運を呼び込むためには気持ちの持ちようが重要だ。みみっちい勝ち方は安全かもしれないが、運を遠のかせる。というのがレンジの持論だ・・・・・・。


 ———そのためにも、締めは派手な大盤振る舞いで片を付ける。


 楔として突き刺さっている『激竜剣』を針のように細くして抜き取ると、元の大きさに戻しつつ凍り付いた左腕を斬り落とす。その反動を利用して【雷鳥王】の巨体を地面に向かって蹴りつけた。


「Pyupyupyuっ」


 急に軽くなったと思ったら、身体に衝撃が走り吹き飛ばされている。訳も分からず地面に激突しそうな事態に、驚愕の悲鳴を上げるが・・・・・既に遅い。


「古代魔法ってのは何でこんなにMPを喰うんだよ。絶対に仕様がおかしいぜ・・・・・まぁその分威力がおかしいんだけどよ・・・・・・」


 そうボヤくほどに古代魔法はMP消費が激しいのだ。現在のレンジだと、万全でも5回ほどでMPが枯渇するほど燃費が悪い。


 それもそのはず、古代魔法は膨大なMPを持つ異形種の固有魔法だ。人間種なら魔法系統のトップジョブを得ないと、その消耗の大きさにまともに運用が出来ないほど燃費が悪い。


 ———だが・・・・・燃費に見合った効果だけは保証できる。


「これで終わりだ・・・・・・『割断葬層』」


 引き摺られている間も準備を進めていた魔法が発動する。【雷鳥王】が地面に激突する直前。大地が陥没して突如【雷鳥王】がすっぽりと通れるほどの断層が現れる。その深さは1000メートルに達し、断層の壁面には地中の硬度の高い鉱物を圧縮した棘が無数に突き出している。


『Pigyuaaaaaaaaaaaaっ!!! Piiiiiiiiiiiiiii!!!』


 この先は地獄の穴底と理解したのか必死で翼を動かし、唯一の脱出口である上空を目指そうとする。しかし、その陥没はまるでサイズを測った様に【雷鳥王】がギリギリ通れるほどの隙間しかない。故に・・・・・・翼を動かす事が出来ない。


「Gyukyuっ!!!」


 血塗れの身体に鞭を撃ち、諦めじと壁に向かって雷撃を放つ。・・・・・が、多少の凹みは作れる。だが巨体が通れるほどの隙間・・・・・・脱出路にはほど遠い。


『Bigyuっ』


 頭上に衝撃が走り、何事かと上を見ると・・・・・・絶望が訪れていた。唯一の脱出路であった上空の穴が閉じ、上から徐々に壁が狭くなってきているのだ。このままでは完全に閉じ込められてしまうのは明らかだ。例え針地獄が待ち構えていようとも、圧死したくなければ下方へ逃れるしかない。


 ———逃れた先も・・・・・地獄だったとしても・・・・・・。


『Gyu・・・・・・Byu・・・・・Ckyuuuuuu』


 血塗れの身体が、突き出ている棘に揉みくちゃにされ更に血に塗れる。それでも下へと逃れる、そこに生還の道があると信じて・・・・・・・・。だが待ち受けていたのは非情だった。


 底に近づいて目にした物は、鋭い突起が無数に突き出た針の山。余りの光景に絶句している内に天井が追いつき、巨体を徐々に底へと押しやり始めた。


『Pi、Bogyuuuuuuuuuuuu!!!!』


 もはや雷撃を放つ気力もなく。残された力で天井を持ち上げようとするが、ビクともしない。それでも力を込めるが、【雷鳥王】の身体は下へ、下へと追いやられ突起が少しずつ食い込んでいく。


 無数の突起が肉体を半分以上食い込んだ時、【雷鳥王】は遂に抵抗を止める。既に感覚もなく、瞼が重くなり何も考えられなくなっていた。


 スパイクが全身を貫いたとき、雷鳥王の姿は翼と脚を壁に押しやり抗っている姿を取っていた。無意識でも最後まで抗っていたのだ。


 HPが尽き【雷鳥王】は光となり、消失した。


 最後は意識さえ無かったはずだが、最後まで生を諦めなかった自分に満足していたのか、その表情はどこか誇らしげですらあった。 

お読みいただきありがとうございます。


本日は十二時にもう一話投稿します。

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