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第182話 理屈と感情


 〇<疫竜王戦闘跡>【殲滅王】シレン


 はぁ~メンドくさ~い。それが俺の素直な感想だ。だが面倒でも疫竜王の討伐を報告しない訳にはいかないのが辛いとこだぜ。


(無視すれば後でもっと面倒な事態になるという予感がビンビンするんでな)


 ホウ・レン・ソウはこの世界でも大事なのだ。予想でさえないが絶対に絡んでくる馬鹿はいる。でも強キャラムーブで強引に乗り切ろう。


 内心で拳を握り決意を決める。


(殺さなきゃいいんだよ、殺さなきゃ・・・・・な)


 殺してないならどうとでもいい訳が出来る。要は相手に絡まれるよう仕向けりゃいいんだ。温厚な俺から手を出す気も無いしな。そうすりゃ相手は血の気の多い冒険者。正当防衛が成り立つ。


 それに俺が【疫竜王】を討伐したからって、冒険者に損をさせた訳じゃない。討伐した数千単位の魔物の素材はくれてやるつもりなんだ・・・・・。これから会うだろう冒険者連中は主戦力じゃなくて主力を温存するための数減らしのオマケ、露払いだろ? 主力ならフギンやジークがいないはずないからな。


(今から会う連中は数減らしと【疫竜王】を少しでも消耗させるための中堅どころ、噛ませ犬って訳だ・・・・・直接言わない程度には分別はあるんで言わんのが俺の優しさだよ)


 問題はそういった中途半端な馬鹿ほど相手との力量差を弁えないって点だが……フギンなら統率役にそれなりの実力者を混ぜているはずだ。それに期待しよう。


 連中も自分がユニーク武具を獲得できるなんて思ってもいないだろうし、本来なら激戦の末に手に入る素材を大量に譲ってもらえるんだから損はないって理屈だけは分かってるはずだ。


「・・・・・だが理屈と感情は別問題なんだよな~」


 そう・・・・その程度は多少頭が回り、損得勘定が出来るなら簡単に辿り着く結論。頭の切れるガキでもどっちが得か分かる。


 だがユニーク武具を手に入れたのが、ファーチェスでイカサマ冒険者と悪名を轟かす俺だと話は変ってくる。確かにフギンやギルドが釈明し、俺への誤解は解けつつあるらしいが、中堅以下、それもフリーの冒険者は別。そういった連中は止める者もいないから一度思い込むと袋小路に入る。鬱陶しい事この上ない。



 そんな輩からしてみれば、フギンやジークといった実力者がユニーク武具を獲得したなら諦めも付く。・・・・・元々手に入る確率は限りなくゼロに近いからな。だが格下———見下している俺となれば憤るに違いない。暴力に訴えてくる確率はかなり高い。


 世の中理屈だけで片付きゃ戦争なんて起きんし、警察も軍隊も要らんのだ。


(歴史を紐解けば分かり切った事だが、人間は何だかんだで階級や序列に拘る。上の者が目立つ分には目を瞑っても、格下が目立てば目くじらを立てるってもの)


 俺としては絡んでくる馬鹿を恐れている訳でも、争いを恐れている訳でもない。俺がソロで魔物の大軍を討伐してユニークモンスターまで討伐したのは覆しようがない事実だ。それは俺の手にしたユニーク武具が証明している。その程度さえ分からず、実力差を弁えずに絡む馬鹿を恐れる必要性は皆無といっていい。冒険者が俺に抱く印象や評価などもハッキリ言ってどうでもいい事だ。ギルド側が正しく評価して買い取りさえしてくれれば何一つ困らん。


「だが無駄な諍いや争いごとを好む訳じゃねぇんだよ」


 俺は基本的に(現実世界では)平穏が好きだ。必要なら諍いも起こすし、暴力には暴力で返す主義だが、必要も無いのに争いに首を突っ込むようなトラブルメーカー気質では断じてない。無いったら無いのだ。


 それに恨みは巡り巡って自分に帰ってくる。これから忙しくなるってのに、そんな因果は勘弁願いたいのだ。


「馬鹿どもに長々と付き合ってるような暇も無いしな」


 アイリスがいるから大丈夫だと思うが、やはりクレアの方も心配だ。なのに馬鹿の相手を一々しなきゃならん状況がただひたすら憂鬱だった。


 面倒極まりないが、防衛線らしき陣地(多分アースウォールで壁を作ってるんだろう)と冒険者の反応があった。億劫だが渋々足を進めることにした。





 ◆


 はい、説明したら予想通りのテンプレ的展開です。呆れを越すと笑いが込み上げてくるのは本当らしいな。 


「スタンピードの魔物を殲滅し、ユニークモンスターまで討伐しただと? ふざけるのは大概にしろっ!」


 陣地に辿り着いた俺を待っていたのは、案の上というべきか俺を良く思っていない冒険者に囲まれての詰問だった。相当殺気立っていて今にも俺の胸ぐらを掴まんばかり。話の分かるであろう者も面倒ごとに巻き込まれるのが嫌なんだろう、遠巻きに眺めている。だが俺はこの連中に付き合う必要性を認めていない。


「問答をする気はありません。何もしていない方々と違って私は忙しいものでしてね」


 挑発に何人か殺気立つが全く怖くない。この連中に構っていても時間の浪費だ、さっさと済ませるかね。現に俺は功労者だ。嘘ついても無いのにぼさっとしてる馬鹿相手に下手に出るのも面倒って感情が強い。


(まぁもう少し補足説明はしておくか)


 アイテムボックスから【死験管 デスウイルス】を取り出して俺を取り囲む冒険者共に見せてやる。ユニーク武具はユニークモンスター討伐を示す最たる証拠。疑いと嫌悪のまなざしで俺を見ていた連中も、驚愕に目を見開いて俺とデスウイルスを交互に見る。


「【疫竜王】の討伐の証明です。これで文句はないでしょう? 私が来た先を見に行けば、魔物の素材が大量に落ちているはずです。それは好きにしてください」


 まずユニーク武具を見て驚愕に目を剝き、続く言葉で何人かの目の色が変わった。冷静に損得勘定を計算したんだろう。下手に俺に突っかかって前言を翻されるより、大量の素材を手に入れる方が得と判断したはずだ。だが(俺にとって)残念な事に、それでも不満げな顔を隠しもしない奴らもいる。


 そんな連中が大声で周囲に同意を得るように囃し立て始めやがった。


「そんなの信じられるかよっ。ユニーク武具は熟練の冒険者でも所有している奴の方が少ないんだぞ? 適当なハッタリだろうがっ! もし本物だってんならどんな能力を持ってるか教えろよ!?」


「そもそもアンタCランクだろ? そんな奴が魔物を殲滅してユニークモンスターを討伐した何て眉唾もんさ。どうしても自分がやったって言いたいんならアンタのジョブとレベルを教えなさいよ」


「そうだよっ!! イカサマ冒険者がどうせまたなんかイカサマしたに決まってるんだ。装備の詳細やスキルでも教えて貰わなきゃ信じれるはずがない。言えないの? じゃあイカサマしたって事だよな」


 俺は冷めた目でそのバカ騒ぎする馬鹿を眺めている。見れば精々がレベル200~300の若手のD~Cランク冒険者が騒いでいるだけ。以前チラッと関わった<月下美刃>のジャンヌなどの高ランクやベテランは俺から距離を取っている。この武具を鑑定眼で視たのだろう。ユニーク武具は最大レベルの鑑定眼でも詳細は視れないが、名前だけは確認できるから本物と理解してるんだろう。


「私にはアンタらが憤っている理由が理解できませんね。どうせアンタら程度ではユニーク武具の獲得の可能性など皆無でしょう?」


「な、なんだとっ!?」


「もしユニークモンスターと戦闘するならファーチェス最強クラスの戦力を持つギルド長やジークさんがここにいないはずがない。この場の役割は雑魚の露払いに過ぎないでしょう?」


「うっ・・・・・・」


 俺の言葉が図星だったのか、真っ赤になって剣に手を掛ける者もいる。俺は気にせず言葉を続ける。だが後ろめたそうに目を逸らしている者も何人かいる。冷静になって自分たちの言動は言い掛かりに過ぎないと気付いたんだろう。


「私は討伐した魔物の素材は譲ると言っています。この先に私が討伐した魔物の素材があるかどうかはこれから自分たちで確認すればいいだけの事だ。もし素材が無かった場合に私を糾弾するのは勝手ですが、無償で手に入れて文句を言うのは筋違いも甚だしいではないでしょうか?」


 俺が疫竜王との戦闘の最中に割り込んでユニーク武具を掻っ攫っていったんなら糾弾されても妥当と割り切る。ハイエナ戦法だしな。でも何もしていない愚図に素材を譲ってやると言ってるんだ。感謝こそされ文句を言われる筋合いはない。


 それに連中の言動はマナーに反しているので指摘してやる。


「それ以前に、パーティーでもない他人のジョブやスキルなどを詮索するのはマナー違反。冒険者に限らずこの大陸の常識のはずだ。アンタらにどう思われようが興味さえありませんが、勢いに任せてマナー違反を犯し、討伐の証拠を提示している相手に対して憶測だけで糾弾を行う。・・・・・・少しは恥を知った方がよろしい」 


 最後は目いっぱいの侮蔑と嘲笑を顔一杯に表して連中を嘲笑う。この連中はこの世界のルールこそ犯していないが、マナーは違反している。


「賢い方たちは冷静に判断して争う気は無いようですよ? 何もしていなくてもギルド長なら今回の討伐に参加した報酬は支払うはずです。貴方たちは報酬を手に入れて素材も手に入る。・・・・・一切の手濡らさずでね。つまり何一つ損はしていません」


 一緒に戦った者になら責められてもある種の納得が出来るが、何もしてない輩から攻められる覚えはない。俺には下らん嫉妬に付き合う義理も無いしな。


「忠告しますが、下らない嫉妬から愚かな事はしない事をお勧めしますよ? 仮に貴方たちが騒いだところでギルドは私の肩を持ちます。当然ですよね? ユニーク武具を獲得して魔物の大軍をソロで殲滅して利を齎す存在と、幾らでも替えの利く存在・・・・・どちらを優先するかなど子供でも分かると思うが?」


 厭味ったらしく聞こえるかも知れないが、別に嫌味でいったつもりはない。現にさっきは関わりを避けていた連中。この場の実力者らしき何人かは頷いている。一時の面子より損得勘定を計算したんだろう。


 ただ嫌悪と殺気を込めて睨んでくる馬鹿は増えてしまった。


「調子に乗ってんじゃねぇぞ? イカサマ冒険者風情がっ!!」


「は~、何かあればイカサマイカサマ・・・・・と。アンタらのボキャブラリーの無さが伺えますね。それ以前にイカサマをした証拠も無しに人をイカサマ呼ばわりは品性の無さを示していますよ? 私がイカサマをしているというのなら、明確な証拠を提示するべきでは?」


「Cランク風情がユニークモンスターの討伐なんて出来るわきゃねーだろうがっ!!!」


 その言葉に失笑しそうになる。先ほどからやたらと突っかかってくるこの中年も確かCランクだったはずだ。Cランク冒険者ですら一定の才と成果を出さなきゃなれないんだ。それを風情って馬鹿にするのは冒険者の大半を侮辱しているに等しいと思うがね。


「ですから先ほどから明確な証明であるユニーク武具を提示しています。この中には鑑定眼を修得している人もいるでしょう? ならば確認すればいいだけだ・・・・・・詳細は視れなくても武具の銘は確認できるでしょう?」


 鬱陶しくなって目に殺気が篭ったのを察したのか、顔見知りの冒険者が会話に割り込んできた。


「その男・・・・・シレンの言ってることは正しい。私の鑑定眼でそのガラスは【死験管 デスウイルス】と出た。それに偽証感知のスキルにも反応は無かった。≪月下美刃≫の副リーダーの名に懸けて保証する」


「こちらでも確認した・・・・・その武具は確かにユニーク武具だ」


「・・・・・同意する」


 これ以上俺と争っても害あれど利無しと悟ったのか、ジャンヌがすかさず声を上げると他の実力者たちも同意の声を上げる。流石に実力者だけあって見切りが速い。俺が前言を翻して素材を入手できないよりも、無傷で素材を手にして方が得と勘定したようだな。


「え、ちょ・・・な、なんだよ。みんなしてコイツの肩を持つのかよ?」


「み、皆さんい、イカサマ冒険者のいう事なんか信じるんですか?」


「そ、そうよ・・・Cランクに上がったのだってズルしたに決まってるわっ!?」


 俺を声高に非難していた中年・バスコとそのパーティーらしき連中が必死に声を張り上げるが、見れば誰もがそのバスコたちから距離を置き始めていた。俺だけならまだしも高位冒険者まで敵に回したくないらしいな。


「シレンの言う通り人を非難したければ証拠を提示する事だ。確かにシレンが持ち込む素材はルーキーではまず手に入れられない代物だが、彼がズルをしたという証拠はない。仮にズルをしていたとしても、誰かに迷惑をかけている訳でも無いはずだ・・・・・・。もし不正をしてランクを上げた所で被害を受けるのは本人だけだ」


 追従するように砕けた口調で同意の声が上がる。


「ジャンヌの言う通りだ。冒険者は実力至上主義であり、何があっても自己責任。その前に、ソイツが俺たちに迷惑を掛けたりしたことは無い。今回の一件でも疑わしいかもしれんが、俺たちにとってはタダで素材が手に入り、ギルドから報酬迄貰えるんだ・・・・・・ここで争っても何ら利が無いと思うが?」


「・・・・・・同意」


 最後のは兎も角、この場は決着したらしいな。これ以上ここにいる必要もない。距離を取ったらクレアに連絡を入れて、残りのユニークモンスターを狙いに行くか。


「それでは私はこれで失礼してもよろしいでしょうか?」


「ちょ、ちょっと待って。後方のギルド長たちに直接説明して欲しいのだが」


「私の能力は大軍を相手するのに向いています。まだファーチェス方面の危機が去っただけで依然としてスタンピードは続いていますので、私は他のフォローに行きたいのですが? ああ、全て終わったらキチンとギルドに事の経緯は報告しますので」


 慌てたようなジャンヌに対して俺はやんわりと告げる。ジャンヌとしても積極的に俺と関わりたくない・・・・というよりも、クランに対して金輪際関わるなと告げたのは俺だ。だが今回に限っては大量の素材をタダでくれてやるんだ。それくらいの面倒は負って貰ってもバチは当たるまい。


(報告に行けば、ギルド長は俺を確保しようとするはずだ。そうなったら動きづらくなるんでな)


 さっきの疫竜王との戦闘も俺が一人だったから成立した。周りに人がいればフォローに追われてそう上手くはいかないだろう。


「ギルド長にはありのままを言えば信じてくれると思いますよ。まだ危機は続いていますので今は迅速な行動が必要です。面倒を押し付けるようで恐縮ですが、ギルド長への説明をお願いできませんか?」


「・・・・・・分かった。ギルド長への報告は俺たちが行う。ジャンヌもそれでいいよな? だがお前さんは連戦だろ? 少しでも休んだ方がいいんじゃないか? その・・・・・体力の方は大丈夫なのか?」


 きちんと礼を取り頭を下げたので、高位冒険者の一人・ロウが役目を買って出てくれた。ロウに諭されたせいか、ジャンヌも渋々といった感じだが了承してくれる。二人ともまだスタンピードの脅威は終わっていない事は承知しているようだ。


「スタミナポーションがあるので問題ありません」


 ロウは俺の体を気遣っているというよりも、俺が休んでいる最中にギルド長を呼んでくるつもりだろう。そうすれば面倒になるだろう説明を俺に押し付ける事が出来る。引き受けておきながら抜け目が無いというべきだが、俺が直接説明した方が面倒じゃないのは確かだ・・・・・・・。


(ロウの強かさは嫌いじゃないしな)


 内心でロウのサラリとした抜け目のなさに苦笑する。だが注意を向ける存在は別にいる。


 完全に蚊帳の外になったバスコ一味だが、俺は気付いていた・・・・・最初からバスコの発言には俺への悪意があった。パーティーの他のメンバーはそこまで高くは無いが、バスコは別格といえる程に悪意を持っていた。それは殺意と何ら変わらない程に・・・・・濃密な物だった。


 理由など知りたくも無いが、バスコは俺を殺したいほど嫌っているんだろう。そのバスコが大勢の前で面子を潰されて黙っているはずない。故に俺の目はバスコから離れていなかった。


「・・・・・おぁぁぁぁぁぁぁぁ。死ねぇぇぇぇぇぇっ!!!!! ≪エレメントブレード≫」


 バスコは絶叫を上げながら腰に下げていた長剣を抜き放ち、スキル・・・・周囲の精霊を剣に宿して斬り付ける≪精霊剣士≫のスキルまで使って斬りかかってくる・・・・・。これではどう言い訳しても、重罰は避けられない。


「馬鹿がっ」


 そう吐き捨て竜の角を削り出して鍛えた激竜剣を装備すると二閃させる。


 閃光のような速度で振り下ろされた二連撃がバスコの両腕を根元から斬り落とした。余りの速度と切り口の鋭利さに、バスコには斬られた感触さえ無かったはずだ。


「はぇ?」


 バスコは両腕を斬り落とされた事でバランスを崩し前のめりに転倒する。俺がバスコを殺そうとしているように見えたのか、仲間の2名が俺に向かって魔法を唱えだした。だから理由もなく人に攻撃魔法を使用すんのは犯罪だっての。俺は殺す気は無い・・・・・全面的にバスコが悪いが、あと腐れが悪くなるからな。


 ———周囲に誰もいなけりゃ殺してるけど。


「≪フリーズフィー「ゴフッ!?」≫」


 範囲系の凍結魔法を唱えようとしていた【高位魔術師】ダンダの腹部に拳をめり込ませる。あばらが砕ける感触と共に、ダンダは吐血して血を周囲に撒き散らしつつ意識を失う。控えめに言って重傷だが剣を使わなかっただけでも感謝して欲しいくらいだ。


「≪ヘビーウェイ「きゃあっ!!」≫」


 対象の体重を何倍にもして動きを鈍らせる魔法を唱えようとしていた【高位付与師】ミャーにも多少の手加減をしつつも同様の措置を取る。


 たった数秒で、俺の眼下には3人の重傷者が転がっていた。


「い、イカサマ、ぼ、ぼうけ「五月蠅いっ!」」


 意識があったダンダが減らず口を叩こうとしていたため、頭を踏みつけて意識を飛ばす。これ以上は正直に言わずとも時間の無駄だ。


 周囲は息を飲み、呆気にとられた様に放心している。手加減しているといえど、俺の動きを捉えられたのは5人といないはずだ。それも手を抜いているからで、本気を出せば俺の動きを追う事さえ厳しいだろう。不本意ではあるが、この場の人間は俺の実力を初めて知ったんだろう。


(もう一工夫するか)


 俺は気絶したダンダに見せつけるような緩慢な動作で剣を振り上げ・・・・・大上段から斬り下ろしを放った。狙いは首。


「くっ!? ≪アイアンガード≫≪ガーディアンシールド≫」


 動作自体は緩慢、だがそれなりに力を込めた剣。ダンダの首を斬り落とす軌道の斬撃に防御力を高めるスキルを併用したジャンヌが割り込み、掲げた盾で激竜剣を受け止めた。


 剣は受け止めたが、衝撃に押されジャンヌは盾を構えた姿勢のまま十メートルは後退する。後退した足元に出来た溝と、ブーツが深々と地面に埋まっている光景が斬撃の威力を物語っていた。ジャンヌも汗だくで怯えた様に俺を見ている。


 別に止められて思う事はない。これはパフォーマンスに過ぎないんでな。これで理不尽に糾弾して俺を怒らすと殺されるってイメージが植え付けられたはずだ。


 仮に殺しても先に手を出したのはダンダたち。殺傷性のあるスキルまで使ってんだ。どうとでも言い訳はできるしな。


 今の行動にそれ以上の意味は無い。


 踵を返し背を向けたまま、未だに硬直しているジャンヌに静かな口調でお願いした。


「申し訳ないですが、彼らの手当をお願いできますか?」


 切断された直後なら、上級の治癒魔法が使えれば手をくっつける程度は出来る。内臓がちょっと傷付いたくらいでも問題無い。だからダンダの手を斬り落としたんだけどな。


 ぎこちなく頷く一同に軽く頭を下げて俺はこの場から立ち去ることにした。


 ———こうして俺の報告は無事終了となった。 

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[気になる点] 捨て垢で必死こいて顔真っ赤にして嫉妬文章投下してる阿呆に絡まれてお気の毒に…
[一言] 面白いからこれからも頑張ってください〜
[気になる点] 誰も見てなかったら殺してたとかほざいてるけど、前回月下美人に襲われた時誰も見てなかったけど殺さなかったよね?口だけの甘ちゃんなくせに強がってるように見えて痛いわ。ただ殺し慣れてなくてビ…
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