第18話 前哨戦
事前に考えついた準備は全てやり終え。俺は≪はじまりの迷宮≫10層の大扉に触れた。
自然に扉が開いたので中へと足を進める。そこはサッカーグラウンドほどもある大広間だった。
俺は誘われるように中央へと進むと入り口の扉が閉まり、天井より声が聞こえてきた。
(ボスフロアは一度入ると、生きるか死ぬかの真剣勝負か? かなりリスクが高いが・・・・上等だ! ここまで来たんだ、やってやるよ)
『これより≪はじまりの迷宮≫の最終試練【悪鬼の狂宴】を開始する』
『汝はここに何を求めてきた。財宝か?力か?それとも名誉か?』
(ささやかな平穏だよクソがっ! ぶち壊したテメーらが巫山戯たこといってんじゃねぇーよボケッ!)
此方の平穏をテメーらの都合で破壊しておきながら、クソ舐めた発言に毒突く。
『それとも、それ以外のモノか?欲っするならば力を示せ』
(ああ…勝ち取ってやるよ!言われるまでも無いぜっ)
『敗者は死に何も得られない、変えられない。だが、勝者には全てが与えられる』
(ハッ! 『運営』さんは勝利至上主義か?)
あまりの極論を鼻で笑い飛ばす!
『信念無き者は何も得られず。ただ与えられただけのモノには何の価値もない』
(おいおい、俺を皮肉ってんのか?ざけんなコラッ?)
俺の被害妄想だろう。その言葉は俺を、自分を押し殺して生きている自分を指しているように聞こえた。
『欲するものがあるなら、己の信念と力を示し証明せよ』
(証明してやるよっ! 此処まで虚仮にされたんだ。一泡吹かせてやる!)
怒りをテンションに変換し、パフォーマンスを底上げする。
だが頭は冷静に、出鱈目に戦って勝てるほど甘かないさ! そして冷静になった頭で先ほどの思い返す。
(言ってることは馬鹿馬鹿しい事この上ない。だが欲しいものがあれば死ぬ気でやれ。というのだけは同感だ。
まぁダンジョンなんてもんを地球に出現させるようなイカレポンチに共感などしたくはないがね。
・・・・・おっと思考が横にずれた。さて、集中、集中!!)
嫌な予感がしたので、素早く入り口付近まで飛び退くと。先ほどまで立っていた場所付近に全長4mほどの黒い肌をした大鬼が仁王立ちしていた。
大鬼の付近の魔法陣が光った瞬間。ダンジョンの8層以降で戦った、ゴブリンの上位種が推定で100匹以上現れていた。
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〇オーガ(亜種)
ランク3モンスター。強靭な肉体に加え、身体強化スキルを保有している場合が多く。その肉体から繰り出される一撃は岩さえも簡単に砕く。
オーガは通常の肌の色は青か赤が多いが、黒い肌の亜種は通常種とは隔絶した力と耐性を持つ。
黒い肌のオーガは限りなくランク4に近いと言われている。
性格は凶暴で、小鬼などを引き連れて人里を襲うこともある。
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(やはりランク3が出てきたか。実質ランク4と想定しておくか。あと見たことも無いゴブリンの上位種っぽいのがいるな。あれはなんて奴らだ?)
自分の勘が悪い方に当たったようだ。
危険度が増したって事なんで、当たっても全く嬉しくないがな。
能力の解らない敵は恐るべき不確定要素だ。素早く【叡智】君に頼んで未知のゴブリンを調べる。
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ゴブリン・リーダー
ランク2モンスター。統率力を発揮し、ゴブリンから群れのリーダーとして認められたもの。
このリーダーが指揮するゴブリン群れは統率が取れているので、通常の群れと思って舐めてかかると非常に危険。更にランクが上がるとゴブリンナイト・エリートやゴブリンジェネラルなどに進化するので見つけたら討伐しておくことを推奨する。
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(低能共は俺を包囲すべく行動しているが、オーガは動く気配がない。こいつらも倒せないような雑魚には興味がないってか? その舐めプのツケを直ぐに払わせてやるよ。木偶が!)
(内訳はゴブリン・アーチャー30匹。ゴブリン・ソードマン30匹。ゴブリン・メイジとシャーマンが10匹ずつ。ホワイトウルフに騎乗したゴブリン・ライダーが15匹。ゴブリンナイトが5匹)
それをゴブリン・リーダー4匹が部隊を編成するような形で指揮をしてやがる。・・・・もし俺が奴らの立場なら・・・・・・・・やっべっっっ!
直感に従い、いかなる攻撃にも対応できるよう魔力を練り上げる。
その勘はやはりと言うべきか当たっていた。
放物線を描き、こちらに向かってくる100以上の矢を障壁を張ることで防ぐ。同時にすぐさま横に飛び退く。障壁が耐え切れず破壊されると。
案の定、メイジ共が火炎弾を放って来やがったので、こちらも黒魔法第一位階【マッドウォール】を造りだして防ぐ。
・・・・・こちらを休ませる気が無いのか。すかさずソードマン共が小隊を組んで斬りかかって来やがった。後手後手に回るとジリ貧になるだけ、ならば手を打つべきだ。
そう考えて、こちらも負けじとアイテムボックスからダガーを取り出し。ゴブリンの首めがけて投擲した。
投擲スキルの効果でダガーは首の急所に命中し一瞬で絶命させた。これで向かってきたソードマンは仕留めたが。アイテムボックスに入れていた分も含めて、手持ちのダガーは尽きてしまった。
(向かってくるのは精々一度に8匹。あのクソども、俺に仲間がいないとみて持久戦に持ち込むつもりだな!? 魔法で一掃するにしても奥にはオーガがいる。ここでMPを消費しすぎると後がきつい。だが弓と魔法を後方から撃たれると対処するため動きが制限される。数減らしに数発撃って、後は剣と体術で凌ぐしかねぇ、くそったれが!!!)
顔を歪めて悪態をつくが、頭は冷静だ。ちょっと不利ぐらいでキレてたら、ソロなどやってられん。それはボッチじゃないの?だと。ほっとけ!
(MPの回復速度は大体60秒で1%だ。それも何もしないでジッとしていた場合。戦闘中ならもっと回復速度が遅いのは検証済み。節約しながら立ち回るしかねぇ、クソッタレが! 低能種族の上位種程度で頭なんて使うんじゃねぇよ!)
罵声を飲み込むみ、戦闘再開に向けて意識を切り替えると同時に。再び矢と魔法が四方から襲い掛かってくる。
(チクショウが、舐めてんじゃねぇぞ。低能共、こちとらバグゲー、クソゲーで理不尽には嫌って程晒されてんだ。
攻撃は魔法障壁を回転させて攻撃を弾く。それと同時に魔力操作で魔力を糸状にして後衛の真後ろに配置。並列起動で黒魔法第一位階「石槍」と「石弾」を同時に発動。
安全圏から調子に乗ったクソどもに、目にもの見せてやるよっ!!!)
ダンジョン探索の傍らで検証した技能を一気に使うべく。俺は集中していった。
その結果はすぐに表れた。・・・後衛に陣取る、敵の絶望となって。
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ここで、魔法についてひとつ述べよう。
異なる魔法を並行して起動できる【並列起動】。魔力を様々な形にし動かせる【魔力操作】。そして後衛の防御手段の【魔法障壁】。
魔法職の基本技能でもあるが、それと同時に奥義でもある。
未熟な者や、発想の乏しいものは。ただ魔法やスキルを漠然と使うだけだ。
しかし、すでにレンジの使うこれらの技能は、スキルレベルこそ低いが、扱い方に関しては、まだ魔法が使えるようになって三日の初心者では到底あり得ない域に到達している。
その理由については幾つもあるが、一番重要なのはその発想力と創造力。
数多のゲームやラノベ等を、ジャンルを選ばず制覇してきた中には当然。魔法を使えうタイトルや、魔法使いと敵対するものなど様々であった。
そこで得た、経験や技術を検証し、実現可能なまでに落とし込み。それを磨き上げる知識と実行力。 そしてあり得ない事でも受け入れ、技能の中に組み込むことのできる自由奔放な創造力(妄想力)。
歴史が刻まれる前。古の賢者と称えられた者はこのような言葉を残したと伝えられている。
魔法は使用するにあたり。法則はあるが、その本質とは『自由』である。
同じ魔法を使用するにしても。ただ漠然としか使っていない者と、しっかりと仕組みと法則を理解して使っている者ではその全てにおいて、雲泥の差が出来る。
だからこそ魔法を扱うものは常に考え続けなければならない。既知を疑い。新たに発見を重ね。実証されたことこそが正しく。新たな真理となるのだ。(■■■■■■・■■■■■■)
無論、レンジはこのような言葉は知らない。もちろん最初から魔法に対しての常識や知識がないこともある。
だが、レンジは元より決めつけなどを嫌い。常識や型などにハマらない柔軟な思考回路をしている。(ゲーム限定の事で。人によっては自分勝手ともいわれるが)
だが、志波蓮二という男は「こうでなければならない」というのを基本的に好まない。
普段は協調性はあるし空気も読む、人に合わせることも知っている。
だが、ダンジョンでの命が掛かった戦闘を経て。現実では開花しなかったであろう才能が、目覚めつつあった。
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「GYAAAA」「GYAGTYU」「AAAGUUUU」「GIGI・・・GU」
魔法発動を終えて。悲鳴と絶叫の混じった方へと目を向けると敵にとって、大惨事と言っていい光景が広がっていた。
(ざまぁみろだ! 低能共め。俺が特別に拵えた魔法の味はいかがだったかな?)
まず俺は、魔法障壁は攻撃に対して角度を付け、更には回転させてることで攻撃を弾き飛ばした。
そして「石槍」は突起と返しで槍が抜けにくくし、中に空洞を創ることで。血が抜け落ちて止まらないように改良した。「石弾」は通常は丸い石つぶてを放つ魔法だが、俺はそこに石を鋭く研磨し、更には螺旋状の溝と回転を加えることで貫通力が大幅に強化してある。
その結果は見ての通り、後衛の全滅。そして前衛被害を受けて大半が統制を失っている。
(勝機だ。この混乱が終わらないうちに、一気に片付ける)
すかさず体技・「縮地」で混乱した敵に対して一気に距離を詰め。剣技・「乱れ突き」、「連続切り」を駆使し、まずは厄介な【ゴブリン・ライダー】の首を飛ばした。
(後衛共に、手の届かん距離からちょっかいを掛けられるのもウザいが、機動力を駆使して掻き回されると外への対処が疎かになる。だがこれで取り巻き共を始末する算段はついた。この低能共を始末したら次はテメーだ。舐めプしたことを後悔させてやるよ)
「しっかし。いつまで経っても武器系のスキルを覚えないと思ってたら、条件達成での開放とはホントクソだわ。【叡智】も条件とかのシステム周りの関係は「答えられません」の一辺倒だし。全くもって優しさが足りねーぞ、オラッ!」
(恐らくは武器スキルの開放は「突き」や「斬撃」でモンスターを殺した回数がスキルの解放条件と見た。魔法に比べて自由度が無いと思ったら、使用回数やスタイルでスキルが進化するなんざゲーマー魂をくすぐる仕様だ。
でもやっぱり統一感がない。まるで別種類のゲームのシステムを、無理やりくっつけたような違和感があるよな?・・・・・ちっ。考えるのはここを生き延びてからだ)
敵の大半は倒してもまだ生き残りがいる。それに本命は無傷でピンピンしている。
気を抜くのは終わってからだ!
ゴブリン・リーダーの指揮で混乱から立ち直ったのか。ライダーとナイトが左右同時に斬りかかってくるが。体技・「正拳突き」と盾技・「シールドタックル」で撃退する。残りはリーダー4匹とナイト2匹。ライダー5匹。
リーダーが一か所に固まっていたので、黒魔法第2位階「火炎球」と「ウインドヴェール」を組み合わせた黒魔法第三位階相当のオリジナル「火炎旋風」で焼き尽くし、黒焦げにして絶命させた。
俺はリーダーがいなくなり。統制が取れなくなった、残りの低能共に対して距離を詰めると拳と剣で急所を狙って攻撃し、一撃で絶命させた。
急所を的確に狙う動きの基礎は幼少時に繰り返し行ってきた反復練習が基になっている。
幼い頃は実戦武術を習ってもこの時代に使う機会はほとんどないと思っていたが、今はこうして役立っている。
あの頃は辛かったが、先のオークとの戦いで生き延びれたのもそのおかげだ。全く世の中何が役立つか分からんな!
戦況が硬直したのを肌で感じ取り、すぐさま入り口付近の安全圏まで跳躍する。
これまで怪我をしても、使わずに残しておいた虎の子のポーションを口に含み
体力とHPを回復させる。それから幾つか矢の刺さった傷口に振りかけた。
すると軽傷といえど。すぐさま傷が塞がり、肉体が癒えていく。
(あんだけの乱戦だ。無傷で行こうなんて考えは甘すぎる。むしろ肉体に欠損や動けなくなるほどの重傷を負ったわけじゃない。この程度で済んで上出来すぎだと考えよう。しかし、このポーション。地球で売り捌けば、とんでもない金になるぞ!)
これがもっと高品質のポーションなら。
たとえ一本でもオークションなどに出品すれば、製薬会社などが競り落として途轍もない金額になりそうだ。
チラッと。俗物的な考えがよぎったのはご愛敬だろう。
・・・・・・実際に、それほどの効果があったのだから。
それはさておき。
(さてさて、ここまでの前座はクリアした。ここからが本番だ。このゴブリン共はこの程度の連中に勝てなければ「オーガに挑む資格なし」っていう。いわば余興だろ? 気を抜くには早すぎだっての。確かに金策は重要だが、そんなのはここを無事にクリアしてからだ)
どれだけ財を築こうが死んだら元も子もない。俗な考えは此処を生き残ってから幾らでもすればいい。本命が控えてんのに、前哨戦が終わったくらいで気を緩めるほど余裕はねぇ!
「さてさて、オーガ君。随分とお待たせしました。低能共と一緒になって、一斉に襲い掛かってくればこっちは詰んでたってのに舐めプしてくれて・・どうもありがとうございましたww」
俺は言葉こそアレだが、丁寧に一礼すると。獰猛な笑みを浮かべる。
「このお礼はノシを付けて、きっちりとお支払いいたしますね~」
オーガを鋭く睨み付け気合を込めて告げる。
「テメーの・・・・・・・・・命でなぁ!!!」
そう宣告すると、オーガに向かって走り出す。
<はじまりの迷宮>攻略に当たって、最後にして最大の戦いが幕を開けた。
激闘が始まる・・・・・・この戦闘が終わった後、どちらが立っているか。
勝者がどちらになるかは誰にもわからない。




