第181話 グラムの真価
レンジの身体を真紅の光が包み込む。そして全身を覆っている光はグラムに集約されていく。
レンジが使用したのは【殲滅者】の最大レベルで習得できる奥義≪ターミネイトタイム≫。その効果は180秒間、武器の耐久値の消耗を3倍加する代わりに武器の攻撃力を倍にする諸刃のスキルだ(グラムと戦った時に魔剣が折れたのは、≪ターミネイトタイム≫を使用していたのが大きな割合を占める)。
殲滅者系統のスキルは兵器や重火器などと相性がいいが、剣などにも応用が出来る。≪ターミネイトタイム≫の180秒———3分という時間は短いと思われがちだが、兵器や重火器の耐久消耗を3倍加すれば、あっという間に耐久値が底を尽き破損する。スキルの効果がある内に≪瞬間装備≫で装備をを切り替えながら圧倒的な火力を持って敵を殲滅するのが殲滅者系統の一般的な使い方だ。
———レンジのスタイルは殲滅者系統の一般的な使い方を大きく逸脱しているが、ここでは割愛しておく。
アイテムボックスから『高位万能薬』・『高位聖水』を取り出し一気に飲み干す。これで一定時間は身体系状態異常をある程度防ぐことが出来る。
【疫竜王】の能力は未だに未知数だが、疫病なら身体系か病毒系統と当たりを付けた苦肉の策。
(奴は速度型の天敵である広範囲攻撃を持っているはずだ・・・・・・ある程度の被弾覚悟で接近してグラムの一撃を叩き込む)
ユニークモンスター相手に無傷で勝てると考えるほどレンジの思考はお花畑ではない。このクエストに出現するユニークモンスターを可能な限り討伐したいという思惑はあるが、それはあくまで理想。多少の無理は許容しても、無茶をする気は無かった。
だがこの【疫竜王】だけは討伐すべき最低の目標と定めているので出し惜しみはしない。そして万が一に備え、念のために保険を掛けておくことも忘れない。
HPを最大に分け与えた分体を創り出すと、結界で幾重にも覆い更に『アイアンウォール』で包み込み鉄壁の防御を形成する。これで特性≪群体生命≫によって、本体であるレンジが滅んでも分体が本体へと切り替わる。先に分体が滅べば意味は無いが、一応の保険程度にはなると考えたからだ。
「さて、そろそろいいか? 仕掛けて来ぬなら此方から行かせてもらおう」
その言葉と同時に【疫竜王】の4枚の翼にある溝がフィンのように動き出す。一見すれば何もしていないように見えるが、大地———その上に生えている植物が急速に、それこそ枯葉剤でも撒き散らしたかのように腐り出している。その範囲は徐々に拡大し、レンジの近くまで迫ったところでレンジも動いた。
「ハッ」
レンジを起点に暴風が吹き荒れる。暴風は直ぐに集束されると螺旋状に渦を巻き【疫竜王】に向かって撃ちだされる。
収束され螺旋状に回転する暴風は地面を穿ちながら進み、何かに侵食されじわじわと腐食の進む地面に接触すると、圧倒的な風圧により地面を攪拌した。それでもなお暴風の勢いは止まらない。【疫竜王】を貫かんと直進する。
それを見た【疫竜王】は息を大きく吸い込むと、紫色の毒々しいブレスを暴風『暴風槍』に向けて吐き出す。
地を抉りながら進む暴風と、地を溶解しながら進む猛毒のブレスが衝突する。風圧と息吹が激突した。
暴風の余波で大地に鋭い亀裂が走り、ブレスの残滓が大地に付着すると、腐った生ごみのような悪臭を漂わせ穢していく。
だがこれはあくまでも余波に過ぎない。衝突の中心点では押し合いが発生している。
暴風は少しの間ブレスに抗っていたが、ブレスの威力に負けて霧散する。吹き散らされた風は余波とは比較にならぬ威力で地面を穿ち、大地に裂け目を創り出すが暴風を打ち破った後もブレスは勢いを衰えさせる事なく進む。進んだ先にはレンジの姿があった。
だがレンジは黙ってブレスを受ける必要は無い。すぐさま次の手を打ち今度は多重発動したアイアンウォールにブレスは阻まれる。ブレスは強い酸性を帯びているのか、最初は難なく鉄の壁を溶解させていたが、10を超えたあたりから勢いが弱まり20個目の壁に当たる頃には完全に威力を失くし鉄の壁に阻まれてしまう。
金属を溶解した不快なツンとした臭いがレンジの鼻にも届くが、気にも留めない。
最初の攻防は引き分け、これで一旦小休止・・・・・などあるはずがない。
レンジは『アイアンウォール』を発動して目晦ましにすると。瞬時に分体を生み出す。更には≪変身≫によって自分そっくりのダミーを創り出す。
本体は≪光学迷彩≫を発動して透明化して走り出す。スキルを併用すると≪光学迷彩≫の精度が落ちるので自前のAGIにより距離を詰めようとする。だが【疫竜王】は翼をフィンのように動かすと、再度ウイルスを拡散し殲滅攻撃を行うが、レンジは構わず突撃した。
(『高位万能薬』と『高位聖水』で身体系と呪怨系の状態異常は無効化できる。効果が続いている内に勝負を掛けないとジリ貧だ)
【疫竜王】のブレスは速度こそないが、広範囲に拡散する事が出来る上にあの枯葉剤を散布したような広範囲攻撃を連続で繰りだされたらマトモに近づく事さえ出来ない。それ以外にもグラムのように追い詰めたら切り札を出してくる可能性が高いと判断して多少のダメージは許容する方針を決意する。
無謀とも思われそうな行為だが、最低限度の対策はしてある。無謀と勇気が違うように、慎重と憶病は似て非なる物だ・・・・・相手の手札が分からないからといって慎重になりすぎれば勝機を逃す事もある。時には下手に考えすぎるよりも、思い切って行動した方が良い結果を生む場合もある。
———今回はそのケースだと自身の勘が告げていた。
必殺の間合いに入り全身を結界で包み込むと、グラムを肩に担いで【疫竜王】に斬りかかる。レンジを迎撃すべくブレスを吐くが、その動きは予備動作がありタイムラグがある事を先ほどの攻防で読んでいたので≪高速飛行≫で射線から回避。すぐ横をブレスが通り過ぎ、レンジの結界を破りウイルスが忍び寄ってくる肉体に到達したウイルスは身体に状態異常を齎さんとするが、服用した薬の効果で浄化されていく。
———何とか『高位万能薬』の効果でレジスト出来ているようだ。
(やはり『高位万能薬』ならコイツの状態異常にある程度レジスト出来るようだな)
簡易ステータスウインドウには何の状態異常も示されていないのを確認して内心でニヤリとほくそ笑む。残り五個しかない『高位万能薬』を使った甲斐があったと・・・・・・。
以前に<竜の巣>で複数手に入れた虎の子はこの場面でも効果を発揮している。それもそのはず『高位万能薬』を作り出すには【薬剤師】か【錬金術師】系統のカンストクラスの技量と希少な素材が必要だ。そのため有力者が取り合いをするため市場には滅多に出回らない貴重な薬だが、レンジは惜しまず服用したのが功を奏している。
「必要な時にケチらず経費をきちっと割り切れるのが優秀なゲーマーってなぁー」
ゲームでも希少な消耗品を使用するのはデータに過ぎないと言えども躊躇する場面がある。だがデスぺナした場合のリスクやイベント途中退場で失うモノを計算し、そういった類を必要経費として割り切れるかどうかもゲーマーの技量が問われる。
そしてこれは現実。ゲームのように死んでもリスポーンするはずもない。死んだら終わりの実戦において幾度となく死線を潜ってきたレンジがたかが消耗品をケチるはずがない。
自身のスキルが通用しない事に【疫竜王】は大きく目を見開くが、それでも再度息を吸い込みブレスで迎撃しようとするが・・・・・・・遅い。
彼我の距離は最早無くなったグラムを振りかぶると頭部目掛けて振り下ろした。
ブレスが間に合わないと判断して魔剣を束ねたような鋭い爪によってグラムを防ごうとするが・・・・・竜特攻のグラム相手には悪手でしかない。
グラムとぶつかり合った爪は・・・・・・竜を滅する魔剣に一切の抵抗さえも許されず断ち切られる。
「な? ば、馬鹿な!?」
【疫竜王】は驚愕の言葉と共に、断ち切られ短くなった爪を信じられない物でも見るかのように見つめる。だが今はまだ戦闘中だ・・・・・・相手から目を離すなど自殺行為でしかない。レンジの攻撃は一撃で終わるほど温くは無いのだから・・・・・・。
「シャアァァァァァァッ」
結界を【疫竜王】の周囲に作り出し、それを足場にして今度はグラムを水平に構えると、心臓目掛けて突きを繰り出す。竜の身体構造など知る由もないが、身体の正中線ならば多少狙いが外れたとしても主要器官にヒットする確率が高いと考えたからだ。
「グッ!?」
繰り出される一撃に流石に放心状態から立ち直ったが最早遅い。全身に纏っているオーラを腕部に集中させて攻撃を防ごうとするが・・・・・・・・。
前方に足場を創り出したレンジは、足場を起点に空中で更に方向転換すると剣と共に前転するように一回転する。【疫竜王】はその動きに対応できずに腕で身体を庇った形のまま回転斬りを受けてしまった。
グラムの刃はオーラを無いかの如く切り裂いただけに留まらず、その勢いのまま極太の腕を斬り落としてしまった。切断口から青い血液が飛び散るが、【疫竜王】としてはそれどころではない。回転斬りから横っ飛び息つく間もなく背後に回り込まれ4枚ある翼の内の2枚を続けざまに斬り落とされてしまった。
「な、馬鹿な!? 我が腕は肉体はりゅ、≪竜闘気≫で覆われているのだぞ? どれほどの名剣といえども、易々と切り裂ける筈がないっ!?」
理解の及ばぬ出鱈目な現象に、【疫竜王】は目を見開き困惑を隠せない様に悲鳴を上げる。
外野が見れば無様に映るかもしれないが【疫竜王】が驚くのは無理もない。高位の竜種が持つ代表的なスキルに≪竜闘気≫というモノが有る。あらゆる属性や物理攻撃を減衰させ、自身に纏わせることによって攻撃力さえも跳ね上げる攻防一体のスキルである。決してVITが高いとはいえない【疫竜王】だが、このスキルを使用して容易く貫けるほど低い訳では無い。当初は腕を犠牲にしても急所を守り、動きが止まったところでブレスやスキルを使用してレンジを仕留める予定だったが、目論見は完全に崩れてしまった。
運悪く腕をクロスさせていた事で、グラムの軌道上にあった両腕は断ち切られてしまった。本来なら腕など≪高速再生≫か≪自己修復≫でたちどころに元通りになるはずが、未だに再生に兆しさえ見えない。
「ぐ、どうしてさ、再生し、ない? それ・・・・にこの激痛・・・・は。い、意識が、と……おのく」
それどころか、切り裂かれた切断口から気の遠くなるような激痛が襲ってくるため集中力さえも乱される。
これが【竜滅剣 グラム】の効果だ。フレーバーテキストにあった竜種の防御を切り裂き、肉体を崩壊させるという一文は伊達ではない。グラムの刃に触れれば、竜種の防御力はゼロになり、結界や竜闘気などの防御スキルさえも容易く切り裂く。そしてグラムによって与えた傷は、再生どころか治癒さえも不可能となる。正しく竜種の天敵、竜種を滅ぼすだけに存在する剣の面目躍如といった所だ。
竜種がグラムを防ぐ方法はたった一つしかない。即ち決して刃に触れない事・・・・・・だ。単純ではあるが、極めてハードルは高い。レンジは決してAGI型ではないが、AGIが低いわけでは無い上に、≪暴威暴食≫で身体ステータスの底上げが可能だ。速度型ならまだしも耐久型の竜は得てしてAGIが低い傾向にある。本来ならこの2者は両立しない———正反対の類のステータスだからである(例外はいるが)。それではレンジの剣技からは逃げられない。どれだけ防御を固めても竜種である限りグラムは容易く貫いてしまうからだ・・・・・・・。
もしグラムが竜種限定でダメージを与えるという縛りさえ無ければここまで破格の性能は得られなかっただろう。せいぜいが『竜に有効な名剣』の領域に収まっていたはずだ。これはレンジの戦歴を読み取りユニーク武具がそれに相応しい形へと収まった結果だ。その事は割愛するが、竜特攻という特性のほとんどを一点特化のようにつぎ込んだことで、本来格上である【伝説級】さえ凌駕する性能を発揮している。
「驚くのは早い。俺の攻撃はまだ終わっちゃいないぜ?」
驚愕、いや濃密な恐怖を宿した目で自分を見る【疫竜王】を鼻で笑い飛ばし攻撃を再開する。
グラムの性能に驚愕しているのはレンジも同様だ。竜特攻の特性は理解していたが、まさかここまでとは思ってもみなかった。だがラグであろうがバグであろうが、数多のクソゲーを踏破してきたレンジにとっては無茶苦茶な仕様など今更でしかない。
(こちとら挙動の最中にバグったり、急に当たり判定が変化するクソな状況を乗り切ってきたんだ。チートだろうがデタラメだろうが、有効なら何でも構わん)
レンジはフルダイブ初期———マトモにプレイできる作品の方が珍しかった時代のゲームを数多に渡って踏破してきた。理不尽・出鱈目・滅茶苦茶なゲームを攻略することで培った思考と適応能力は『プラスに働けば何でもいい』という寛容?な精神を育んだ。
現在のレンジはシステムの仕様を概ねではあるが掴み始めている。こうなったレンジはそう簡単には止まらない、止める事は出来ないのだ。翼を斬り落としたことで【疫竜王】の体勢が崩れたのを好機と見て空中で結界を足場にして更に加速を行い斬りかかる。
「サル風情がっ・・・・・竜王を舐めるなぁっ!」
【疫竜王】は大きく息を吸い込みブレスを吐こうとしているように見えるが、そうではない。これは【疫竜王】の奥の手である『疫病蝕殺』。体内に飼っている膨大な数の肉食の病原菌を超活性化させて吐息と共に広範囲に拡散する殲滅系のスキルだ。拡散された肉食の細菌は、あらゆる動植物を食い荒らし、それを栄養にして分裂を行い短期間で爆発的に増殖してしまう。それだけに留まらず、下手をすれば村を食い荒らし、街を呑み込み、都市さえも滅ぼす事さえ可能だ。
もちろんこれほどのスキルを何の代償も無しに使えはしない。このスキルは【疫竜王】の生命力を大量に消費する諸刃のスキル。故に【疫竜王】でさえも使用するのは初めてだ。それは既に両腕と翼を半分失っているが、座して死ぬ気は無い。何としてでも生き残るという【竜王】の覚悟の現われ。
そうするしか生き残る手段が残されていないともいえる。ブレスは避けられウイルスは相殺されるか効果が顕れない。竜闘気で覆われた肉体は簡単に切り裂かれてしまう。
元来から得意でもない近接戦などは論外。普通なら接触した相手に表皮に住み着いている細菌を付着させ、複数の状態異常に陥らせるが何故かレンジには効果が無い。
近接戦は・・・・・・グラムに切り裂かれるビジョンしか見えない。最早【疫竜王】にとってこのスキル以外に打つ手はない。
自らの安全を確保してからしか戦闘を行わぬほど憶病な【疫竜王】。普段ならば決して使わない、取らない選択といっていい。
だが相手がどれだけ理不尽であれ、もはや撤退という選択は取れない。翼が無くても飛行自体は可能だが、翼が無ければ本来の半分のスピードも出す事は出来ない。それでは眼前にいる敵———レンジから逃げる事は不可能だと理解している。どれだけ無様に命乞いをしたところで、自分を逃がすはずがないという事も・・・・・・レンジの冷たい瞳が絶対に許さないのは直感的に分かってしまった。
(『疫病蝕殺』をこのサル、いや強敵に直接当てれば我の勝ちだ・・・・・・認めよう貴様は強い。我も命以外の全てを投げ出そう『ウイングカッター』)
『疫病蝕殺』を確実に当てる為、必要なのはタイミングとレンジの隙。その隙を作るために更に代償を払うべく繰り出したのは『ウイングカッター』。翼を刃物のように高速で動かし対象を切り裂く技。本来は4枚の翼を時間差で繰り出すが、断ち切られた今は半分の2枚を前方へと動かし眼前のレンジを切り付けるが・・・・・・。
「舐めんなっ、ボケッ!」
そう吼えつつ向かってくる翼に対してグラムを片手に持ち替え一閃する。如何なる硬度でも竜である以上は問答無用で切り裂く竜殺しの魔剣によって2枚の翼は容易く断ち切られた。
斬られた先から血が噴水の如く飛び散り、気が遠くなるほどの激痛が押し寄せるが、歯を食いしばり意識を飛ばさぬよう耐える。
その程度は覚悟の上で繰り出した。眼前の敵が代償も無く勝てるほど容易くないと弁えている。
(貴様ならその程度は出来るだろう。我が欲しかったのはこの一瞬の時間だ)
翼への対処のためにレンジの動きは僅かではあるが止まっている。【疫竜王】が欲しかったのはこの一瞬の時間。その為に命以外は差し出す覚悟を決めていた。この強者を倒すためなら翼など何ら惜しくはない・・・・・・と。
「これが最後だ・・・・・・・『疫病蝕殺』」
スキル名の発声と共に口から発射された悍ましくも毒々しき紫色の球体。その5メートルはある球体の中身は、その全てが【疫竜王】の体内で飼われていた肉食の細菌だ。スキルによりその性質や凶悪さは更に強化され、地表に当たれば瞬く間にあらゆる動植物を食い荒らし、増殖して近い将来にはファーチェスさえも呑み込むであろう悪夢の厄災。
その最初の獲物は・・・・・・レンジだ。球体はまるで意志を持ったかのようにレンジへと迫る。
「らあぁっ」
その厄災を孕んだ球体に対してレンジは・・・・・・グラムを叩き込んだ。
(無駄だ・・・・・如何なる剣でも『疫病蝕殺』を完全には打ち消せぬ)
そう考えた【疫竜王】は正しい。グラムは竜種に対しては特攻の性能を誇るが、それ以外に対しては産廃といって差し支えない程に役に立たない。そのような事は【疫竜王】が知る筈もない。ただ兆を超す肉食の細菌に剣を叩きつけた所で意味が無い。衝撃で拡散され、より被害が広がると考えただけであるが・・・・・・・。
球体とグラムが接触した瞬間・・・・・・厄災の顕現といっても過言ではない球体は・・・・・・瞬く間に霧散した。
「なっ!?」
「ハァァァァァァァッ」
そのあり得ない事態に今日だけでも何度になるか分からない驚愕と共にグラムが振り下ろされ・・・・・【疫竜王】の首を切断した。
「もう一丁っ!」
返す刀で逆袈裟切りを放ち、心臓を含む胴を断ち切る。これは剣鬼での得意技『飛滑刃』。剣の軌道を強引に変える変幻自在の荒業だ。本来は刀で行うため、大剣では空気抵抗も大きいので向かない技だが、まだ奥の手を隠している可能性もあり、これで終わらせるべく無理やり放つ。
首と胴を切られ、力なく落下していく身体。その胴体———人間なら心臓が収まっている左胸にはグラムと同じような真っ赤な魔玉が真っ二つになって収まっていた。HPが尽きたのか、【疫竜王】の肉体は徐々に光となって消失していく。その全てが光となった時、アナウンスが響き渡った。
『ユニークモンスター【疫竜王 デスウイルス】が討伐されました。最大戦功獲得者の選定を開始します・・・・・志波蓮二が選定されました・・・・・討伐者のログを確認します・・・・・』
グラムを討伐した時のように、討伐を示すアナウンスが響き渡る。
『志波蓮二に【伝説級】ユニーク武具【死験管 デスウイルス】を進呈します』
アナウンスの終了と同時にレンジの手に顕れたのは、幾つもの突起が付いている30センチほどのフラスコだった。
空中に顕れたフラスコに手を翳し、手中に収めマジマジと観察する。
「・・・・・・これって・・・・・かなりやべぇ・・・・・地球で使えば大量虐殺、都市位なら滅ぼせる・・・・・・・悪用できる方法が幾つもあるのが何とも言えん」
手の上に顕れたフラスコ【デスウイルス】のフレーバーテキストを確認してレンジの口から出た感想はそれだ。使い方を誤れば恐ろしい悪夢と厄災を引き起こす武器・・・・いや兵器。
数多の経験から使用・・・・悪用すればトンデモナイ効果と価値を生み出す方法をレンジは幾つも思いついてしまう。
だが、今考える事でも無いと気を取り直す。先にやるべきことがあるのだ‥…気は進まないだろうが。
「まぁ取り敢えずはこっちの脅威は去ったと報告だけはしないとな・・・・・絶対に絡んでくる奴がいるだろうけど・・・・・・あんま五月蠅けりゃ多少荒っぽく黙らせるか」
面倒ではあるが討伐の証明と報告をしないいけない。無視してもいいが、後々もっと面倒な事態になると考えたからだ。
アイテムボックスに【デスウイルス】を仕舞い込むと、憂鬱な顔つきで索敵スキルに大量の反応がある。その場所がファーチェス防衛線だと当たりを付け走り出した。




