第12話 帰路と覚悟
〇自宅への帰路 【会社員】志波 蓮二
(まったく、花蓮のやつ要らぬお節介をしやがって。・・・・病院の治療費くらい払えるって~の)
早朝になりベットから体を起こして確認すると、一晩ゆっくりできたおかげか体の痛みは無くなっていた。あの犬ッコロに噛まれた腕の傷も多少後は残りそうだが普通に動いたので問題無しだ。寧ろ無手で狼と戦って五体満足なのが奇跡だからな・・・・・これ以上は贅沢過ぎってもんだ。
長居する気も無かったので、受付に行って清算を済ませようとしたら。既に治療費は支払われていたことを告げられた。
(俺が怪我したのは自分のせいだとでも思ってるんだろうな。何も言わず治療費を払っていくのが花蓮らしいかね~、もし機会があれば何かしてやるかね? ホントはアイツのためにも、余り関わらない方が良いだろうけどな)
花蓮と縁を絶ったのは俺という存在が、花蓮の飛躍の邪魔になると考えたからだ。だから花蓮に貸しは無いのに借りを作っている状態だ。それは流石に気分が悪い・・・・借りはいずれ返すとそう決めて思考を切り替えつつニュースサイトを見ると、やはり昨日のこと一色だ。
「また魔物が出現し被害者が・・政府の対応は? これは天変地異の前触れか?」
観る者の不安を煽るテキストに辟易しつつ今後のことを思考する。
今日は会社が休みなので、別に慌てる必要がない。しかし、ダンジョンの周辺地域には魔物が出現しやすくなる。この情報は俺を大いにビビらせた。
(危険を冒してまでダンジョンに潜る必要はないと思っていたが。・・・・・もう既に俺の家の周りは危険地帯になりつつある。つーか、いつ爆発するかわからん爆弾の上で生活してるようなもんだ)
実際に俺はあり得ないと思っていた確率に当たってしまった。また幸運が味方して次も大丈夫とは思えるほど楽観的でもない。
(これから魔物と遭遇する可能性は世界中で普通に起きてくるだろう。・・・・昨日、生き残れたのは運が良かっただけだ。 最低でも種族とジョブは選択しておかないとヤバい。問題はダンジョンだが中の確認だけはしておいた方が良いな。もし手に負えないようなら最悪、警察に通報することも視野に入れるべきだ)
自宅が接収されるのは嫌だが、もし対処が遅れて被害が出た場合はその責任は家主である俺に来る可能性が高い。それだけは勘弁だった・・・・・。
(もし何かあって地下のダンジョンの存在がバレるのと、こちらから告げるのは全く印象が違うしな)
それは俺の中で最悪の事態だが、被害さえ出ていなければ政府も多少の配慮はしてくれるかもしれない。
(あれから【愚者の叡智】に確認したところ、チュートリアルモードでのダンジョンは攻略させすれば【???】は治まるらしい。・・・・・【???】はよくわからないが、外で魔物が暴れるような事態にはならないようだ。・・・・・・今後、本格的にダンジョンが起動したらわからないそうだが・・・・・・。)
・・・ってか【愚者の叡智】って長いなこれからは【叡智】を略して【叡智】と呼ぼうか。あとはあの後手に入れたコイツについてか・・・・・・・。
◇
○【偽装機能付きポーチ型アイテムボックス】
第三者には使用不可能でただのポーチにしか見えない。収納したいアイテムに近づけて(収納)と思念を送ることでそのアイテムを収納できる。 但し生物は収納できず、収納物の重量が30㎏を越えた場合もそれ以上の収納は出来ない。
『アイテムランク:8級』
◇
定番だがアイテムランクの等級が若くなるほどレアで能力も高いってところかね?・・・・チュートリアルの魔物を殺して得た報酬がそんなにいいモンが出るわけないしな。・・・・・それでも使えるモンなのは確かだ。
ダンジョンの攻略を視野に入れて、これからのことを考えながら自宅に向かって歩いていると・・・・・気が付いたら、あっという間に自宅についていた。
ダンジョンに長時間潜ることも考え途中で食料を買い込んだため、手にはコンビニの大袋をいくつも下げている。
(買いすぎたか? いや・・・・最悪ダンジョンにこもりっきりになる可能性もある。いちいち外まで買い出しに行ってるのも面倒だし、そもそも時間の無駄だ)
俺の定めたリミットは自宅待機を命じられた今日も含めて3日間。その間ダンジョンを探索して手に負えないと判断したら警察に届け出るという期限を設けておく。闇雲に突っ走って周囲に(といっても自宅の裏は山で周囲に住宅は無いが)被害が出る事態だけは避けたかったからだ・・・・・・・・。
そんなことを考えながら自宅の門の鍵を開けてようやく自宅へと帰還できた。
自宅に到着すると門と玄関のカギを締め。色々と家の中のものを【ポーチ】に収納した後。地下書斎の扉を開けると地下への階段————ダンジョンへと続く階段をゆっくりと下りていく。
その間————階段を降りていく途中でやるべきことを順序立てて考えていく。物事の達成に当たっては、シュミレーションと計画が大きなウエイトを占めると知っているからだ(ゲームのイベントでの経験則)。
(まずは選択可能な【種族】と【ジョブ】を確認した後。【叡智】で性能や特性を調べる)
これは絶対にやらなければならない。この【種族】と【ジョブ】このこそが魔物と戦うためのキモとなるはずだ・・・・・・。まず無いだろうが、もし調べた結果これが力にならない様なら最初から諦めるしかない。
(その後でダンジョンに降りて中の調査。・・・・・レベル上げは勿論だが。スキルの検証。魔物の種類や地形、採取可能な植物、鉱石なんかも出来れば調べておきたいな)
そこまで考えてから、俺はダンジョン攻略に対して前向きになっていることを自覚した。
(あ~そうだよ! ダンジョン攻略の理由が無い、とか覚悟だとか偉そうに言っても。俺はゲーマーでこういった類が好きだ。攻略するためにこういった事を考えるのは大好きだよっ! いい年してそんなのが大好きで悪いかよ!)
気恥ずかしさからか誰もいないのに、つい言い訳染みたことを心の中で叫ぶ。
・・・・・他人が見ればかなり怪しい行為なのは間違いない。それでも恥ずかしさからか、ついつい言い訳してしまう。
しかしマジメな話をするが、確かに魔物が出現しても俺の周囲を荒らさなければ命を賭けてまでダンジョンになんざ潜らない。このダンジョンが出現したのが俺の自宅だけとは思えない。日本・・・・いや世界規模でダンジョンが現れていたとしてもおかしくない。ダンジョンで鍛えれば超常の力が手に入るとした場合違ったものが見えてくる。
———MMOは基本的に限られたリソースの奪い合いだ(ゲーム脳で現実を考えるのはどうかと思うけどな)。先に手に入れた物が道を切り開いた者が優先的にリソースを入手できる。
これを現実に当てはめるのも恐ろしいが。近い将来。そう遠くない未来に、確実に世界は乱れて混乱を引き起こす。そんな恐ろしい考えが脳裏から離れない。
(ダンジョン内に奇跡の様なアイテムや、この世界には無い鉱石や希少資源があることは【叡智】に聞いてわかった。ならばその宝の山を、大国のみならず世界の国々が指をくわえて放置しておくはずがない)
国家がダンジョンで手に入るものを知れば。自国のダンジョンだけでは満足せず『他の国から奪おう』という考えをもつ権力者は絶対出てくるはずだ。
【種族】・【ジョブ】・【ダンジョン】・【アイテム】。ゲームでなら当たり前のようになフレーズなんだが。
これが現実に起こればとてつもない火種となる。(俺限定だが)既に火種になって俺の日常ライフを脅かしている。
世界は遠からずダンジョンの存在を知る。
いや、もうどこかにダンジョンが出現している可能性は高い。・・・・【謎の声】は『時間経過で起動する』としか言っていないからな。
力を手に入れた事で犯罪に走る者や襲ってくる魔物から身を守るためにも、最低限の強さは必ずいるようになる。
(確かに今の状況は不幸だが。逆に考えればダンジョンを独占出来る、ともいえる。
もう少し時間が過ぎれば、神ゲー【ワールド・フロンティア】のように大手クランが『狩場の占領・独占』みたいな厄介な事態が起こる気がする。ゲームでも現実でも人間の最大・最悪の敵は結局は人間だ。
目下の目標はリスクを承知でスタートダッシュを決めてアドバンテージを得ることだ)
独りよがりで自分勝手と他人から見たらそう言われるだろう。本当に世界全体のことを考えるのなら、このダンジョンのことを公開するべきかもしれない。
それでも俺は自分の意思でこのダンジョンを隠すと決めた。
自己中でもエゴでも誰に罵られてもいい。俺は確かな覚悟でダンジョンの入口へと足を踏み出した。




