第11話 修羅場?
〇神無川病院 【会社員】志波蓮二
(一体何なんだよこの状況は? 俺はなんかしたか? 誰でもいいからこの状況を説明してくれ?)
俺を挟んで笑顔だが凄まじい威圧感を放っている女怪が二匹。
この状況に至った少し前に遡ってみよう。
〇30分前
「う~ん。もう食べられんぞ~! でもおかわり~!!!」
そんなベタな第一声を上げて俺はあちこちが軋む体を起こした。身体の節々が痛むが、動かせないほどじゃない。
腕や足をブラブラさせて問題無く動くことを確認して軽く安堵する。
ぼやける頭を振りながらステータスを確認する。
◆◆
〇名前 :志波 蓮二
〇種族 :人間(未選択)
〇ジョブ:未選択
〇HP :65
〇MP :0
〇力 :25
〇敏捷 :18
〇体力 :30
〇知力 :48
〇魔力 :1
〇運 :15
〇アクティブスキル
〇パッシブスキル
〇種族特性
〇固有ギフト
【愚者の叡智】【無限の可能性】【多言語対応】
(上記は当ギフト所有者以外。如何なる魔術・スキルを以てしても閲覧・解析は出来ません)
◆◆
(やはりあの声は聞き間違いじゃなかったか。朧げな意識だったから心配だったが)
薄れゆく意識の中でギフトに関するアナウンスが聞こえた気がしたので念のために確認してみると。今まで文字化けしていた最後の【固有ギフト】が読めるようになっていた。さっそく【叡智】君に訊ねてみる。
◆◆
〇【多言語対応】
このギフトの保有者は人間種限定だが、あらゆる言語に対応できる。自分は普段通り話していても第三者には選択した言葉を話しているように聞こえる。但し、言葉や文字を理解できても書く事は出来ない。
◆◆
(一見、地味に見えるかもしれんが使い方によっては恐ろしい。そういえばバタバタしてたから【無限の可能性】は調べてなかったよな?)
〇【無限の可能性】
このギフトの保有者はあらゆる選択の可能性が広がる。通常ではありえない選択肢を生みだす。
(・・・・・そんだけ? 妙に肩透かしを食らったが、まぁいいや。あとこれだけは確認しとかないとな)
魔物が現れた理由についてどうしても【叡智】に聞いておかねばならない。ダンジョンが俺の自宅地下に出来たら急に魔物が近隣に現れた・・・・・偶然にしては出来すぎている。
Q:1「魔物が現れたのはダンジョンの影響か?」
A:1「そうです。・・・ダンジョンが起動した地域は魔素と呼ばれるものが発生し、周囲に浸透していきます。それによって【■■■】と呼ばれる現象が起こり魔物が発生しやすい環境ができます」
(魔物が出るじゃね~か! ボケが。何が外に出てこないだよ。ダボが! 嘘つきやがって)
思わず誰でも構わず殴りたい衝動が発生するが、誰もいないので拳を握り締めるだけで我慢する。
理不尽だと思われようともそれで死に掛けたんでな・・・・・・。
(返答:マスターは「門を通って外に魔物が出るか?」と聞かれたと記憶していますが?)
(とんちかよ。そこは気を利かせて説明するもんだろ~がよ!! オイコラッ!!)
すっ呆けた口調に腹が立ってくるが、 誰が悪いって? フレーバーテキストを深く読まなかった俺が悪いよ、クソったれがっ・・・・・・・。今回は俺の読みが浅かっただけ、もっと真剣に考えていればその程度は思いついていたはず・・・・・俺もテンパっていたんだろうな。
コロコロと表情を変えていると病室の扉が開く音が聞こえる。 音の方向に首を向けるとそこには購買で買ったのか、水や食料を入れた袋を抱えた花蓮がいた。
「ッ・・・・・・・・・・・・・!!」
起き上がった俺を見るや両手の袋を中身ごと床に落とし。涙を浮かべながら俺に抱き着いてきた。
「ん・・・・・・・・・・・ッ・・・・」
不覚にも泣いた女に抱き着かれるなんて経験は俺の人生にはない。 あまりにも泣きじゃくるので、背をポンポン叩きながら頭を撫でてやる。
端から見れば女とイチャついているようにみえる。俺が第三者でこの光景を見たらバクハツしろ、と叫ぶだろう。・・・しかし、相手が一般人ならまだしも世界的なモデル【KAREN】と抱き合っている(ように見える)こんなところを誰かに見られたら、想像するだけでも恐ろしい。
(こんなときラノベだとほかに女が突入してきて修羅場とかになるんだよな~ハハハ!!!)
阿保みたいな考えを浮かべて現実逃避をしていると、またもやドアが乱暴に開かれる。
(うるせ~なっ、病室ではお静かに)
余りの音に慌てて再度首をドアへと向けると、そこには俺の会社の社長令嬢【城崎エリカ】が息を切らせながら立っていた。
ノックもせず入ってきたエリカは抱き合っている(ように見える)俺たちを最初は驚愕の目で眺めていたが。すぐさま(俺にだけ)虫けらを見るような目を向けてくると抑揚のない声で訪ねてくる。
「お楽しみのところお邪魔だったかしら?」
声に抑揚こそ無いが、その温度は氷のように冷たい。付け加えれば目つきは射殺さんばかりに鋭い。
「てゆ~か、どうして俺が病院にいることが判ったんだよ?」
やましいことをしていたわけでは断じてない。無いったら無い。しかし、バツが悪いのも事実。誤魔化しがてら当然の疑問を返すことにする。
「会社に女の人の声であなたが魔物に襲われてここに入院したって連絡があったのよ」
「心配して駆けつけたけど・・・・お邪魔だったみたいね?」
そういいつつ俺の横にいる花蓮にチラリと目をやる。
(どうも勘違いをさせてしまったようだが・・そうか花蓮が会社に連絡してくれたか。未だ半目を向けられているが、こちとら、やましいことは何もねぇ~。堂々としていればいいのさ)
第三者が来たことで、慌てて俺から飛び退く花蓮を横目にわざわざ見舞いに来てくれた感謝を述べると。あっさりとした返答が返ってきた。
「別に構わないわよ。私は社長の言付けを伝えに来ただけだし・・・まぁ無事でよかったわ」
(社長から?一体何なんだ?)
俺は言葉を促すようにジェスチャーすると、エリカも頷くと言葉を紡ぐ。
「志波蓮二。大事を取り来週の水曜日まで休養期間を与える。復帰したら馬車馬のようにこき使ってやるから覚悟しておけ!・・・・・・以上よ」
理屈は分かるが俺の怪我など、それほどの事ではない。親父から武術の指導を受けていた頃はこの程度は日常茶飯事だった。 それ故に慌てて拒否する。
「っておいおい。繁忙期のピークは過ぎたけどまだまだ忙しいんだみんなにも迷惑かけるし、そんなにのんびりできるかよっ!」
「社員には全員連絡済みよ。それに貴方がいない分は新入社員や後輩の子に回すから・・・ああ、ちゃんと私が監督しとくから問題ないわよ・・・・・新入社員には大変かもしれないけど、仕事に慣れるいい機会でもあるわ」
実際にエリカのスペックは高い。入社して3年で10年クラスのベテラン並みに仕事が出来るからな・・・・・・エリカが責任もって監督するなら大丈夫だろう。古参からの信頼が厚いのも社長の娘だからではなく、その責任感と仕事ぶりからだし。同じ同期の奴は箸にも棒にもかからないけどな。
「あ、あと社長から伝言よ。「お前一人が3日不在で潰れる会社ならそれまでだろう」だそうよ」
「外堀まで埋められてんのかよ」
だが社長よ・・・・・それはトップが言うべき台詞じゃねぇぞ? 社員にも生活があるんだからさぁ・・・・・・ま、冗談だろうけどよ。
げんなりした顔を浮かべていると。エリカがとんでもないことを言い放つ。
「そ、それで、見たところ問題なさそうだけど、体は大丈夫なの?今日から土日含めて5日あるから御飯とか大丈夫? コンビニの物じゃ体に悪いし、も、もし良かったら私が作りに行こうか?」
「あのな・・・未婚の娘が軽々しく独身の男の家に行くなんて言うな・・・・美女が家に来てくれる。なんて状況は嬉しいが、生憎と作って冷凍してるおかずがあるんでな・・・・・気遣いは不要だ」
断りを入れると何故か顔を真っ赤にして俯いてしまう帝大卒の才女。エリカはガキの頃から知り合いだ・・・・・・小さい頃はお兄ちゃんと呼んでいたくらいには親しい。
だからといって、成人してから女性が独身男性の家に通うのは外聞がよろしくない。
そんな俺たちの会話を無愛想な顔で見ていた花蓮は、立ち上がると俺に向かって面白そうに言葉を発する。
「それじゃあ。・・・レンジ君も起きたし私は帰るわね。それと明日は警察の事情聴取に付き合わないといけないから・・・・・・レンジ君も退院して、落ち着いてからでいいそうだから警察に行ってね」
本来なら直ぐにでも事情聴取を取りたいだろうが、入院したので気遣ったってとこか? 本音は違うだろうが、死人まで出てるんだ。功労者を責めるような真似をして自分たちが遅れた失態を大っぴらにしたくないのかもな。
―――花蓮が気を利かせてくれた可能性もあるが・・・・・多少ゆっくりできるのはありがたい。面倒ごとが後回しになっただけとも言えるがな。
「はぁ~。面倒なことだな」
「仕方ないわよ。防犯カメラの映像や血痕から魔物がいたことは証明されたけど・・・・・・カメラの映像を確認してたら魔物の死体が急に煙のように消えちゃったんだって。・・・だから最後まで現場にいたあなたの話が聞きたいそうよ」
「なんともオカルトな事になってんな~」
俺の発言にカレンは呆れ顔だ。
「魔物が人を襲っている。なんて時点で十分にオカルトだと思うわよ?」
まぁ正論だ。『魔物が出現!!』何て報道された日にゃアナウンサーの頭がおかしくなったか?
テレビのドッキリと思うのが普通だからな。
それが受け入れられている時点で十分オカルトさね。
「違いねぇ。・・・明日、警察に言ったら来週の土曜日までに伺いますって伝えといてくれ」
「りょ~かい!・・・・・まったねぇ~」
魅力的なウインクをしつつ。花蓮がドアを閉めた。するとエリカが真顔で・・・
「あの女の人は友達なの?それとも彼女?」
・・・・・なんて聞いてきやがった。別に喋ってもいいが花蓮の正体を話すと説明が面倒だ・・・・トップモデルと何で知り合いなの?ってことになるからな。正直に話しつつ適当な部分ははぐらかすか・・・・・・・。
小学校のころ趣味があって一緒にゲームをよくやってたゲー友。 中学まではよく遊んでいたが、アイツが都内の女子高に進学してからは連絡もほとんど取っていない。
・・・・・直接会ったのは6年ぶり。
アイツの正体は隠しつつ。アイツとの関係においては、やましいことは何ひとつないので正直に話したところ・・・・どこホッとしたように頷いていた。・・さて、そろそろいい時間だな。
「エリカそろそろ帰れ。俺はたぶん、病院にお泊りだ。・・・・男の病室に見舞いに行って、あんまり遅いと親に要らぬ疑惑を掛けられるぞ?」
「バカっ!!!!」
俺が茶化すように指摘すると。真っ赤になってプンスカと帰ってしまう。チョイとからかい過ぎたかね? 昔はお兄ちゃんと慕ってくれたってのにお年頃って奴か?
(さーて。明日、退院してからはやることが山積みだ。・・・・・しっかし、今日はほんと運がよかったぜ。・・・・・・・・花蓮が無事だったし、重症でも体のどこかを失ったわけでもない。体が痛いくらいで済んだんだ上出来だろうさ)
そんなことを考えながら、ふと思い至る。本当に運がいいんなら自宅地下にダンジョンが出来ることも魔物に襲われることも無かったんじゃね?・・・・・という当たり前の事に。
こうして俺の波乱万丈な最悪の一日は無事?終了した。
これが俺の数奇な運命の始まりに過ぎないと知ったのは、ずっと後になってからだった。
お読みいただきありがとうございます。




