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第9話 綱渡りの結果

     

油断大敵。確かに、油断して弱っている獲物を仕留めることは難しくないかもしれない。

 しかし、それは・・・・・・相手が本当に弱り、油断しているからこそだ。



【会社員】志波蓮二



(そうだテメーの獲物が弱って明らかに隙を見せている。背後から襲うには絶好のチャンスだぞ)


 俺はホワイトウルフの存在を失念などしていない。ハイになった思考で、もしホワイトウルフ(イヌ)が介入するならここだと予想していた。


(こちとら強敵ボスを倒したと思ったらもう1体ボスが出てきて2連戦なんて飽きるほどやってんだ)


 クソゲーになると連戦でへばったところにボスが乱入なんてザラにある。その事が俺を疑り深くさせている。


(この程度の状況、あのクソ中のクソゲー「冬瓜(とうがん)」のクソボスラッシュに比べたら温いんだよ)


 思わず、あの理不尽ゲーに挑んでいた頃の黒い感情が湧き上がってきたが・・・・・俺は冷静だ。


 テキストにはホワイトウルフはブタに従っているわけじゃないと書いてあった。

 もし本当に仲間ならばとっくにブタを助けに来ているはずだ。

今後、犬が狩りをする時に手札は多い方が良いはず。それを助けに来なかったってことは共生というよりもブタどもを利用していたと見るべきだ。


 使えねーもんは切り捨てる。ゲーム内での俺と気が合いそうじゃないかイヌッコロ(ホワイトウルフ)


 ここからは賭けに出る必要がある。腹に喰らったダメージの影響か、足もガクガクで歩くどころか立つのがやっと。

 手も包丁を離さないよう。思いっ切り握りこんでいたので痺れてきている。


 撤退は無理。・・・ピンピンしているイヌから逃げきれるビジョンが全く浮かばない。

 仮に立って応戦したとしても。この状態じゃヒット&アウェイで(ちまちまと)嬲り殺される。


 (もし俺がイヌの立場なら背後から襲いかかると仮定して。狙うは首のはずだ!!)


 しかし、首を狙われるとは・・・・・これも散々、低能共やブタの首をブッ刺して殺した因果かね~・・・チクショウがっ!!


 ぶっちゃけイヌが頭を狙ってくる可能性もある。だから念の為に保険をかけておく。

 勘でタイミングを見計らい、後頭部と首の間に右腕を回すとすぐさま激しい痛みが襲ってきた。


 右手には固く鋭く尖った物が肉を斬り裂き抉るように侵入してくるイヤな感覚が、気が遠くなるような激痛とセットで走り抜けるが、歯を食いしばって耐える・・・・・ここで気絶は死と同義だ。目をそっと後ろに向けるとそこには白い巨狼が俺の手に食らい付いていた。


(どうやら賭けに勝つ事が出来たようだな)


 何処まで行っても所詮は俺の経験と勘から導き出した予想でしかない。狼畜生のやる事だ、外れる可能性だって相当あった。だが俺はその幸運を手繰り寄せり事が出来た。犬ッコロは俺が生きているのに驚愕して眼を真ん丸に見開いてる。すかさず左手に残った力を全て込め、足元にあった包丁を握りしめる。


「いや~、賭けは無事に成功。今年の幸運をこれで使い切ったかな~。まだ今年は半分程度しか過ぎてないぞ? これから碌な事がなさそうだな? なぁオイ」


 現在は7月だ、そんな軽口をたたきつつ、痛みをこらえて俺もイヌっころを睨みつける。


「じゃあ・・・・・・あばよ」


 そんな言葉と共にイヌっころの毛皮の薄い喉を狙って包丁を差し込みんだ。喉元は毛皮が薄かったのか、出刃包丁の分厚い刃はホワイトウルフの急所を貫通する。


 「キュンッ」という声を上げ、少しの間プルプルと震えていたが、やがて動かなくなった。


「クソッ、いってな~骨までは届いてないが、あの犬ッコロの牙が結構深く食い込んだみたいだな」


 緊張が切れたのか、先ほどまでは我慢できていた痛みが強烈に襲ってくる。俺は血塗れの腕を見ながらそんな事を呟いた。


 正直言ってこの戦闘はギリギリもいいところだった。薄氷の上を全力疾走するような一歩間違えればこの場で死んでいたのは俺でもおかしくなかった。


 —――この結果は所詮は運でしかない。


(物事が終わった後にタラレバを言っても仕方がない。しかし連中にもう少しオツムがあればくたばっていたのは俺だったな)


 先ほどまでの戦闘を振り返りながら、効率的にゲームを進めるため身に付いた自己確認(反省会)を行いつつそう結論付けた。


(細かい点は置いておく。まず入り口をブタ(オーク)低能(ゴブリン)7匹で押さえる。それから獲物を出口に向かって追い立てる。そして背後の出口をイヌ(ホワイトウルフ)低能7匹(残りのゴブリン)で塞いでいたら俺たちは全滅だった)


 オークを主力に複数で攻められたらこの店にいた全員は死んでいたはずだ。もし俺が指揮官なら獲物を仕留めるためにそういった作戦を採用していた。


(いや・・・・・それ以前にブタと犬を同時に相手取っていたらそれだけでおしまいだった。) 


 生き残れたのは連中が俺を甘く見て連携をしなかったから。自分たちが狩る存在だと過信して、敵を侮っていたからだ。

 

(あくまで今回の勝利は、幸運が味方した(ラッキーな)綱渡りの物だった(まぐれ)と認識しておくべきだな。


 調子に乗らないように、自分自身に言い聞かせていると。救急車と警察のサイレンが聞こえてきた。正直言って今更遅い・・・・・罵倒したい気持ちもあるが、安堵の気持ちの方が大きい。


(花蓮が呼んでくれたのか?)


 助かったという安堵と積み重なった疲労と全身の痛みに緊張の糸が切れたのか、どんどんと意識が薄れていく。


 


【ギフト所有者の戦闘終了を確認。現在はチュートリアルモードのため。【■■■■】システムが未稼働。また種族及びジョブが未選択のため規定により・・・・の譲渡が不可能。

【■■■■■■■■■】に通達【■■■■】返答無し。 次案として【■■■■■■■■■】に通達【■■■■■】返答有り】


【個体名:志波 蓮二の保有する待機状態の固有ギフト【多言語対応】を使用可能にします】


【個体名:志波 蓮二に【偽装機能付きポーチ型アイテムボックス】を進呈します】


【戦闘でドロップしたアイテムは【偽装機能付きポーチ型アイテムボックス】に回収します】


 意識を手放す前に何処からか声が聞こえた気がしたが、朧げな意識では理解する事が出来なかった。


 そうして俺の初めての戦闘は何とも辛い辛勝に終わった。

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