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亮子の小説  作者: hinomoto
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笹倉亮子

笹倉亮子。

17才で高校生。

三年前に初の小説「ひまりのかぜ」でデビュー。

このデビューには後日談があり、編集部で確認もしていない自費出版された小説なのである。それも一万部と言う馬鹿な人が居たのだが、発売されて3日で完売。後は増刷になり、葉戸羽出版と契約したのだ。

その後、幾つもの小説を書いてはヒットを続けた。

海外にも、本人自ら翻訳をしているので、才女の声が上がったのだが、未成年との立場もあり、一切の公表は無い。

そして、学業優先から『鳳心演技』シリーズだけを残して他の作品を終了させた。が、この鳳心演技シリーズは、2ヶ月ペースで出版されている。

現在12巻出ているのだが、全て大ベストセラーとなっている。

新たな新進気鋭の作家としているのだが、マスコミも出版業界も葉戸羽出版さえも、笹倉亮子に会った事も声を聞いた事も無い。

ただ、ひとつの繋がりはメールのみとされた。

そして、此処からが凄いのだ。

まず、利益の全額を色々な団体に寄付。もちろん、笹倉亮子個人に入る出版利益と商品化された利益、映画やドラマからの利益さえも寄付されている。

そして、ファンレター用のアドレスだ。

学業をこなして、執筆活動をしてるのだが、ファンレターの返信が出来ているのだ。

全ての返信をする時間があるのか不明だが、出して一時間以内に返信が届く。

ベストセラー続きの作家に来るファンレターの数は、日に二千通。本を出版した日には一万通を超えるメールが送信されるらしいが、返信が届く。

どんなメールにも、丁寧で明るく優しい性格が出ている返信だと評判である。

得に題名無しの『アホ』だけの内容にも返信があり、出だしが『メールを頂き有り難うございます。』から始まって『至らない文章』とか『ご意見を参考にしまして、今後の作品を精進したとの努力を続けます。』などの言葉が並び、結びに『貴方様のご健康をお祈り致します。』との長文の返信が送られた。

送った男が、SNSで報告をして世間を騒がせたのも懐かしい思い出だ。

そんな彼女を詮索する方が、おかしいとなり捜索する人が居なくなった。


父親の名前が出るまでは。

『龍一』の名前が出たのは偶然だったのか、必然だったのか分からないが、龍一と言う名前のファンが送ったメールに、『私の父親と同じ名前なので、落ち込まれるのは悲しいです。』との返信が、世間を亮子先生探索へと狩だしたのだ。

亮子先生の探索は、ファンの中では悪とされていた。

何故なら、色んな団体に多額の寄付をする聖女に奉り上げられているのだ。

たたく者と暴く者がSNS上に現れ、ネットとマスコミは大騒ぎとなっているのだ。


(2)




「うわー、朝になったよ。最悪だー。」


ベッドの中で、モゾモゾと動き出した。

高瀬からのメールが気になり、一晩中メールを送ったのだが、返信が返って来ないのだ。

ファンであっても、秘密の情報を持てるとなれば話が変わる。

信仰する人との共有こそ、ファンの誰もが望む事なのだから。


「高瀬の奴、あの時の事を根に持っているとか?」


ファンであるから、秘密の情報を求める。

確かに、同志を軽くあしらったが、真偽が分からないのだから存外な扱いをした。

それぐらいで怒る方が悪いと、友子は思った。

友達でも無いのだから、許せるはずなのだから。しかも、恋愛感情も無いのだから情報だけでも詳しく教えて欲しい。


「家に行くのもなー。学校に行って情報を探るか。」


高瀬とはネットでは亮子先生ファン仲間で、学校では同じクラスである。薄い中でも、高瀬の事を調べる方法はある。


「ともかく、探し出してからだ!」


元気に朝ごはんを食べるべく、リビングに向かうのであった。




(3)




「はー。」


葉戸羽出版社員の川元は、悩んでいた。


「写真とか在るかよ。俺でも、先生に会った事がないんだぞ、くそー。」


大声でも言えない事もある。得に笹倉亮子の事に関して、葉戸羽出版の神でもある存在だ。

先生のご不興を買えば、葉戸羽出版は潰れなくても川元の出版人生は終わる。それほどに大出世した川元には、下手に触る事は自分をも殺す事にもなる。

金か出世かと聞かれるより、両方とも無くなる不安しか無い。

ともかく、笹倉亮子先生には負い目しか無いのだ。


四年前に笹倉亮子から、葉戸羽出版社に原稿が届いた。

良い小説だったが、学生小説家を出せる程の力が無い出版社では彼女の作品を本には出来なかった。

次の原稿には百万円が同封されており、自費出版として出して欲しいとあった。挿し絵も無い小説本が売れるはずも無いが、百万円と言うお金に目が眩み、百冊だけ刷って本屋に置かせて貰えれば良かった。

無名の作家の本で、帯も無い字だけの本。

もし売れるとしたら、話題性があるとかなら分かる。本屋が、もし気に入り、見えるところに置かれても売れる見込みは無い。

そう、社長にも言われて残りのお金を会社に納めた。

が、2日後にその本屋から増刷の予約が入った。それも異例の一万部。

他の本屋からの問い合わせもあり、あれよあれよと増刷となり、結果として205万部の大ベストセラーとなった。

その時も騒がれたのだが、直通のメールアドレスだけ許されて沈静化出来た。

今回の父親の件が、大きな報道になった。


「家族の事を騒ぐなよー。先生に切られるかも知れない!」


亮子先生担当になってから今日まで、波風も無く過ごしていたのに。穏やかな日々は、消えたのだ。


「ともかく、亮子先生にメールだな。」


川元は本文を打って、亮子先生にメールを送った。

直ぐに返信が届くと、川元は開いて確認をした。

そこには、怒る事も無く川元を気遣い心配している亮子先生からの返信があった。

ただ結びに、『26巻も仕上がりました、近日中にお送り致します。』とあったのだ。


「せ、先生、早いよ!」


新作の仕上げるスピードが衰えない亮子先生を、恨めしそうに言う川元であった。




(4)



友子は、教室で暇な時間に苛立っていた。


「居ないし、誰も知らない?高瀬のくせに・・・・くそっ。」


夏休みなのだから、宿題でもすればと思うのだが、そんな事をするよりも高瀬の所在の方が優先なのだ。

と言っても、噂になりたいとも思いたくない。人に聞けないから、本を読む格好をしながら情報を集めたい。

特に家には行きたく無い。噂を収集して広げる、スピーカー玖未子さんに知られる訳にもいかない。


「誰も居ないか、本を読むか。」


集中しだすと、周りが気にならない。そうなると、本に夢中になる。

本好きで好きな作品を読み出したのだから、教室と言う場は異様になる。

女生徒なら着替える場所はあるのだが、男生徒には無いに等しい。弱小部ならではになるが、着替えとは自分達の教室が妥当になる。


「着替えるかー。」

「あ、長谷川が居るぞ。」

「また、本を見てるぞ。」

「じゃ、着替えても大丈夫だ。」


となる。

本を読み出した長谷川友子は動かない。が、誰でも知っている事だ。

体育の移動をせずに、本に夢中になる友子に同級生男子は諦めたのだ。言っても聞かないのだから、先生も公認してる事を友子だけ知らない。


「帰り、マクドに?」

「あー、それも良いな。」

「新作シェイクが楽しみなんだよ。」

「俺はガッツリいきたい。」

「なら芋は任した。」

「やめろ!食べるの大変なんだぞ。」

「冷めた芋・・・・」

「口がパサパサするから!やめて!」


こんなに喋っているのに、気付かない友子。

全裸になって着替えているのに・・・・

結果として、痴女の噂も流れているのだが、本を読んでいるで見逃すほどに優しいのだ。

そして、教室から出ていく男子達。


夕暮れになり、友子がため息をつく。


「あー、楽しかった。」


赤い日差しをほほに受けながら、高瀬の情報を得られなかった事に落胆する。


「帰ろ。」


今日の収穫は無かった。

いや、あっても気付かなかった1日である。


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