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亮子の小説  作者: hinomoto
1/3

友子と亮

「うー!読み応えあったー!」


長谷川友子は、読んでいた小説をパンッと閉じて背伸びをした。

彼女が読んでいたのは笹倉亮子の作品で『鳳心演技』と言うシリーズ本の第4巻を読み返していたのだ。

鳳心演技は、現在12巻出版されていて老若男女に愛される小説なのだ。

戦争ラブコメディなのだが、これまで愛されるのは作者である笹倉亮子の人柄の良さが大きい。


それは、返事である。


いや、正確には返信なのだが、笹倉ファンならそれを返事と呼んでいた。

ファンレターをメールで送ると、一時間もしない内に返事が届くのだ。

それも丁寧な文章と優しい言い回しなども有るのだが、出された人の事を覚えているかの様に返事をくれるのだ。

その膨大なはずのやり取りも、人気を支える一つとなっていた。


「さて、ネットを見るかー。」


スマートフォンを取ると、一つのサイトを開いた。

それは『亮子の部屋』と言うファンサイトである。

ここの管理者は、同じ学校の生徒で同級生の男の子高瀬亮である。同じ笹倉亮子のファンであり、どれだけのファンかを言い争う内にサイトを立ち上げて、そこで言い争いを続けていた。

学校内だと、勘違いされるからの防止策である。


ーやっぱり、4巻は何度読み返しても感動する!


と打つ。


ーアホか!12巻を読み返せ!何でリチュウ死ぬんだよー!

ーそれは泣ける。

ー感動なら7巻も良い。

ー同感。

ーまた泣いてくる。


亮は至って普通の男の子だ。

そんな亮と何故か話が合うのか分からないが、どの子より感覚が似ていて安心出来るのが良いのだ。

亮がサイトを立ち上げてくれたお陰で、会わなくても言い合えるのだ。


「新刊は二月後だし、暇だなー。」


暑い日差しが、部屋の中を照らす。


「やっぱ、次の5巻だな。」


と鼻息を荒くしたのだが、


「友子!買い物に行って!」


家の権力者で、逆らえない存在の母親からの命令が下る。


「とほほほほー。」

「友子!」

「はーい!」


2度目に呼ばれた時に返事をして行けばセーフ。遅れるとフライパンの刑が待っている。子供虐待と言いたいのだが、絶妙な加減でたん瘤程度が出来るほどなので事件とはならない。

診断に行っても、叩かれた程度の傷しか言われないからだ。

よって、フライパン使いの母親に逆らうのは得策では無い。

台所に行くと、母親は料理をしていた。


「なーに?」

「玉子と料理酒。後はお父さんのお酒。頼んだわよ。」

「うわー、重いヤツだ。」

「アイスも付ける。」

「お母さん、好き!」

「私のも買うのよ?」

「分かってるって!いつの?」

「いつのも。」

「じゃ、行ってきまーす!」


友子は財布を取ると、玄関から飛び出した。


「あ!あちー!」


全力で近くのスーパーに行く。

汗は出るのだが、帰ってシャワーを浴びてからのアイスが最高なのだ。

その為の我慢なら、恥を捨てても惜しくなど無い。何せ、鳳心演技2巻のルエフの言葉にも在るのだ。


『暑い時のアイスは最高!』と。


作者の笹倉亮子でさえしてしまうのだから、ファンなら当然だ。

全力と言うより、暑さにフラフラしながらたどり着く。


「い、生き返るー!」


スーパーの中に入れば、冷房が効いている。

暑い中の一服として涼しんだ後に、買い物を遂行する。

玉子と料理酒、お父さんの日本酒は適当に安いやつで。メインのアイスは慎重に選ばないとならない。

母親はいちご氷で簡単なのだが、自分のとなると考えなくてはならない。

暑い中でも溶けにくい物で、最新作の物は?と探すのだが、新作などあるはずもない。既に食べた事があるからだ。


「無いかー。うーん、コーラはあったからみぞれにするか。」


ルエフの一番好きなアイスが、みぞれにコーラである。

だから、どの店にもアイスの横にコーラボトルが置かれているのだ。

そして、みぞれはどの店でも一番人気である。


「みぞれ、みぞれ♪」


友子は嬉しそうに取ったのだが、それを周りから暖かい目で見られていることが分かると、慌ててレジに並んだ。

レジが終わると、家に走って帰る。

そんな日常を過ごしていた。


あのメールが入るまでは。


友子はお風呂から出て、みぞれを少し食べてからコーラを入れた。シュワシュワと炭酸が踊り、落ち着いた処をズズズッーと飲む。


「かー!うまい!」

「お父さんの真似何かして、はしたない!」

「えー、美味しいのに。」

「もう!」


母親の小言は、何時もの事だ。そう思っていた矢先に、メールの受信音がなる。


「ん?誰だ。」


スマートフォンを取ると、高瀬の名前と速報の文字が目に入った。


「速報?発売日か?んーと。」


画面を開いて、メーラーを立ち上げてから内容を読みだした。


「亮子先生のお父さん?名前が判明!龍一!」


亮子も手を上げて歓喜の声を上げた。

笹倉亮子(17才)のお父さんの名前が判明のニュースが、ネット及び民放各社を騒がせる事となっていた。

それを友子は知らなかったのだが、


「えっ?うそ!ヤバッ。」


それよりも次の文章に目に驚いていたのだ。


ー多分、先生のお父さんって、俺知ってるかもよ。


友子は、何度もメールを読み返すのだった。




(2)




「高瀬ー!」

「ばっ!馬鹿、声が大きい!」


高瀬亮は大きな動作で友子の言葉を遮るが、友子は気にしてはいない。


「本当に知ってるの!」

「ああーもー。多分ね。」

「多分かよー。」

「調査を始めた所だからな。」


小高い公園の隅に座る二人。

高瀬はスマートフォンを手にすると、指を動かした。


「父親の名前は、笹倉龍一。今は襟大の凖講師で勤務してるらしい。8年前に家族で渡米して2年前に帰国。家族はいたはずなのに一緒には帰ってないらしい。」

「おー、さすが玖未子おばさん情報。」

「聞き出すのに、俺の労働も忘れるなよ?」

「ゴクロー、ゴクロー。で、家族って?」

「益代さんと女の子が1人。」

「お、その子が亮子先生だね。」

「ちっ。ご名答。笹倉亮子、年は17才らしいよ。」

「一個先輩!で、何でらしいよ?」

「8年前は明るくて良く喋る旦那だったんだけど、帰って来てからは暗くて喋らないだって。」

「おばさんでも?」

「お袋でもお手上げだって。」

「うわー。手強い。」


おどけた調子だが、態度はスマートフォンを見ていた。


「大学に聞き込みなんだけど。」

「頼んだよ、高瀬隊員!」

「お前なー。ま、良いけど。」


ニヤニヤしている高瀬の顔を見て、何があるのか気になった。


「何かあるの?」

「襟大だぞ!」

「その、えり大って?」

「襟裳工業大学だよ。」

「工業大学?」

「俺の希望大学だよ。」

「ふーん。」

「何だよ!良いよ、もう流さない!」


高瀬は怒って、公園を出た。


「あー、泣いたかな?ま、良い情報なら流してくれるっしょ。」


友子はスマートフォンをポケットに直すと、


「高瀬とネットのレースだね。帰って、確認しないと。」


友子は家路についた。

が、その前に言い訳の物を買わなくては!と思い出した。

慌てる様にしてコンビニに行き先を変更した。



(3)



翌朝になり、遅めのご飯を食べながら話題となったニュースを眺めていた。

アナウンサーが、亮子の父親の職業で盛り上がるのだが、本人らしき人が名乗り出る事がなかった事で終わる。

他のチャンネルも色んな憶測が出されていたが、結局は特定するまでには至らない。


(ふーん。やっぱり何処も特定は無理なようね。)


加えたお箸を上下にしながら、コマーシャルを眺めていた。


「あら、友子まだ居たの?」

「ん。」

「部活は休みなの?」

「忘れてた!何時?」

「10時前よ。」

「あわわわ!お風呂!いや、服を着替えて行かなくちゃ!」


急いで、制服に着替えて外に出る。


「友子!お弁当は?」

「途中で買う!行ってきます!」


部活と言っても文芸部であり、遅れても叱られる事は無い。

しかし、亮子先生の新たな話題を共有できる事が出来るのだ。もしかしたら、高瀬よりも有益な情報が入るかもと思ったのだ。

それは建前で、仲良しグループに遅れるとややこしい事になる。

女子のグループは、難しい。上下関係を作られ、その日のグループの長が変わる。一番したの者が、急に上になる事もある。

そんなこんな煩わしさに翻弄されるより、情報収集の為に早く着かないといけない。

グループの真ん中ポジションが、一番良いのだ。

昼はコンビニに買い出しに行ったとしても、何とかなるよね?と考えての登校となった。


「おっはよー!」


ガラッと扉を開いたのだが、


「あれ、何処かに行ったのかな?」


何時もの部室になのだが、誰も居ないのだ。


「ラインに何か入っているかな?」


スマートフォンを取り出して、ラインを開いた。

グループラインに入っていたのは、父親の所在が判明したとあり、どうやら各教室に戻っていることが分かった。


「なんだ、部活は無しになったんだ。」


もちろん、ニュース速報も開いて詳細を読むのだが、判明したのがソフト会社の社員だ。海外に赴任しており、その子も亮子だと判明したのだ。


「なんだ、高瀬の間違いじゃん。」


外れた高瀬に、罰ゲームを課してやろうと考えていた。

1人きりの部室は、静かでのんびりとしていた。


キーンコーンカーンコーン

『下校の時間です。校舎に残っている生徒は、速やかに帰りましょう。』


下校の放送が流れて、友子は目覚めた。


「あー!良く寝た・・・・って何時!」


握ったスマートフォンを確認する。


「うわー。こんな事なら家で宿題したら良かったわ。」


残念と思いながら、別なメールも確認した。


「ん?高瀬?」


確認したメールを見て、更に驚いた。


「お父さんが見つかった?」


ネットのニュースと高瀬の情報。

どちらを信じるかはまだ分からないが、亮子先生の周りが久々に騒がしくなったと確信した。

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