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想いも知らずに

 

 実際のところ、僕が恋愛に全く縁がなかったかと言われると、そうでもなかった。むしろ、つい最近まで当事者だったと言ってもいい。


 まだ新鮮な記憶が頭の中に蘇る。ある放課後のことだ。


 僕が、人生で初めて告白を受けた日。


 相手は謙信だった。






 幼い頃から親友として過ごしてきた桑島謙信は、中学に入っても、すぐにクラスの中心的存在になった。勉強・スポーツともに優秀。眉目秀麗。4月生まれの人間はクラスで誕生日を祝ってもらう機会を逃す、なんてのは定番だけど、謙信の場合はしっかりクラスを上げての誕生日会が開催された。カリスマのあるやつなのだ。


 当然、言い寄る女子も多かった。もう男の味を知っていますぅ、といった感じの早熟な女子たちも、謙信をどう射止めるか、あれこれと謀略を巡らせていた。ふん、まったくけしからん男なのだ、あいつは。だけど、なぜか浮いた噂を聞いたことはなかった。


『お前、本当は校外に恋人いるんだろ』


 からかい混じりに聞いたこともあったが、その時ははぐらかされただけだった。親友にまで隠すことはないだろうと思ったが、まあ、そこはモテる男の宿命。ただのリスク管理くらいに捉えていた。


 けど、まさか。あんな気持ちを隠していただなんて。恋愛漫画を読んでいるとたまに、主人公の鈍感さに気を揉むけれど、まさに自分がそうだった。笑えてくるね。謙信の想いに、全く気付かなかったのだから。


『俺、智紀のことが好きなんだ』


 衝撃的な告白だった。堪えた。何のことはない。親友だなんて暢気に思って、浮かれていたのは、僕の方だけだったのだ。


 謙信の気持ちは、正直言って嬉しかった。しかしあくまでそれは、友達としての話だ。誰かを好きになったことはない。だけど、恋愛の対象が男であることは、やはり、僕にとっては不自然なように思えたのだ。


 それが僕の答えだった。


『やっぱり、変だよな。俺。大事な友達に、好きだなんてさ』


『自分のことを、そういう風にいうのは、よくないと思う』


 言葉を選びながら、だけど正直な気持ちを返した。謙信は重い空気を引きずることなく、屈託なく笑った。反対に、僕の心の中は真っ黒に塗り潰されていった。


 彼はずっと、人知れず悩んでいたはずなのに。苦慮の末、自分の気持ちを伝える決断をしたに違いないのに。


 僕の生理的な感情とは別に、彼の期待に、親友の想いに応えられないのは、とても悲しいことだった。






 最終日は、私たちの約束にふさわしい話にしましょう。


 人面瘡の怪談よ。


 今から数百年前、京に都があった頃。雪之進という男がいたと伝えられているわ。化粧をすれば、芝居の女形としても通用しそうな、美貌を備えていたらしい。そうそう、さっきの桑島君みたいな感じじゃないかな。


 で、彼はある時、女を殺した。懇意にしていた女だった。


 理由までは語り継がれていない。まあそれほどの色男なら、何か女性絡みの因縁があったのかも知れないわね。


 雪之進はなんとか捕まることなく、山奥の村へ逃れることができた。これで心機一転、新しい生活が始まるはずだった。心は晴れ晴れとしていたでしょうね。


 彼の身体に、異変が起こるまでは。


 人面瘡ができたのよ。最初は右胸から。そこに、なんと殺したはずの女の顔が浮かび上がっていた!


『……コロサレタ』


 人面瘡は片言で訴え続けたらしいわ。昼夜を問わず。自分は殺されたと。雪之進は寝ても覚めても、怨嗟の声を聞き続けた。


 たまらないわよね。だから、彼は切り落とした。もちろん、他の村人にやらせるわけにはいかない。自分の罪を告白するようなものだから。彼は自分で、胸の肉を削ぎ落とした。


 そしたら、今度は左胸にできた。彼は痛みも顧みず、切り落とした。


 あちこちに瘡は生まれた……その度に切るものだから、雪之進はもう衰弱しきっていた。最後に、看病に来ていた村人に自分の罪を告白したそうよ。そして安らかな顔で死んだ。


 しかし、彼を看取った村人は、その死に顔を見て震え上がった。まるで別人の……()()()に変わっていたからよ。


 人面瘡に乗っ取られてしまった。


 村人たちは、哀れな男の話を語り継いでいった。






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