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天才魔法使いのヴィルヘルムくん

作者: こまち



ここはどこかにある魔法学校。

あたりは森に囲まれているし、門番はドラゴンだし、超美人なエルフがいたり魔物がいたりと超ファンタジー感満載な環境である。


そんな学園に通う私、ナギサ・カンザキがプレゼンツ、凄まじいキャラを持った同級生を紹介したいと思います。どんどんぱふぱふ。


昼休み開始のチャイムが鳴り響いたと同時に、一斉に女子生徒たちがある1人の男子生徒を一目見ようと駆け出すのだ。

そんな実況を行なっている今も、私の目の前を凄まじいスピードで駆け抜けていく。


「い、いたわ!!」


「ああん!今日も素敵ぃ!」


彼女たちの心を掴んで離さない、一際目立つ艶のある黒。

瞳は高貴な紫色に輝き、そんな彼の瞳に見つめられれば卒倒する女子生徒も多い。


おばさま方もヒィヒィ言いそうな甘いマスクで控えめに微笑むとどこからともなくレッドカーペットが引かれ、授業で何かの問いを答えれば女子から黄色い声援を送られ、魔法実技の授業ともなろうものならぶっちぎり一位で先輩をも蹴散らす実力者。


「「「キャァアア!!ヴィルヘルム様ぁあああああ!!!こっち向いてぇええ!」」」


1000年に1度の天才と言われる魔法使い、

ヴィルヘルム・サリマンくんである。


「はっはっはっ煩いぞ猿ども。俺の通る道に群がるな。」


「「「きゃあああああああ!!」」」


(なんできゃああってなるの…)


187センチ(ファンクラブ会員からの情報提供)から蔑むような笑みで悪態をついたとしてもご覧の通り。

むしろご褒美とでも言わんばかりに女子が鼻血を吹き出して倒れていく。


私はこの現象を密かにヴィルヘルムパニックと呼んでいるが、こうなると授業の開始時間も変動してしまうのだから驚きだ。


もはやこの学園はヴィルヘルム王国と名前を改めるべきなのかもしれない。


「どけ。俺は忙しいんだ。」


近寄ってくる可愛い女の子たちを蹴散らし、ズンズンと長い脚で歩く姿は貫禄たっぷり。

最近は先生方でさえ彼のフェロモンにやられてしまっているらしい。

なんだそうか、ここは彼のハーレムなのか。


しかし基本自分以外の生き物は道端の石ころくらいの認識しかない彼にとって、人の名前を呼ぶことは滅多にない。年齢関係なく興味のない人間のことは猿と呼び、数多の美少女たちを泣かせてきた。


そう言った経緯のために、ヴィルヘルムくんから「名前で呼ばれる」ということは彼に人間として認められた者のみが持つ特権なのだそうだ。


その法則でいくと、現在彼に人間と認められているのはたったの3人。


1人は彼の大親友で同じくアイドル的な存在のシオンくん。


もう1人は彼の尊敬する師匠であり、私の担任でもあるアダム先生。


そしてもう1人が……。

そこまで考えたところで肩を叩かれ、私はゆっくりと振り返る。


「よおカンザキ。今日もチビで鈍臭いな。」


そう、なぜか私である。

本当によく分からないんだけど突然、このヴィルヘルムくんに絡まれるようになってしまった。


「お、おはようサリマンくん…。」


「ヴィルヘルムと呼べと言っただろう。何度も同じことを言わせるな。」


「す、すいませんヴィルヘルムくん。」


「……まぁそれでいい。」






うんおかしい。絶対おかしいよね。


言っておくが私はカースト最下位に位置しているような人間であり、さらに言うと魔法も負のオーラを生のオーラに変換するような空気清浄機みたいな魔法しか使えない劣等生だ。


本当共通点なんて人間としての最低要素と髪の色ぐらいなのに、それ以外に彼との接点なんて全くない。

あったら覚えてるし、ヴィルヘルムくんと関わりなんて周りが恐ろしくてこちらから遠慮するレベルである。


思わず脳内で実況してしまうほど私は参っている。


「カンザキ。お前は相変わらず魔法の詠唱が上手く言えないらしいな。同級生として恥ずかしいぞ。」


「え、なんでそんなこと知って…」


「………とにかく!今ならこの俺が教えてやらないこともない!今日は機嫌がいいからな…こんな機会二度と巡ってこないぞ。」


あの、巡ってこなくて結構です。


だがそんな風にここで断れば、最悪命を奪われかねない。


「あはは……えーっとそれは嬉しいし助かるんだけど…その……なんというか……この後先約……用事があるから…」


「俺よりも大事な用事……?」


ヒィイイイイイ!!目が座ってる!

美形の怒りの眼差しは心臓に悪い!!

こんな時はこう言えば乗り切れるのだ。


「ご、ごめんなさい!!あの、()()()()()()()がいるから行かないと!!」


「……!!!そ、そうか!それなら仕方ないな!!」


「そ、そう!またもし!万が一!機会があったらよろしくね!!!ありがとうじゃあね!」


ヴィルヘルムくんの返事を待たず、その場を走り抜ける。

とりあえず、この昼休みは乗り切れるだろう。

なぜかは知らないが、あのフレーズを言うと嬉しそうにヴィルヘルムくんは身を引くのだ。

本当なんでか分からないけど。


しかし困ったことに、私には友達という友達がいない。言語もまだ不慣れな部分があってコミュニケーションもままならない。

ああ……コミュ力なさすぎてツラい。


かといってこのままウロチョロして万が一にもヴィルヘルムくんファンクラブに洗礼を浴びせられても嫌だし、そもそもヴィルヘルムくん本人に見つかれば間違いなく詰む。


(そうするとやっぱり…()()()のところかな。)


そう思い購買でスモークターキーを購入すると(なかなかワイルドな学園だと思う)、誰にも見られないように学校の裏庭へと移動する。

ここは魔法生物が多く存在していて、動物独特の獣臭が蔓延しているから私みたいなぼっちでない限りここに来ることはない。


それに、ここには私の唯一の友人がいるのだ。


「クロー!ご飯だよー!」


先程買ったスモークターキーを常に常備してあるお皿に置いて、大きめに声をかければ。


「ワン!!」


真っ黒な毛並みの魔犬が姿を現す。


大きさで言えば大型犬よりも大きく、狼のようなサイズ。

魔犬は肉食で、個体によってはドラゴンさえ狩る子もいるくらい凶暴な性格のため……普通に考えれば遭遇すればまず命はない。


だがクロは違うのだ。


「クロ!会いたかったよ!!!」


「ワンワン!!」


ほら見てください。

この振り切れそうなぐらい左右に揺れる尻尾に大きな体を私に擦り付け、全力で甘えてくるこの姿。


「あー癒されるわぁ……」


動物好きの私にはたまらないのである。


そもそもクロに会ったのは1ヶ月くらい前。


魔力を使いすぎてしまったのか体内の魔力が滞ってしまって倒れていたところを、私がたまたま見つけたのだ。


唯一使えるあの空気清浄機の魔法を駆使し数時間かけて助けたのだが、そのことに恩を感じてくれているのかなんなのか私にものすごく懐いてくれている。


「クロ、肉球かして!」


「ワン!」


それにクロは私の言葉も理解しているようで、まるで人間と会話しているような錯覚になるのだから不思議だ。魔犬ってそんな頭のいい生き物だったのかな。今度ちゃんと勉強しよう。


そして私には他にお話できる相手もいないものだから、肉球を揉み揉みしながらクロに相談に乗ってもらうのである。


「ねぇクロ…私また魔法詠唱試験が赤点だったよ……発音が悪いのかな……」


「ワンワン!」


「あはは、励ましてくれてるの?優しいなぁクロは。そうだね、頑張らないとね。早くクロのマスターとして認められるくらいな魔法使いにならないと!」


「!!ワンワンワン!!」


「ひゃーお腹まで出しちゃって!!そうかそうか嬉しいのか!!可愛いなぁもう!」


ぐしぐしとお腹を撫でると喜ぶクロの様子を見て思わず頬の筋肉がだらしなく緩む。


「あー…さっきはよく分からない感じで絡まれて疲れたから本当癒される……」


私の言葉にピクッと反応するクロ。

その場にいなかったクロのために説明する。


「ねぇ聞いてよクロ。さっき例のサリマンくんが…」


「ガウッ!」


「?………ヴィルヘルムくん?」


「アオーン!!」


「お、あってた?なんか嬉しそうだね。まぁその彼がまた私に声かけてきてね。魔法詠唱を教えてくれるって言ってくれたんだけど……意味分からないよね?彼と全然接点とかないんだけど…。」


「ク、クゥン……」


「なんかしちゃったのかな…。なんでこの学園で1番の劣等生の私に声かけてくるんだろう……」


「ワンワン!!ガウガウ!!」


私の言葉に激しく吠えてくるクロ。

なにかに怒っているようだがどうしたんだろう。

クロの綺麗な紫の瞳を見つめながら考える。


「もしかして…私が自分のこと劣等生って言ったから怒ってるの?」


「ワン!!」


肯定するように大きく吠えて肉球で私の頭に足を乗っけてくる。え、もしかして頭を撫でようとしてる?


「頭撫でてくれるの?ふふ、クロに撫でてもらえるならいくらでも頑張れるなぁ…」


「ク、クゥゥン!!」


「あ、あれ?クロ?どうしたの?」


酔っ払ったようにフラフラしながら私に身体を擦り付けてくるクロに首を傾げながらも思わず笑ってしまう。

相棒を貶されたら私だって怒る。

きっとクロは私のために怒ってくれたんだ。


「クロ、私頑張る。頑張ってあなたに相応しいマスターになってみせるから、その間他の人に浮気しちゃダメだよ?」


「!!!!ワンワン!!」


「しないって言ってくれてるの?ありがとう。私もクロがいればもうなにもいらない!クロ大好き!!」


ビシッとクロの身体が固まると同時に昼休み終了のチャイムが鳴る。


「もうそんな時間か…じゃあねクロ。また遊びにくるから。」


これで授業に遅れて単位を落としたりしたら笑えない。クロのおでこのあたりに軽くキスをして裏庭から出る。


(こんなに私のことを励ましてくれるクロがもし人間だったなら、きっとヴィルヘルムくん以上のイケメンだっただろうに,。)


相棒ラブの私はそんなことを思いながら教室へと急いだ。





















































「……誰が浮気なんかするか!!俺も大好きだぁああああああ!」












可愛いクロの正体が天才魔法使いであることを知るのは、随分後になってから。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

初めて短編を書いてみましたが……結構楽しかったです笑笑


もともとは長編として書こうかな?と思っていたものだったので、もしかしたら続くかもしれません。

もしまたどこかでヴィルヘルムくんを見かけたら影から応援してやってください。


ありがとうございました!



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皆さまお久しぶりです。

評価、感想、ブックマーク登録いただきましてありがとうございます^_^

感謝感謝でございます!


続き、書くことに決めました笑笑

近いうちにまたヴィルヘルムくんが顔を出すと思いますので、よろしければ連載版も覗いていただけると嬉しいです。


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴィルヘルムくんがかわいい(´・∀・) [一言] ニヤニヤしながら読んでましたw 連載してくださるのなら絶対読みます! 個人的にですが、シオンくんはヴィルヘルムくんの変身?のこと&好意…
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