かしら~中!新人自衛官物語 第2状況
入隊試験を受けることになった信。はたして手ごたえは・・・・。
第2状況 入隊試験
1997年9月15日。国道を走る1台の業務用バン。ボンネットには桜のマークと神地連の文字。ナンバーは数字のみが書いてあり、外観は一般的なバンと微妙に違う。その中の後部に信は乗っていた。行き先は海上自衛隊薄木基地。新隊員課程3.4月要員の試験会場になっていた。「信くん、そろそろだよ。」大川から声がかかり、見ると目の前に大きな門が見えた。薄木基地だ。昨年、そこのイベントでアンケートを書いたため、今に至ることを回想する信。やがてバンは門に入っていった。
車が止まる。テントがあり、制服を着た地方連絡部の広報官達が手続きや案内をしている。地方連絡部には陸海空各自衛隊から広報官が派遣されていて、3種の制服を見る事ができた。「おーい、信っ」信に声をかけたのは浩之だった、「今日は頑張ろう、手続きはしたか?」浩之が言う。「いや、これから。」信はそう言うとテントを見る。陸上、海上、受付と試験会場は別れているようだ。「陸上要員はアッチだって、俺は海上要員だから向こうだ。じゃな」浩之は去っていく。「行くか・・」そう言い信は陸上要員の受付へ向かう。「宜しくお願いします。受験票を広報官に見せる信。「えーと、受験番号神奈川陸145、はい、確認しました、そちらの建物の第3教場に入ってください」広報官が促す。信は指示通り教場に入った。机が並べられた教場内は学校の教室のようだった。「神奈川陸145、ここだ」信は自分の席を見つけて座る。ほどなくして制服を着た広報官が3人入ってきた。「これより本日の入隊試験の日程を説明します。」1人の広報官が試験の説明を始める。皆緊張の面持ちで静かに説明を聞いている。「まず、筆記試験を9時30分開始で60分間、その後10分休憩を挟み作文試験40分。」広報官はさらに続ける「なお途中退場は筆記試験終了20分前より可能ですが、一度出ると再入場は試験終了までできません。そして一連の筆記試験が終了したら昼休憩1時間、事後、身体検査を受検していただきます。」広報官の説明が終わる。「質問がなければ筆記試験を開始させていただきます。ではまず解答用紙と問題用紙をお配りします。」正面に立つ広報官が言うと待機していたもう2人の広報官が用紙を配り始める。「名前と受験番号を記入したら此方の号令があるまで始めないでください。用紙を裏返して待っていてください。」広報官に言われたとおり解答用紙を伏せる信。ほどなくして正面の広報官が言った。「解答は全てマークシート式となっています。コンピューターに掛けますので例に有るとおり丁寧にマークしてください。では始め!」
「うーむ、解らん・・・。鉛筆転がすか?」信は悩んだ。「なんでこんな難しいんだ・・。ちゃんと勉強しなかった罰だな・・・落ちたぜこりゃ・・・」心の中でそうつぶやく信。「とりあえず全部マークしよう。」やがて自己的には散々だったが信は筆記試験を終えた。10分の休憩を挟み、作文試験へ。作文試験は課題が与えられる物でテーマは「私が友情を感じたとき」だった、「なんちゅう書きにくいテーマだ、どうすりゃいいんだ・・・」信は頭を抱えた。「とにかく書くしかない。」なんとか時間ぎりぎりで作文を書き終わる信。「止め!」広報官の号令が響いた・・・・。
休憩時間になった。信は博之と合流し、自衛隊が用意していた昼の弁当を食べている「浩之、どうだった?」信は浩之に聞く。「ん、何とかなんじゃね?」浩之はぶっきらぼうに答える。「俺は身体検査の方が問題だ、海上はすこし厳しいらしい。」浩之が言う。「そうか、身体検査もパスしなきゃいけないんだな・・・」信も少し不安になった。
休憩時間が終わり、身体検査の時間となった。広報官の誘導で、衛生隊と書かれた建物に案内された。中に入るとちょっとした診療所のようだった。普段は基地内の傷病者を診察、治療する場所で防衛医官とよばれる医師の資格を持った自衛官が所属している場所らしい。程なくして引率の広報官から下着1枚になれ、と指示があり受験者たちはみな下着一枚になる。脱衣所なんてものはない。広いスペースに無造作に置かれたカゴに各々が脱いだ服を入れる。「では支度ができた者から番号順に受診してください」広報官の言葉に廊下を見ると各部屋に番号と検査内容が書いてある。信は順番どおりに受診していった。体重、身長、血圧、肺活量等を測られ、さらに心電図、採血などに進み、最後の身体動作確認となった。この検査は医官の指示を聞いて動作をするもので、手足を動かしたり、まわしたり、片足立ちしたり、目を左右に動かす眼球運動など、身体の各部分が正常に動作しているかを見る検査だった。下着一枚の男たちが20人近く並んでる光景はある意味異様だが、そんなこと気にしている者は誰もいない。ちなみに下着1枚にするのは刺青などしてないかという事を確認する意味もあるらしい。
身体検査を終え、すべての試験が終了した。信は広報官大川に自宅まで送ってもらう。「信くん、どうだった?」その車中で大川が問いかけた。「いや、全然だめでした。」信はそういった。本当の事だから・・・。「大丈夫だよ、合格してるといいね。」大川はそう言ったがやはり不安が残る信であった・・・。
第3状況 「いざ、自衛隊へ」に続きます。
第3状況に続きます