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『性欲』の大魔術師  作者: いちにょん
第一章 聖女の涙編
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episode9 奪還へ

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◇ ─────── ◇


 この世界には『神』が存在する。


 人の世とは違う【天界】に住み、各々が『概念』を司り、人の世…【地上界】の均衡を守る。

 それが『神』。


 その神にも序列がある。

 下級神、中級神、上級神と徐々に序列が上がり、全ての神の頂点こそが『創造神』、『全能神』、『最高神』とも呼ばれる全ての生命の生みの親。


 『最高神』は気まぐれだ。


 気まぐれに世界の均衡を壊し、気まぐれに人に神と変わらぬ力を与える。


 そこに明確な理由は無い。


 悠久の時を生きるが故の暇つぶし。


 地上界に住む生命に気まぐれで与えられる特別な力。


 それが『祝福(ギフト)』。


 未来の選択肢を知ることが出来る『道筋(ルート)』。

 永遠の命を手に入れることができる『無限(インフニティ)』。

 地上界には少なからず『祝福(ギフト)』を持った生命がいる。


 そしてまた一人、神の気まぐれによって『祝福(ギフト)』を同時に三つ、手にした少女がいた。


 創傷、病、心傷に問わず、全ての傷、痛み、苦しみを肩代わりすることの出来る『犠牲(サクリファイス)』。

 自身のあらゆる創傷、病を治すことのできる『治癒(ヒーリング)』。

 その名の通り鋼の精神力を手に入れ、どんな逆境にも負けない心の強さを手にすることができる『屈強(ストロング)』。


 この三つの『祝福』を持つ少女はどんな『モノ』にでもなれただろう。


 美しい花を扱う花屋。


 子供と共に一生を過ごす孤児院の院長。


 甘いお菓子を作るケーキ屋。


 それこそ『英雄』にだって少女はなれるだろう。


 だが、少女はそのどれにもならなかった。


 少女は『聖女』となった。


 毎日、夕方の五時になると信者の祈りを受け、その者達のあらゆる不幸を肩代わりする。


 少女が望んだモノではない。だが、周りは少女を『聖女』として扱った。


 神の奇跡を代行する『聖女』だと。


 自由など無い。


 ただひたすら顔も知らない相手の傷を自らの体に受け、治し、折れない心で支える。


 それはただの生き地獄。


 死にたくても、心が勝手に生きることを望む。


 痛みにもがき苦しんでも少し経てば傷は塞がる。


 それを神の奇跡と呼べるだろうか。


 否、それは聖女ではない。


 人々が作り上げた『人柱』。


 それがアルドマカの『聖女』の正体だ。



◇ 鏡の国 アルドマカの街 とある路地裏 ◇【王国歴1049年雨月(六月)1日】


「ふぅ…全く、気分がいいものじゃないねぇ…」


 葉巻を口に咥え、どこか分からぬ建物に背を預けるファルスは、げんなりとした表情で持っていた紙束を魔術で燃やす。


 燃えた紙束はブラウムに情報収集を頼んであった『聖女』に関する情報。

 あまりにも酷いその内容にファルスは目を手で覆う。


「日が変わった…仕掛けるならそろそろだねぇ…」


 夜空に浮かぶ月を指の隙間から眺めたファルスはそう小さく呟く。


「ファルスさん…」

「……エレナちゃん。どうしたんだい?」

「乗り込むつもりですか?」

「なんの事かな…おじさんはこれから娼館で朝帰りを決め込むつもりさ。あぁ、確かに娼館に夜の戦いに行くから、乗り込むってのも間違いじゃないねぇ」


 ファルスの元に現れたエレナに対し、ファルスはおどけて対応してみせる。

 小さな少女を巻き込まないために。


「誤魔化さないでください…!!」


 だが、その小さな少女は、小さな体を震わせて叫ぶ。


「乗り込むつもりなんですか?」

「……あぁ…」


 エレナが再度問うと、ファルスは静かにそう答える。


「相手は教会ですよ?それも大勢の魔術師が駐在しますし、護衛だって…」

「うん」

「十分も顔を合わせていない…そんな子のために国を出る気ですか!?」

「うん」

「なんで…なんで…名前も知らない女の子ために……」

「女の子だからかなぁ……」

「そんな他人事みたいに…!」

「国を敵に回す。『聖女』の存在は多くの人を救うために必要なことなんだろう。教会に働く人が生きていく為にも。多くの人のために一人を犠牲にする…この世界は綺麗事だけじゃ生きていけない。『聖女』を作り上げたことはきっと間違ってないんだろう。けどね…けど…おじさんはそれが気に食わない。許せないんだ」

「気に食わないって…子供みたいな理由ですね…」

「ははっ…確かにおじさんはまだまだ子供かもね…………お別れだ。それなりに楽しかった二ヶ月だったよ」


 ファルスはそう言い残すと、エレナの頭を撫でてその場を後にしようとする。


「ごめんね。おじさんはどうしよう無く腐った人間だけど、涙を魅せられてじっとしてられるほど、おじさん、腐ってないんだ」


 立ち去る直前、そう呟いたファルス。


「ここで私が泣いたら…行かないでくれますか?」

「それは…………」

「私も着いて行きます。絶対に」

「エレナちゃん…」

「師匠の行く所に着いていくのが弟子ですから。ちなみに、拒否権はありません。駄目って言った瞬間に、私、泣き喚きますから」

「ははっ……困ったなぁ……」


 ファルスの背中を追い、エレナは隣に並ぶ。

 ファルスは横に並ぶ小さな少女を見て少し照れたように困った顔を浮かべる。


「うん、じゃあ行こうか…」



 ───────囚われの聖女を助けに。





ギャグが…ギャグが足りない……。

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