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『性欲』の大魔術師  作者: いちにょん
第一章 聖女の涙編
8/9

episode8 エレナ

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

◇ 鏡の国 アルドマカの街 宿屋 パンテイー ◇【王国歴1049年草月(五月)31日】


 ファルスとエレナが時計塔で少女に出会ってから二日。


「やぁ、エレナちゃん。おはよう」

「おはようございます」


 宿屋の一階の食堂で顔を合わせるエレナとファルス。

 ファルスはにこやかに、いつも通りの調子でエレナと挨拶を交わす。


 だが、エレナはファルスの異変に気がついていた。

 いつもの覇気の無い雰囲気から一変、今のファルスは熟練の戦士を思わせる雰囲気を身に纏っている。


「今日はどうしますか?また聞き込みしますか?」

「いや、そろそろ自警団や教会側の方がおじさん達の動きに気づき始めるだろう。聖女について聞き回っている冒険者がいるってね…そうなる前に止めておこう。これ以上、有益な情報が聞き出せるとは思えないしね」

「分かりました」

「うん、今日は別行動かな。おじさんは少し知り合いの伝を当たってみるよ。エレナちゃんは冒険者組合に行って、適当に依頼をこなしてくれるかな?正直、もうお金がキツくてねぇ…面目ない」

「…分かりました。低級の魔獣駆除の依頼でも受けておきます」

「助かるよ」


 そう言ってファルスは麻色のフードを被り、宿屋を後にする。


(怪しい…けど、何も教えてくれないのは私じゃ実力が足りないから…もしくは巻き込みたくないから…)


「鈍感だって思われているのかな…」


 朝早くに起きている。

 下ネタを言わない。

 覇気がある。


 普通の事だが、ファルスにとってこれは普通では無い。

 起きるのは昼過ぎ、開口一番ド下ネタ、いつも気だるそうに生きている。

 そんなファルスを二ヶ月近く見ているエレナが、ファルスの目に見て分かる変化に気づかないわけがない。


「おじさんが必ず助けるから……ファルスさんはあの子を教会の手から助けるつもり…」


 時計塔を飛びおる時に小さくファルスが呟いた言葉をエレナも聞き取っていた。


 教会とは規模が大小異なるとはいえ、街や都市、国でそれなりの力を持つ組織だ。

 国によって信仰度は異なるが、鏡の国で神の立ち位置はそれなりに高い。

 下手に喧嘩を売ればお尋ね者…指名手配となり、国全てを敵に回した上で極刑だろう。


 エレナにとってファルスは憧れだ。

 小さい頃、自村が魔獣に襲われた時、颯爽と現れ、魔術を赤子の手をひねるかのように倒した英雄だ。

 エレナはファルスに憧れ、ファルスの卒業した国立魔術学園を首席で卒業した。

 そこには憧れからくる並々ならぬ努力を重ねた。

 いざ会って見ればただのダメオヤジだが、それでもエレナの中でファルスという存在が小さくなることは無い。


 小さな子供が憧憬を抱いた英雄。


 その背中を追い、どこまでも着いていこうと決意した。


 だが、エレナは怖かった。

 

 もし、自分がこのままファルスの背中を追い、少女を救ったとしよう。

 ファルスと共に指名手配を受け、国中を敵に回した時、家族、友人はどうなるのか。

 ファルスと違って、エレナには何十人に囲まれて相手出来るほどの実力も経験も無い。

 ファルスに見限られたらそこでエレナの人生は終わる。


 エレナは努力の子。努力の天才。

 だが、その言葉はあくまでエレナを讃える言葉であり、正しい表現ではない。

 エレナはただの凡人。人より努力が多かった凡人。

 精神的にはまだ幼く、未熟な、どこにでもいる普通の女の子。


「怖い……」


 胸の前でギュッと拳を握り、体と声を震わせて、小さく呟いた女の子は、どこまでも普通だった。



◇ 鏡の国 アルドマカの街 とある路地裏 ◇【王国歴1049年草月(五月)31日】


「コレガ情報…確カニ渡シタ」

「ありがとね、お嬢さん。これ約束のお金」

「金貨七枚…丁度」


 路地裏でフードを被ったファルスの隣に並ぶのは、黒装束の少女。

 エレナより少し身長が高いくらいだが、それでも中等部の生徒と見間違う程の身長しかない。

 だが、その身に纏うオーラは別格。抑えていても分かるほど。

 もし、 鏡の国で最も強いと言われているファルスが全力で戦ってようやく勝てる位。それ程までに少女は強い。


「エレナちゃんには悪いことしたねぇ…」

「忠告シテオク。裏ノ世界デ不用意ニ他人ノ名前ヲ出サナイ方ガイイ」

「それもそうだねぇ…ありがとう。そうそう、最後にお嬢さんの名前を聞いてもいいかな?」

「偽名、ブラウム。マタ何カアッタラ言ウトイイ。オ金サエ払エバ、何デモスル」

「何でも?」

「鳥、揺籃(ゆりかご)、叩キ、寄、痣、墓、ナンデモ」

「へぇ……やっぱり恐ろしいね、お嬢さん」


 ブラウムが言ったのは『隠語』。

 裏の世界で使われるモノだ。

 鳥・・・盗み。

 揺籃・・・揺すり。

 叩き・・・拷問。

 寄・・・変装。

 痣・・・潜入。

 墓・・・殺し。

 ブラウムが言葉にしたのは、決して少女が口にしていい言葉では無い。


「金入りなのかい?」

「我ガ(あるじ)ハ金ヲ欲シテイル。ダガ、非人道的ナヤリ方ハ望マナイ。ソレデハ裏デ動ケナイ…話シスギタ……」

「………そうかい。詮索はよしておくよ」

「ソレガ懸命」


 ブラウムはそう言い残し、闇へと消えていく。


「ふぅ……どっと疲れたねぇ…」


 ファルスは普段吸うことの少ない葉巻を胸ポケットから取り出すと、吹かして気を紛らわす。


「また頼むことになりそうで怖いねぇ…今のうちにヘソクリを出しておこうかなぁ…」



ブラウムとはメインストーリーであるタキオン・リベリオンのウムブラというキャラのことです。

タキオンリベリオンの第三章から登場するメインキャラクターの一人なので、気になる方は是非タキオンリベリオンの方も一読ください。

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