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『性欲』の大魔術師  作者: いちにょん
第一章 聖女の涙編
6/9

episode6 豆鉄砲(笑)

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

◇ 鏡の国 アルドマカの街 風見鶏亭 ◇【王国歴1049年草月(五月)29日】


「やっぱりこの国には何かありますよ」

「おじさんもそう思うけど…その『何か』が大きすぎるねぇ…。昨日一日、あれから二人で調べても手がかりが『教会』、『聖女』、『奇跡』の三つだけ。これじゃあ手詰まりだ」


 ファルスとエレナがアルドマカの街に訪れた翌日。

 二人は昨日見た異様な光景を思い出していた。


「これからどうしますか?」

「どうするって言ってもねぇ…教会に直接乗り込みたいところだけど、教会と少しでも揉め事を起こすと後々厄介だ」


 ファルスは懐から葉巻を取り出すと火をつける。


「ふぅ……あんまりやりたくない手段だけど仕方ない…」

「何か策でもあるんですか?」

「うん、おじさんに任せておくといい。あぁ、それとエレナちゃん、腕力には自信ある?」

「えぇ…これでも冒険者の端くれなので普通の人よりかは」

「良かった良かった。じゃあおじさんは準備してくるから、一時間後に時計塔に集合ね」



「ファルスさん」

「なんだい?もしかしておじさんの前に来たい?」

「下着見られたくないのでいいです。それよりも、なんで私たちこんなところにいるんですか?」

「そりゃあ、ここに何かありそうだからだよねぇ…」


 あれから一時間と少し。

 ファルスとエレナは『時計塔の側面を登っていた』。

 ファルスは一時間の間に塔を登るために、専用の道具を購入した。


「それにしても、これなんですか?」

「崖登ったりする時に使う『ハーケン』って道具さ。おじさん達を繋ぐ運命の命綱を固定するための道具だねぇ」

「乙女的には赤い糸が良かったんですが」

「ははっ、確かに赤縄で縛られたい気持ちは分かるよ」

「首絞めますよ」


 二人は平然と登っているが、危険…それも超が前に三つつく程の危ないことをしている。

 塔自体は石造りのため、ハーケンを差し込む場所はあることにはあるが、少しでも場所を間違えば真っ逆さま。

 それに、当然ながら相当な腕力が要求される。流石は冒険者と言うべきか、そこは心配いらないようだ。


「それにしても目立ちませんか?」


 エレナはふと、下を見下ろす。

 既に塔の半分は登っているのだが、それ以上に人の目が気になる。

 塔はこの街で一番の高場。昼過ぎとは言え、ふと見上げれば壁をよじのぼる少女とおじさんが見えてしまう。


「認識阻害の魔術を使ってるから問題ないよ。実際に目には見えてるけど、違和感に感じないようになってる」

「凄いですね…けどそれなら、正面から乗り込めば良かったんじゃないですか?」

「これは姿を消す魔術じゃなくて、あくまで認識を阻害する魔術。何気ないワンシーンなら問題ないけど、警戒している人の目を掻い潜ることは難しいんだよねぇ…いやぁ、面目ない」


 ファルスは申し訳なそうに呟くが、エレナはただただ感心していた。

 普段、不真面目なファルスだが、やはり魔術の腕は一流。さり気なく言っているが、認識阻害魔術はファルスのオリジナル魔術だろう。

 だからと言って壁をよじ登らされているのは納得いかない。そこに関しては本当に反省して欲しいエレナだった。


「ん?」

「どうかしました?」

「いや、ここだけ造りが違うと思ってね…」


 なんとなくだが、僅かにハーケンを突き刺した際に違和感を感じだファルス。

 数度、壁を叩くと、確信を持ったように右の拳を振り上げる。


「【 違うんだ聞いてくれ! 信じられない!私が旅行しているうちに女を連れ込むなんて! 彼女とは仕事だけの関係なんだ! 信じられない!! 怒り狂う妻の平手打ち(フェリーレ・イラ) 】」


 ファルスの拳に膨大な魔力が集中する。

 拳を中心に渦を巻き、荒れ狂う魔力をファルスは壁に拳ごと振り下ろす。


「ちょっ…!!【 結界(オービスン) 】…!!」


 エレナが止める暇なく、轟音と共に崩れる塔の壁。

 崩れた瓦礫が下にいたエレナを襲う。

 エレナは慌てて結界を張ることで身を守る。


「大丈夫かい?エレナちゃん」

「今登るんで、そこを動かないでくださいね」

「なんでエレナちゃんはおじさんの差し伸べる手を握らずに、おじさんのおじさんを掴もうとするんだい?流石のおじさんもそれは死んじゃうよ?」

「カエルみたいな感触ですね」

「ぎゃぁぁぁぁぁああああああ!!!!」


 ファルスの股間を手置き場代わりに握ったエレナは腕力だけで無理矢理体を持ち上げる。

 ファルスは当然ながら絶叫をあげるが、エレナはお構い無しだ。


「おじさんのおじさんがもげる!!本当に取れちゃうから!!」

「良かったですね」

「全然良くないから!おじさんの主砲が折れちゃう!!」


 ようやく手を離したエレナに、恨めしい視線を向けながら、ファルスは必死に自分の愚息を抑え、その場でピョンピョンと飛び跳ねる。


「玉が二つしかない主砲なんてゴミ同然です。それにこれじゃあ豆鉄砲もいいところです」

「今日はいつにも増して手厳しい…」


 半ば握り潰して起きながら、男の象徴にして尊厳誇りを司る豆鉄砲(笑)を見て嘲笑を浮かべるエレナ。


「あの………誰…ですか?」


 そんな二人に声が掛かる。

 ファルスの後先考えない行動のせいで駆けつけた兵士か何かかと警戒する二人だが、声の持ち主を見て小首を傾げることになった。


「お嬢さん、こんなところで何を?」


 違和感の先にいたのは、絶望を目に宿したいたいけな少女だった。

久しぶりの更新で申し訳ないです。

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