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『性欲』の大魔術師  作者: いちにょん
第一章 聖女の涙編
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episode5 アルドマカの聖女

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

◇ 鏡の国 マドナルカの街 冒険者組合 ◇【王国歴1049年草月(五月)20日】


「明日、アルドマカの街へ行くことになったけど、エレナちゃんは来るかい?」

「アルドマカ…随分と遠出ですね。何か依頼で?」

「そうだねぇ…全く面倒なことこの上ないんだど、賭博場の一件以来働いてないからそろそろお金が無くてねぇ…」

「野垂れ死んでオークの餌にでもなればいいのに」


 早起きのエレナには珍しく、冒険者組合に顔を出したのは昼過ぎのことだった。

 エレナが冒険者組合の中へ入ったと同時に一枚の紙を心底恨めしそうに見ているファルスを見つけた。

 その紙こそ今回の依頼内容が載った大切なモノであり、ファルスとしては見たくもないモノだった。


「それで依頼内容は?」

「んー…それがよく分かんないんだよねぇ…」

「何か複雑な依頼なんですか?」

「いや、依頼自体はこの前みたいな調査系なんだけど、その調査内容があやふやでね」


 見た方が早いと、エレナに紙を渡すファルス。


「『聖女の噂と真相について』…ですか。確かにこれは不思議な依頼ですね」

「国と連携している冒険者組合に違法行為のある店の調査を冒険者組合に任せるのはよくあることだから分かるんだけど、特定の個人を探るような以来は初めてだなぁ…お店とかは冒険者みたいな荒くれ者の方が入りやすいっていう部分を考えたものだけど、これは冒険者の手には余るものがある」

「だからファルスさんに依頼が来たのでは?」

「おじさん、冒険者に負けないくらい荒くれ者の自信はあるよ」

「事実ですけど胸を張って言うようなことではありませんよ」


 冒険者は荒くれ者のイメージが強い。それは、普段の依頼が武力を行使するものが多いからだろう。

 だが、ファルスはその冒険者に引けを取らない荒くれ者と言える。仕事はしないし、女に走るし、金は無駄遣いするし、困ったら取り敢えず魔術で解決。

 冒険者が可愛く見えるほどファルスはダメ人間だ。


「依頼主は誰なんです?」

「匿名だね。けど、報酬の相場を知ってる。国か、貴族か…まあ、そこはどうでもいいんだ」

「というと他に引っかかる部分が?」

「『聖女』だね…」

「聖女様なら私でも聞いたことありますし、普通では?」

「エレナちゃんが言っているのはマドナルカの街にいる聖女で、国や神殿から認められている『聖女』様のことだよね?」

「ええ、そうです」

「『聖女』様は今、マドナルカの街にいる。朝、神殿で会ってきたから間違い無い。けど、調査依頼はアルドマカの街なんだ。二人目の『聖女』なんておじさんは聞いたことがないんだよねぇ…」


 依頼の紙をじっと見つめ、少し悩み込んだ表情を見せるファルス。


「なんでファルスさんが『聖女』様と知り合いなのかとか色々気になりますけど、確かにそうですね。私も他に『聖女』がいるとは聞いたことがありません」

「『聖女』にも色々条件や規約があるからねぇ…そう簡単に慣れるものでもないし、なったらなったで神殿から発表が無いってのはおかしい…」


 『聖女』というのは、この鏡の国では特別な役職だ。

 地位や権力で言えば神を崇める神殿の最高位である神殿長と同等。

 奇跡とも言える回復魔術の使い手で、その美貌と天使を彷彿とさせる優しさもあり、国民からの人気は絶大。

 この国で『聖女』を知らない者はいないほど。

 だが、その『聖女』は発言力が強く、特別な存在のため、一人しかいない。


「まぁ、取り敢えず行ってみるしかないよねぇ…お仕事無いし…」



◇ 鏡の国 アルドマカの街 ◇【王国歴1049年草月(五月)28日】


「アルドマカの街は可愛い子が多いねぇ…」


 支度をし、馬車で移動すること一週間、ファルスとエレナはアルドマカの街にやってきていた。


「またですか…あれを見てください。仲睦まじい親子。たまにはああいうのを見てほっこりしてください」


 通常運転のファルスに呆れ顔を浮かべるエレナは、花屋の前で笑顔を浮かべる母親らしき女性と、幼い少女を指差す。


「まだあどけない新妻の腰つき…うーん、エッチだ。おじさん、"ほっこり"じゃなくて股間が"もっこり"してきたよ」

「ファルスさんはどこに行っても変わりませんね」

「そう褒めないでくれ、おじさん照れちゃう」

「皮肉です。ひき肉にしますよ」

「エレナちゃんもどこに行っても変わらないねぇ…取り敢えず、聖女について…ん?」

「どうかしましたか?」

「鐘が鳴っている……」


 ファルスが耳の横に手を置いて、じっくりと音を聴くように目を閉じる。

 エレナもファルスに習って耳をすます。

 すると、小さくゴーンゴーンと鳴る鐘の音を耳が拾う。


「エレナちゃん、今何時?」

「夕方の六時ちょうど……おかしいですね」


 ファルスに時間を聞かれたエレナは懐から懐中時計を取り出すと、時計が指す時間を見て首を傾げる。

 鏡の国は統一して一日に二回の鐘が鳴る。それは、朝の七時と夜の七時。

 エレナの懐中時計は魔力で動く魔術具で、時間が狂うことは絶対に無い。

 鐘の鳴る時間がズレることなど、鏡の国の歴史上あるはずもなく、エレナとファルスは小さく聞こえる鐘の音を不信に思う。


「おじさんの股間と一緒で鐘の音がだんだん大きくなってるねぇ…それに、どこか街が騒がしい」

「巫山戯てる場合じゃないです。去勢しますよ」


 誰かと誰かが手を繋いで大騒ぎしている訳では無い。

 ただ、誰もが手を止め、建物から出て、ただ一点を見つめている。


「教会と…時計塔か」

「何かのイベントですかね」


 住人の視線の先にあるのは一際大きな一本の時計塔と、その時計塔を囲む白レンガで出来た教会。

 別段というわけでもなく、極々ありふれた教会と時計塔。


「な、なんですかこれ」


 だが、ありふれて無いものが一つ。

 住人達が鐘の音を聞いて、一斉に膝をつき、胸の前で手を組んで祈りを捧げ始めた。


「異常…だねぇ」


 ファルスの記憶ではアルドマカの街は信仰の深い街ではなく、毎年教会は赤字続きだった。

 だが、ファルスとエレナが見たのは『狂信者』という言葉が似合うほど信仰深い住人達。


 ファルスは顎ヒゲを撫でながら、乾いた唇を舌で濡らす。


 そして更に異常なのが、祈りを済ませた人々が全員等しく笑顔を浮かべていること。それはもう人生で一番の幸せがあったかのように。


「なんか…戻りましたね」

「数分前までなら普通だったんだけどねぇ…あれを見たらこれは狂気の沙汰だ」


 住人達は祈りを済ますと祈りを捧げる前の生活に戻る。

 何事も無かったかのように。

 違和感が無さすぎるほど自然に。


「この街にいったい何が起きたんだ…?」

ここから話は少しシリアスへ…。

おじさんの格好いいところが見れる日は来るのか!

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