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『性欲』の大魔術師  作者: いちにょん
第一章 聖女の涙編
4/9

episode4 賭博場

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

◇ 鏡の国 冒険者組合 食事処 ◇【王国歴1049年草月(五月)3日】


「『七つの大罪』…ですか?」

「そっ、おじさんを合わせた『性欲』、『食欲』、『睡眠欲』の三大魔術師に継ぐ次世代候補の七人ってところかな」

「そんな人が……世の中って広いですね」

「ははっ、そんなこと言ったらおじさんなんて世界規模でみたら上位三桁にも入ってないよ」


 いつも通り依頼をこなしたファルスとエレナは冒険者組合の二階の食事処で報酬を使っていつもよりもリッチな夕食を囲んでいた。


「あっ、美味しい…」

「屑等級の依頼じゃ近くの村の収穫を手伝うなんてのもあるし、魔物の肉もここで解体買取してるから新鮮なんだよ。それに、ここは値段に正直で忠実だだ。安いものに当たりはなく、高いものにハズレはない」

「なるほど…けど、酷ですよね。ここは他の冒険者組合と違って階級によって座る場所も決まってませんから、食べるものが全員に見られてしまいます。これじゃあ、食べてるもので一発で稼ぎが分かっちゃいますよ」

「競争心を生むためだって言われてるけどねぇ…。まぁ、そこら辺をどう思うかは自由じゃないかな?ほら、あそこの金髪ロングのツンツンした子いるだろ?あの子はエレナちゃんと同じ銀等級だけど食べてるものは屑くらいの冒険者と変わらない」

「それを言ったら私も銀等級らしい食事はしてませんけどね…」


 ファルスとエレナが食べているのは精々銅等級レベル。ようやく毎日三食食べられるような稼ぎになった冒険者と同じ程度だろう。


 ほろりと涙しながら、久しぶりの暖かい食事を噛み締めるエレナは不憫で仕方なかった。


「それにおじさん、周りから同情された哀れみの目を向けられるの嫌いじゃないからね」

「……」

「エレナちゃんのはゴミ屑を見る目だから少し怖いよ……」



◇ 鏡の国 マドナルカの街 賭博場 ◇【王国歴1049年草月(五月)4日】


「私、賭博場に入るの初めてです」

「そりゃあエレナちゃんの見た目じゃ入れないだろ…おじさんのつま先をぐりぐり踏むのはやめてほしいねぇ…」


 ファルスとエレナは冒険者組合長であるバールドの依頼で違法の疑いがある賭博場を訪れていた。

 今日は事前視察。店の雰囲気や店員、客、動いている金の量などをざっくり把握しに来たわけだ。


「ドレスは慣れませんね…」

「おじさんはよく似合ってると思うよ」

「ファルスさんは馬子にも衣装って感じですね」

「薔薇の花束を投げたつもりが、投げ返されたのはナイフだったようだ」

「薔薇なので棘はつきものかと」


 ファルスは白のタキシード、エレナは薄黄色のドレスに身を包み、正装中。

 この賭博場は貴族や商人などいわゆるビップ御用達で、正装がマナーとなっている。


「それで、違法の疑いがあるって言ってましたけど…」

「未成年…つまり十八歳未満が働いている疑いがあるらしい。それも、仕事がかなりグレーだって話だよ」

「胸糞悪いですね。ここで今すぐ上級魔術でも発動したい気分です」

「まあまあ、今日はバールドからお金も貰ってるし、調べながら楽しもうじゃないの」

「難しく考えすぎるのもだめですね…」

「それに、シルフォード王国では賭け事態が禁止だって聞くし、中々ない経験だよ」

「そうですね…」

「それにこう見えておじさん、賭け事はめっぽう強いんだ」


 金色の硬貨を指で弾いたファルスは、エレナにキザったらしい笑みを向ける。



「それで何か言い訳はありますか?」

「イカサマだ!!おじさん、納得してないぞ!!」

「私の目には自滅して自己破産しているようにしか見えませんでしたけど…」


 エレナは呆れ果てて目の前で大号泣しながら正座するファルスを見下ろす。

 先程まで格好よく決めていたファルスの姿はどこえやら、今では身ぐるみを剥がされパンツとお宝が詰まったポーチのみだ。


「はぁ…大人しくそこで待っていてください」

「ワン…」

「は?」

「ごめんなさいニャー」

「……」

「おじさん、無視は嫌だよ」



「赤の二十七に追加ベットです」

「また全額一目賭け…」

「ノー・モア・ベット…赤の二十七です……」

「金貨百七十枚の三十六倍…」

「白銀貨六十一枚と、金貨二千枚です…」


 金貨数枚があれよあれよと膨れ上がり、エレナは貴族に負けないほどの一財産を築きあげていた。


「エレナちゃん…」

「私、昔から運が絡むことで負けたことないんですよ」

「……これはここを調べるまでもなく、破産だね」

「お金、どうしましょうか」

「違法扱いだし……証拠として回収?」

「まあ、持て余すだけなのでいいですけどね」


 少し自慢気なエレナは、泣き崩れる店員達及び、オーナーと思わしき人を一瞥すると賭博場をあとにしようとする。


「けど、勿体ないですよね」

「少しくらいはいいんじゃないかな?」


 そう言って金貨数枚を指の間に挟んでエレナに見せるファルス。


「そうですね、これで美味しいものでも食べましょう」

「これくらいは許してくれるさ」


 そう言ってはははっと笑ってみせるファルス。

 たまにはこれくらいのことをしても、見逃してもらえるだろう。



 ───────許してもらえませんでした。







久しぶりの更新となってしまって申し訳ありません。

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