episode3 災難な夜
誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。
◇ 鏡の国 天狐森 ◇【王国歴1049年種月(四月)30日】
「ファルスさん、ちゃんと警戒してますか?」
「おじさん、気を張ってるつもりが、下のテント張っちゃったよ!あははっ!」
「五臓六腑を撒き散らして死んでください」
「今日も口が悪いねエレナちゃん」
エレナがファルスに弟子入りしてから一ヶ月が過ぎようとしていた。
最初はファルス様、お嬢ちゃんと呼びあっていた二人だが、流石に一ヶ月も経てば砕けた呼び方に変わっている。
「先におじさんが火番をしているから、先に寝ていいよ」
「寝込みを襲ったら右腕をすり潰します」
「もう少し豊満って言葉が似合うようになってから出直しておいで」
「レディに対して失礼ですよ」
「一般人のおじさんに向けて、腕をすり潰すなんて発言は失礼を通り越してクレイジーだよ」
エレナの発言にげんなりとした表情を浮かべるファルス。
最近益々鋭利な刃物のようなエレナの鋭い罵詈雑言にファルスは神経をすり減らすと同時に、少し興奮していた。
ちなみにファルスは攻守共にイける両刀使いだ。
「それじゃあお言葉に甘えて…」
「うん、おやすみなさい」
寝袋に入ったエレナはすぐに寝息を立てて、睡眠を取る。
どんな時間、場所、いかなる場合でもすぐに寝ることができるのは冒険者を含め、戦闘を行う者ならば必要な能力だ。
「さて、おじさんは自家発電をしながら……」
倒木を椅子にし、焚き火の火を調整しながら独り言を呟いていたファルス。
その独り言が急に止まる。
「珍しいお客さんがいたもんだねぇ。森の奥に魔獣以外の生物がいるなんてね」
ファルスは振り返ることなく、自分の後ろの茂みの奥に隠れている三つの気配に聞こえるように独り言を続ける。
グヌォォォ
「え…」
ファルスはこれでも有名人。時折暗殺を目論む者がいるため、今回もその手の者だと予想していた。
だが後ろから聞こえたのは少し甲高い唸り声。
ファルスは嫌な予感がして後ろをゆっくりと振り返る。
「ハハッ…おじさんとしたことが刺客とレディを間違えるとはね…けどおじさん、【豚猪人】をレディとして見るのは少し…いやぁ、すまない…」
【豚猪人】とは上級に分類される他種族に子を産ませることで有名な魔獣だ。
【豚猪人】のもう一つの特徴は性別の比が雄が圧倒的に多いこと。
雄の【豚猪人】は大柄の成人男性を更に一回り大きくしたような見た目をしており、深緑色の肌と、二本の鋭い牙は刃物ように切れ味が良い。
対して雌の【豚猪人】は雄と同じく深緑色の肌をしているものの、人族が描く理想の女性像のような見た目をしており、肌色以外は人族と変わらない美人だ。
「おじさん、確かに性欲には自信あるけど…同時だなんてモテモテだなぁ……」
そして【豚猪人】はその特徴故、雄は他種族の雌を満足するまで犯す。
だが雌の【豚猪人】は雄よりも五倍以上性欲が強いと言われ、性の強い雄を死ぬまで犯すことで有名だ。
一度捕まれば死ぬまで搾り取られる。
ファルスはじりじりと距離を詰めてくる【豚猪人】から後退することで距離を少しずつ取っていく。
「逃げるんだよぉぉ~!!!」
回れ右をすると全力で走り出すファルス。
だがファルスが走り出したと同時に【豚猪人】もファルスを追いかけて走り出す。
「勘弁してくれないかな!エレナちゃんが起きちゃうというか、あの子寝てる時に無理矢理起こすと怖いんだよ!!」
一度ファルスが寝ているエレナにイタズラをした時、寝起きで目付きが鋭く、身震いするような殺意を放ったエレナにファルスは、ファルスのファルスを執拗に攻撃されて以来、寝ているエレナを起こすことを禁止としている。
「おじさんの息子を守るため!レディ相手でも手加減は無しだよ!」
ファルスは腰のポーチから魔術書を取り出すとあるページを開く。
「【ほら鳴きなさい 豚は豚らしく 家畜として女王様に尽くしなさい おじさんは醜い豚野郎ですぅぅぅ!! 女王様の鞭】」
ファルスは後ろの【豚猪人】に腕を振るうと、魔術陣が空中に複数出現し、そこから風の刃が射出される。
風の刃は【豚猪人】を薙ぎ倒し、無事にファルスは難を逃れる。
「ふぅ…なんとかなったかなぁ…」
額の汗を拭うファルス、パタパタと襟口をつまんで体を冷ます。
「何を……騒いでいるんですか…?」
一息ついたファルスの後ろから凄まじい殺気が放たれる。
ファルスは錆びた機会人形のようちギチギチとゆっくり振り向くと、大層御立腹のエレナの姿が。
「あっ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
天狐森にファルスの絶叫が響く。
更新遅くなってすみません。