episode2 冒険者組合
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◇ 鏡の国 天狐森 ◇【王国歴1049年種月(四月)5日】
「……は?」
ファルスの放った魔術は凄まじいの一言に尽きた。
ファルスの魔力放出に気がつき、振り向いた【飛竜】を飲む混むほど大きい火炎の竜巻。
【飛竜】も負けじと空中でじたばたと藻掻くも、抵抗虚しく最後はその圧倒的な火力に押し切られ、炭と化す。
「さーて、消化消化…【飛竜】が火に弱いからって森を燃やすと俺が怒られちゃうからねぇ…【 そーれ ちょっ、やめろよ やったな お返しだ 魅惑の水かけ合い 】」
「ちょ、ちょ、ちょ!ちょっと待ってください!」
飛び散った火の粉を霧雨状の水を魔術陣から噴射して消化するファルスの腕を掴んで慌てて引き止めるエレナ。
「ん?どうしたんだい?」
「そ、その魔術書!!なんか薄っぺらいと思ったら!!」
「最高にムラムラしちゃうでしょ?」
「ただのグラビア雑誌じゃないですか!!」
ファルスが両手に持っていた魔術書の中には、専門的な魔術的な説明も、魔術陣も載っていなかった。
代わりに載っていたのは扇情的な格好をした美女、美少女達。
「そのブックカバーは汚れを防ぐためじゃなくて…」
「ほら、おじさんの性癖バレちゃったら困るじゃない?」
エレナの質問に恥ずかしそうに頬を染めるファルス。
「そ、それよりももっと有り得ないのはさっきの詠唱ですよ!」
「ああ、おじさんのオリジナル魔術詠唱気に入ってくれた?」
「有り得ません!魔術公式に当てはまらない詠唱なんて!一人称は『我』、二人称は『彼の者』、三人称は『彼の者達』!『異端なる信徒達』とか例外こそはありますが、『君』とか『僕』とか有り得ませんよ!」
「魔術公式なんて一例に過ぎないからねぇ…結局自らが思い描くイメージと魔術が現実に干渉してもたらす結果が一致していれば、魔術詠唱なんて適当でもいいんだよ?まあ、習わないから知らなくても仕方ないけどねぇ」
「そ、そんな…」
自らの価値観を崩されて喚き散らすエレナ。
だが、どれだけ信じられないことだろうと三大魔術師の一人であるファルスが言うのであれば、それは本当なのだろう。
エレナは根底から覆された魔術概念に頭が追いつかなくなる。
「基本的にどんな事でも基礎が出来るようになれば、人は新しい効率的な方法を作り出す。基礎ってのはあくまで万人のためのものであり、その人のためのものじゃあない。料理にしろ、勉強にしろ最終的に自分に合った方法を見つけていく。おじさんは性欲を魔力に変換する方法を見つけるにあたって魔術について沢山勉強した。その中で、魔術を使うにあたっておじさんにぴったりな詠唱を見つけたってわけだ」
「……」
「だからこれをお嬢ちゃんが真似しても強くはなれないし、これを理解してもらおうとは思わない。おじさんは純粋無垢な子に性知識を植え付けるのが結構好きだったりするからね」
「最低です…」
「罵しられるのも結構好きだよ」
ファルスの話を全て飲み込めたわけではないが、エレナも少しずつ状況を飲み込めてたきたのだろう。
エレナが目の当たりにした光景は、簡単に言えば材料と包丁一つで煮込み料理を作られたのと同じくらい魔術的には衝撃的なことだったので、エレナがここまで取り乱したのも仕方無いと言えることでもある。
「さて、依頼も完了したことだし、帰るとしますか…それでどうする?まだおじさんの弟子になりたいかい?」
「…はい、お願いします」
「うん、それなら明日は組合の方に行こうか。報告もしたいしね」
「朝九時に広場でいいですか?」
「おじさん、朝は苦手なんだけどなぁ」
☆
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◇ 鏡の国 マドナルカの街 広場 ◇【王国歴1049年種月(四月)6日】
「遅い……」
翌日の朝九時に集合したエレナだが、一時間経てども、二時間経てどもファルスが広場に現れることは無かった。
「いや~、ごめんごめん。朝から盛り上がっちゃって。あ、気分じゃなくて股間がぁぁぁ悲鳴をあげているぅ!!?」
「女の子を二時間待たせた罰です」
「せめて腹パンならおじさん喜んで受けれられたけど…これは…だめだよ…息子が死んじゃう…」
「独身の癖に何言ってるんですか」
笑顔で気軽に手を挙げて遅れて来たファルス。昼間だと言うのに下ネタ全開でエレナに駆け寄るが、途中でエレナに股間を蹴り上げられ、現在悶絶中。
「そ、そ、それじゃあ冒険者組合の方に行こうか…」
「はい」
内股でよちよち歩きのファルスを気にした様子も無く、エレナは平然とした顔でファルスの横を歩く。エレナはなんだかんだで順応性の高い女の子だった。
☆
◇ 鏡の国 マドナルカの街 冒険者組合 ◇【王国歴1049年種月(四月)6日】
「おや、ファルスじゃないか」
「アイツいる?」
「組合長だね少し待ってておくれ、今すぐ呼んでくるから」
「本当に組合長とお知り合いなんですね」
「国立魔術学園時代の腐れ縁だよ」
冒険者組合と言っても建物の構造はシンプル。大樹の中を削り、板を張って階を分けていくというこの世界では珍しくない作りだ。
冒険者組合は中でも大きく、四階まであり、一階は受付や依頼の受注や発注。二階は飲食店、三階は魔獣や各国の情報を纏めた資料庫、四階は住み込み組合職員の住居となっている。
「受付の方とも仲がいいんですか?」
「あれがピチピチの女性だったらいいけど、生憎おじさん、熟れた果実には興味が無いんだ」
「一番美味しい時期だと言われてますけど」
「甘いだけなら十分。おじさんは新鮮さと、未発達な苦味を味わいたいのさ」
「女一人抱いたこともないのに口だけは格好つけるのは昔から変わらんなファルス」
「おいおい、俺の最初の女は生涯愛する女だって決めてるって何度も言ってるだろ?この世は経験者の言葉が格好いいんじゃない、格好つけてる奴の言葉が格好いいってもんだバールド」
エレナとファルスの会話に割って入ってきたのは、何とも人当たりの良さそうな男性だった。
ファルスが国立魔術学園にいた頃からの腐れ縁だと言っていたので年来は三十そこそこ。金色の髪に同色の瞳。彫りが深くなっている顔立ちは大人の渋みを出しつつ、常に浮かべている優しそうな笑みはギャップを生み出している。
彼こそ若くしてこの冒険者組合の組合長になったバールド。国立魔術学園をファルスと同じ年に次席で卒業した実力者だ。
「それで昨日出した依頼だが」
「無事に達成した。消し炭になったから証拠はないけどな」
いつもの間延びをした喋り方では無く、今のファルスはとても生き生きとしていた。
やはり憎まれ口を叩いても、魔術学園からの知り合い。それこそ二十年近くの付き合いだ。自然とファルスの口元に笑みが零れる。
「いい。こちらもファルスの腕を信用して頼んでいる。報酬はきちんと払おう…っと、君は銀等級のエレナくんだね?」
「は、はい!」
「緊張しなくてもいい。君みたいな若い実力者は私としても大歓迎だからね」
「気をつけた方がいいぞバールド、このお嬢ちゃんは男の股間を躊躇い無く蹴り上げる」
「誤解を生むようなことを言わないでください!」
「おうっ…!おじさんの息子が泣き叫んでいる…!!」
ファルスの物言いに顔を真っ赤にして怒るエレナ。怒りに身を任せ、ファルスの股間を蹴り上げる。
誤解を解こうと誤った解を正しい解へ導いてしまったようだ。
組合長を含め、冒険者組合にいた男性全員がエレナの容赦のない流れるような股間蹴りに顔を真っ青にして股間を押さえ、内股になったいた。
やはり二作品同時毎日投稿は無理なので一週間に一、二話ペースでいきたいと思います。