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かわらないもの

作者: 幻ノ月音

お爺さんお婆さんの何気ない雑談、お互い初めて会ったはずの他人同士です。



疲れた。

毎日朝から晩まで仕事で何度もこの仕事を選んだことを後悔していた。

世の中はクリスマス。私の記憶ではそんなにめでたいものではない。毎年毎年ものすごくしんどい行事になっている。嫉妬なんてしたくないのに…あの人はいいなぁ、外に出たいなぁ、好きな人と歩いてみたい、プレゼントを考える楽しみがほしい、と色々考えてしまう。周りが楽しんでいるのを祝うことができない自分はなんて醜いんだろうって思う。私のお店に来てくれたお客様に「ありがとうございました」と一方通行に淡々といっている自分がいる。お金を頂いて頭を下げて、それでいて皮肉屋の私はどんどん気持ちが沈んでいく。


そんなとき見た光景が忘れられない。見たというより耳にしていた…


待合室である高齢の婦人が待っていた。足の悪い旦那様の付き添いできていた人。仕切りがないために、仕事をしている私にも聞こえてくる待合室での雑談。他人同士でもお友達のように話し出すのが高齢者たちだった。あるお爺さんがいきなりその御婦人お婆さんへ話しかけてきた。


お爺さん「あなたは運命というものを信じるかい?」


(えっ?何いきなり…お婆さんを口説くつもり?)と驚く私。


お婆さん「えぇ…まぁ。」

戸惑いながらも返事をするお婆さん。


お爺さん「私はね、ついていない運命だからいつも何をやってもうまくいかないんだよ。周りはどんどん恵まれていくのに私は置いていかれるばかりだ。」


(お爺さんの言いたいことは運命というより、いかに運に見放されていて、ついてない人生を歩んでいると言いたいのだろう。なんか私みたい…)


お爺さんに共感してしまった自分がいた。そんな時聞こえてきたお婆さんの返す声。


お婆さん「運命は、自分次第でしょ?だから切り開くものだと思ってるわ。」


(へぇ…)この時の私はふ~んカッコイイ事言うじゃん!くらいの気持ちだった。次にきたのは、でもさっていう下向きな気持ち。


お爺さん「いや~だってね、切り開くもなにも運命が私を追いかけてきて逃げられないんだよ。あはは…」

自分を卑下するように笑いながら言うお爺さんに、うんうんそうなのよ、と心の中で同調する私。

そこですかさずお婆さんが返してきた。


お婆さん「払いのけなさい。」


ドキッとした。一瞬にして濁っていた私の目の前の霧が晴れていくようだった。大袈裟かもしれないけれど、その時の私は凄く気持ち良かったのだ。


先程まで読んでいた雑誌、それをめくるお婆さんの手はしわがあり、積み重ねたものや歩んできた道が刻まれているようだった。

ひとまとめに老いと言ってしまえば簡単だけれどその人の瞳や凛とした声は衰えを感じないとてもしっかりとしたもので、それは自信の表れなのだろうか。羨ましいと思った。


私はそんな風になれる自信がない。


そんな時に聞こえてきた「払いのけなさい」という言葉になんだか恥ずかしくなった。だって私よりも倍以上は年齢が上のお婆さんが屁理屈を言うお爺さんの相談にのって、更にアドバイスまでしてるんだよ。しかも適当に交わさずにしっかりと意見を言って。自分がすごく情けなくなった。


そのうちお婆さんの旦那様が戻って来た。足の悪いその人を笑顔で迎える彼女。

あぁそうか、きっと歳は関係ないんだ。変わらずに好きだと言える、その人を見つけたからかなんだね。


やっぱり羨ましい。

せめて今自分が大切にしていること、自分が好きだといえるものを大事にしていこうと思った。




読了ありがとうございました。

エッセイでもありますが少し分かりやすくするため脚色もしてます。なので短編として残させて頂きました。日常になにか少しでもいいものが見つけられますように、そんな願いも込めて。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エッセイとありましたが、小説として読んじゃいました。 冒頭の、ぼやきながらもお仕事をしている『私』の部分が読んでいて心地よく、クリスマスという時期との対比もまた愛しくて、思わず感情移入し…
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