04
「今日はどれぐらい潜るの?」
「そうだね、とりあえず様子見って事で」
「迷宮都市」のダンジョンは、おそらく地下三十階層程度だろうと言われている。
ザンジはとりあえず依頼のあったカードを持ってダンジョンに入り、カードの持ち主が指す角度によって何層にいるのであるか目算を付ける。
これが深層部となるとザンジの魔力では到底足りないし、魔石を買い込んで複数の戦力でもって事にあたあたらねばならない。
「もっと深い……」
「申し訳ないが、俺一人ではこれ以上無理」
地下八層。
巨大な空間に、太い石の柱が規則正しく立ち並んでいる。
この階層には灯りは無く、ザンジが杖をかかげて魔力の光で松明代わりにしている。
カードの男はまだ下を指さしている。
「うーん、しょうがない帰ろうか?」
「そうだね」
出来るだけ早くと言われてはいるが、急いでどうこうなる物でも無い。
「ちょっと待って、あれは?」
さっきまで暗闇だった場所に、ポツンと火が灯っている。
「誰かいるみたい」
「行ってみよう」
「罠かもしれない……」
「その時はギュンターの仲間入りだろ」
「冗談じゃないよー。
ザンジの事、結構好きなのに!」
「ははっ、気を付ける」
それは男女二人のパーティーだった。
しかし、もう長くは無いだろう。
男は片腕が潰れた状態で女をここまで担いで逃げて来たみたいだ。
荒い息に大量の失血。
女の方は、もう既に息が無い。
最後の力を振り絞って助けを呼ぶために松明を点けたに違いない。
「ザンジ、トロルだ」
「二匹以上なら逃げるからな」
「一体のみ」
「よし、いつもの感じでよろしく」
「了解」
ザンジがギュンターとダンジョンに潜って半年は経つ。
二人は慣れたもので、ギュンターが鉈を構えると手早くザンジは巻き上げ式のボウガンを準備する。
「ぴちゃり」
「ぴちゃり」
トロルと見破ったギュンターの目には見えていたのだろうが、光の中にようやく怪物が姿を現す。
地面に這いつくばって血を舐めとりながら進んで来る。
身長は三メートルを超すだろう。人型の怪物、手には棍棒を持っている。あれで殴られてはひとたまりもない。
「ヒュッ」
風切り音と共にザンジはボウガンを放つ。
「ぐぁああああああああ!!」
片膝を地面に付けての射撃は正確で、トロルの右目に命中した。
当然大柄なトロルは一撃で殺せるわけがなく、次の瞬間こちらに突っ込んで来る。
「はっ!」
ギュンターがトロルの突進をかわして、足首を横から斬り付けてまず勢いを止める。
「ぐぅうううう……」
付かず離れず自分から攻撃はしない。
常に相手の攻撃をかわし続ける。
「ヒュッ」
「ぐぅるるるるるるぁああああ!!」
二発目のボウガンの矢が刺さった。
今度は的が動いているので、体の中心を狙って脇腹のあたりに着弾した。
「結構うるさいけど他に敵は?」
「いない、こいつの縄張りなんだろ」
「そうある事を祈ってるよ」
それから数分も経つと、トロルの動きが目に見えてにぶってきた。
「やっとかー結構高いんだよこれ」
ボウガンの矢は基本的に毒入りだ。
人間なら一本喰らったら何処に当たっても死んでしまう。
三本も喰らったトロルはよく倒れないものだ。
ギュンターはこの隙を逃さず、潰れた目の死角から攻撃を繰り出し続け、トロルを無事倒した。
「お疲れー」
「さっきの男よく見てなかったけど、まだ生きてるかな?」
「死んだなら、まぁ商売ってもんさ」
「よく言う、商売下手じゃない」
「ははっ」
「じゃあギュンターは女を見てくれ、運ぶにしてもさっきみたいに血の跡を追われては困る」
「わかっ……。
……そんなっ!!」
「どうした?」
「フレーゲルだ……」