03
「再葬の依頼ですか?」
「はい、よろしくお願いします……」
冒険者ギルドの一室。
ザンジと向かい合った席に座るのは身なりの良い初老の男性。
従者もいることから、おそらく貴族と思われた。
「では手付で百万、成功報酬としてもう百万。
もちろんかかった経費は別途いただきますがよろしいでしょうか?」
「高過ぎる!」
「ユンカー」
「はっ……出過ぎた真似をしました」
ユンカーと呼ばれた従者は頭を下げる。
「払わせてもらおう。
うちの三男には正直何もしてやれなかった。 せめてもの償いとして見つけてやりたい」
「そうですか、では……」
ギルドの担当を呼び出すと、カードを貸し出してもらえる。
このカードは冒険者ギルドに登録する際に控えと合わせて二枚作成するもので、冒険者にとっては身分を証明する物。
ギルドにとっては冒険者の状況を知る事が出来る優れ物である。
作り方としては金属のプレートに血をたらす。名前の記入は代筆でも構わない。
それ以降の加工についてはギルドの秘密となっている。
貴族の男は苦労して三男を探し出したが、居場所を見つけた時にはダンジョンに入ったまま、かなり時間が経った状態であった。
そんな場合はザンジが呼ばれる。
カードに魔力を通すとわずかに明るく光を発し、登録した相手の状況で色が変わる。
通常だと青く光る。
「赤い……ですね」
ザンジが魔力を通すと赤く光った。
主人が押し黙って話さない代わりに従者のユンカーが声を上げた。
実は通常のギルド員でもここまでは確認出来るので、この結果は貴族も知ってはいたが、改めて見せられると気持ちが沈む。
「それでは見ていきましょうか」
ザンジは特別な能力者「死霊術使い」というわけではない。
霊の姿が見える。
細かい技術面をクリアすれば、誰にだって死者を歩かせる事が出来る。
しかし魔力が無いとすぐ動かなくなるし、そもそも会話が出来ないと色々と不都合が生まれる。
本人の意識が入ったか判断出来ないし、他人のために働いてくれる都合の良い霊体はいない。
意識が無いなら「腕よ動け!」みたいに一々魔力を筋肉に走らせて生前のように操るとか不可能だ。
死霊術は霊を無理矢理働かせてそれを行っている状態と言える。
その反面、いったん動かせれば地上だろうと魔石を電池みたいにくっつけて荷運びや戦闘に使える。
もちろん通常は燃費が悪過ぎてしない。
「息子さんは残念ながら、すでに生きてはおられないようです」
「……そうか」
今、ザンジの目の前には若い男の姿が映っている。
少しの血に宿っていた魂が、生前の姿を形造るのだ。
「ナイフの柄に……これは鳥ですかね?」
「おそらくそれはカワセミでしょう。
当家の家紋です」
ユンカーが眉根を寄せて言った。
「それで、これからどうやって探すんだね?」
「あ、はい。ご説明しますね」
カードから現れた姿に意識は無く、ただ別れた本体の位置を指さす。
若い男は地面、ダンジョン内部を指さしていた……。
「ザンジ、仕事?」
「ああ、そうだよギュンター」
墓所。
石棺の一つから起き上がった、ギュンターと呼ばれた男はザンジを見て言った。
なかなかハンサムな男で、生前はさぞモテた事だろう。
墓所には八つの石棺があり、現在はあまり埋まっていない。
ザンジは誤解されがちなのだが、決してどの遺体でも使っているわけではなく、この世に未練が有り、なおかつ身寄りのない死体だけお互い納得して協力してもらっている。
ギュンターも冒険者だった。
田舎から出てきた男女の幼馴染三人でパーティーを組みダンジョンに挑んでいた。
しかし、最初はうまくいっていたらしいが、強いモンスターの群れに遭遇。
残りの二人に囮として置いて行かれてしまったらしい。
よく聞く話。
ギュンターは革で作られた短剣の鞘を握りしめて死んでいたのだが、さぞ無念であった事だろう。
「今日もよろしく」
「こちらこそ、よろしく……」