12
「えっ!?
旦那無事だったのかよー!!」
「まぁね……」
ミーナに抱えてもらって、首を元の場所に戻してもらったメッサーは喜びの声をあげた。
「ダイテツ、ソロモン。
戻った?」
「あっ……ああ……拙者は大変な事を……」
「命は流れる水。
後悔は何の意味も無い、ダイテツ。
それよりもザンジ君、時間が無いのでは?」
「ああ、そうだ。
でも、この下の階層には二人でも勝てない相手がいるんだよね?」
三十階層。ザンジの両親を殺した相手がいるはずだ。
「いや、おそらく勝てる」
「ソロモン、こちらが一度やってからだ」
「まぁいいだろう」
「あの……ちょっといいですか?
もしかして、お二人でも勝てない相手に挑もうとしていますか?」
ミーナが心配そうに尋ねた。
「フフ……心配ならこの階層に留まっててもいいんだよ」
「ソロモン、お前本当に幼子が好きなんだな……正直引くわ」
「違うって言ってるだろうが!!」
「?」
「こちらの話だ
とにかく安心してもらいたい。
心配なら貴方だけ残っても構わない」
「俺は旦那と行くぜ!」
「では私も行きます」
「そうか」
三十階層。
そこは柱も無く、天井が高く、広く、ただただ一面の……一面の墓場であった。
しっかりとした石工の手による墓もあれば、墓標代わりの剣や槍が刺さっているだけの墓もあった。
中央に光が差し、一番大きく立派な墓の前にはこの階層唯一の住人がいた。
白銀の鎧を着込み、手には儀礼用の幅広な大剣を持っている。
動かぬ姿から精密な人形かとも思えたが、こちらに気付くと地面に刺した大剣を正眼に構え直した。
「よっしゃ!
ここは俺が一番に!!」
「すまんが、メッサー。
お前は恋人を守ってやれ」
「えっ!?
あっ!
やっぱり私達そう見えちゃうのかな~」
「恋人?
って、誰と誰が?」
「若様!!」
ミーナにぼかぼかと殴られているメッサーを置いて、ダイテツは白銀の騎士と一人対峙した。
ダイテツは太刀を鞘に納め、居合の構えをとった。
いくら騎士が強くとも、速さでは居合が勝る。ダイテツはそう考えていた。
そして、先程のメッサーを両手剣ごと断首出来た事から斬鉄も問題無く行えるはず。
「……っ!?」
ダイテツの居合は止められていた。
首を落とすどころか、首に触れてもいない。
騎士は大剣を横に構えて受けたのだった。
居合の弱点は、その軌道が読まれやすい点にある。
その剣先から半ばまで大剣に太刀をめりこませたダイテツ、恐るべき剣技
しかし、押せども引けどもビクともしない太刀をダイテツは手放して、こう言わざるをえなかった。
「お見事」
ダイテツが抜こうとしてもビクとも動かなかった太刀に片手をかけると、そのまま大剣と左右に振り抜き、ダイテツの体は上下二つに切り裂かれた。
「わわっ!!
ダイテツのおっさんが瞬殺された!
どうすんの絶対あんなの無理だって!!」
「大丈夫、もう勝ってる」
ソロモンが両手を掲げる先に何があるのかを騎士は気付いた。
「!!」
意外にも、今まで守護していた一番立派な石棺から飛びのくと、小奇麗にしてあるが何て事は無い石棺の一つに駆け付け、ソロモンの放った石槍やその他の魔術による攻撃を一蹴する。
「あいつは何とかするから
ザンジ君はダイテツを直してもらえないか?」
「はい、でも大丈夫ですかね……」
ソロモンの魔術が雨の様に降り注いではいるが、騎士には何も効いていないようにすら見える。
「前回はあの鎧にやられた」
騎士の鎧は物理防御もさることながら、対魔術対策として仕掛けがあった。
バリアのような物では炎や雷を防げても、石槍のような物は防げない。
あの鎧には周りの魔術を元に戻す効果がある。
つまり、石槍は魔力を失って単なる土塊に戻り、炎や雷は魔力の塊に戻って、何となく押される程度の物になってしまう。
「まぁ、ネタが割れたら大した事ではない」
騎士が顔を上げて周りを見渡す。
墓石代わりの剣や槍、数百ものそれらが空中に浮いて、その切っ先を騎士に向けていた。
「一点突破すれば、あいつならなんとか出来るんじゃないの?」
「あいつは避けない。
というか避けられない」
魔力で作った者以外で攻撃すれば無力化出来ないし、降り注ぐ力は重力であって魔力では無い。
騎士は全て撃ち落とすのを無理だと悟ると、石棺に覆いかぶさるようにして守る。
ソロモンは容赦無く手足を武器で地面に縫い付けた。
騎士は大切な物を必死に守っている姿に見えた。
「すまんな」
体を魔石で直したダイテツが自分の大太刀を拾い上げると、騎士の首に狙いを付ける。
「……姫様だけは……」
「うむっ、承知した」
首を落とすと、ダイテツは騎士に手を合わせた。
「ザンジ君、完全に騎士を倒したわけではない。やる事があるなら手早く済ませてくれたまえ」
「はい、わかりました」
ザンジはカードを一枚取り出すと魔力を通す。
すると、カードから発した光が一人の少女の形をとり始めた。
少女は一つの石棺を指さす。
「トレーネ……」
石棺には花が一輪添えられていた。
「トレーネ、俺の大好きなトレーネ……。
出てきてくれないか?」
すると石棺から一人の少女が現れ、カードの光はそれに吸い込まれた。
本人で間違い無い。
トレーネはこの石棺の中で眠っているのだろう。
「……あれ?
もしかしてザンジなの!?」
「うん……遅くなってごめんね……。
君を迎えに来たよ。
約束通り、一緒に帰ろう」
トレーネは一瞬驚いた風にザンジを見たが、すぐに成長した姿だという事にも気付いた。
そして……。
「死んじゃったんだね」
「うん、ごめんね」
ザンジは死んでしまっていた。