11
「魔力の流れが不自然です!
操られています!!」
「ああ……」
ダイテツは着流しの異国人風。ソロモンは白髪で初老。
両者顔色が少し悪い程度で死人と思えない程欠けた部位が無い。
死人の状態を決めるのは自己のイメージである。
己の外観、この世に存在する事が当然と信じるほど強固に生前の姿を保つ。
「ザンジ殿、大きくなられたな。
お考えの通り、我らはこの『迷宮』に囚われ操られています。
しかし、見る所ザンジ殿と先代の術式はまったく同じ。
我らに直接触れれば正気を取り戻し、ザンジ殿の勝ちというわけですな」
「……手を抜いてくれる……という感じではないんだよね?」
「ですな」
ダイテツが太刀を何時抜いたのか、軽く地面に振ると血が数滴地面に散った。
「……?」
ザンジは胸にジワリとした温かさを感じると、半ば無意識に手で触った。
「えっ?」
血で手が塗れていた。
「旦那!?」
痛みも無く、胸の出血もごく少量。
しかし体内では血が内臓と内臓の隙間にあふれ続けている事だろう。
ダイテツはアバラの隙間を縫って、心臓の機能を失わせずに外壁に穴だけ空けてのけた。
見た目だけではなく、その鉄の意志は死人の強さに比例する。
「これで我らに負けは無くなった」
「てっめぇえええええええ!!」
メッサーが両手剣を最上段に構え突っ込む。
しかし次の瞬間、首から下の筋肉が全て力を失ったかのようにダラリと下がり、その場に突っ伏した。
「『鼻緒斬り』と言う。
主要な関節の筋だけを斬った。
動きたくても動けないだろう。
ソロモン」
「……」
コクリとソロモンが頷くと、ザンジの体を後ろへ浮かして放り投げた。
「悪いがザンジ殿は渡せない」
「くっ……ミーナ!
なんとかしてくれ!!」
「む、無理です!
……私も先程から何とかしようとしているのですが……」
魔術が起動しない。
正確には魔力を消費するのだがなぜか何も起きない。
ミーナには何が起こっているのか理解出来ず、生まれて初めての事態にジワジワと恐怖が精神に食い込み始める。
魔力に限らず、音や振動は波のような形で発生し伝わる。真逆の位相で術式を作ると、不思議な事に距離が多少あったとしても打ち消し合う。
傍目には消えたとしか見えない。
寸分違わず真逆の術式をその場で組み上げ、先読み出来るように全ての術式の知識を持ち、なおかつ相手の癖も読み取りリアルタイムで実践する。
ソロモンのみが成し得る魔技であった。
「じゃあ、後は死体同士やり会うか……」
「ふむ。
そこからどうするのだ?」
メッサーが口に含んでいた魔石を噛み砕く。
すると、体の損傷部位が魔力によって置き換わり修復されていく。
コキコキと首を鳴らしてメッサー。
「やろうか」
「気合だけはあるようだな」
「若様!!」
メッサーはすぐ隣にいたはずのミーナの声を遠くに聞いた気がした。
地面に額が付いて、くそまたかと起き上がろうとしたが無理だった。
「マジかよ……」
メッサーがかろうじて目の端に見えたのは、
自分の首から下。
それも、ご丁寧に両手剣ごと同じ高さで斬られていた。
「新人の死人に少し勉強の時間だ。
まず死人同士では多少体を斬ろうが、根性がある奴では無意味。
お前のようにな。
その場合は首を落とす。
これも、正直元の位置に戻せばすぐに治されてしまうのだが、生前首が離れて体を動かせる者はいない。
元から首が無い死体のように鍛錬も出来るかも知れぬが、それを習得出来た頃には、単なる魔の物が一体増えただけであろうよ」
「なるほど~、ダイテツの強さは人であると信じ続けるって事?」
「しまった!」
「なに!?」
「うわっ、ソロモンの声初めて聞いた」
ダイテツとソロモンが同時に振り向くと、そこには二人の肩に手を置くザンジが立っていた。