01
「……ッ」
音がした。正確には遠くの方で何か音がしたような気がした。
「旦那!」
「ザンジ君!!」
「そうですね、少し気を付けて進みましょうか」
ザンジは音を立てないようにしつつ先を急いだ。
その空間は、大柄な男性が二人並んで手持ちの武器を振り回せるぐらい余裕がある。
洞窟タイプのダンジョンで、昼間とまではいかないが、ある程度の明るさは苔状の物や所々光る壁によって確保されている。
誰かの手によって造られたと感じさせる。
「におうな」
血の臭いがしてきた。
ザンジは杖、比較的若い男は両手剣、中年の男は片手剣に盾を装備している。
「狼だね」
「楽勝でしょ」
「メッサーにガーベルさん、助けましょう!」
「君ならそう言うと思ったよ」
「だな!オラァッ!!」
威勢の良い声を上げると、メッサーが両手剣で斬り込んで行ってしまった。
「あー、ボウガンくらい撃ってからでも良かったのに」
「しょうがないよザンジ君、どうやら襲われている二人は危なそうだ。私も行くよ!」
ガーベルも盾を前面に出しつつ突っ込んだ。
狼の囲みを破り、冒険者らしき二人の男女の所まで駆け付ける。
「ええっ!?
「キャッ!!」
メッサーが重い両手剣を狼に叩きつける。
多少避けられようが狙った首では無かろうが、狼は地面と挟み込まれて鉄と地面に噛み千切られた。
一方、ガーベルは一撃の力こそ強くないが、盾で咬みつきを防ぎつつ狼の前足を狙う。
軽傷と言えど、もう素早い動きは出来ない。
堅実な動きだ。
ズタボロの男女、特に男が酷かった。
狼に散々咬みつかれて、もう少し遅ければ武器もろくに持つ事も出来ずにやられていた事だろう。
「大丈夫ですか?」
「あっ……はい」
「……」
「何とか間に合ったみてーだな」
「良かった良かった」
ザンジは物陰から姿を現すと、逃げ去った狼の気配に注意しつつ二人に近づいた。
「ど、どうもありがとうございました……」
「……」
「ダンジョンは帰りですか?
俺達も帰りなんで、良かったら一緒に行きましょうか?」
「そ、それは助かります!!」
「……」
それから、ダンジョンの低層という事もあり怪我の応急治療をしつつ地上に出た。
「本当に助かりました。
これは少ないですけどもらって下さい」
「いえいえ、俺は何もしてないんで特に今回は何も要らないですよ」
「ザンジの旦那は後から来たもんな!」
「まぁそうだね」
そんなやりとりをしていると、急に女性がお金を男からひったくって、殴りつけるように渡してきた。
少し落としてしまう。
「拾いなさいよ!クズが!!」
「おい!なんだこの女!?」
「気持ち悪い!!」
「おいっ、やめないか!!
一応助けてもらったんだろうが!!」
「はぁっ!?」
男女が喧嘩を始めてしまう。
「じゃ、帰ろうか」
「ペッ!!」
「おい何だてめぇ!!」
お金を拾ったザンジに唾が吐きかけられた。
「……いいからメッサー、もう帰ろう」
「うわぁ、ザンジ君大丈夫?
最近の子はひどい事するねぇ……」
「ガーベルのおっさんは家帰るんだろ?」
「あ、ああ……でもだいぶ遅くなってしまって、妻と娘が怒っていないかなぁ……」
「大丈夫ですよ、ガーベルさん」
それからダンジョンを出て、町の外れにまで三人で歩く。
ダンジョンのそばに町があるのではなく、この「迷宮都市」はダンジョンを中心として発展した町である。
「……」
「ここですね、俺が家の人呼んで来ましょうか?」
「いや、いいよ私がやる……ただ、そばにはいてくれよ」
「はい」
小さな平屋の家。
その小さな小さな庭を抜け、ガーベルはドアを叩いた。