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解答編第一話

 私は叔父さんと共に、みんなのいる塔へと戻った。

 道中彼の提案でお婆さんの家に立ち寄り、ユズと合流する。叔父さんが事情を説明すると、不思議そうにしながらも好奇心が勝ったらしく、彼女も一緒について来ることになった。

 こうして、三人で塔の中へ入ると、捜査陣が私たちを出迎える。

 私たち──特に叔父さんとユズ──の姿を見たワイルドボアは、警戒心を露わにした。


「失礼ですが、あなた方は?」


 彼の問いに、ユズと叔父さんはそれぞれ笑顔で答えた。


「後輩です!」

「叔父さんです」

「……いや、そういうことではなくてですね。

 とにかく、部外者がどうしてこの森の中に? まだ童話による結界は解除されていないはずですが」

「ああ、安心してください。きちんと許可を得て来ていますから」

「なに? いったい誰の」


 叔父さんは、爆発した──いつも寝起きみたいになってる──頭を掻きながら、若干照れ臭そうに言う。


「あなたたちの上司、つまり童話警察の本部ですね。私は彼らの依頼で動いているんです」


 これは私もさっき知らされたことだった。どうやら、今日も副業(、、)の方が忙しいらしい。


「と、いうことは、上がわざわざあなたを? どうしてそんなこと」

「決まっていますよ」


 叔父さんは縁なし眼鏡をかけ直してから、どういうわけかアトキンスに視線を送る。私立探偵の少年は無表情のままだったが、心なしか動揺しているように見えた。


「探偵が現場に現れる理由はただ一つ。事件を解決する為です。

 というわけで、さっそく始めたいので、関係者の方々を呼んでいただけますか?」


 余裕のある笑みを浮かべる彼に、ワイルドボアは鼻白む。

 だが、しかし、一応協力はしてくれるらしい。


「……わかりました。

 おい、エクゥス」

「あ、はい」

「彼らを呼んで来い」

「はい!」


 ばたばたと足を縺れさせながら、エクゥスは石の階段を上って行った。

 いよいよ、この事件の「解答編」が始まる。童話「新約赤ずきんちゃん」を舞台にした陰惨な連続殺人事件の、真相が明らかとなるのだ。

──数分後、関係者たちはみな一階の広場に集まっていた。最後に入って来たエクゥスは、後手に何かを持ったまま上司の隣りへ向かう。

 しかし、室内には何故かケープとパッサーの姿がない。どうして二人は来ないのだろう? それに、グランマの様子も変だし……。

 私がそのことを誰かに尋ねようとした時、叔父さんが口を開く。


「さて、みなさんお集まりいただきありがとうございます。ではさっそく、この事件の真相を明らかにし、真犯人が誰なのかを教えて差し上げましょう」


 挨拶も早々に推理を披露しようとしたが、すぐにヒステリックな声がそれを制した。


「ちょっと待ちなさいよ! あんた何者なわけ? それに真犯人って言ったら、そこにいる鬼なんじゃないの?」

「えっ、ウチっすか?」

「あんたじゃないわよ! つうか、あんたはあんたで誰なの⁉︎」


 予想どおり噛みついて来るスケイルにも、叔父さんは鷹揚な態度で応じる。


「これはすみません。申し遅れました、私ワカタケヒコという者でして、これでも一応物書きをしています」

「は? なんで小説家が探偵みたいなことを」

「ああ、それは副業だからですよ。実は私、作家を生業にしつつ、時々こうして事件の捜査の手伝いをしているんです」


 そう、彼の本来の職業は小説家。それも、推理小説を主に書いていた。

 しかし、正直なところ作家としての稼ぎはあまりよくないらしく、ほとんど副業で食いぶちを得ていると聞いたことがある。これはある意味当然で、そもそも童話が最大の娯楽であるこの世の中、小説を読む人自体が少ないのだ。


「ほう、それはまた珍しい職種の方だな。

 しかし、この事件の真相なら、もう探偵くんが解いてくれたのではないのかね? 私もさっき聞かせてもらったが、何も間違っていないように思えたぞ?」


 クチバシをさすりながら、フェザーズが冷静な口調で言う。


「アトキンスくんの推理? ああ、あのトウカちゃんが共犯者って奴ですか。エクゥス刑事から聞いてますよ」

「ん? 何故そこでエクゥスの名が?」


 尋ねたのはワイルドボアだ。

 叔父さんはそれこそ種明かしをするように答えた。


「要するにですね、私はずっとエクゥス刑事や鑑識の妖精さんたちを通じて、この事件の情報を仕入れていたんですよ。ほら、彼らが何度か童話警察の人間と電話していたでしょう? あれ、実は全部私だったんです。

 つまり、エクゥス刑事は本部との橋渡し役の橋渡し役だった、というわけですね」

「そ、そうだったのか⁉︎」

「あ、はい、黙っていてすみません。念の為警部にも内緒にするようにと、言われていたものですから」

「彼は何も悪くありませんよ。元々私は、秘密裏に調査を進めることになっていたんです」


 彼の言葉を聞き、ワイルドボアはどこか悔しそうに唸る。


「それじゃあ、まさか本部からの情報というのも」

「はい、全て私が集めた物です。お役に立ちましたでしようか?」

「くっ……ということは何か? 本部が送り込んだ応援ってのはあんたのことだったのか?」

「いかにもです」


 胸を張って答えた彼に、警部はまだ何か言いたそうだったが、結局口を噤んだ。

 その隙を見逃さず、叔父さんは改めて本題に入る。


「え〜、では改めて、私が推理したこの事件の真相についてのお話を聞いていただきたいのですが……、しかし、その前にはっきりさせておきたいことが一つ」


 彼はよく聞くようにとばかりに、人差し指を立てた。


「彼を花瓶で殴り倒したのは、私の姪であるトウカちゃんだということ。これは、間違いなく事実です」

「じ、じゃあやっぱりその()が犯人なんじゃないの⁉︎」

「いえ、違います。それとこれとは別にの事件ですから。

 これはアトキンスくんも言っていたようですが、彼女は突発的にフローズヴィトニルソンさんを殴ってしまった。そして、そのことを隠蔽する為に、いろいろと証拠隠滅を図った──と、ここまでは正解です」


 叔父さんの声を聞きながら、また私は俯きかけた。

 だけど、今はしっかり自分の罪と向き合うのだと思い直し、目線を上げる。何より、私自身も知りたいのだ。本当はこの森で、何が起こっていたのかを。


「ですが、問題はその後。彼は謎の共犯者がトウカちゃんに取引を持ちかけた、と言ったそうですが、実際にはそんなことはなかったのです。トウカちゃんはただ犯人に利用されていた、というか彼女こそが、彼ら(、、)の目的だったのですから」

「彼ら……?」


 ずれかけていた眼鏡をかけ直して、ウサギが呟いた。


「ええ。

 ですが、それを説明する前に話の続きです。トウカちゃんが被害者をバスルームに隠したり、いろいろ隠蔽工作をしたりしたのはいいとして、もしその後誰かと共犯関係になったのであれば、おかしな点がいくつかあります」


 彼はもう一度無表情の少年に目をくれてから、場違いなほど明るい声で続ける。


「まず第一に、あのタイミングで被害者を射殺するのは不自然だということ。確か、アトキンスくん曰く、『トウカちゃんにアリバイを作ることで共犯関係を磐石な物にすることが狙い』だそうですが、これはちょっと無理がある。

 普通、誰かと共犯になったのなら、死体を隠して少しでも事件の発覚を送らせようと考えるはずです。うまくいけばそのまま童話が中止になり、他のキャストが帰った後でいくらでも始末できる。

 フローズヴィトニルソンさんは普段から童話に対して不真面目だったそうですから、突然いなくなったとしても大事にならない可能性の方が、高かったでしょう」

「確かに、そうだな。

 しかし、その時点ではまだ、オオカミくんは死んでいなかったのだろう? 先にとどめを刺すことを優先したのではないか?」

「だとしても、おかしいですよ。それならそれで、適当な理由をつけてイナバさんを家から離れさせ、その間に殺せばいい。わざわざすぐに死体が発見されるような状況で、彼を射殺する意味は全くないでしょう」


 言われてみれば、といった表情を浮かべ、みんな黙り込んだ。私も同じで、むしろどうしてあの時反論できなかったのかとすら思えて来る。


「もちろん、これだけではありません。続く狩人さん殺し、というか死体遺棄ですが、アトキンスくんはこれも私の可愛い姪っ子の仕業だと言ったそうですね。そして、今度は共犯者のアリバイを確保する目的があったとか」

「そうだ、あれは状況的に見て彼女にしか不可能だったはずだ」


 もはや敬語を使うことも忘れ、ワイルドボアが反論した。

 が、やはり叔父さんは歯牙にもかけない。


「ええ、どうやらそうなってしまったようですね。

 とは言え、あの時トウカちゃんが席を立ったのは、単なる偶然。たまたまグランマさんの荷物からナイフとお皿を取りに行くことになったのですから、計画的な犯行とは言えませんよね?」


 彼の言うとおりである。確かに、あの時私はたまたまあの部屋に向かうことになったのだ。


「加えて、あのタイミングで死体を突き落とす意味もあまりない。あの時、他のキャストの方全員にアリバイがありました。これでは一人になった彼女が怪しまれて当然ですし、あの状況で無理に相方のアリバイ作りを行う理由がわかりませんね」

「……仰りたいことは理解できました」


 静かな口調で紡いだのは、アトキンスだった。彼は不思議な色の瞳で、若干反抗的な視線を叔父さんに送る。


「しかし、考え辛いというだけであって、全く不可能というわけではありません。それだけでは、彼女が共犯者であることを否定する材料として、不足しているのではないでしょうか?」

「ふむ、アトキンスくん、君はせっかちでいけないね。これから本当に私立探偵としてやって行くつもりなら、もっと冷静に物事を見据えるべきだ」


 叔父さんの言い方を聞くに、やはり二人は知り合いであるらしい。それどころか、まるで師匠と弟子のような会話だ。


「……はい。すみません、先生(、、)

「先生?」


 そのワードが引っかかったらしいワイルドボア。叔父さんは彼に対し、何故か誤魔化すように答える。


「まあ、こちらの話ですよ。

 そんなことより、話の続きですが……そうですねぇ、まずは話に上がった狩人さんの死体落下事件について、解いて行きましょうか」


 それから、彼はこうつけ加えた。


「と言っても、あれは単純な自動式トリックなのですが」

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