次なる行動へ
「姉様ーっ」
シグウェルの我が家へとログインすると、メイが抱きついてきた。
「ただいま」
「お帰り、です」
「おかえりなさいませ」
店番をしている『動く人形』のウィステリアも挨拶してくれた。
一人暮らししているリアルよりも、よっぽど帰ってきたという実感が強い。
「おかえり、ハニー」
イケメン貴公子姿のルカにも迎えられた。というか、流石に鳥肌が立ちそうになる。
「そういうのやめてくれないか」
「連れないなぁ。一つ屋根の下に暮らす仲じゃないか」
「勝手に押しかけた癖に……メイ、変なことされなかったか?」
「だ、大丈夫、です」
妙な間があったような……顔を覗き込むと視線をそらされる。
「ルカ、何をした!?」
「心外だなぁ。ちょっと乙女の秘密を探らせて貰っただけ……」
「何をした!?」
思わずルカの胸倉を掴んで詰め寄った。しかし、手首を掴まれ、気がつくと床へと転がされていた。
「落ち着きたまえ。ちょっとAIの仕組みを探らせて貰っただけだよ」
手首が返った状態で抑え込まれ、自由に動くことができない。そのまま、ルカの説明を聞かされた。
「ALFのAIは良く出来ているが、基本的には統合データベースから答えを探してきて返答している。そのため、特定の質問には機械的な返答になるのだが、メイの場合は独自に思考領域を持っているようだ」
「だから何だ」
「普通のNPCよりも、より人間に近い思考を持っているということさ。もしかすると恋愛もできるかも知れないよ」
「許しません。メイに手を出す男なぞ、あらゆる手段を使って抹殺します」
「……親馬鹿、ここに極まれりか」
ルカは俺の手首を放すと、家を出ていった。
「メイ、本当に大丈夫か? アレはかなり危険だからな。危ないと思ったら全力で逃げろ」
「ははは、はい、です」
そうか、狙うのは男とは限らない。まさらルカの奴、純真無垢なメイにあらぬことを!?
『ケイ、シグウェルに着いたわ。家ってどっち?』
ルカを追いかけるべきかと思ったところに、セイラからメッセージが飛んできた。家の場所を教えるのが面倒だったので、転送場所から案内するつもりだったのだ。
「くっ、命拾いしたな」
あっさりとやり込められたルカをどうやって仕留めるか。その方法を探さないといけないな。
マクスウェル家所領の街シグウェル。その中央部にある広場が、他の街から転送されてくる場所に設定されている。
それを見越して、辺りには屋台が建ち並び、人の集まる場所にもなっていた。
「あっち、です」
人よりも優れた嗅覚を持つメイに先導されながら、セイラと合流した。
セイラの姿は、以前までの派手さがなりを潜め、黒髪のストレート。フェイスペイントもなくなっていて、リアルの石井さんと大差がない状態だった。
「え、なんで……」
「今の状況ならリアルばれもないかなって思うし……鍋島くん、大人しめの方が嬉しそうだし」
後半はよく聞き取れなかったが、色々と肩肘張ってたのを、これを機に改めるつもりかもしれない。
「はじめまして? 久しぶり? メイちゃん」
セイラは少し屈んで視線を合わしながら、メイに話しかけた。
「可愛いでしょ。写真じゃ魅力が伝わりにくいんだよね。今度、マーカスに撮影方法を聞いておかないと」
「……」
「……」
俺のスカートにしがみつくように半分隠れたままのメイと、かがみ込んだまま視線を合わせるセイラ。妙な緊迫感があるのは気のせいか?
「と、とりあえず、家に案内するよ」
俺は空気を変えるべく歩きだした。
「へぇ、いいところね」
「でしょ?」
森の入り口に建つ丸太で組まれた小屋を見て、セイラも喜んでいるようだ。
スラムの家はかなり綺麗になったが、周りは廃屋ばかりで景観が良くなかった。その点、この小屋の周りは森の入り口で自然が豊かだ。
セイラがまた畑を作るのに適した空き地もある。
「よかったらこの家で暮らさない?」
「え、それって……」
意味深な沈黙に少し戸惑ってしまう。
「違うです。単なるルームシェア、です」
メイが言い切った。実際、ウィステリアや……ルカも居座っている。共同生活の意味合いが強くて、艶っぽさはない……はず。
「まあ、深く考えないで、この世界の暮らしを楽しもうよ」
変に意識してしまったせいで内心、ドキドキしながら告げた。
セイラが戻り、拠点も充実している。
メイが人の姿を得て、不穏な部分が多いがルカもいる。ウィステリアもいざとなったら戦力になるし、スライムさんはお掃除係だがタンクでもある。
俺達の戦いはここからだ。