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愛妹になったメイ

「ケモ耳キターーーーー!!」

 マーカスのショップに行くと、第一声はそんな感じで予想通りだった。

 メイは俺に隠れるようにしながら様子を伺っている。

「はいはい、それはいいから。この子の為に服を用意してくれる?」

「もちのろんだぜ。和風のロリっ子だよね。ここはクズノハたんのコスがいいと思うぉ」

 キャラの名前で言われた所で全くわからない。ただマーカスのセンスはある程度信頼はしているので、用意してもらう事にした。


 ショップ内の更衣スペースで、まだ服の着替えに慣れてないメイに、服を着せていく。

「クズノハたんは、安倍晴明の母親なんだけどロリっ子なんだぉ。大人バージョンはお色気ムンムンになるんだけど、人気なのはロリっ子の時だね」

 更衣室の外では鼻息荒くマーカスが解説しているが、聞き流しておく。

 渡された服は平安貴族が着るような服……なんだろうか。白の狩衣かりぎぬと呼ばれるゆったりとした衣服で、その名の通り狩りに行く際に着たともされる。

 なので動きやすそうではあった。

 下は巫女の緋袴をベースに、膝丈まで短くなっていて、キュロットパンツのようにゆとりのある作り。こちらも動きやすそうに見える。

 後は白い足袋とわらじ。

 髪は後ろで一本の三つ編みにして、黒の髪留めで留めてある。


「どう? 動きやすい?」

「はい、大丈夫、です」

 緋袴には尻尾用の穴も開いていて、フサフサの尻尾が外に出されている。

 飛び跳ねたり、くるりと回ったりしながら具合を確かめて、問題はなさそうだ。

「ただ可愛い」

「な、なん、です?」

 うう〜む、この衣装はメイにピッタリはまっている。かなり可愛い、放っておいたら連れ去られそうだ。マーカスが見たらまた撮影とか騒ぎそうだ。

 撮影……撮影用の水晶があれば、メイの姿を残して、リアルにも取り出せるのか。後で買っておこう。


 更衣スペースを出ると、待ちかねたようなマーカスが立っていた。襲いかかってくるかと警戒したが、ぴくりとも動かない。

「ま、マーカス?」

 目を見開いたまま硬直した姿は、単純に怖い。

 しばらくすると、体にノイズが走ってログアウトしていた。

「え、ショックの為の強制ログアウト!?」

 そこまでなのか。メイ、恐ろしい子。

「えっと、サヨコだっけ? これ料金。足りなかったら催促するように言っておいて」

「はい、わかりました」

 『動く人形オートマタ』の一人に過去の衣装の値段を参考に料金を払う。

「外を連れ歩くのも怖いな」

 俺は転送石を利用して、シグウェルの家へと帰った。



「何ニヤニヤしてるんだ?」

 大学で話しかけてきた友達の紹司は、やや呆れた様子だ。

「見てくれ、ウチの妹」

 あれから撮影用水晶を買い求め、メイの姿を撮影した。しかし、ポージングはイマイチでメイの魅力は引き出せていない。それでも可愛いんだけどな。

「何、ついにそっちに目覚めたの!? 犯罪だから気をつけろよ」

「なっ、ちげーよ」

「確かに可愛いのは認めてやる……ってこれALFのモデルか」

「ああ、正確には人型のホムンクルス」

「へぇ、詳しく聞かせてくれる?」

 振り返ると石井さんが立っていた。


 紹司はシゲムネ、石井さんはセイラとして、ALFの中で一緒に過ごしていたプレイヤーだ。

 石井さんとは恋人関係でもある。

 二人共海外の運営に課金する方法がなくて、現在はALFに入れてはいない。

 そのため、日本サーバーで仲の良かった人達と、別のゲームで遊ぶようになっていた。

「実はアクイナス屋敷でね……」

 メイの生い立ちを二人に説明した。


「鍋島くん、私の代わりに課金してくれる?」

 以前にこちらから提案した時は、頑なに辞退されたのだが、俺の話を聞くうちに心変わりしたようだ。

 やはり日本サーバーでは既に持ち去られていた合成獣キメラの製法を入手できたりというあたりに、ALFの世界を愛していたセイラとしてうずくものがあったらしい。

「全然問題ないよ、今からでも申請できるし」

 情報端末を取り出し、石井さんのアカウントでALFの運営会社に接続してもらい、一ヶ月分の利用権を購入する。

「これでALFにログインできるはずだよ」

「ありがとう」

 俺としてもまた一緒に冒険できるのは楽しみだった。

「ごめんな、俺はまだそっちに行けそうになくて」

 紹司が申し訳なさそうに言ってくるが、それはそれで仕方ない。ALFで仲良くなっていたカナエちゃんも、他の仲間たちと別のゲームをプレイしている。

「気にするな。カナエちゃんやソニアさんによろしく言っといてくれ」

「ああ、皆も気にしてたから、こっちにアカウントだけでも作っておけばどうだ?」

「男キャラで? ややこしいことになるから、やめとくよ」

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