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メイフィの決意と別れ

『マスター、人になりたい、です』

「ふぇ!?」

 別の魂と言って、どうすればいいかなと思考を巡らせていると、メイフィからの念話が届いた。

 足元を見ると、メイフィがこちらを見上げている。赤毛の愛らしい子狐の姿をしたホムンクルス。

 魔力では既に俺のステータスを超えて、戦力として頼りになる存在。

 そして生み出してからずっと共に過ごしてきたパートナーでもある。


「え、ど、どうしたの?」

『人になれば、もっとマスターのお役にたてる、です』

「今でも十分役に立ってるけど」

 このアクイナス屋敷に来るときも、大人サイズになったメイフィに乗ってやってきた。ALFでの生活のほとんどをメイフィと共に過ごしているのを感じていた。

『錬金術のお手伝いとかも、してみたい、です』

 知能は高いが獣の手足では限界もある。たしかに調合などの細かい作業は手がないと無理だろう。

『ウィステリアは魔力がなくて、私は手が無いです。マスター、一人で大変、です』

「う、う〜ん、好きでやってることだしなぁ」

 しかし、メイフィのこちらを見上げる瞳は決意に満ちていた。


 はじめてやる合成獣キメラの生成。特にアクイナスがやろうとした肉体と精神の融合は、システム的にも特異だろう。

 逆にサーバーで回数制限されたユニーククエストでもある。それは失敗しづらい可能性がある。

 悪魔のシリカを制御する冠は、当時の俺では到底作れない物だったが、クエストの補正で成功していた。

 この悪魔の体から作られた複製体を利用した合成は、まさにクエスト補正がかかる可能性がある。

 とはいえ失敗したら、メイフィを失う可能性だって否定はできない。

 俺としては危険は冒したくないところだった。


『マスターは優しい、です。でも、もっと私を信頼して欲しい、です』

 足首をはみはみと甘噛みしながら伝えてきた。

「メイフィは信頼してるけど、合成自体は私のスキルだしなぁ」

『マスター、私が人になるの迷惑、です』

 しかられた子犬のように、うなだれるメイフィ。

「そんなわけないよ、メイフィが人になってくれたら嬉しいよ。でも失敗が怖くてね?」

 メイフィはとてとてと歩いていく。シリカの体が入った容器の隣にある台座のような装置。

『私はここから動かない、です』

「うぐ……本当に、いいの? 自分じゃなくなる可能性もあるんだよ?」

『もう決めた、です。マスターみたいに優柔不断じゃない、です』

 ぐぐぐ。もしメイフィが人になったら、頭が上がらなくなりそうなんだが。このまま根比べをしても勝てそうにない。

「わかった……わ」



 準備はほとんどアクイナスが終わらせていた。後は合成の素体をセットするだけたが、既にメイフィがスタンバイしている。

 生成の方法も研究ノートを読んだ事で、習得扱いになっている。

 後は術式を起動するだけだ。

 メイフィを改めて見つめる。こちらをしっかりと見返して、決意を示している。しかし、手足がかすかに震えているようにも見えてしまう。俺がそう思いたいだけか、やっぱりメイフィも怖いのか。

 ここでやめるか、続けるか。

 その悩む時間が、メイフィをより怖がらせる事になってしまうだろう。

「術式を始める!」

 研究ノートを手に、そこに記された呪文を唱え始める。明確な意味はわからないが、わずかでも成功率を上げるために、正確に、はっきりと。

 ほどなく装置が起動して、淡い光を放ち始めた。

 詠唱が続くに連れて、反応は大きく、光に包まれていく。

「我は求める。我が側に在れ!」

 かつてアクイナスが求めた娘の魂。ある意味、メイフィは俺の娘だったかもしれない。望むのはいつも側にいて欲しいという事。

 目がくらむ光があたりを覆い尽くし、魔力の奔流が2つの体へと収縮していく。

 最後のフラッシュが起こり、あたりが暗闇に包まれた。


 俺は慌てて光を呼び出す魔法を唱えて、メイフィのいたあたりに飛ばす。

 しかし、そこに愛らしい子狐の姿はなかった。

「メイフィ!?」

 駆け寄って確認するが、そこには何もない台座が残されるだけだった。

「そんな、まさか……」

 失敗した……のか?

 失われたモノの大きさに、力が抜けていく。体が支えられなくなって、膝から崩れ落ちた。

 ほんの僅かに残る赤毛を見つけて、震える手で拾い上げる。

「メイ、フィ……」


『大丈夫、です。こっち、です』

 念話が届いた。あたりを見渡すと、コツコツとガラスを打つ音が聞こえてきた。

 円筒状のガラス槽の中で、少女がこちらを見ながら微笑んでいた。

 ガラスの中に溜まっていた溶液が徐々にその量を減らし、中の少女が床へと降り立つ。

 濡れた赤毛が体を覆い、神秘的な美しさを見せていた。

「メイフィ?」

「はい、私、です」

 念話ではない肉声での返事。

「へくちっ」

 続いてのくしゃみ。濡れた体はすぐに乾くが、毛皮の無くなった体では寒いはずだ。

 俺は慌てて所持袋から服を取り出す。騎乗用にもらった緑のチュニックとキュロットの組み合わせ。

 服を着たことのないメイフィへと着せてやる。


 服装を整えたところで、改めてその姿を確認する。悪魔の組織を元に作られたシリカの姿からは少し変化が起こっていた。

 ウェーブのかかった金髪は赤毛のストレートに。穏やかな優しそうな面立ちは、やや釣り上がり気味の切れ長の瞳に。

 西洋風の顔立ちから、東洋系。日本の女の子に近い気がする。メイフィが妖狐だったからだろうか。そういえば、三角の耳とフサフサのしっぽも付いていた。

「メイフィって感じじゃなくなったね」

「違う、です?」

「西洋名じゃなくて、日本名の方が似合いそう」

「???」

 さすがに二ュアンスが伝わらないか。

「そうね……メイって呼んでいいかな。龍造寺メイ」

「あんまり、変わらない、です」

「そ、そうかな……」

「でも嬉しいです、母様かあさま

 そう言いながら抱きついてきた。

「か、母様!?」

「さっき、娘だって思ってくれた、です」

 確かにそんな風に感じたけども。ケイの外見は十代後半、母親と言われるのには抵抗がある。

「じゃあ、姉様?」

「それなら、まあ、何とか」

 一人っ子だったので、弟や妹がいればと思うことはあった。しかし、お兄ちゃんではなく姉様か……ネカマの弊害がこんな所で生じるとは。


「色々考えるのは後にして帰ろうか」

「はい、姉様」

 自分の服を着せたが、サイズも雰囲気も合っていない。ここはまず洋服からかな。

 マーカスのショップに戻ることにした。

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