表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/72

ウェルドゥグ防衛作戦

 伯爵は肝心の部分を俺に丸投げすると、執務があるからとウェルドゥグからシグウェルへと転送されていった。

 廃坑を調査するために出ていったコボルトは帰ってこず、殴り合って傷ついたマノアとアレックスも退出。

「それじゃ、私はアグラムの様子を見に行くわ」

 セイラがいち早くこの場を脱出しようと提案してきた。

「本格的にウェルドゥグを攻めるなら、冒険者達にクエストを発行する可能性がある。募集レベルとか見れば相手の戦力が推し量れるわ」

 もっともらしい理由を付けられて、俺としても反論はできない。セイラも転送されていった。


 残ったのはトロルの長老、オークのキョーグス、ゴブリンの評議員と俺とメイ。気づいたらケイシーの評議員も消えていた。

「猫は気まぐれですから」

 元々街の運営にはほとんどかかわらないというケイシーは、先程の会議でも存在感はなかった。

「で、どんな案があるんだ、人間」

 鳥の羽飾りを被ったゴブリンの評議員が俺へと話を振ってきた。案と言われてホイと出せるなら苦労はない。

 フレンドリストを確認するが、ルカは先日より留守のまま。

「姉様なら素晴らしい案を持ってるです」

 メイが胸を張ってそんな事を言ってしまう。ノープランなのにっ。


「まずは状況の確認からです。ウェルドゥグで動員できる戦力は?」

「ゴブリンも先の戦で多くを失った」

「新たな住処を探しに行ったオークは、全部で百人ほど。コボルトは五百ほどが動員できますが、廃坑の整備にも人手はいるでしょう」

 キョーグスがまとめてくれた。どの道、新たな犠牲者を出す気はない。駄目なら全員で逃げてもらうつもりである。


「転送石での転移ができるなら、侵攻のギリギリまで。実際に攻めてきてる途中で離脱も可能になりますね」

 工作を行う事はギリギリまでできるだろう。とはいえ、アグラムの兵士たちも殺すことはしたくない。極力無力化するだけで帰ってもらうのが一番だ。

「コボルトもそうだが、オークもそれなりに土木作業が得意だ。この坑道に罠を作るくらいはできるぞ」

 キョーグスが提案してくれる。坑道を利用するなら、入り口を塞いたり、落とし穴に落としたり、行動を制限する罠も仕掛けられる。


「坑道の地図とかありますか?」

「大まかなものなら。細部は各々が改造している部分もあるかもしれないが」

「はい、それで十分です」

 キョーグスは地図を取りに円卓の間を出ていった。

 残されたゴブリンの評議員は、俺を見詰めている。いや睨みつけているのか。

「人間、何を考えている」

「何って、何を?」

「なぜ人間が妖魔に手を貸す?」

「私個人に関しては、身内の復讐……かしら。先の戦いで身内を失ったわ」

「しかしそれは妖魔にやられたのだろう?」

「最初はそう思ったけど、話を聞いたら黒幕がいた。自分は手を汚さずにふんぞり返ってる奴の方が許せないわ」

 ゴブリンは何かを考えるように、俺の考えを理解しようとするように俺を見ていた。


「俺達はさほど頭良くない。人間が腹立たしいのは確かだ。だが、俺達ではやり返せない。できることがあれば言ってくれ」

 しばらく考えていた評議員がそう答えを出してくれた。

 キョーグスが地図を抱えて戻ってきて、円卓へと広げていく。思っていた以上に広い。これなら色々と遊べそうな気がしてきた。

「散々探索させてもぬけの殻だとしたら、さぞがっかりするでしょうね」

「悪そうな顔をしているな、人間」

 一歩引くような感じでゴブリンに言われてしまった。


 地下の地図を見て、キョーグス達に実際の通路の状況を確認しながら、どこにどんな罠を仕掛けるかを提案していく。

「とりあえず通路の狭くなっている所に扉。最初の幾つかにはちょっと危険そうな罠を仕掛ける。油が降ってくるとか」

 洞窟に潜る際には、松明を掲げる場合が多い。そこに油が降ってくれば、どうなるか。

「あとはそれっぽい隠し扉だな。中は生ゴミとかを詰め込んでおいて、開けると襲い掛かってくる感じ」

 などなど嫌がらせレベルの罠も提案していく。

「確かに短時間で用意できるものだが、こんな子供騙しで打撃になるのか?」

「精神に対する攻撃は、思ったより効くよ。特に冒険者にとってはね」

 などと話していると、セイラからメッセージが届いた。

『まずいわ、クエストはもう締め切られてる。討伐隊の派遣は明日の夜になってるわ』

「となると、こっちの時間であと一週間もないのか。転送石の実験が上手く行くことを願うしか無いな」

『今日ももう遅いし、明日も学校あるじゃない。準備している時間が……』

「ごめん、明日は休む」

『はっ!? ……仕方ないわね。ノートはとってあげる。代返は高橋くんに頼んでみるけど、期待はしないでね』

「うん、ありがとう。妖魔に被害を出さず、ウェルドゥグから追い出せるように頑張るよ」


 セイラの通信で、敵の襲撃予測ができた。クエストの報酬的にはそれほど高くないので、ベテランプレイヤーがやってくる危険は少ないだろう。

 とりあえずアレックス達にはアグラムのウェルドゥグ討伐クエストに参加しないように、仲間に回してもらった。

 防衛戦に参加しようかという提案もあったが、極力人間が関わったとは知られたくないので断っておいた。

「後は皆の頑張り次第だよ」

 キョーグスとゴブリンの評議員に笑いかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ