表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/72

首脳会談

 ウェルドゥグの執政府、円卓の間には先日よりも多くの人影があった。

 正面に見えるトロルの長老、向かって右側には長身の女性。かなり鍛えられているらしいが、女性的な丸みも残す姿は、バレーボールの選手を思わせる。額に2つの突起が見られ、妖魔であると分かる。

 左側には猫頭の男、白い長毛種で威厳が感じられる。その手前には、ゴブリン。頭には鳥の羽で作られた冠が載っていて、こちらも身分が高そうだ。さらに手前には、犬頭の人型コボルトだろう。ドーベルマンを思わせる黒毛でシャープな姿は、獰猛さと賢さを感じさせる。

 右の長身の女性の隣にキョーグスは移動し、長老の対面に伯爵が移動した。

 俺達は一歩引いた所で見守ろうと思っていたが、伯爵が振り返り俺を呼んだ。

「発起人の姫様がいないとはじまらだろう?」

「伯爵までからかわないでください」

 仕方なく伯爵の隣に移動する。従者のようにアレックスが付き添い、伯爵の向こう側にセイラとメイが移動した。


「これより、東の街の代表者マクスウェル伯爵を混じえて、会合を開きたいと思います」

 キョーグスの宣言で会議が始まった。

「まずは伯爵殿がいらした理由から伺いましょう」

「何、大半はここの姫……じゃなかった、錬金術師のケイが話してくれた通りだ。シグウェルは、ウェルドゥグと事を構える気はない。加えるなら、廃坑となった鉱山の一角を提供できる」

 単刀直入の説明に、妖魔達に動揺が走る。

「何の罠だ」

「我らを一所(ひとところ)に集めて殲滅する気か」

 コボルトとゴブリンが声を上げる。

「ふむ、流石にその話は上手すぎる。我らは攻め手だったのだぞ」

 トロルの長老が静かな中にも迫力の声で問いかける。

「聞けばアグラムに脅された上での所業。いわば人間の争いに巻き込まれたのだろう?」

「それを信じるのか?」

 キョーグスもあまりの展開に眼を白黒させながら問いかける。

「信じるのは錬金術師のケイだ。彼女の信じるものは、私も信じよう」

 ぐふっ、いきなり信頼が重い。

「私はキョーグスさんや長老が騙しているとは思いませんでした。だから感じたままを伝えただけです」

 しばし議場に沈黙が降りる。


「儂らの話が本当であるなら、伯爵の話も本物ということか」

 キョーグスが他の評議員の顔を見ながら言った。

「そうではないだろう!」

「奴らは人間だ!」

 やはり狩られる経験の多いゴブリン、コボルトは態度が固い。キョーグスは前回から、人間の力を借りないと状況を打破できないと思っている。

 トロルの長老は最終的な決断を行うべく、皆の話に耳を傾けていた。

 自然、視線は長身の女性、オーガの代表者へと集まった。


「私はゴズルの伴侶でオーガの代表者、マノアと申します」

 オーガという種族から猛々しいイメージを描いていたが、その声はとても静かで落ち着いていた。

「我らオーガは勇士を出して、事に臨み敗れました。元来、オーガは力が全ての部族です。勝者の意思に従います」

「それは違います。本当に部族の為を思うなら、思考を放棄せずに最善を探してください」

 俺は思わず言葉を返していた。

「私達はゴズルさんの侵攻で多くの仲間を失い、傷つきました。正直、許せないと思いましたし、報復も考えました」

 言葉を一度切り、一同を見渡す。

「それでもこの街を見て、皆さんの生活を見て、それを守るための苦渋の決断での侵攻だと知り、これ以上の無益な戦いは避けたいのです」


「無益……か」

 マノアが少し俯き、肩を震わせる。それは無益な争いで命を失ったゴズルの為ではなかった。

「益さえあれば、戦うと言うのだな!」

 なぜそうなる!?

「確かに仕掛けたのはこちらかもしれないが、人間にけしかけられて仕方なく。街を守る為の戦を無益と断ずるなら、我らは最後まで戦おう。反乱の芽を詰むという益があるなら戦うのだろう!」


 物静かに見えたのはあらゆる感情を排そうと、堪えていたからだった。

 それを俺の言葉が掘り起こしてしまったのだ。

 立ち上がったマノアからは、鬼気が溢れ周囲を圧する。総合的な戦闘力としてはトロルの長老が一番なのだろうが、攻撃に限って言うならオーガが上回る。

 俺は己の失態を受け止めようと身構えるが、隣から伸びた手で制された。

「姫、ここは貴方の出番じゃ無さそうです。戦士には戦士の(ことわり)がある」

 アレックスが立ち上がり、取り上げられることのなかった愛用の戦斧を構えた。

「ゴズルといったか、オーガの大将。それを討ち取ったのは俺だ。まずは俺にうっぷんを晴らすのが先だろう?」

「ふむ、そうであったか……」

 静かにマノアの視線が俺からアレックスへと移る。


 次の瞬間、宙を舞ったマノアの体が、アレックスめがけて振ってくる。無手ではあるがその手は固く握られ、鋼鉄の斧の腹を思い切り叩く。

 グァン!

 重い金属製の音が響きわたる。

「ぐうっ」

 アレックスは歯を食いしばり、全体重を掛けた拳を受け止める。

「らあっ」

 アレックスは気合と共に斧を振り抜き、マノアの体が押し戻される。

「女性が無手で、俺が得物持ってたら様にならんな」

 格好つけて、斧を脇に落とす。


 そこからは素人の目では追いつかない、近距離での打ち合いが始まった。

 肉が肉を打つパンパンという乾いた音が、話し合いの場であるはずの円卓の間に響く。

 グローブもないむき出しの拳は殴る方も傷つく。二人の拳闘は思ったよりも、早くに決着がついた。

「へぶうっ」

 頬を打ち抜かれたアレックスが、くるりと回転しながら大の字に倒れた。

 肩で息をするマノアはそれを見下ろした後、その場に蹲った。


「え、えっと……」

 颯爽と相手を買って出たアレックスが勝つものだと思いきや、あっさりと負けて伸びてしまった。

 場の雰囲気も次にどう動くべきなのか、皆で戸惑うような状況だ。

「お、オーガは、同盟者として、シグウェルの提案を、受ける」

 涙声で途切れ途切れに紡がれた、マノアの声が膠着を破った。

 周囲は唐突なその言葉に、意味を飲み込むのに少し時間を要した。


「マノアの意思はわかった。ウェルドゥグはシグウェルの提案を受け入れ、街を移すことにする」

 トロルの長老がそう決断すると、円卓の雰囲気は固まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ