表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/72

アクイナス屋敷再訪

 マーカスのショップを出て、すぐにシグウェルに帰るのももったいない気がして、最初の街のカフェに入った。

 日本サーバーに比べてまだまだ空き地が多くて、発展途上な雰囲気だが、活気があって楽しそうだ。

 そんな街を眺めたあと、アクイナスの日記へと視線を落とした。


 アクイナスは娘の死をきっかけに、その蘇生方法の一つとしてホムンクルスの作成を行った。

 その過程が日記として記されている。娘のシリカと悪魔召喚で契約した悪魔を、合成獣キメラとして合成して、丈夫な悪魔の体を持ち魂は娘という状態にしようとした。

 しかし研究を進める間に、娘の体は腐り、魂もどうなったかわからない状態。術式を焦ったアクイナスは、無理矢理に合成を行って、悪魔が暴走してしまった。

 悪魔は一時的に封印し、制御する冠を作ろうとしたが、そこでアクイナスは寿命が尽きてしまっていた。


「アクイナスの方式でホムンクルスを作るには、合成獣キメラの作り方がいるのか……」

 しかし、アクアナスの屋敷にあったであろう製法は、既に誰かに持ち去られた後で……。

「いや、このサーバーならまだあるかもしれない」

 俺は慌ててアクイナスの屋敷を目指した。



 アクイナスの屋敷は、鬱蒼とした森の奥深くにあった。街からは遠く、出てくる敵も錬金術に関わるもの。死した術者を守ろうとするホムンクルスやゴーレムに哀愁を感じる。

 屋敷の中はIDインスタンス ダンジョンになっていて、4人パーティでないとクリアは無理だが、合成獣キメラの製法は、外から回って入れる小部屋にあった。

 ホムンクルスであり、獣の優れた知覚も持つメイフィの先導で、再びその扉の前に立った。

 日本サーバーでは入り口が封じられていたのに、中はからっぽの状態だったが果たしてここではどうか。

 フレアストーンという天然の火薬を、錬金術で凝縮したフレアコアを入り口に仕掛ける。それを誘爆させて壁を崩すと、下へと降る階段が現れた。


 メイフィが出してくれた狐火の明かりで、階段を進んでいくと埃にまみれた研究室が待っていた。

 ID内にある研究室とは違って、主の姿はない。

 その代わりいくつかのガラスの円筒が立ち並び、中には不自然な獣。幾つかの生き物を掛け合わせて作られた合成獣キメラがいた。

 羽の生えた蛇、ウロコに覆われた鶏、犬の顔を持つ猿など、不気味な生き物達だ。

 前回は居なかったということは、誰かが持ち去ったのか?

 そんな詮索よりも先にやるべきことがある。書類が積み重なった机へと駆け寄ると、その中から研究に関わるであろう本を探す。

『ここ、です』

 机に駆け上がったメイフィが、前足で一冊の本を抑えた。アクイナスの日記によく似た本は、確かに合成獣の研究ノートと書かれていた。


 中を開くと様々な実験の結果とともに、合成に必要な素材や製法が記されている。理解するのは難解なのだが、システムメッセージに『合成獣のレシピを入手しました』と表示された。

「これで一応、合成獣を作れるようになったのかな?」

『さすが、です』

「私は理解できてないんだけどね」


 ふと視線を上げると、更に奥へと続く扉があった。確か奥には空になった円筒があったと思う。

 しかし、今はまだ誰も触れていない状態。いったい何が残されているのか。

 好奇心と不安とに板挟みになりながら、結局は好奇心に負ける。

「メイフィは下がってて」

『わかった、です』

 死亡しても最初の街で復活するプレイヤーと違って、ホムンクルスであるメイフィは死んでしまうと簡単には復活できない。

 その結果がこのアクイナス屋敷である。

 なのでメイフィには、命を大事にするように言いつけてあった。


 ギィ……。

 錆びた蝶番をきしませながら、鉄製の扉を押し開く。

 そこにはガラスの円筒がそびえ立ち、中には人影が見えた。

「し、シリカ?」

 悪魔であるシリカは、封印が解けた途端に襲いかかってきた。その力は4人パーティでも敵わず、クエストアイテムで制御することでようやく危機を脱することができた。

 今はメイフィと二人、とてもじゃないが、あのシリカには対抗できない。

 しかし、遠目に見る人影は動く気配は無かった。ローティーンに見える少女が、ガラスに満たされた液体に浮かんでいる。

「メイフィ、狐火をお願い」

 部屋には極力入らずに、明かりを飛ばして観察する。

 悪魔と違って普通の肌の色。閉じた瞳にウェーブのかかった金髪。膝を抱えるようにして、円筒の中に浮かんでいた。

「大丈夫、かな?」

『意思は感じない、です』

 恐る恐る部屋へと踏み入った。


 近くで見ると悪魔のシリカとはかなり顔が違う。柔らかで優しそうな印象だ。

「この子が本当のシリカなのかな?」

 俺は改めて研究ノートを開いた。そこにはこの少女の正体が記されている。


『悪魔の自我は強く、素体には不向き。組織を培養して肉体を作り、素体とする』

『さすが悪魔の生命力。体の一部から人型へと再生を果たしていく。これにシリカの容姿データを流し込み、整形を行う』

『まずい、素体の育成が間に合わない。シリカの本体が腐敗してしまう。実験を急がねば』

『駄目だ。生育が終わらない素体と合成しても安定しない』

『猶予はない。悪魔本体と合成しないとシリカの魂は失われてしまう』

『……駄目だった。悪魔の自我とシリカの魂が反発しあい、暴走してしまった。魂のない素体ならこんなことにはならなかっただろうに』

『悪魔の体は封印できたが、シリカの魂は分離できなかった。完成したこの素体はもう使い道がないな』

『地下研究室は閉鎖する』


「この子は、悪魔の分身で魂のない状態って事か。この子に魂を宿せれば、ホムンクルスとして動けるのね」

 役目を果たす前に廃棄されてしまったようだ。このまま放置するのは忍びなくも感じてしまう。

 何とか魂を見つけて吹き込んであげたい。

 理想は悪魔のシリカから、本当のシリカの魂を分離させる事だろうが、その方法はアクイナスにはわからなかったみたいだ。

「別の魂を見つけるしかないかな……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ