幕間 マーカスとリカルド
「よかったね、直紀くん」
「うん、本当に」
ウィステリアの魂は継承されている可能性が出てきた。
なぜ俺にではなく、シークスに会った時なのか。少し不条理に感じつつも、シークスの感謝の念が届いた結果なのだろう。
まさか愛の力とか、そういうのではないだろう。シークスとウィステリアが会ったのは、あの防衛戦が最初だし。まあ、ウィステリアはかなりの美人になったし、外見的には文句のつけようもない。
いや内面も落ち着いた淑女として、安心できる女性ではある。『動く人形』である事が俺はひっかかっているが、ALFの人間にとっては大差ないのかもしれない。
俺の頭からそっとヘッドギアが外される。ヘッドホンのようなそれは、脱着は容易ではあるが自然に脱げるものでもない。
隣にいる石井さんが外してくれただけだ。
そう隣に……。
「え、あっ」
「他の女の子の事を考えてるのは妬けますよね」
30cmほどの距離にある石井さんの顔は、言葉とは裏腹に笑みを浮かべている。
慌てて起き上がろうとした俺の腕を、石井さんが抱きかかえる。
「え、ちょっと、あの……」
「直紀くん、ルカさんが言ってた事ですけど」
ルカ、ルカは何を言ってたっけ?
石井さんの積極的な接触で、空転している頭では中々思い出せない。
「体におかしいところとか、本当にないんですか?」
「え、うん。大丈夫だよ」
至近距離で見詰められながらの質問にどぎまぎしながら答える。
そういえば女性としてログインすることで、脳内の働きが誤作動を起こしてるんじゃないかって話をしていたっけ。
「ちゃんと確認させてください」
「えぇっ、ちょっとっ」
その日、石井さんは家に泊まることになった。
マーカスは衣装を作るための素材調達に、ネルベルクの街を訪れていた。
NPCの職人が多く住むこの街は、様々な素材が集められている。多少値段が高いところはあるが、品質が均一で価格も安定しているので、仕事として買い付けるには向いているのだ。
一通り必要な買い出しを終えて、職人通りを歩いていると、クズノハたんのフィギュアが並んでいるのを見つけた。
「なんでこの世界にこんなものが?」
僕と同じくリアルフィギュア作成師が、ゲーム世界でフィギュアを売り出したのだろうか。
とりあえず店を覗いてみることにした。
「いらっしゃいませ」
迎えてくれたのは、体長90cmくらいの小柄な人影だった。子供かと思ったが、そうではない。
「オートマタなのか」
ゴシックドレスに身を包んだその人形は、俺の事を見上げて小首をかしげている。
「何の御用でしょうか?」
「ここは何屋なんだぉ?」
「ここは木工製品のお店です」
そう言われて見回すと、幾つもの人形が並んでいた。マネキンのような物から、精緻な細工がほどこされた彫像まで。
家具などはなく、人型専用の店のようだ。
「表に並んでいたフィギュアは?」
「アレは当店の最新作になります」
「ここの店主は君じゃないよね」
「はい、奥の工房にいます」
「会えるのかな?」
「勝手にどうぞ」
俺が客じゃないと思ったのか、店員人形の扱いが雑になっていた。
工房の方へと行ってみると、確かにそこはアトリエとなっていた。作りかけの彫像や木材、デッサンなどが散らばっている。
それなりの広さではあるが、色々なモノが立ち並んでいて視界は悪い。
奥から木槌らしき叩く音は聞こえるのだが、どう行ったらいいのかがわからなかった。
店員人形に道案内を頼みたいところだが、もう相手にしてくれないみたいだ。
僕は仕方なく、右手を壁に当てながら、ひたすら進むことにした。
足元に転がる端材を避けながら、何とか奥の作業台までたどりついた。
丁度、職人も作業が一段落したのか台に載せた人形を眺めていた。
クズノハたんだと思っていたが、顔立ちは似ていない。かなり精緻に掘り出している割に、そこを似せないというのは不思議だ。
というか、どこかで見たことのある顔のような気もする。
「メイちゃんか?」
「ん、誰だ?」
こうして二人の職人は顔を合わせる事となった。
後にこの二人は、フィギュアとコスプレをコラボさせて、大々的な販売を行っていくことになるのである。




